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三章

神官の諷言。騎士の立言。

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神殿を訪れたソルシエレが元同僚達に会いに応接室を立ち去った。
シンと静まりかえった応接室に佇む二人。

口火を切ったのはマアディン卿だった。

「ダングス神官殿、彼女はいつからここに居たのかをお聞きしてもよろしいか?」
「五歳からだ。彼女の領地に行った時、父君に彼女を託された。あの眼は異質だからな」
「そんな幼い頃から」
「だから彼女にとってここは第二の実家。私は第二の父というところだな」

「ふふん」と鼻息まじりに胸を逸らすダングス神官に呆れた目を向けるマアディン卿。
二人の無言の睨み合いはしばらく続いた。

「ダングス神官殿の家門を聞いてもよろしいですか?」
「家門は捨てた。マアディン卿は神誓騎士にならずそのまま近衛騎士を続けるのかな?」
「家門を捨てる覚悟はなかなか難しいものがありますから」

神官として家門を捨てるのは最終的な目的地だ。
騎士も家門を捨て王に仕える者もいる。

だがどちらもその行為に引き換えるものと覚悟は大きい。

「家名を捨てるなど大したことじゃないですよ。神に仕え俗世を捨てる延長でしかないですから。まあ神官と騎士では違いますけどね。
神のみに忠誠を誓う。王のみに忠誠を誓う。誓うことは同じ志しでしょうが。
王のみに従い家門を切れる覚悟、家族や恋人すら切れる覚悟が騎士なら、
神のみに従い家門と縁を切ってでも信徒として人を導く神官。
真逆ですからな」

息を詰まらせるマアディン卿を見透かすように視線を巡らせるのは年の功か。


マアディン卿はしばらく前までは神誓騎士となり家門を捨てるか迷っていた。
結婚に縁がないなら王誓騎士でもといいかと。
それ以外自分には何もないから。

だが、彼女に出会い迷いが生じた。
迷う時点でもう答えが出ているのに。

その迷いがなんなのか、ここにきてはっきりしたマアディン卿は居住まいをただしダングス神官を見据えた。

「王誓騎士にはなりません。私は彼女を畢生護衛する所存です。
今はまだ、時を見て本人に話すつもりですが、前もって第二の父君にご報告すべきかと思いまして」

眼を据えてマアディン卿を睨むダングス神官。

「代え難い存在だと感じてます」

マアディン卿を見極めようと一挙一動、目を逸らさずにいるダングス神官。

「私には許可を裁決する権利はないが、口を出す権利くらいはあると自負している。彼女の能力を悪用はせぬな?」
「神に誓って」

ダングス神官は腕を組み値踏みするような目でマアディン卿を牽制している。

「浮気など許さぬぞ」
「無論」
「不幸になどしたらただでは済まないぞ」
「心得ております」






男同士の睨み合いは、当事者の彼女が戻るまで続いた。






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