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第30話 ハルトのステータス(真)

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 ――その日の晩。
「リリアナ。部屋割りを間違っているとは思わないか?」
「妾は構わん。シャルロットは祈りの時間やらがあるし、つまらぬからな」

 天蓋付きの野営用天幕には、寝床用の毛皮が二つ並べて置かれている。
 リリアナは右側の毛皮の上にペタンと座り、立ったままため息を漏らす私を見上げていた。

 この状況はジークフリードの手落ちによって生じたものではない。手持ちの天幕の数に限りがあるので、誰かと同部屋になることは致し方ないことだとは理解できる。
 彼は申し訳ないと恐縮しつつも、リリアナとシャルロットを同じ天幕の中として、私は別の騎士の予定だった。
 しかし、シャルロットは天幕を二つ持参しており、ジークフリードらから天幕を借りる必要がなくなる。で、シャルロットは自分がリリアナと二人でよいと言ってくれたんだが、リリアナが私と同じで……となり今に至るというわけだ。
 
 紆余曲折が非常に煩雑だが……結果として、私とリリアナが同じ天幕の中にいる。

「はよう、座るとよいぞ」
「待て。脱ぐなよ。あと左腕に寄らないように」
「寝る時に服は煩わしいのじゃが……」

 リリアナはここが戦場付近だということが分かっているのか?
 夜伽やらそんな色ボケした気持ちでいられると困る。

「それは一人の時にしておいてくれ……私だけではなくいつ騎士の方が訪ねてこないとも限らないだろう?」
「そうじゃの。お主にならいいのじゃが、他の者となると……」
「分かってくれたならいい。突如、真祖が襲撃してこないとも限らぬからな」
「そうじゃった。その可能性もあったのじゃな」

 この顔はワザと全裸だのわめいていたのだな。
 彼女とて、夜襲は警戒すべきだと分かっている。

「ジークフリードはその点、抜け目はないぞ。キッチリと歩哨を立てている」

 野営地にはジークフリードの指示で高い櫓が組まれていた。
 周囲にはかがり火が焚かれ、騎士が夜通し交代で敵襲が来ないか警戒に当たっている。
 
「分かっておるさ、ハルト。だから妾はお主と共にあるのじゃ。敵襲への警戒じゃよ」
「……うまいこと言ったとか思ってないか?」
「そ、そんなことはないぞ?」

 確かに一理ある。私とリリアナが一緒に行動できるのなら、いざ何か有った時の対処の幅が広がることは確かだ。
 
「どうする。リリアナ。騎士たちが見張っていてくれているが、交代で眠るか?」
「あ、え。あ、いや。どちらでも?」

 あからさまに動揺しているが、リリアナが本当に夜襲を警戒していたのか不安になってきた。
 ともあれ、ずっと立ちっぱなしだと落ち着かないな。
 そんなわけで、リリアナのすぐ隣へ腰かける。もちろん彼女が座っているのは私の右側だ。
 
「この距離なら大丈夫か?」
「うむ。問題ない。慣らしたからの。直接触れていても少しの間なら平気じゃぞ」
「リリアナ、二人とも休むにしろ、交代にするにしても先にやっておきたいことがあるんだが、少し待ってもらえないか?」
「ん、ハルト。お主……大胆じゃの。いつ騎士が来るか分からぬというのに……」
「すぐ終わるさ」
「そ、そうろ……」

 何か言いかけて口ごもるリリアナをよそに、私は赤黒い左腕の様子を確かめる。
 上着をはだけさせ、左腕を服の袖から抜く。
 
 左腕に巻かれた札へ顔を近づけ目を細める……。見た所大丈夫そうだが……。
 
「お、その腕。どうなっておるのじゃ? どう見ても神経が稼働しているように見えぬのだが」
「鋭いな。リリアナ。確かに左腕はただくっついているだけで、自分では一ミリたりとも動かすことはできない」
「ならば、その札が術か何かか」
「その通り。念のため術をかけなおしておこうと思ってな」
「そ、それが先にやりたいことじゃったのじゃな」
「その通りだ」

 目を閉じ、集中、目を開く。
 術式 絡繰りをかけなおし、左腕の様子を確かめる。
 握って、開いて、上下に振るう。
 
「大丈夫そうだ。待たせたな。リリアナ」
「いや、いいものを見せてもらった。そのような術もあるのじゃなあ。面白い。一種の魔法生物みたいなもんじゃな、それは」
「魔法生物……?」
「お主の式神みたいなもんじゃよ。式神と違うのは一度クリエイトすると、壊れるまで稼働することじゃな」
「それは面白そうだ。いずれ見て見たいものだな」
「それほど珍しいモノでもないかのお。ゴーレムやガーゴイル、ホムンクルスって奴らが魔法生物じゃ。ドワーフの村には必ず一体か二体はいるかのお」
「ドワーフ……か。亜人の一種なのかな?」
「その通りじゃ。気のいい奴らじゃよ。いずれ紹介してやろうて」
「ありがとう。リリアナ」
「ドワーフに会う時は、必ず酒を持って行かねばならぬぞ。持っていくと、まず受け入れてくれるからの」
「それは陽気な人たちぽいな。酒は百薬の長ってな」

 自分で言っいて意味が変だと思ったが、リリアナは気にした様子もない。わざわざ訂正する必要もないだろう。

「ん? どうしたリリアナ。急に引き締まった顔になって?」

 先ほどまでのほんわかとした雰囲気から一転し、顔をしかめ、顎に手をやるリリアナ。

「いや、お主と同部屋になりたかったのはな。昼間見た能力値解析のことで早くお主と話をしたかったからなのじゃよ」
「ここなら……他に誰もいないから丁度いい。気になったことがあれば何でも聞いてくれ」
「お主の……ステータスは一体どうなっておるんじゃ? 能力値解析を重ねるとレベルも属性スキル値もまるで別物になりよった」
「思うに、ステータスオープンはこちらで開発された術だけに、こちらでは一般的ではない属性が表示されないのではと思う」
「ううむ。そうだとしてもじゃな。例えば火属性が七から十に変わるのが不可解過ぎてのお」
「そうだな……この機会に一緒に検討してもいいかもしれない。私もこうだろうと思っていることはあるからな」

 リリアナと私はステータスオープンと能力解析を唱え、私のステータスを閲覧する。
 
『名前:サカキハルト(榊晴斗)
 種族:人間
 レベル 五十八(九十九)
 HP: 二百五十
 MP: 四百七十
 スキル:陰陽術
 地:七(十)
 水:七(十)
 火:七(十)
 風:七(十)
 (金:十)
 光(陽):七(十)
 (陰:十)』
 
「じっくりと自分のステータスを見ることがなかったが……私の推測は変わらないな」
「ん? すでに見当がついているのかの?」
「そうだとも。リリアナ。そもそも、火属性の十とは何をもって十とするのだろうか。魔術か? それとも陰陽術か?」
「なるほどのお。数値の基準を疑ったことなど無かった。お主、硬そうに見えてこと術のこととなると柔軟な発想をするの」
「私が異邦人だからこその発想だと思うがね」

 基本元素にしても、この地は地水火風の四。陰陽術は五。
 そもそものくくりが違うのだ。それを無理やり四属性に当て込んだ結果、属性値は七だと判断された。
 といっても、陰陽術が弱くなったのかというとそうではない。単純に表示計算をどのようにするかだけの問題だったってわけだ。

「しかし……お主が全属性を十まで使いこなすとはのお。レベルも限界値。初めてみたわ」
「そうなのか。私は自分以外にも九十九は見たことがある」
「レベルも同数だとしても強さが同じではないということじゃろう」
「その通りだとも。レベル表示が高かろうが低かろうが本人の実力は変わらない」
「うむ」

 だから、リリアナ。貴君のレベルが私より低く見えているとはいえ、私は貴君より実力が勝っているとは思わない。
 態度に見せる気は毛頭ないが、貴君のことを実は頼りにしているのだぞ。
 そんなことを考えていると、気恥ずかしくなってしまいリリアナから目を背ける私なのであった。
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