大草原の小さな家でスローライフ系ゲームを満喫していたら、何故か聖女と呼ばれるようになっていました~異世界で最強のドラゴンに溺愛されてます~

うみ

文字の大きさ
18 / 34

18.父さんな……

しおりを挟む
 上には太い枝を支えに4畳くらいのスペースがあったの。床は木の板を重ねて補強したものみたい。
 床は私たち三人が乗ってもたわみもせず、安定していた。
 これなら安心ね。
 トッピーがその場で座ったので、彼を真似してちょこんと正座する。
 あ、あぐらをかいたファフニールの正面に座っちゃってた、さりげなく彼の隣に移動したわよ。
 ほら、正座するとワンピースじゃない? 太ももの真ん中くらいまでしか裾がないのよね。
 きゃー。
 いや、まあ、分かっているわよ。ファフニールが全く気にしていないなんてことを。
 でも、私は花も恥じらう乙女なの。で、あるからしてほら、分かるでしょ。
 
 あ……。
 私が縄梯子を先に登ったじゃない。かなりたどたどしくて正直途中でもうダメだーって諦めそうになったんだ。
 でも、後ろから落ちても大丈夫なようにファフニールが片手だけで縄梯子を登っていたから、彼の見守りを支えに登り切ったの。
 彼はいつ私が落ちてもいいように見守っていた。
 大事なことだから、繰り返しちゃったのだけど、ワンピースは短いじゃない?
 あひゃひゃひゃ。
 ちなみに紫よ。え。聞いてないって? むしろ興味がないとか言ったらダメよ。ダメなのよ。
 替えの下着を持っていないので、ずっとこれだという。そろそろ下着くらい買わないと。
 イベントとミッションを同時にクリアしちゃったし、服と下着をもう一揃え買おう。うんうん。
 
「よくぞ、おいでくださいました」

 両脇をラナと彼の姉に支えられた小人族の男が支えられたまま頭だけを下げる。
 憔悴した感じで無精ひげが生え、茶色の髪の毛もぼさぼさになっていた。
 年のころは30代半ばくらいかな? 人間と同じとすればだけど。
 
「私はロンと言います。こちらは娘のラン。ラナの命を救って頂いたと聞いております。竜人のお方、聖女様、心よりお礼申し上げます」
「ニールさんだよ。父さん」
「そうでしたか。ニールさん、聖女様、ありがとうございました」

 ラナとランの二人が父のロンを座らせる。
 体が動かないと聞いていたけど、脚はもう完全に動かない様子だった。
 膝を曲げるのだってランが手で動かしていたの。
 痛ましい様子にかける言葉が浮かばなかった。
 私の様子を見てか、先にファフニールが挨拶をする。
 
「ファフニールだ。たまたま、ラナを発見したに過ぎない。真にラナを救ったのはここにいるサエだ」
「い、いえ。ニールさんがラナくんを連れてこなければ」

 あせあせと彼の言葉を訂正しようとしたんだけど、その先がうまく続かない。
 
「お二人のお人柄。短い言葉だけでも分かります。お優しき方々に改めて感謝を」

 ロンがにこやかに合いの手を打つ。
 肘が曲がらないようでとてもぎこちない動きだった。
 
「ラナくん。すぐにお父さんに梨を食べさせてもらえるかな?」
「うん。父さん。ちょっと待ってて」

 ラナは小さな縄梯子を登っていく。あの上に彼ら一家の家があるのだろう。
 あ、でも待って。
 
「ラナくん! 梨はここよ! トッピーさんが持ってる」
「ラナ。この場で私が切り分けよう」

 トッピーと言葉が重なる。
 それで気が付いたようで、ラナが元来た道を戻りストンと床に降り立っててへへと舌を出す。
 
 ◇◇◇
 
「お、おお。これは、なんという美味しさ」

 娘のランに小さく分けた梨を食べさせてもらったロンが感想を述べた。
 どうかな? 梨で少しは体が動くようになってくれたらいいのだけど。
 ランの時は食べた途端に熱が引いたわ。
 もし、ロンにも効果があるなら、すぐに分かるはずよ。
 
「む。むむ。右腕の感覚が戻って参りました!」
「父さん!」
「お父さん!」

 右肘を曲げるロンに娘と息子が歓声をあげる。
 効果があってホッとする反面、完治とまでいかなかったことにどうしようという気持ちも同時に産まれたの。

「サエ。竜の血は駄目だ」
「へ? ニールさん」
「竜の血では治療できない。ただの噂だ」
「聞いていたんですね! それで、『俺はいかなくていい』なんてことを」

 知ってたんだ。ファフニールは全部。
 そうだよね。ラナの父が病気だってことを知っていたのだったら、私とラナの会話は全部聞いていたことになるものね。
 彼はあえて言わなかっただけ。それが彼の優しだったの。
 梨で完治すれば、竜の血の話なんてしなくて済む。
 
「コトリ。症状が改善したなど、どのような薬であっても成し得なかったんだ。それを君のネクタリスならば、成し得た」
「トッピーさん」

 トッピーが片目を閉じ、ヒレのついた指を一本立てる。
 
「君のネクタリスは、小人が食べるに一切れであれば、一個でも一週間は持つ」
「一個と言わず、今持ってきている梨を全部食べてください!」
「君がよいと言うならば、ありがたく。伝説に謳われるネクタリスを、君が精魂込めて聖なる魔力を注ぎ続けた貴重なネクタリスを。すまない」

 トッピーが両手をつき、頭を下げる。
 床が湿っているのは、彼がぬめぬめしているからだけではないだろう。
 
「聖女様。本当に本当にありがとうございます」
「ありがとう!」
「ありがとうございます!」
 
 梨でここまで言われちゃうと、ど、どうしようとたじたじになっちゃうわ。
 実は毎日自動的に収穫できるんです。
 なんてこと言えやしないわ。
 
 曖昧な笑顔を浮かべ、両手を前にし彼らに言葉を返す。
 
「い、いえ。そ、そうだ。もし、これ以上よくならない、なんてことがあったら教えて頂けますか? 私にできることでしたら協力させてください」
「聖女様……」

 ロンはもう言葉にならないようで、両目からとめどなく涙が溢れ出し感極まった様子だった。
 
 ◇◇◇
 
 帰りはファフニールと二人空の旅を楽しむ。
 楽しもうと思っていたのだけど、すっかり暗くなっちゃって何も見えないのよおお。
 失敗した。帰りにゆっくりと景色を眺めればいいって思っていたのに。
 
「ニールさん、竜の血って飲むとどうなるんですか?」
『竜の血が大地に触れれば煙をあげて大地を溶かす』
「そ、その先はもう言わなくても大丈夫です」

 強酸か何かなのね。
 飲んだら、佐枝子の体がドロドロになってしまうわ。
 よかった。竜の血を飲まなくて。
 
 さああっと血の気が引いたところで油断してつるっと行きそうになる。
 慌てて全身でガバッとファフニールの首元に抱き着く。
 ひゃああ。すべすべしていて気持ちいい。
 もう少し暖かければ最高なのだけど。でも、これはこれで良き良き。
 
 ファフニールが降下をはじめた。
 そろそろ、私の家に到着しそう。
 
「いつもいつもありがとうございます。ニールさん」
『礼を言うのは俺の方だ。ほら、もうつくぞ。しっかりとしがみつけ』
「もうしがみついてます!」
『そうか』

 「あはは」と笑う私に応じるかのようにぐううんと高度が落ちていく。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

最強お嬢様、王族転生!面倒事は即回避!自由気ままに爆走しますけど何か?

幸之丞
ファンタジー
結衣は来年大学進学を決めた高校生。 父親が幼いころに行方不明になり、母を助けるために幼いころから、祖父が営む古武道の道場のお手伝いをしていました。道場でお手伝いが出来たのは、幼い頃より、流鏑馬や剣術を祖父と父親が結衣に教えていたことが起因である。 結衣の腕前は、弓道で全国大会を制覇するほどである。  そんな、結衣は卒業旅行に仲の良い陽菜と卒業旅行に行くために、もう一つの飲食店でのアルバイトをしていた。 その帰り道、事故に合い転生してしまう。 転生先では、女王太子の長女、エリーゼとして生まれます。 女性が元首を継ぐことが多いこの国は、国を守るために防御結界があり、それは、精霊や妖精達が結界を張っています。 精霊や妖精が結界を張る条件として、聖女と呼ばれる女性たちが、聖なる湖という聖域でお祈りをして、祈りの力を精霊や妖精に捧げるのです。 その為、エリーゼは、聖女をまとめる筆頭、巫女の代表の斎王になり、女王になることを期待されるのです。 しかし、結衣は自分が国を治める能力はないと考え、どうにか女王にならないようにいろいろと考え行動に移すのですが… このお話しは、異世界転生・王族・聖女・精霊・恋愛・領地改革などの要素が絡み合う、女性主人公による成長と自立の物語です。

【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。 文化が違う? 慣れてます。 命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。 NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。 いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。 スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。 今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。 「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」 ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。 そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。

処理中です...