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二章

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結局、部屋に戻ったのは夕食前。
アエス王子からの依頼は半分も達せられ無かった。


食後に入浴を済ませて寝間着でソファーに寝転がる。

『疲れたよじじさま』
〈慣れないところで頑張ったのう。じゃが無理はするでないよ〉
『無理っていうか。普通の世界ってよくわからないね』

私の普通は、神殿の人達とダンおじちゃんから学んだ。
魔法館の人達は、普通から引き離された人達だ。
自分との違い、世間の違い。
ズレはなかなか治るものでもない。

自分の環境を思い返しているうちに瞼が落ちかけた。ウチのベッドより感触の良いソファーに睡魔に襲われた。

〈寝台に行きなさい。風邪をひくじゃろ〉
『んー。はぁーい』

じじさまに促され向かおうとしたら、ノックが聞こえた。

扉を開けるとーー

黒い背後付き王子……。
じゃなくて影武者ファルシュさんだった。

「やあ、こんばんは」

少しいいかな?とファルシュさんに言われたら、眠いとは言えません。
ビックリして眠気も飛びましたけど。
いいかな?ってさ。
否と言える人っていないと思うんだよねー。

私はどうぞと部屋の中へと案内した。
ソファーに向かい合わせで座るが。
………何を話せばいいやら。


「今日、魔法館行ったようだね。どうだった?」
「えっ。はい。呪術者の方にお会いしました」
「今回の事件に協力して貰ったからね。話が通ってよかったよ。これで話しやすいし」

何が良くて、何が話しやすいのか?

凄く!聞きたくないです!


ファルシュさんは王子様ソックリで、でも鋭い雰囲気を纏っている。視界に居るだけでも緊張する。威圧感にごくりと唾を飲み込み冷や汗が止まらない。

「君は王家の秘密の一端を知ってしまった。しかも王と王子の、どちらもだ。そんな君を自由にする訳にはいかないのは君も分かるだろ?」

ーー聞きたくない言葉が続けられていく。

「本来なら後腐れなく“片付ける“のが一番なんだが。今回は特殊だろ?
“君の安全“と、”ご両親の安全”。どちらも大切だからね?」

ーー血の気が引いていくのが分かる。

「爵位の昇爵は君の両親への恩情だ。娘を王宮に召し上げられるのだから」

片付ける、がどういう意味か。
召し上げられるとは?
影武者のファルシュさんの口から聞きたくはない単語だ。冷たい汗がツウと背中を伝った。

すると次の瞬間ーー


「ははは」と笑うファルシュさん。

「嘘だよ!半分は本当だけど」

「驚かせられた」と笑うファルシュさん。
王子様然とは違い、砕けた雰囲気はアエス王子とは別人に見えた。でもね?
・・・・・・。
笑えないんですけど!!??
驚愕して目を見開いたまま、口を引いて見つめていたらまた笑われた。

半分は本当なんでしょ!?
何が本当なのよ!!
このエセ王子!!

「ふふふ。怖かった?お化け怖くないから大丈夫かと思ったら。意外に繊細なんだね!」

お化けより現実の方が怖いわ!!



◇◆◇


「そんなに警戒しないでもらえるかな。ちょっと相談に来たんだよ」

再び会話が再開したが。
このエセ王子に対しておよび腰になるのも当然だと思う。
申し訳なさげに眉を下げても騙されません!絶対信用しない!


「相談とは何ですか?」
「悪かったです。もうしないから話しを聞いて欲しい」

怯えた私にエセ王子は口調も丁寧に、下手に出てきた。
謝罪されても脅された恐怖は拭えず警戒の眼差しのまま頷いた。エセ王子も揶揄った手前、決まりの悪い顔をした。


戸惑いながら、ポツリポツリと話し始めるファルシュさん。

「昔、暗殺者に追われて、逃げ込んだら追い詰められて斬られかけた。その時、仲間が身代わりに斬られた。まだ、あそこに居るなら話ができるかと思いまして」

私が前に王子から聞かれたことだ。
不慮の死の霊と話せるか、と。
仲間のことだったんだと気づいた。


王子暗殺未遂。
一時期話題になった。
その当時、私は神殿にいたから治癒者が呼ばれて大変だった、くらいにしか覚えていない。バタバタと騒がしくなった神殿で不安になった覚えがあった。

王子本人じゃなくて影武者のファルシュさんの時、狙われたのか。
そしてファルシュさんの仲間が斬られ、その人は亡くなったのだろう。

その場所にまだ居るのか。
未練を残しているのか。

ファルシュさんの顔は自戒の念を浮かべて苦しげに見えた。


「なら今から視に行きましょう!」

思い立ったら動かなきゃ!とソファーから立ち上がった。驚いて見上げるファルシュさんの顔は目を見開いている。
「驚かせ返せたかしら?」と笑うと、ふわりと笑われた。

うわ!王子の微笑み!
ちょっと破壊力強すぎ!



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