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三章

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両親から、「神殿に行って視える世界の勉強をさなさい。視える世界の違いを教えてもらえればまた一緒に過ごせるから」と。
そう言われて神殿へ預けられた。

毎日両親が私を思い、接する努力していたのを感じながら生活していた。
私が言った理解不能な言葉を否定せずに聞いてくろた。でもそれを人に言わないようにと諭していた日々。
普段は普通に過ごしていた。
両親も普通に笑い会話して生活していた。
親の愛情はちゃんと向けられ愛情を感じる親子関係だった。
それでも、恐ろしい霊が視えれば悲鳴を上げたり逃げたりする。その訳の分からない奇行は両親に理解されることはない。

疎外感もあったけど、愛情もあった。
でも理解はされることはなかった。

だから神殿に預けられることを嫌だと言うのは我慢した。
母様が元気になってくれるようにと思いながら。
普通になって戻れるように祈りなら神殿へ向かった。



◇◆◇



神殿に来た時、私は何度か逃げ出した。
両親が恋しくて、寂しくて、悲しくて。
我慢したけど、帰りたくて衝動的に神殿を飛び出した。


寂しく一人でとぼとぼと街の中を彷徨った。
足取り重く歩きながらも、田舎と違ってキラキラしたものが並ぶ店先は綺麗で目を引かれた。

でも、田舎と違って澱んだ黒いモノがそこかしこにいた。

嫌な感じがする通路。
黒い影が蠢いている人の影。
それらが視線を私に向ける。

〈視えるのか?〉と。

怖くて。
逃げた。

でも追いかけてくる怖いもの達に悲鳴をあげて逃げても追いつかれた。身動きできずに路地の片隅で小さく蹲り気を失った。



気がつくと、ベッドだった。
周りに囲まれているところをダンおじちゃんが
助けてくれたらしい。

何も言わなかった。
ただ頭を撫でてくれたダンおじちゃん。


家に帰りたくて逃げ出し、何度も街へ行っては気絶した。

黒いのは私に向かって集まってくるからだ。

身を案じたダンおじちゃんが守護の掛かったモノを渡してくれた。
それを身に付けるようになって黒い者が集まらないようになると、私の脱走も頻度があがった。

脱走に慣れたのもあるが、目新しいものばかりで、ワクワクしながら街を見た。その好奇心もあり神殿から抜け出して街を歩いた。

店先を眺めながら歩き、田舎には無い高い建物を見上げ、興味に惹かれるままに街を進んだ。

ある店の陰から小さい子に手招きされた。止めるじじさまの声を無視して着いて行った。同い年の子に飢えていた私は疑うこともなく導かれると寂れた小屋に着いた。

魅入られて不用意に着いて行った私。

そこは奴隷小屋の廃屋。
沢山の無念と怨念と憎悪が渦巻いていた。
抗う術もなく念に囲まれて押し潰されるように集られた。

痛い。熱い。苦しい。食べたい。怖い。嫌い。逃げたい。眠い。死にたい。お腹すいた。憎い。怨み。妬み。殺せ。盗め。騙せ。死ね。殺す。呪う。喉が渇いた。暗い。狭い。休みたい。奪え。騙された。苦しめ。

様々な怒号や断末魔の悲鳴のような慟哭。
怨嗟が波の様に襲いかかってきた。
沢山の霊達が入れ替わり怨念と呪詛を繰り返す。硬直して動けないところに濃密な澱みが纏わり付くように身体に絡んでくる。

ありとあらゆる負の感情が一気に流れ込んできた。そんな負を受け入れられるわけもなく、その場に崩れ落ちるように倒れた。


暗い昏い闇の奥深くに落ちていく。


目を凝らしても何も視えないのに、憎悪の塊のような物だけを感じる。

自分の心の中が黒く染まっていくのがわかる。

笑っていた両親がーー

蔑んだ目をむけ、差別する恐怖。

両親からの視線が怖い。

棘のある視線にひそひそと話す声、全てが私に向けられた呪詛のよう。

あ"あ"あ"あ"っ!!!

喉が締め付けられるような悲鳴が溢れた。
苦しくて悲しくて辛くて逃げたくて見たくなくて知りたくなくて考えたくなくても、嫌な考えが頭を支配していく。


心が黒く染められていく。

見たくない。

それでも繰り返される。

白い目で見られる恐怖。


両手で顔を覆う。
心を守るように。

首を絞められるような苦しみと喉がひりつくような渇きに掻き毟りたい衝動に駆られる。
今まで味わったことのない棘棘しい感情が止めどなく押し寄せ吐き気を催してくる。迫り上がる胃液に胸が圧迫されるよう。

恐怖に迫られ、真っ暗な中で闇雲に泣きながら走っても逃げれるわけもなく。

闇の塊がネットリと纏わりつき足がだんだんと重くなり、沈んでいく。

トプリと黒いモノに沈みゆく脚。そして腰、胸元と黒く染る。

抵抗も億劫となるほどの脱力感。
憎悪の塊が全身を覆う。
肩が沈み首を超えて顎に迫る。

ーーその時。

沈みが止まり、動いた視界の隅にみえた微かな光。


微かな囁き。



それはーー。
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