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第66話 選択

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 決意を新たにしたものの、やることは変わらない。
 ジークフリードのことで心をかき乱されているが、霊力の回復につとめなければ……。
 このまま勇んで動いてしまい、霊力が回復せぬままミツヒデに襲撃されては元も子もない。
 
 今私たちは十郎といるのだから、いつ彼が転移術で目の前に姿を現してもおかしくないのだ。
 
『お主ら、エクスカリバーとやらを動かすことはできぬのか? それと、急ぎMPの回復に務めずとも先ほどのデーモンロードは来ないじゃろ?』
「おそらく貴君の申す通り、ミツヒデが来ることは無いと私も思う。だが、可能性がゼロではない限り、迎撃態勢は整えねばらなない」

 ミツヒデは「再び相まみえる」と意味深なことを言い残した。
 ならば、ここではないどこかで……ということだろう。しかし、心変わりする可能性が無いと言い切れないのも確かである。
 
 エクスカリバーのことについては、私がどうこうできる問題ではない。
 なので、この中で最もエクスカリバーに詳しいだろう彼女の言葉を待つことにしよう。
 そう、未だ両膝を付き祈りを捧げている彼女の。

Mon dieuおお、神よ。どうかジークフリードさんを導き給え」

 シャルロットの組んだ手から柔らかな光が湧き上がり、すぐに拡散し光は消失した。

「エクスカリバーは一旦わたくしが預かります」

 リリアナへ目配せしたシャルロットは、立ち上がり両手を開いて天に高々と掲げる。
 すると、虚空に浮かぶエクスカリバーは彼女の手に導かれるように下に降りて来て、彼女の手から数十センチ上空で動きを止めた。

「聖なる剣エクスカリバーよ。次の担い手が現れるまで、聖女の手の中でお休みください」

 シャルロットの手から春の日差しのような暖かな光が漏れ出しエクスカリバーを包み込む。
 光の中でエクスカリバーは大きさを変え、シャルロットの手のひらに収まるほど小さくなった。
 
 続いてエクスカリバーはシャルロットの手のひらに乗り、彼女は小さくなったエクスカリバーを懐へしまう。
 
「古代龍さん、ドラゴンズエッグの龍たちを驚かせてしまい申し訳ありませんでした」
 
 ペコリと礼儀正しく礼を行うシャルロットへ古代龍は彼にしては珍しく戸惑ったように首を振る。
 
『いや、そなたが謝罪する必要はない。我はそなたに感謝こそすれ、気分を害する理由はないのだからな』

 古代龍はシャルロットにだけは気遣いを見せていた。
 治療してもらった恩もあるだろうが、彼は彼女を偉大なる存在と認めているのだろう。超越した存在たる古代龍は、彼女に対してだけ尊大な態度を崩すのだから。
 
 場が落ち着いたところで、辺りは再び静寂に包まれた。
 私たちだけではなく古代龍も地面に腰を降ろし、首をもたげて目を瞑って休息を取っている。

「じゃあ、そろそろ、俺の知っていることを説明していいか?」

 十郎が両手を上に伸ばして上体を左右に振った。伸びをしたからかつられて彼の口から欠伸が出ている。

「頼む」
「おう。その前に……みんな。すまなかった。そして、ありがとう」

 立ち上がって頭を下げる十郎。
 
「操られていたのじゃろう? 仕方あるまいて。それより、お主という貴重な戦力が妾たちに味方するのじゃ。今は過去を振り返って悔やむ時ではあるまいて」
「その通りだ。十郎。ノブナガとミツヒデは私たちが止めよう」
「ジュウロウさま。元に戻られて幸いでしたわ」

 私を含めた三人がそれぞれ思い思いの言葉を十郎へ返す。
 対する十郎は照れたように鼻の頭を指先でさすり、再び腰を降ろした。
 
「ありがとな。晴斗、リリアナ、シャル」

 顔を逸らして照れくさそうに礼を述べた十郎は、自分が魔の者に落ちてからのことを語り始める。
 
 ◇◇◇
 
 十郎は私の禁術の犠牲となり倒れた後、ノブナガの残した魔の残照によって魔の者へと転じる。
 彼は魔の者となっても元々人を恨む感情を持っていなかったので、人を滅しようと動くことは無かった。
 本来ならこういった場合は夜魔となるのだが、ノブナガの魔の残照によって転じた十郎は魔将になってしまう。
 彼はノブナガの魔に縛られ、彼の意思に逆らうことができなくなった。
 ノブナガが命じたのはこの大陸にある魔溜まりの破壊。魔溜まりを破壊することによって、魔を拡散させることができる。
 拡散した魔は、ノブナガが現界する礎となるわけだ。
 ノブナガは大陸にある全ての巨大魔溜まりから魔を吸収することで、復活できる見込みだった。
 しかし、ドラゴンズエッグでその野望は潰えたはず。

「なら、ミツヒデはドラゴンズエッグの魔溜まりを再び狙ってくると予想されるが?」
「どうだろうな。ノブの復活に大陸全ての魔溜まりが必要かどうかは分からねえ」
「北の魔溜まりを破壊した時点で事足りているかもしれないということか……」

 どうする?
 彼らの拠点を襲撃し、滅するべきか。ここでミツヒデが来るのを待つべきか。
 
「ミツヒデの拠点はどこにあるのじゃ?」
「日ノ本だ。場所は本能寺」

 リリアナの問いに十郎が応じる。

「本能寺だと! かの地は廃墟になって相当な時間が経過している」
「そうだぜ。深い山の中にある本能寺は、魔の者の多発地帯。人はそうそう近寄らねえ」
「だからこそ本能寺なのか。いや、本能寺がそうなるようにミツヒデが整えたのかもしれないな」
 
 どうする?
 私は禁忌を犯し、追放された身。
 とはいえ、ミツヒデらを打倒するのなら日ノ本へ行かねばならない。
 目と髪さえ隠せば問題ないか……打倒し、ひっそりとこの地に戻れば問題は起こらないはず。
 
「話を簡潔にまとめていいかの? ハルト、ジュウロウ、そしてシャルロットよ」

 リリアナが全員の顔へ目配せをする。
 私たちの頷きを確認したリリアナは、指を二本立てた。
 
「一つ。ミツヒデらの本拠地『本能寺』へ攻め入る。二つ。ドラゴンズエッグで座して待つ」
「どちらでもわたくしはついて行きます」

 シャルロットが決意の籠った目を向け、膝の上に置いた両手をギュッと握りしめる。
 
「十郎。貴君の知るミツヒデの仲間はゼノビアのみなのだな?」
「そうだぜ。他にも必ずいる。少なくとも強い奴が一人」
「そうだな。私の答えは一つだ」

 情報が極端に少ない私たちに取れる手は一つしかない。
 固唾を飲み、私を見つめて来る三人。
 人差し指を立て、一泊間を置いてから言葉を続ける。
 
「敵は本能寺にありだ」
「つまり、攻め入るってことじゃな」
「その通りだ。さっきも十郎が言った通り、ノブナガ復活の魔が足りているのか足りていないのか不明。もし、復活してしまった場合、日ノ本は蹂躙されるだろう」
「ふむ。そうじゃな」
「いいぜ、そうこなくっちゃな!」

 リリアナが納得したように、十郎は指をパチリと鳴らし嬉しそうに応じた。
 既に目的を達成しているかもしれない相手に対し、座して待っていては永遠に機会を失ってしまう。
 ならば、こちらから出向く。

「古代龍。貴君には申し訳ないが、私たちは霊力が回復次第ここをたつ」
『好きにするがよい。我こそはドラゴンズエッグの主である。ミツヒデとやらが来たとしても打ち滅ぼしてくれようぞ』
「それは心強い」
『なあに。これまで我らはエルダーデーモン魔将さえ滅ぼしたことがあるのだぞ。龍の力を結集し待ち構えてやるさ』

 力強い返答をくれる古代龍へ内心謝罪しつつ、拳を痛いほど握りしめる。
 ――敵は本能寺にあり。
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