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第77話:夜道の出来事(その3)
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「黒川くんと何話してたの?」
「あ、なにちょっとした事だよ。」
「ふぅん・・・?」
帰り道、すみれに黒川の事を聞かれるが、ユキヤは適当に誤魔化した。
(とは言っても・・・どうしたものか)
ユキヤは考え込む。
「どうしたの?難しい顔して?」
すみれがユキヤに尋ねる。
「いや、何でもないよ」とユキヤは答える。
(まぁ、あいつに相談したおかげである程度方向性は見えたし・・・)
あとはすみれのトラウマをどう克服するかだが・・・。
(こいつが一番楽しい事・・・だよな)
ユキヤはますます考え込んでしまう。
(でもなぁ・・・)
しかし問題はその『楽しい事』だ。
「ねぇ、どうしたの?さっきからずっと黙ってるけど・・・」
そんなユキヤにすみれが心配そうに声をかける。
「あのさ・・・」「何?」
「お前が今、一番楽しい事ってなんだ?」
ユキヤがすみれに尋ねる。
「え?」
突然の質問にすみれは驚いた顔をする。
「今、お前が一番楽しい事だよ」
ユキヤがもう一度言う。
(私の・・・一番楽しい事?)
すみれは考える。
「君を・・・・沢山可愛がることかな」
すみれは少しにやけながら答えた。
「・・・!」
ユキヤは思わず絶句する。
(それはつまり・・・・アレって事だよな)
「何よ?何か文句あるの?」
すみれがユキヤをジト目で睨む。
「いや、別に・・・」
ユキヤは内心冷や汗をかきつつも答える。
(まぁ、こいつに『楽しい事』って聞いたらそうなるよなぁ)
ユキヤはため息を吐く。
「でもなんでわざわざそんなこと聞くの?」
「いや、なんとなく・・・気になってな」
とユキヤは答えるが、すみれには納得いかない。
「変なの」
すみれがそう言うと、ユキヤも「確かにな」と苦笑した。
自分の前だと明るく振舞ってくれる彼女にユキヤは少し安堵していた。
(そういやあの事件にあったばかりの時も、俺をああする事で
落ち着きを取り戻してたっけか・・・)
ユキヤは事件があった時のことを思い出す。
(確かに『楽しい事』の効果は絶大かもな・・・)
「ねぇ、本当にどうしたの?」
ユキヤが考え事を始めると、すみれが再びユキヤに尋ねる。
「・・・いや、何でもないよ」
そう言ってユキヤは笑った。
「?」
そんなユキヤをすみれは不思議そうに見つめるのだった。
「あのさ、まだ暗いところダメか?」
「うん・・・」
ユキヤの問いにすみれは暗い声で答えた。
(やっぱりまだダメか・・・)
ユキヤは内心ため息を吐く。
(結構根が深いから相当インパクトのある事でないと、
上書きは難しいよな)
「ねぇ、どうしたの?」
すみれがユキヤに尋ねる。
「・・・いや、何でもないよ」とユキヤは答える。
すみれの顔を見て、ユキヤはある決心をした・・・。
***
(いつまでもこんな事じゃダメなのになぁ・・・)
数日後の夜、塾講師のバイトを終えたすみれは塾の前で
ユキヤの迎えを待つ。
彼女自身、こんな状態が続くには良くないと思っている。
しかし暗い夜道に出ると、どうしても足がすくんでしまうのだ。
ユキヤへの迷惑も考えていっそ塾のバイトを
やめてしまおうかとも考えたが、
『それじゃあ何の解決にもならないし、
そんな事で好きなバイトをやめちゃダメだ』
とユキヤから止められていた。
「はぁ・・・」
(ユキヤは焦らないで何とかしていこう・・・って言ってくれたけど)
不甲斐ない自分自身に悶々とするすみれであった。
そんな事を考えていると
「おーい、すみれ」と迎えに来たユキヤの声がする。
・・・が何か様子がおかしい。
塾から少し離れた塀の蔭から顔だけ出して、すみれを呼んでいる。
「どうしたの?」
すみれも心配になりユキヤの方に駆け寄る。
「いいからこっちこい」
ユキヤはそう言うとすみれの手を掴み、
自分の方に引き寄せた。
「どうしたの・・・?」
「お、おまたせ・・・」
ぎこちない返事をするユキヤはロングコート姿であった。
しかしどこか不自然な感じがする。
「どうしたの?なんでコートなんか・・・」
すみれはユキヤに尋ねる。
「いや・・・ちょっとな」とユキヤが言い淀む。
(真冬でもないのにコート・・・?)
すみれは不思議そうに首をかしげる。
「・・・・・・・・」
ユキヤは俯いて黙ってしまった。
しかもよく見ると耳まで真っ赤になっている・・・。
「ちょっと・・・何なの?」
すみれが不審そうな顔でユキヤを見る。
「ううう・・・」
ユキヤは赤面してうつむいてしまった。
そんなユキヤにすみれも戸惑う。
「ちょっと・・・大丈夫!?」
彼のあまりに異様な様子にすみれが思わず尋ねると、
ユキヤは鬼気迫る顔ですみれを見た。
「うう・・・くそっ!!」
ヤケクソ気味にそう叫ぶとユキヤはコートを脱ぎ捨てた・・・。
コートがはらりと地面に落ちると・・・彼は全裸であった。
「ちょ!!え・・・?」
すみれは混乱して言葉を失う。
ユキヤがコートの下に何も着ていなかったのだ。
「・・・」
ユキヤも恥ずかしさのあまり、顔を手で覆って俯いている。
「ちょっと・・・何なの?」
人間は目の前で信じられないものを見ると
受け入れるのに時間が掛かる・・・。
「いや・・・ちょっとな」
ユキヤも恥ずかしそう答える。
(何なの?)
すみれはますます困惑するばかりだ。
「・・・その、これはお前に・・・」
「説明は後でいいから、とにかく何か着て!
誰か通ったらどうするつもり!」
ここに来てようやく事態を飲み込んだすみれは
大慌てで地面に落ちたコートを拾い上げてユキヤに差し出す。
「そ、そうだな・・・」
すみれに促され、ユキヤはコートを羽織る。
(・・・何考えてるのよ!こいつは!!)
すみれは思考が追い付かず、その場に立ち尽くした・・・。
***
「・・・で、一種のショック療法を狙ってたんだ?」
「まぁ・・・それに近いかな」
あのあと二人は近所の公園のベンチに移動していた。
「もう、どうしてそう君は後先考えないで動くかなぁ・・・」
「う・・・」
ユキヤは裸の上にコートを着た状態ですみれに説教されていた。
今回の彼の行動は、すみれも例の事件のトラウマを
払拭させるためのものだった。
『嫌な事件の思い出を自分がバカをやる事で上書きできれば』
・・・などという考えの下、半ばヤケと勢いで決行した
文字通り『身体を張った』作戦である。
しかし時間が経ち冷静になるにつれ、
(俺、何してるんだろ・・・?)
そんなもの凄く気まずい気持ちだけが残った・・・。
「私の事を思ってやってくれたのはありがたいと思うけど・・・」
「けど?」
「それ以外は全部ダメ!!」
「うう・・・」
すみれに一喝され、ユキヤは肩を落とす。
「で、でもこれで暗い道が怖くなくなるだろ?」
気まずい空気の中でもユキヤがすみれに尋ねてみた。
「おかげさまで、確かにあの事件を思い出そうとするとさっきの
バカバカしい光景が頭に浮かぶようになったよ・・・」
すみれは呆れ顔でユキヤに言う。
「そ、そうか・・・それは良かった」
と、ユキヤが安心したように笑う。
「でも、私以外の誰かに見られたらどうするつもりだったの?!」
「いや、それは・・・」とユキヤは口ごもる。
「まぁでも・・・君らしいと言えば君らしいかな」
すみれはため息を吐くとベンチから立ち上がり、
ユキヤに手を差し伸べた。
「?」
ユキヤが不思議そうにその手を見つめる。
「ほら、帰るよ」と言ってすみれが手を引く。
「・・・おう!」
そう言って立ち上がった。
「さ、いいからもう服着なさいね」
すみれが服を着るように言うが・・・ユキヤはきょとんとしている。
「・・・どうしたの?」
すみれが眉を顰めながら訪ねる。
「え、持ってきてないけど?」
「は?!」
「だって・・・家からこれで来たし・・」
「?!」
ユキヤの言葉にすみれは絶句した。
(こいつ、まさかコートの下裸でここまできたの?!)
家からここまでは歩いて15分ほど掛かる。
「もう・・・君って人は・・・」と呆れてため息を吐いた。
「・・・でもよく人に見つからなかったわね」
「人のいない道選んで全速力で走ってきたし」
「・・・」
(そういう問題じゃないんだけど・・・)
すみれは頭を抱える。
「あのねぇ、今のキミはお巡りさんに職質喰らったらアウトなんだよ?」
「え?」
「『コートの下裸』ってだけで十分怪しいんだから」
「・・・あ」
ユキヤはようやく自分の置かれた状況を理解した。
(・・・やっちまった)
「・・・ちょっと待ってて。向こうのスーパーで
何か着るもの買ってくるから」
すみれがため息まじりに言った。「え?」とユキヤが聞き返す。
「そのコート着絶対脱がないで、ここで待ってなさい!」
そう言ってすみれは公園を飛び出していった。
(・・・)
一人残されたユキヤは呆然と立ち尽くしていた。
数分後・・・。
「・・・お待たせ」
手に買い物袋を持ったすみれが公園に戻ってきた。
「はいこれ」と言ってレジ袋をユキヤに渡す。
「何これ?」とユキヤが首を傾げる。
「とりあえず上下スウェットが安く売ってたから、
そこのトイレで着て来なさい」
袋の中には紺色のスウェットが入っていた。
「う・・・なんかおっさんみたい」
「わがまま言うな!」
すみれに一喝され、ユキヤは渋々トイレに向かった。
「ったく、もう・・・」
すみれはベンチに座ってユキヤを待つ。
しかしその間、ある事に気が付いた。
(あれ?今私一人で歩いて買い物行けちゃったな)
あれほど怖かった夜道を歩いて買い物出来ていた・・・。
(ひょっとしてこれって・・・)
しかし同時に、ユキヤの事も思い出す。
あのバカみたいな格好でここまで来た彼・・・。
(あいつのおかげ・・・なのかな?)
「お待たせ」とトイレから戻ってきたユキヤがベンチの前まで来る。
「着てみた感じはどう?」とすみれが尋ねる。
「・・・なんか下着がないから落ち着かない」とユキヤが言う。
「それは我慢しなさい。」
「うう・・・」
すみれに言われ、ユキヤは渋々頷いた。
「じゃ、帰ろうか」とすみれが立ち上がる。
「・・・ああ」と言ってユキヤも後に付いて行き、
二人は公園を後にした・・・。
つづく
「あ、なにちょっとした事だよ。」
「ふぅん・・・?」
帰り道、すみれに黒川の事を聞かれるが、ユキヤは適当に誤魔化した。
(とは言っても・・・どうしたものか)
ユキヤは考え込む。
「どうしたの?難しい顔して?」
すみれがユキヤに尋ねる。
「いや、何でもないよ」とユキヤは答える。
(まぁ、あいつに相談したおかげである程度方向性は見えたし・・・)
あとはすみれのトラウマをどう克服するかだが・・・。
(こいつが一番楽しい事・・・だよな)
ユキヤはますます考え込んでしまう。
(でもなぁ・・・)
しかし問題はその『楽しい事』だ。
「ねぇ、どうしたの?さっきからずっと黙ってるけど・・・」
そんなユキヤにすみれが心配そうに声をかける。
「あのさ・・・」「何?」
「お前が今、一番楽しい事ってなんだ?」
ユキヤがすみれに尋ねる。
「え?」
突然の質問にすみれは驚いた顔をする。
「今、お前が一番楽しい事だよ」
ユキヤがもう一度言う。
(私の・・・一番楽しい事?)
すみれは考える。
「君を・・・・沢山可愛がることかな」
すみれは少しにやけながら答えた。
「・・・!」
ユキヤは思わず絶句する。
(それはつまり・・・・アレって事だよな)
「何よ?何か文句あるの?」
すみれがユキヤをジト目で睨む。
「いや、別に・・・」
ユキヤは内心冷や汗をかきつつも答える。
(まぁ、こいつに『楽しい事』って聞いたらそうなるよなぁ)
ユキヤはため息を吐く。
「でもなんでわざわざそんなこと聞くの?」
「いや、なんとなく・・・気になってな」
とユキヤは答えるが、すみれには納得いかない。
「変なの」
すみれがそう言うと、ユキヤも「確かにな」と苦笑した。
自分の前だと明るく振舞ってくれる彼女にユキヤは少し安堵していた。
(そういやあの事件にあったばかりの時も、俺をああする事で
落ち着きを取り戻してたっけか・・・)
ユキヤは事件があった時のことを思い出す。
(確かに『楽しい事』の効果は絶大かもな・・・)
「ねぇ、本当にどうしたの?」
ユキヤが考え事を始めると、すみれが再びユキヤに尋ねる。
「・・・いや、何でもないよ」
そう言ってユキヤは笑った。
「?」
そんなユキヤをすみれは不思議そうに見つめるのだった。
「あのさ、まだ暗いところダメか?」
「うん・・・」
ユキヤの問いにすみれは暗い声で答えた。
(やっぱりまだダメか・・・)
ユキヤは内心ため息を吐く。
(結構根が深いから相当インパクトのある事でないと、
上書きは難しいよな)
「ねぇ、どうしたの?」
すみれがユキヤに尋ねる。
「・・・いや、何でもないよ」とユキヤは答える。
すみれの顔を見て、ユキヤはある決心をした・・・。
***
(いつまでもこんな事じゃダメなのになぁ・・・)
数日後の夜、塾講師のバイトを終えたすみれは塾の前で
ユキヤの迎えを待つ。
彼女自身、こんな状態が続くには良くないと思っている。
しかし暗い夜道に出ると、どうしても足がすくんでしまうのだ。
ユキヤへの迷惑も考えていっそ塾のバイトを
やめてしまおうかとも考えたが、
『それじゃあ何の解決にもならないし、
そんな事で好きなバイトをやめちゃダメだ』
とユキヤから止められていた。
「はぁ・・・」
(ユキヤは焦らないで何とかしていこう・・・って言ってくれたけど)
不甲斐ない自分自身に悶々とするすみれであった。
そんな事を考えていると
「おーい、すみれ」と迎えに来たユキヤの声がする。
・・・が何か様子がおかしい。
塾から少し離れた塀の蔭から顔だけ出して、すみれを呼んでいる。
「どうしたの?」
すみれも心配になりユキヤの方に駆け寄る。
「いいからこっちこい」
ユキヤはそう言うとすみれの手を掴み、
自分の方に引き寄せた。
「どうしたの・・・?」
「お、おまたせ・・・」
ぎこちない返事をするユキヤはロングコート姿であった。
しかしどこか不自然な感じがする。
「どうしたの?なんでコートなんか・・・」
すみれはユキヤに尋ねる。
「いや・・・ちょっとな」とユキヤが言い淀む。
(真冬でもないのにコート・・・?)
すみれは不思議そうに首をかしげる。
「・・・・・・・・」
ユキヤは俯いて黙ってしまった。
しかもよく見ると耳まで真っ赤になっている・・・。
「ちょっと・・・何なの?」
すみれが不審そうな顔でユキヤを見る。
「ううう・・・」
ユキヤは赤面してうつむいてしまった。
そんなユキヤにすみれも戸惑う。
「ちょっと・・・大丈夫!?」
彼のあまりに異様な様子にすみれが思わず尋ねると、
ユキヤは鬼気迫る顔ですみれを見た。
「うう・・・くそっ!!」
ヤケクソ気味にそう叫ぶとユキヤはコートを脱ぎ捨てた・・・。
コートがはらりと地面に落ちると・・・彼は全裸であった。
「ちょ!!え・・・?」
すみれは混乱して言葉を失う。
ユキヤがコートの下に何も着ていなかったのだ。
「・・・」
ユキヤも恥ずかしさのあまり、顔を手で覆って俯いている。
「ちょっと・・・何なの?」
人間は目の前で信じられないものを見ると
受け入れるのに時間が掛かる・・・。
「いや・・・ちょっとな」
ユキヤも恥ずかしそう答える。
(何なの?)
すみれはますます困惑するばかりだ。
「・・・その、これはお前に・・・」
「説明は後でいいから、とにかく何か着て!
誰か通ったらどうするつもり!」
ここに来てようやく事態を飲み込んだすみれは
大慌てで地面に落ちたコートを拾い上げてユキヤに差し出す。
「そ、そうだな・・・」
すみれに促され、ユキヤはコートを羽織る。
(・・・何考えてるのよ!こいつは!!)
すみれは思考が追い付かず、その場に立ち尽くした・・・。
***
「・・・で、一種のショック療法を狙ってたんだ?」
「まぁ・・・それに近いかな」
あのあと二人は近所の公園のベンチに移動していた。
「もう、どうしてそう君は後先考えないで動くかなぁ・・・」
「う・・・」
ユキヤは裸の上にコートを着た状態ですみれに説教されていた。
今回の彼の行動は、すみれも例の事件のトラウマを
払拭させるためのものだった。
『嫌な事件の思い出を自分がバカをやる事で上書きできれば』
・・・などという考えの下、半ばヤケと勢いで決行した
文字通り『身体を張った』作戦である。
しかし時間が経ち冷静になるにつれ、
(俺、何してるんだろ・・・?)
そんなもの凄く気まずい気持ちだけが残った・・・。
「私の事を思ってやってくれたのはありがたいと思うけど・・・」
「けど?」
「それ以外は全部ダメ!!」
「うう・・・」
すみれに一喝され、ユキヤは肩を落とす。
「で、でもこれで暗い道が怖くなくなるだろ?」
気まずい空気の中でもユキヤがすみれに尋ねてみた。
「おかげさまで、確かにあの事件を思い出そうとするとさっきの
バカバカしい光景が頭に浮かぶようになったよ・・・」
すみれは呆れ顔でユキヤに言う。
「そ、そうか・・・それは良かった」
と、ユキヤが安心したように笑う。
「でも、私以外の誰かに見られたらどうするつもりだったの?!」
「いや、それは・・・」とユキヤは口ごもる。
「まぁでも・・・君らしいと言えば君らしいかな」
すみれはため息を吐くとベンチから立ち上がり、
ユキヤに手を差し伸べた。
「?」
ユキヤが不思議そうにその手を見つめる。
「ほら、帰るよ」と言ってすみれが手を引く。
「・・・おう!」
そう言って立ち上がった。
「さ、いいからもう服着なさいね」
すみれが服を着るように言うが・・・ユキヤはきょとんとしている。
「・・・どうしたの?」
すみれが眉を顰めながら訪ねる。
「え、持ってきてないけど?」
「は?!」
「だって・・・家からこれで来たし・・」
「?!」
ユキヤの言葉にすみれは絶句した。
(こいつ、まさかコートの下裸でここまできたの?!)
家からここまでは歩いて15分ほど掛かる。
「もう・・・君って人は・・・」と呆れてため息を吐いた。
「・・・でもよく人に見つからなかったわね」
「人のいない道選んで全速力で走ってきたし」
「・・・」
(そういう問題じゃないんだけど・・・)
すみれは頭を抱える。
「あのねぇ、今のキミはお巡りさんに職質喰らったらアウトなんだよ?」
「え?」
「『コートの下裸』ってだけで十分怪しいんだから」
「・・・あ」
ユキヤはようやく自分の置かれた状況を理解した。
(・・・やっちまった)
「・・・ちょっと待ってて。向こうのスーパーで
何か着るもの買ってくるから」
すみれがため息まじりに言った。「え?」とユキヤが聞き返す。
「そのコート着絶対脱がないで、ここで待ってなさい!」
そう言ってすみれは公園を飛び出していった。
(・・・)
一人残されたユキヤは呆然と立ち尽くしていた。
数分後・・・。
「・・・お待たせ」
手に買い物袋を持ったすみれが公園に戻ってきた。
「はいこれ」と言ってレジ袋をユキヤに渡す。
「何これ?」とユキヤが首を傾げる。
「とりあえず上下スウェットが安く売ってたから、
そこのトイレで着て来なさい」
袋の中には紺色のスウェットが入っていた。
「う・・・なんかおっさんみたい」
「わがまま言うな!」
すみれに一喝され、ユキヤは渋々トイレに向かった。
「ったく、もう・・・」
すみれはベンチに座ってユキヤを待つ。
しかしその間、ある事に気が付いた。
(あれ?今私一人で歩いて買い物行けちゃったな)
あれほど怖かった夜道を歩いて買い物出来ていた・・・。
(ひょっとしてこれって・・・)
しかし同時に、ユキヤの事も思い出す。
あのバカみたいな格好でここまで来た彼・・・。
(あいつのおかげ・・・なのかな?)
「お待たせ」とトイレから戻ってきたユキヤがベンチの前まで来る。
「着てみた感じはどう?」とすみれが尋ねる。
「・・・なんか下着がないから落ち着かない」とユキヤが言う。
「それは我慢しなさい。」
「うう・・・」
すみれに言われ、ユキヤは渋々頷いた。
「じゃ、帰ろうか」とすみれが立ち上がる。
「・・・ああ」と言ってユキヤも後に付いて行き、
二人は公園を後にした・・・。
つづく
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