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二章
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ーー揺れる三人の人影。
綺麗な庭園を歩く後ろ姿はまだ、成長期を抜けていないように見える。
キラキラと光る木漏れ日の中、お茶をする三人は幸せそうだった。
ーー場面は舞踏会に変わり、ダンスをする二人。
一人は壁で俯いている。ドレスをぎゅっと握りしめているのが垣間見れた。
ーーとある屋敷の中に場面は変わる。
〈私が王妃の婚約者に!?〉
綺麗な金色の髪がふわりと揺れる。
〈お姉様は後継ですものね〉
ーー再び庭園で男女は抱き合う。
〈酷いですわ!!〉
〈違うの!もう!会わないから!!〉
〈知ってますわよ!王子はお姉様が良かったのでしょう!!〉
言い合う女性二人の影はずっと続いた。
それからーーーー。
「お嬢様。お目覚めになりましたか?」
瞼が重くて微かに開けるとぼんやりとメイドの顔が視界にあるのが分かった。
「侍女長!お目覚めになられました!アエス王子殿下に連絡をーー」
怠い頭をゆっくりと横に動かすと王宮で用意された私の部屋だと分かった。見慣れた天蓋とカーテンが目に映る。
私はどうやら眠っていたようだ。
〈三日も眠り続けたのだぞ?〉
『じじさま』
〈深く干渉したらダメだと言ったじゃろ〉
『すみません。何かヒントになるかと思って』
寝台にそのまま横になり目を瞑る。
起き上がるのも怠い。
全身から力が抜けたような感覚で頭を起こす気力もなかった。
〈何を視た?〉
『……たぶん、王妃様?について、だと思う。お家騒動みたいな………?』
〈王妃様か。レトン侯爵家は二女が王妃になって、侯爵家もこれからだと言う時に長女の嫡子を亡くした。今は係累を養子にして継いでいるはずじゃ。跡取りの長女を亡くした親御の気持ちを考えると傷ましいのう〉
じじさまの言葉が頭の中で、ぐるぐるまわる。
王妃。姉妹。跡取り。
夢の先に辿り着きたくなくて、ぎゅっと目を瞑った。
◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇
「大丈夫か!?」
マアディン卿が扉を乱暴に開けて入ってきた。大股で近づくとベッドの端に腰掛けた。
私を覗き込む顔は、心配気に眉を寄せ柔らかな翠色の瞳が睫毛で影が落ちる。
「顔色が悪いと思っていたら倒れたから驚いた。もっと早く気付いてやれば良かったな」
そう言ってマアディン卿は私の顔を撫でた。
頭、じゃなくて。頬を。
剣ダコと節くれた手が頬を撫でるたび、顔に、頬に、触れて意識が集中する。
「なっ!ノックも無しに失礼でし!」
噛んだ。
起き抜けに、ボンヤリしてたのだから仕方ないと言い訳したいけど。マアディン卿が楽しそうに笑いながら撫でている。
「そ、それに!勝手に撫でない!」
もー!!
身体が怠くて起き上がれないし!
掛布の中に手があるから、すぐにペシッと叩けない!
もぞもぞと動かしてなんとか出した手でペシッと払う……前に、ぎゅっと手を握られた。
「ぬあッ!?」
変な声出た。
三日も寝てたから上手く声が出ない!
「もう少し、頼ることを覚えるべきです。ソルシエレ嬢」
「名前!なんで名前呼び!!?」
目を見開いてはくはくと口を開閉すると目を細めて微笑した。
マアディン卿の態度に訳が分からず狼狽していると扉の方から声が聞こえた。
「寝起きを揶揄わない」
黒髪の蒼眼のファルシュさん。
影武者姿じゃない、執事姿は見慣れてきたけど、背後は変わらないので怖さは変わらない。
私のサイドボードの水を交換しに来たようで、水差しを入れ替えている。
「騎士として貴女を守れなかった責があります」
「ですが、当人が困惑していますよ?」
マアディン卿の言葉に、半眼で私を見つめているファルシュさんと目が合った。握られた手が恥ずかしくてぶんぶんと振ってひっぺがした。
「目が覚めて安心しました。だいぶ無理させていたみたいですね。謝罪します」
「いえ!無理してません!私がコントロールミスしたので。自己管理不行き届きです!気にしないでください」
ファルシュさんは水差しを抱えて俯いた。罪悪感からか表情を曇らせている。気にしないで欲しくて手を振って意思表示したが、ファルシュさんは首を振って自嘲した。
マアディン卿も自責からか口を引き眉間に力を入れて苦悶の表情を浮かべた。
「倒れるまで何もしなかったのは確かだ」
「視えない世界のことだから!マアディン卿のせいじゃないです!」
どうやら騎士としての矜持に傷をつけてしまったようだ。警護対象が倒れるというのは護衛騎士失格という概念なのだろう。
「そこまで気を使わなくていいですよ。私なんて、ただの下位貴族ですし」
「“ただの“、なんて自分を卑下してはいけません。あなは立派な令嬢です。王子より仕事を任され成果を収めたのですから。尊敬に値しますよ」
マアディン卿は再び手を握りチュッと口付けを落とした。
「ゆっくり休んでください。また倒れられたら困りますから」
そう言って、マアディン卿が退室し、ファルシュさんも続いた。
「・・・・・・・・」
身動ぎできず固まったまま。
動けなかった。
横になったままの私。
え!?
何がありました??
え??
マアディン卿??
手にキッ…………。
えええーー!!??
綺麗な庭園を歩く後ろ姿はまだ、成長期を抜けていないように見える。
キラキラと光る木漏れ日の中、お茶をする三人は幸せそうだった。
ーー場面は舞踏会に変わり、ダンスをする二人。
一人は壁で俯いている。ドレスをぎゅっと握りしめているのが垣間見れた。
ーーとある屋敷の中に場面は変わる。
〈私が王妃の婚約者に!?〉
綺麗な金色の髪がふわりと揺れる。
〈お姉様は後継ですものね〉
ーー再び庭園で男女は抱き合う。
〈酷いですわ!!〉
〈違うの!もう!会わないから!!〉
〈知ってますわよ!王子はお姉様が良かったのでしょう!!〉
言い合う女性二人の影はずっと続いた。
それからーーーー。
「お嬢様。お目覚めになりましたか?」
瞼が重くて微かに開けるとぼんやりとメイドの顔が視界にあるのが分かった。
「侍女長!お目覚めになられました!アエス王子殿下に連絡をーー」
怠い頭をゆっくりと横に動かすと王宮で用意された私の部屋だと分かった。見慣れた天蓋とカーテンが目に映る。
私はどうやら眠っていたようだ。
〈三日も眠り続けたのだぞ?〉
『じじさま』
〈深く干渉したらダメだと言ったじゃろ〉
『すみません。何かヒントになるかと思って』
寝台にそのまま横になり目を瞑る。
起き上がるのも怠い。
全身から力が抜けたような感覚で頭を起こす気力もなかった。
〈何を視た?〉
『……たぶん、王妃様?について、だと思う。お家騒動みたいな………?』
〈王妃様か。レトン侯爵家は二女が王妃になって、侯爵家もこれからだと言う時に長女の嫡子を亡くした。今は係累を養子にして継いでいるはずじゃ。跡取りの長女を亡くした親御の気持ちを考えると傷ましいのう〉
じじさまの言葉が頭の中で、ぐるぐるまわる。
王妃。姉妹。跡取り。
夢の先に辿り着きたくなくて、ぎゅっと目を瞑った。
◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇
「大丈夫か!?」
マアディン卿が扉を乱暴に開けて入ってきた。大股で近づくとベッドの端に腰掛けた。
私を覗き込む顔は、心配気に眉を寄せ柔らかな翠色の瞳が睫毛で影が落ちる。
「顔色が悪いと思っていたら倒れたから驚いた。もっと早く気付いてやれば良かったな」
そう言ってマアディン卿は私の顔を撫でた。
頭、じゃなくて。頬を。
剣ダコと節くれた手が頬を撫でるたび、顔に、頬に、触れて意識が集中する。
「なっ!ノックも無しに失礼でし!」
噛んだ。
起き抜けに、ボンヤリしてたのだから仕方ないと言い訳したいけど。マアディン卿が楽しそうに笑いながら撫でている。
「そ、それに!勝手に撫でない!」
もー!!
身体が怠くて起き上がれないし!
掛布の中に手があるから、すぐにペシッと叩けない!
もぞもぞと動かしてなんとか出した手でペシッと払う……前に、ぎゅっと手を握られた。
「ぬあッ!?」
変な声出た。
三日も寝てたから上手く声が出ない!
「もう少し、頼ることを覚えるべきです。ソルシエレ嬢」
「名前!なんで名前呼び!!?」
目を見開いてはくはくと口を開閉すると目を細めて微笑した。
マアディン卿の態度に訳が分からず狼狽していると扉の方から声が聞こえた。
「寝起きを揶揄わない」
黒髪の蒼眼のファルシュさん。
影武者姿じゃない、執事姿は見慣れてきたけど、背後は変わらないので怖さは変わらない。
私のサイドボードの水を交換しに来たようで、水差しを入れ替えている。
「騎士として貴女を守れなかった責があります」
「ですが、当人が困惑していますよ?」
マアディン卿の言葉に、半眼で私を見つめているファルシュさんと目が合った。握られた手が恥ずかしくてぶんぶんと振ってひっぺがした。
「目が覚めて安心しました。だいぶ無理させていたみたいですね。謝罪します」
「いえ!無理してません!私がコントロールミスしたので。自己管理不行き届きです!気にしないでください」
ファルシュさんは水差しを抱えて俯いた。罪悪感からか表情を曇らせている。気にしないで欲しくて手を振って意思表示したが、ファルシュさんは首を振って自嘲した。
マアディン卿も自責からか口を引き眉間に力を入れて苦悶の表情を浮かべた。
「倒れるまで何もしなかったのは確かだ」
「視えない世界のことだから!マアディン卿のせいじゃないです!」
どうやら騎士としての矜持に傷をつけてしまったようだ。警護対象が倒れるというのは護衛騎士失格という概念なのだろう。
「そこまで気を使わなくていいですよ。私なんて、ただの下位貴族ですし」
「“ただの“、なんて自分を卑下してはいけません。あなは立派な令嬢です。王子より仕事を任され成果を収めたのですから。尊敬に値しますよ」
マアディン卿は再び手を握りチュッと口付けを落とした。
「ゆっくり休んでください。また倒れられたら困りますから」
そう言って、マアディン卿が退室し、ファルシュさんも続いた。
「・・・・・・・・」
身動ぎできず固まったまま。
動けなかった。
横になったままの私。
え!?
何がありました??
え??
マアディン卿??
手にキッ…………。
えええーー!!??
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