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二章

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舞踏会の会場がよく見えて、でもこちらは影になって見えない。

そんな場所からこんにちは。

「着飾っても無意味じゃん!」
「ははは。用事ができたら活躍しますよ。そのためのドレスだから大丈夫です。時間ができたら一緒にダンスをしましょう」
「苦手だから遠慮します」

影武者ポジションから会場を眺めた。
人がざわざわ犇めくのをぼんやりと観察していく。

「観察するだけならドレスいらないじゃん」
「挨拶の時に、貴族をその眼で視てほしいのです。怪しい者が居たら教えて頂きたい」
「アチラの方々を視ても怪しいかどうかまではわからないですよ?負の感情で黒いとかくらいまでしか判断できませんが」
「それで充分です。他に気付いたことがありましたら教えてください」

背後の方々は本人の感情に左右され纏う色が変わる。あとは背後の方の力によっても個人差が出る。曖昧な基準を判断材料にしなければならないのも頭を悩ませる。

面倒臭いなぁ。
なんで私こんな仕事してるんだろ?あれ?断れなかったっけ?
あ、脅されたんだ。王子に。
あれ?褒美を貰ったほど活躍したはずなのに?
過剰労働じゃない??

悩む私を他所にじじさまは真面目に観察を続けている。

『じじさま。なんかいる?』
〈生前と同じ腹黒ばかりじゃよ〉
『嫉妬や恨みで真っ黒なのも多いねー』
〈それが人間じゃろ〉
『神殿は楽だったなぁ』
〈皆信徒だからのう。アレが基準では、生きづらいのう〉

騙したり、言葉巧みに駆け引きしたり。騙し騙され怨念無念。
感情入り乱れた中に、恋の駆け引きが混じり込む。妬み嫉みの恋の情念。
観るもの視るものドロドロしててうんざりだ。




「陛下の御出座しに御座います」


そこ言葉で現れた王様と王妃様。そのあとを王子と王女が引き続いた。

「そっくりですよね。いまは違いますけど」

王子とファルシュさんを見比べるよう交互に視線を動かした。

「それはそうですよ。顔つき体型そっくりでないと仕事になりませんから」

笑いながら掻き上げる前髪に鬱陶しげに目をあげた。

王子はゆるいウェーブの金髪に紫色の瞳。
影武者の仕事中のファルシュさんも同様。

でも今は、ストレートの黒髪で青い瞳だ。

サラサラストレートの黒髪は目にかかり、邪魔そうに指先で弄っている。
顔つきが似ているから髪で目元まで隠しているのだ。
目元まで長い黒髪で隠し、印象も違うし声色も違う。
髪色と眼の色が違うだけでパッと見しても、じっくり見ても王子と同じ人物に見えることはなく、別人に見える。
背後の方は変わらないけどねー。



王様に諸々の貴族達が挨拶に参じていく。
延々と続くかと思われたその時。
王様の背後のアチラの方が指差した。

『これ?』

跪き恭しく王様に挨拶する貴族を私も指をさす。
頷く王様背後のアチラの方。

『じじさま聞きに行ってくれる?』

そのあと引き続き、何人かを指差した。

指差すたびにファルシュさんに「この人指差された」と報告をする。


王様背後のアチラの方曰く。
代々不正を行い証拠不十分で立件できなかった家門だそうだ。無念を晴らして欲しいとも。
そうじじさまが私に伝えてくれた。


でもこれで挨拶終わったし、当面の仕事は完了。

「仕事も終わりましたし。会場にいきましょう」
「はー。やっとのんびりできるー」
「ダンスしましょう」
「いやです。苦手だと言いましたよ」
「じゃ、まず美味しいもの食べに下りましょうか」




◇◆◇


ご飯につられ、会場へ。
アレやこれやをファルシュさんに差し出され、美味しくて手が止まらない。
「もう太るから」と食事を断れば。
「動けばいい」と言葉巧みにダンスに連れて行かれてしまう。

振り回されてしまう彼女のそんな話しがあったりなかったり。


知るのはアチラの住人の方々のみのようです。
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