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三章

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部屋に戻りベッドの上に座り宙を見上げた。

『じじさま、なんだか不安なんだよ。これからどうしよう』
〈どうとは?〉
『この仕事、終わったらどうしよう。進路が、分からなくなってさー』

デビュタントを済ませ、半年もしないうちに誕生日がこれば、17才。
一般的には結婚適齢期だ。
神殿を出たばかりで今度は婚姻に縛られるのは遠慮したいと、結婚に対して二の足を踏む気持ちが先にある。

『人付き合いすら微妙なのに、恋愛なんてまだ無理だよ』
〈結婚はいやか〉
『私を受け入れる人はいないよ』

膝を抱えて身を縮めた。

〈ルシェは、どうしたい?〉
『それがわからないの……』
〈神殿を出たばかりじゃからのぅ〉

まだ、16才。
神殿しか知らない。
こんな自分が世間に通用するとも思えないし。

『何か仕事して自力で稼ぐのがいいんだろうけど』
〈このままここで視る仕事も限度があるからのう〉
『ここでの仕事はそろそろ終わりたいよ。帰りたい。でも帰ったら帰ったで………』

正直疲れた。
視ることにも疲れるが、王宮に居ることにも疲れる。給仕が来てくれたりメイドさんに、傅かれたりするのは慣れなくて気疲れする。
かと言って実家に帰れば、私に出来ることは結婚して婿を迎え領地の統治のお手伝い。
それが無難な、一般的な女性の人生だろう。
しかしこんな私が結婚できるか疑問だし。それで、子供ができて自分と同じ視える目を持っていたら?と考えるだけで怖くなる。
自分と同じ視る悩みを抱えることは不幸を背負わせるようで結婚自体を倦厭したくなる。


『進路なんてどうすればいいかわからないよ』
〈ダンに相談したらどうだい?〉
『ダンおじちゃん?そうだね!やっぱりじじさま頼りになる!』

父より長く一緒にいたダンおじちゃん。
頼るべき身近な大人の代表だ。
ギュッと服の胸元を握りしめた。
服の下の感触を確かめるとパッと顔を上げた。

『今悩んでも仕方ないもんね』
〈そうじゃのぅ。ルシェは元気が取り柄じゃからな。凹んだ姿なぞ、ダンが見たら驚くじゃろ〉
『えー!じじさま酷ーい!』
〈叱られてばかりじゃったろ?エレ!またやったのか!厨房で摘み食いはダメだと何回言えばいいんだ!!〉
『じじさま似てるー!』
〈何回聞かされたと思うんじゃ。シスターからも怒られてたじゃろ〉
『だって育ち盛りだもーん』

呆れるじじさまとケラケラ笑いあった。
ダンおじちゃんの愚痴を真似するじじさまと騒いでいるうちに、聞いてから考えればいいや、と他力本願で悩みを棚上げすることにした。

じじさまに「ありがとう」と言って布団へ潜った。





◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇





「ダンおじちゃん久しぶりー!」
「エレ!もう少し連絡寄越せ。心配するだろ?
で、どうなった。気になって禿げるだろ」
「ああ、ダンおじちゃんごめんなさい!禿げちゃうね!」
「そう言う時は禿げてないよって擁護しろ。悲しいだろ」
「えー半分禿げてるじゃん」
「禿げてない!酷いこと言う奴は聖言書取り100回だぞ」
「いやー」

懐かしいやり取りに「エヘヘ」と笑う。ダンおじちゃんも会話中目尻が下がり口元も笑ってる。
笑ってないのは護衛で来ているマアディン卿。
「このやりとりが通常だから気にしないで」と笑いかけたが胡乱気に見られた。

「よくいらしゃいましたマアディン卿」

ダンおじちゃんが手を差し出し、マアディン卿がその手を握った。
ん?握手するダンおじちゃんの背後とマアディン卿の背後がなんか険悪なようなのは気のせいだろうか?



今日は経過報告と相談をしに神殿に来た。

ダンおじちゃんに浄化してもらって以来、全然顔を出せなかった。
寄進はちゃんと王様から寄せてもらったみたいで安心した。
応接室のソファーに座るのも懐かしい。前回はゆっくり出来なかったし。
ここを出てまだ一年も経って居ないのに懐かしい。

「10年ここに住んだから懐かしいのも当然か」
「10年、か」

マアディン卿がパッと顔を上げて私を見つめる。

「一度も実家に帰らず?」
「エレはここから出なかったからな。式典もお祭りも。パレードも見ずに過ごすとは。一度でも見れば良かったのに」

マアディン卿の質問にダンおじちゃんが答えた。その答えに過去が思い出されて私は声を落とした。

「あ、まあね。人以外が視えたり憑かれて」

言葉を濁しながら誤魔化したが。マアディン卿にじっと見られ居心地が悪くなった。

「シスター達も会いたがっていたよ。今なら洗い場にいるだろうから行ってみるといい。
あ、マアディン卿はこのままで。この神殿で護衛は必要ないですよ、安全ですから。それに女の会話に男が入るのは不粋ですからね」

場の空気を読んでダンおじちゃんが私に救いの合いの手を出してくれた。あまり過去のことは話したくない私は、渡に船と席を立った。

「いってらっしゃい」と見送られ、慣れた通路を通り足早に向かった。
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