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三章

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耳に届いた希望。

安らぎを。安寧を。光を。暖かさを。優しさを。温もりを。愛おしさを。


ーー柔らかな光りが差し込んできた。

目を閉ざすことなく。
俯くことなく。
見上げた先に光を。

そう望んで、得られなかったモノ。

腕を黒い何かからズルリと引き抜き上へと伸ばす。

引っ張られて沈みかけても力の限り伸ばした指先。
抵抗する様に引っ張るモノが圧迫してくる。
苦しくても手を伸ばしてただその光を見上げた。

あと少し。あと少し。
その思いで伸ばした腕に圧がかかり目をギュッと瞑る。

堪えながら必死に伸ばした腕。

ただ無心に伸ばした指。

その時、何かに触れた。



目を開けると

光が視界を覆ったーーー。



真っ白な光に包まれて、天国に来たのだと思った。

〈ルシェ!目が覚めたか!〉
「エレちゃん!気が付いたかい?」

じじさまの安堵した顔。
ダングス神官様のホッとした顔。

迷惑をかけた!嫌われる!と思い焦って起き上がり頭を下げた。

「ごめんなさいごめんなさい!ごめんなさい!」

嫌わないで!嫌わないで!追い出さないで!

必死に謝っていると肩が温かくなった。
気が付いて見上げるとダングス神官様が私の肩に手を置いていた。その目からは穏やかで包み込むような暖かさを感じた。

「ああ、あの。私、勝手に………」
「いいんだよ。子供は悪戯するのも仕事だから。それよりも体調はどうだい?5日も眠っていたんだ。具合いの悪いところは、ないかい?」

目線をあわせて優しく諭すようにゆっくりと話してくれる。

あの夢のような冷たい目も蔑む目でもない。
戻ってこれたのだと、安心感を感じると目頭が熱くなってきた。ポロポロと涙が溢れてくる。涙が止まらなくて手で擦り誤魔化そうとしても落ちてくる。

ポンポンと背中を撫でられダングス神官様は私を腕の中へと包み込んだ。
その暖かさが伝わり更に涙が止まらない。

「怖かったね。でももう大丈夫だから。ここは安全だからね。ゆっくり休んで、ゆっくり寝て、身体を治すんだよ。大丈夫だから」

「大丈夫だ」と何度も繰り返し背中を撫でてくれたダングス神官様。
腕の中に包まれて父様達を思い出して涙が止まらなかった。

怖かった。
悲しかった。
辛かった。
苦しかった。

なにより泣きたかった。

つらい顔した両親の前で泣くことは憚られた。
幼いが故に親の顔色はことのほか敏感になる。
激昂した母に頬を叩かれた。
あの日から敏感に感情を出すことを控えてきた。

緩んだ涙腺は止まることなく。


べそべそわんわんと大泣きした私はそのまま眠った。



悪夢を視ずに眠るのは久しぶりだった。








◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇



この体験は強烈だった。
しばらくの間、夢に魘された。
暗闇に怯え眠ることも怖かった。
その間、ずっとダングス神官様がついていてくれた。


守護のお守りを超えるほどの者達に集まられ、お守りも完全じゃないと知った。

この体験以降、私の脱走は止まった。

迷惑をかけた罪悪感と、街を普通に歩けないことを知った。

ここで対処を学ばないと帰れないのだと、納得した。


そこから私の神殿生活がはじまったーー。





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