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第18話 ドレイク
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リリアナの説明はとても明快で単純だった。
彼女は私が「八式霊装 心眼」を使った際に霊力の流れを見ることができるように、魔(瘴気)の流れを目や耳、鼻で感じとることができる。
彼女はその昔、妖魔はもちろん魔将が生れ出る現場に遭遇したことがあった。その時見た魔の凝縮から私の左腕が似たような状態になっていると推測したのだ。
「なるほど。説明感謝する」
礼を述べた時、ようやくリリアナがコップへ液体を注ぎ終わったところだった。
それだけ彼女の説明が単純明快で時間がかかっていないということだ。
「他には何かあるかの?」
「いや、私からはもう無い」
「なら、ゆるりとお茶を楽しんだ後、帰るがよいぞ」
思ったより素っ気ないな。
私がリリアナに会いたかったように、彼女もきっと何か含んだものがあると思ったのだが。
「いいのか? リリアナ。私がこのまま何もせずに帰っても」
「うむ。お主のレベルを見せてもらったからの。匂いのことは気になっておったし、一番の目的は果たせた」
「私のレベルを見ることがか?」
「そうじゃ」
どうも引っかかる。レベルを見たからハイサヨウナラとは如何に?
逆に言えば、私のレベルを見たからこそ、彼女の用事は済んだ?
待てよ。
「リリアナ。そういえば、『森から離れることができない』と言ったな」
「その通りじゃ。妾はここから出ることはできない」
「ハイエルフは森から出たら倒れてしまうのか? それじゃあ、大賢者とは言えぬと思うが?」
「そんなわけなかろう。街にだって行ったことがあるわい!」
やはりそうか。特段理由が無く、何があっても森にいるは不自然だ。
「モンスターか?」
「そうじゃ。誘導尋問とは嫌らしい奴じゃな」
「大森林に入った時感じた一滴の黒は、そのモンスターが原因だったわけか」
「あの時お主は口をつぐんでいたが、やはり、既に気が付いておったのじゃな」
しかし、随分と舐められたものだ。
私の実力では、リリアナが対峙しているモンスターを倒せないと?
「リリアナ。案内しろ。私がそいつを倒す」
「いきなりじゃな。しかし、こちらから頼みもしておらぬのに、随分と協力的なんじゃな」
「『匂い』の礼だ。貴君の情報は私にとって、モンスター討伐をやってもまだ足りぬほどだよ」
「言ってくれるわい。案内はしてやろう」
まさか魔将や真祖ってわけではあるまい。
そこまでの気配を感じなかった。もし、どちらかがいるのなら、大森林へ入った時点でもっと色濃く気配を感じていたはずだ。
◇◇◇
リリアナと手を繋ぎ、彼女の家から大森林へ転移する。
大森林の入り口と別の場所なんだろうが、私には同じに見える。
大木が一定間隔で並び……いや、違うな。
地面には枯れ落ちた葉だけでなく、新緑の葉までが大量に落ちている。ところどころ、太い枝が丸ごと転がっているところまである。
見上げてみると、何か大きなものが大暴れしたのか……枝が落ち大きな爪跡らしきものが幹に刻まれていた。
「あそこじゃ」
リリアナが右前方を指差す。
あれは……相当巨体だな。三百メートル以上の距離があろうというのに、ハッキリとその姿を確認できる。
この位置からだと頭しか確認できないが、頭だけでも二メートルほどあるな。
見える限りの部分は全て骨だけ。頭の形はトカゲの骨格に近い。あのようなモンスターは見たことがないが、あれは確実に魔の者……不死者に違いない。
「あれは骨か。モンスターが動く骨になることはそれほど珍しいことではないが……」
「アレはフォレスト・ドレイクの成れの果てじゃ」
「ドレイク……? 見た方が早いか」
ドレイクとは何を指すのか不明だが、体の一部さえ視認できればステータスを確認可能だ。
巨体へ目を向け、ステータスオープンと能力調査を唱えた。
『名称:スケルタル・ドレイク(骨龍)
種族:アンデッド(不死者)
(階位:魔の者)
レベル:八十二
HP:七百二十
MP:―
スキル:地属性無効
風属性無効
水属性無効
(うんちく 核を破壊するまで動きを止めない)』
ドレイクとは龍のことだったのか。動く骨は本来、低位の魔の者に過ぎない。
しかし、龍となると話は別だ。元来、龍とは魔将クラスの実力を持つものまでいる。
この骨龍はきっと生前強き龍だったに違いない。
「どうじゃ?」
リリアナが下から私を覗き込んでくる。
「フォレスト・ドレイクとは古龍か?」
「その通り」
「やはりそうか」
「火は使えぬ。他の三属性は効かぬ。妾にはお手上げじゃよ」
リリアナは両手を広げ肩を竦める。
「貴殿は木属性が使えるのでは?」
「木属性は敵を滅す魔術には不向きなのじゃ」
ううむ。リリアナはこいつをこのまま放置しておくつもりだったのか?
この暴れっぷりは森にとっても良く無さそうだが……いや、すぐに考え込むのは私の悪い癖だな。時には十郎のように単純に行くのもいいだろう。
「お主にも不可能じゃろ」とばかりに眉をしかめ首を傾けるリリアナへ、ふっと笑みを浮かべ応じる。
「あれなら討伐できる。ついて来るか?」
「な、なんじゃと! お主、武器さえ持っておらぬじゃないか」
何か問題があるのだろうか? 陰陽師に武器は要らぬ。陰陽術があればな。
「一応、小刀なら持っているが? 使わぬ」
「待て待て! 魔術が効かぬのじゃぞ!」
「見た方がはやい」
ぎゃーぎゃーわめくリリアナをよそに、腕を振り袖から札を出し指先に挟む。
「札術 式神・煙々羅」
私の求めに応じ、札から灰色の煙がもくもくと舞い上がり、布団ほどの大きさがある座布団――煙々羅と成る。
「行くぞ。乗れ」
「手、手を」
「高いところが怖いのか?」
「こんな煙の上で大丈夫なのか、心配なだけじゃ!」
鼻を鳴らし先に煙々羅の上に乗った私は、リリアナの手を引く。
後ろからしがみつく彼女へやれやれと思いながらも、腕を下から上へ振り上げた。
すると、私の手の動きに合わせるように煙々羅が高く舞い上がる。
「ぬ、ぬひゃあああ」
「なんて声を出しているんだ……一応『大賢者』なのだろう?」
「空を飛んだことなんてないものじゃから……だああ。振りほどこうとするな!」
「……邪魔はするなよ……」
連れて来なければ良かったと若干後悔しながらも、スケルタル・ドレイクの全貌を確認することにした。
ふうむ。見れば見るほど私の知る龍と形が違うな。
龍とはトカゲに似た顔に蛇のような体躯を持つ。蛇とは異なり、手足が生えてはいるが地面を歩くほど長くはないのだ。
常に宙に浮き、休むさいは体を何かに巻き付けて休息を取る。
それが、あの龍は……直立するトカゲ……ではないな。胴体が太く、しっかりとした足と尻尾。それに背中から肉がついていれば翼になるのだろう骨が生えていた。
ともあれ見た目こそ違えど、龍は龍だ。
スケルタル・ドレイクは煙々羅に気が付いた様子で、骨の腕や尻尾を振り回し興奮した様子であったが、宙高くに浮く煙々羅にはもちろん届かない。
やはり魔の者に堕ち、骨だけになってしまった今となっては、いかな龍とはいえ術は使えないようだな。
攻撃が届かないスケルタル・ドレイクに対し、私にはここから攻撃する手段がいくつもある。
そのままそこでジタバタと暴れているがいい……その隙に離れたところから一気に仕留めてやろう!
袖を振り、両手の指先に札を挟み、目を閉じる。
――心を水の中へ……。深く深く瞑想し、自己の中へ埋没していく。
「ハルト! ブレスが来るぞ!」
「何!」
リリアナに肩を揺すられ、目を開くとスケルタル・ドレイクがしかとこちらを睨みつけ大きな口を開いているではないか。
牙の並んだ口元には、雷光が走る黒い熱量がチリチロと湧き出てきている。
煙々羅を下降させて躱すか。
いや、それだと森が。
ならば……。
ちょうど集中したことで霊力は体の中心に集まっている。
身体からぼんやりとした青白い光が立ち込め――。
「七十九式 激装 月詠比礼」
彼女は私が「八式霊装 心眼」を使った際に霊力の流れを見ることができるように、魔(瘴気)の流れを目や耳、鼻で感じとることができる。
彼女はその昔、妖魔はもちろん魔将が生れ出る現場に遭遇したことがあった。その時見た魔の凝縮から私の左腕が似たような状態になっていると推測したのだ。
「なるほど。説明感謝する」
礼を述べた時、ようやくリリアナがコップへ液体を注ぎ終わったところだった。
それだけ彼女の説明が単純明快で時間がかかっていないということだ。
「他には何かあるかの?」
「いや、私からはもう無い」
「なら、ゆるりとお茶を楽しんだ後、帰るがよいぞ」
思ったより素っ気ないな。
私がリリアナに会いたかったように、彼女もきっと何か含んだものがあると思ったのだが。
「いいのか? リリアナ。私がこのまま何もせずに帰っても」
「うむ。お主のレベルを見せてもらったからの。匂いのことは気になっておったし、一番の目的は果たせた」
「私のレベルを見ることがか?」
「そうじゃ」
どうも引っかかる。レベルを見たからハイサヨウナラとは如何に?
逆に言えば、私のレベルを見たからこそ、彼女の用事は済んだ?
待てよ。
「リリアナ。そういえば、『森から離れることができない』と言ったな」
「その通りじゃ。妾はここから出ることはできない」
「ハイエルフは森から出たら倒れてしまうのか? それじゃあ、大賢者とは言えぬと思うが?」
「そんなわけなかろう。街にだって行ったことがあるわい!」
やはりそうか。特段理由が無く、何があっても森にいるは不自然だ。
「モンスターか?」
「そうじゃ。誘導尋問とは嫌らしい奴じゃな」
「大森林に入った時感じた一滴の黒は、そのモンスターが原因だったわけか」
「あの時お主は口をつぐんでいたが、やはり、既に気が付いておったのじゃな」
しかし、随分と舐められたものだ。
私の実力では、リリアナが対峙しているモンスターを倒せないと?
「リリアナ。案内しろ。私がそいつを倒す」
「いきなりじゃな。しかし、こちらから頼みもしておらぬのに、随分と協力的なんじゃな」
「『匂い』の礼だ。貴君の情報は私にとって、モンスター討伐をやってもまだ足りぬほどだよ」
「言ってくれるわい。案内はしてやろう」
まさか魔将や真祖ってわけではあるまい。
そこまでの気配を感じなかった。もし、どちらかがいるのなら、大森林へ入った時点でもっと色濃く気配を感じていたはずだ。
◇◇◇
リリアナと手を繋ぎ、彼女の家から大森林へ転移する。
大森林の入り口と別の場所なんだろうが、私には同じに見える。
大木が一定間隔で並び……いや、違うな。
地面には枯れ落ちた葉だけでなく、新緑の葉までが大量に落ちている。ところどころ、太い枝が丸ごと転がっているところまである。
見上げてみると、何か大きなものが大暴れしたのか……枝が落ち大きな爪跡らしきものが幹に刻まれていた。
「あそこじゃ」
リリアナが右前方を指差す。
あれは……相当巨体だな。三百メートル以上の距離があろうというのに、ハッキリとその姿を確認できる。
この位置からだと頭しか確認できないが、頭だけでも二メートルほどあるな。
見える限りの部分は全て骨だけ。頭の形はトカゲの骨格に近い。あのようなモンスターは見たことがないが、あれは確実に魔の者……不死者に違いない。
「あれは骨か。モンスターが動く骨になることはそれほど珍しいことではないが……」
「アレはフォレスト・ドレイクの成れの果てじゃ」
「ドレイク……? 見た方が早いか」
ドレイクとは何を指すのか不明だが、体の一部さえ視認できればステータスを確認可能だ。
巨体へ目を向け、ステータスオープンと能力調査を唱えた。
『名称:スケルタル・ドレイク(骨龍)
種族:アンデッド(不死者)
(階位:魔の者)
レベル:八十二
HP:七百二十
MP:―
スキル:地属性無効
風属性無効
水属性無効
(うんちく 核を破壊するまで動きを止めない)』
ドレイクとは龍のことだったのか。動く骨は本来、低位の魔の者に過ぎない。
しかし、龍となると話は別だ。元来、龍とは魔将クラスの実力を持つものまでいる。
この骨龍はきっと生前強き龍だったに違いない。
「どうじゃ?」
リリアナが下から私を覗き込んでくる。
「フォレスト・ドレイクとは古龍か?」
「その通り」
「やはりそうか」
「火は使えぬ。他の三属性は効かぬ。妾にはお手上げじゃよ」
リリアナは両手を広げ肩を竦める。
「貴殿は木属性が使えるのでは?」
「木属性は敵を滅す魔術には不向きなのじゃ」
ううむ。リリアナはこいつをこのまま放置しておくつもりだったのか?
この暴れっぷりは森にとっても良く無さそうだが……いや、すぐに考え込むのは私の悪い癖だな。時には十郎のように単純に行くのもいいだろう。
「お主にも不可能じゃろ」とばかりに眉をしかめ首を傾けるリリアナへ、ふっと笑みを浮かべ応じる。
「あれなら討伐できる。ついて来るか?」
「な、なんじゃと! お主、武器さえ持っておらぬじゃないか」
何か問題があるのだろうか? 陰陽師に武器は要らぬ。陰陽術があればな。
「一応、小刀なら持っているが? 使わぬ」
「待て待て! 魔術が効かぬのじゃぞ!」
「見た方がはやい」
ぎゃーぎゃーわめくリリアナをよそに、腕を振り袖から札を出し指先に挟む。
「札術 式神・煙々羅」
私の求めに応じ、札から灰色の煙がもくもくと舞い上がり、布団ほどの大きさがある座布団――煙々羅と成る。
「行くぞ。乗れ」
「手、手を」
「高いところが怖いのか?」
「こんな煙の上で大丈夫なのか、心配なだけじゃ!」
鼻を鳴らし先に煙々羅の上に乗った私は、リリアナの手を引く。
後ろからしがみつく彼女へやれやれと思いながらも、腕を下から上へ振り上げた。
すると、私の手の動きに合わせるように煙々羅が高く舞い上がる。
「ぬ、ぬひゃあああ」
「なんて声を出しているんだ……一応『大賢者』なのだろう?」
「空を飛んだことなんてないものじゃから……だああ。振りほどこうとするな!」
「……邪魔はするなよ……」
連れて来なければ良かったと若干後悔しながらも、スケルタル・ドレイクの全貌を確認することにした。
ふうむ。見れば見るほど私の知る龍と形が違うな。
龍とはトカゲに似た顔に蛇のような体躯を持つ。蛇とは異なり、手足が生えてはいるが地面を歩くほど長くはないのだ。
常に宙に浮き、休むさいは体を何かに巻き付けて休息を取る。
それが、あの龍は……直立するトカゲ……ではないな。胴体が太く、しっかりとした足と尻尾。それに背中から肉がついていれば翼になるのだろう骨が生えていた。
ともあれ見た目こそ違えど、龍は龍だ。
スケルタル・ドレイクは煙々羅に気が付いた様子で、骨の腕や尻尾を振り回し興奮した様子であったが、宙高くに浮く煙々羅にはもちろん届かない。
やはり魔の者に堕ち、骨だけになってしまった今となっては、いかな龍とはいえ術は使えないようだな。
攻撃が届かないスケルタル・ドレイクに対し、私にはここから攻撃する手段がいくつもある。
そのままそこでジタバタと暴れているがいい……その隙に離れたところから一気に仕留めてやろう!
袖を振り、両手の指先に札を挟み、目を閉じる。
――心を水の中へ……。深く深く瞑想し、自己の中へ埋没していく。
「ハルト! ブレスが来るぞ!」
「何!」
リリアナに肩を揺すられ、目を開くとスケルタル・ドレイクがしかとこちらを睨みつけ大きな口を開いているではないか。
牙の並んだ口元には、雷光が走る黒い熱量がチリチロと湧き出てきている。
煙々羅を下降させて躱すか。
いや、それだと森が。
ならば……。
ちょうど集中したことで霊力は体の中心に集まっている。
身体からぼんやりとした青白い光が立ち込め――。
「七十九式 激装 月詠比礼」
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