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第18話:けしからん噂(その1)
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(なんで俺、こんなのに参加してるんだろう・・・)
ユキヤは飲み会の席でため息を吐いた。
いつもの飲み屋で友人たちとの飲み会・・・
しかしたった一つ違うのは、
女性が一人もいないという点だった・・。
まあ飲み会の趣旨が「失恋した友人を慰める」
だから仕方ないのかもしれないが。
要するに『酒を片手に失恋した男の愚痴を聞いてやる会』だ。
もちろん参加費無料だし、気楽な雰囲気なので別にいいのだが。
ただ・・・どうにも居心地が悪いというか何と言うか。
女性がいないのも失恋中の主役に気を使ってのものだ。
「あのさ、これ俺いる必要ある?」
ユキヤは幹事役の友人に小声で言う。
「頭数が少なすぎるんだ・・・もう少しいてくれ、たのむ」
「んー、わかったよ」友人に拝み倒され、
ユキヤはしぶしぶ了承して再びビールを口に含む。
席の中央を見ると、本日の主役である失恋した友人、
金谷が愚痴っている。
「うぅ・・・女なんてもう信用しねぇ・・・」
などと泣きながら呟いている。
それを周りにいる仲間たちが適当に相槌を打ちつつ聞いてやっていた。
「・・・なんかお通夜みたいになってきたな」
こんな空気なので酒を飲んでも全く酔えなくて、
ユキヤは帰りたい気分で一杯だった。
「まぁまぁ、お前だって手痛い失恋の一つや二つあるだろ?」
「そうだけどさぁ・・・」
「ほら、もっと飲めって!」
そんなことを言いながら友人の1人が
ユキヤのグラスにどぼどぼと焼酎を入れる。
彼はそれを一気に煽った。
(こんなに飲んでも全然酔えない・・・)
そんな周囲の冷え切った空気をよそに、
本日の主役である金谷は一人でヒートアップしていく。
「あんな奴より俺の方が絶対良い男なのにぃ!くっそぉ~!!」
テーブルを叩きながら喚き散らす金谷を見て、
ユキヤは心底呆れていた。
金谷は顔立ちは整っており、やや普通よりで、
そこそこ見れる外見ではあるのだが
中身がこれではモテないだろう。
(こんなことしてたら・・・そりゃあ振られるよなぁ・・・)
ユキヤがそんな金谷を呆れつつ見ていると、矛先がこっちに向かう。
「おい、茶木!!てめぇはどうなんだ!?」
「え?俺?」
突然の質問で一瞬戸惑ってしまった。
「そうだ、お前んとこはどうしてそんな長続きしてるんだよ?!」
金谷は酔いで顔を真っ赤にして怒鳴ってくる。
(確かにうちは2年近くつづいてるけど・・・)
とは思っても、自分たちだって紆余曲折を経て、
今の形に落ち着いたわけだ。
複雑すぎて簡単には教えられないし具体的にも言いたくない。
「あ、ああ・・・うちの場合は別に普通だし・・・」
本当は、かなり特殊なケースだとは思うが、色々とややこしいので
ユキヤ苦笑いしながらお茶を濁す。
(そもそも信じてくれるかどうか・・・)
しかし金谷は納得いかない様子でまた叫ぶ。
「なんだよ、教えてくれよ~」
「だから普通に付き合ってるだけだって!」
「嘘つけよ、何かあるだろ?」
「何もないってば!!」
そんな風に揉めていると、金谷は何かを思い出したように言いだした。
「もしかしてお前・・・あの噂本当だったのか?!」
「な、何のことだよ?!」
噂と言われても、思い当たる節があり過ぎて逆に分からない。
すると、金谷がとんでもないことを口走った。
「お前、実は隠れドSで、彼女を精神的に支配してるって・・・」
「ぶふっ!!!げほっごほっ・・・」
ユキヤは思わず咳き込んでしまった。
(そ・・・そういえば1年ぐらい前に、そんな噂が流れたっけ・・・)
ユキヤは机に突っ伏しながら思い出す。
それは一時期、ほんの一瞬だけ流れた噂だった・・・。
その噂せいで二人は学校でしばらく変な目で見られてしまったのだ。
もっとも、二人とも学校での態度を変えなかったので
すぐ消えたわけだが。
(実際は逆なんだよなぁ・・・)
ユキヤは心の中で呟いた。
すみれは普段はとても優しいのだが、夜の生活ではあんなだ。
ユキヤ本人も不本意ながらそれを受け入れつつある・・・
というのが現状だ。
しかしそんなことをはっきり口に出すわけにもいかないので、
「そんなわけないだろ!!」と否定する。
「じゃあ、どんな理由があるっていうんだ?」と聞かれたので、
「いや、特に理由は無いんだけどさ・・・」と答えるしかなかった。
「やっぱりなぁ・・・」
「いや、マジで違うからな!」
「まあいいだろ、そういう事にしといてやろう」
「いやいやいやいや、本当に違うからな!」
「まあまあ、いいから飲めよ」
「いや、俺はもう十分飲んだから」
そう言ってユキヤはグラスを空にする。
「お、良い飲みっぷりじゃん!で、彼女に縄下着とかしてるの?」
「はぁ!?」
「ほら、よく漫画であるじゃん。
服の下を縄だけしかつけてないシーン」
「・・・お前なぁ、それマンガの前に
『エロ』がつく漫画の世界だけの話だぞ!」
(何を急にイキイキし出してるんだよこいつは?!)
ユキヤは呆れ果ててため息を吐いた。
「えー、そうなの?なんかガッカリ・・・」
「なんでそこで残念がるんだよ」
「いやまぁ、こういう話は男同士じゃないとできないなぁと思ってね」
なんか珍妙な流れになってきて、ユキヤはどまどった。
「・・・だから俺の話はどうでもいいだろ?!」
「ええ、つまんねぇな」
金谷は不満顔だ。
「大体今日はお前の慰め会だろ!なんで俺に尋問してんだよ!?」
ユキヤは反撃とばかりに金谷に聞く。「うぐ・・・」
金谷は言葉に詰まる。
「大体そんなんだから彼女に愛想尽かされたんじゃないのか?」
ユキヤがさらに追撃を入れる。
「くぅ・・・」
金谷は完全に黙ってしまった。
「気ぃ済んだなら、俺帰るわ」そう言うとユキヤは立ち上がった。
「茶木・・・やっぱお前ドSだろ?」
「ちげぇよ!!」
吐き捨てるように言うと、ユキヤは自分の飲み代を置いて店を出た。
後日、幹事からお詫びと金谷が元気になった事への礼を言われたが、
ユキヤにとってはどうでもよかった・・・。
しかしそんなことが思わぬ流れ弾となって、
ある人物に命中してしまう。
****
数週間後、
その日すみれは友人宅でやる女子会に参加していた。
すみれの友人、ひなのがすみれに缶チューハイを渡しながら、
「はい、すみれはアルコール1杯だけね。」と言った。
「え~!?どうして?」
「茶木くんから事前に釘を刺されてるわよ。あんた弱すぎなの!」
「むむむ・・・わかったわ」
すみれは渋々了承した。
(うう、先回りされてたか・・・)
酒に弱いのは事実なので反論のしようがない。
すみれはちびりと酒を舐めた。
「へぇ~彼女の酒量にまで口出すって、
すみれの彼氏結構束縛する方?」
別の女性が聞いてきた。
「ちがうの!この子、ほんっとーにお酒弱くて心配されてるだけ」
すみれに変わってひなのが答えた。
「ふぅん、意外と可愛いところがあるのねぇ」
「そんなことないもん!」
すみれはムッとした表情で言い返した。
「はは、仲いいんだねぇ」
すみれ達のやりとりを見ていた女性の一人が笑っていた。
(実際束縛というか・・・拘束してるのは私なんだけど・・・)
すみれは内心で思った。
実際、特に夜の生活では、自分が彼の身体の自由を
ほぼ全て物理的に奪ってしまっている。
「あ、あはは・・・」すみれは乾いた笑いでごまかした。
「・・・じゃあ、あの噂も本当じゃなかったのね」
友人の一人が安堵したようにつぶやいた。「噂?」
すみれは何のことかわからず聞き返す。
「ええと・・・これ本人を目の前にして言っていいのかな。」
友人は少し戸惑ったような表情を見せる。
「ちょっと、言いかけてるんだから最後まで言おうよ!」
「あ、ごめん。実はね・・・すみれの彼氏・・・えっと茶木くんか。
が、実は束縛系のドSで、すみれを精神的に支配してるって・・・」
「ぶほっ!!ゲホゴホッ!!!」
すみれは飲んでいるチューハイを思わず吹き出した。
「ちょ、ちょっと何それ?!」
咳込むすみれに代わってひなのが素っ頓狂な声をあげる。
「ゴ、ゴメンね、変なこと言って。だからすみれが
そんな酷い男と付き合ってるのかって・・・ってすごく心配してたの。」
友人がすまなそうに謝る。
「げほ、げほっ・・・そ、そんなの嘘に決まってるじゃない!」
すみれはむせながらも、なんとか言葉を絞り出す。
実際は真逆の関係だ・・・とはややこしくなるので口にしないが、
とにかく強く否定した。
「あぁ、やっぱりそうなんだぁ」
「うん、なんか安心しちゃったぁ」
他の友人たちがそう言った。
「あ、でも本当じゃないんなら・・・あの内容はちょっと問題かも・・・」
とまたもや友人が難しい顔をする。「え?どんな内容?」
すみれが聞いた。
「ええと、なんかね。茶木君がすみれの事を
縛り上げて調教しているとか・・・」
「ぶっ!!!!」今度はチューハイを吹き出さなかったが、
代わりに盛大に咽せた。
(なんでまたそんな真逆の噂が・・・!?)
「な・・・なんでそんな噂・・・?!」と言いかけたところに、
友人はさらに追い打ちをかけるような事を続けた。
「・・・あと、たまに縄下着で大学に通わせてるとか・・・」
「はうぅ・・・!!」
すみれはもう言葉が出なくなった。
「なんつー下品な内容・・・」
ひなのはあきれ果てた。
「すみれ大丈夫?」
友人が心配そうに聞く。「ま、まぁ・・・なんとか」
ちょっとクラクラしながらもすみれは答える。
「まーこんな突拍子もない噂だからすぐ消えると思うけど・・・」
とひなのがフォローした。
「それにしても茶木くんてそういう趣味がある人なのかしら?」
ひなのの友人が怪しんで聞く。
「あーないない!それは絶対にない!」
そこはすみれがきっぱりと否定した。
「随分ハッキリ言うのね」友人が不思議そうにする。
「う、うん、まー見てりゃ分かるというか・・・
ちょっと我が儘で甘えん坊なぐらいしかないし」
すみれは苦笑いして胡麻化す。
まさか自分が調教しまくって性癖歪めましたとは言えない。
「ふぅん、ま、いいや。でも気をつけてね。
この噂、男子の間で結構広まっているらしいから」
「え!?」
すみれは驚いた。
「あ、でもあくまで噂だよ。私達はそんなことないって信じてるし」
「そ、そうなんだ・・・」すみれは考え込む。
「まぁ私たちも出来る限り否定するから安心しなさい」
友人はすみれを慰めるように言った。
「ありがと・・・」
すみれは礼を言う。
とはいえど・・・
(というか一体誰が広めたのよ、そんな噂!)
すみれは心の中でそう憤慨した。
つづく
ユキヤは飲み会の席でため息を吐いた。
いつもの飲み屋で友人たちとの飲み会・・・
しかしたった一つ違うのは、
女性が一人もいないという点だった・・。
まあ飲み会の趣旨が「失恋した友人を慰める」
だから仕方ないのかもしれないが。
要するに『酒を片手に失恋した男の愚痴を聞いてやる会』だ。
もちろん参加費無料だし、気楽な雰囲気なので別にいいのだが。
ただ・・・どうにも居心地が悪いというか何と言うか。
女性がいないのも失恋中の主役に気を使ってのものだ。
「あのさ、これ俺いる必要ある?」
ユキヤは幹事役の友人に小声で言う。
「頭数が少なすぎるんだ・・・もう少しいてくれ、たのむ」
「んー、わかったよ」友人に拝み倒され、
ユキヤはしぶしぶ了承して再びビールを口に含む。
席の中央を見ると、本日の主役である失恋した友人、
金谷が愚痴っている。
「うぅ・・・女なんてもう信用しねぇ・・・」
などと泣きながら呟いている。
それを周りにいる仲間たちが適当に相槌を打ちつつ聞いてやっていた。
「・・・なんかお通夜みたいになってきたな」
こんな空気なので酒を飲んでも全く酔えなくて、
ユキヤは帰りたい気分で一杯だった。
「まぁまぁ、お前だって手痛い失恋の一つや二つあるだろ?」
「そうだけどさぁ・・・」
「ほら、もっと飲めって!」
そんなことを言いながら友人の1人が
ユキヤのグラスにどぼどぼと焼酎を入れる。
彼はそれを一気に煽った。
(こんなに飲んでも全然酔えない・・・)
そんな周囲の冷え切った空気をよそに、
本日の主役である金谷は一人でヒートアップしていく。
「あんな奴より俺の方が絶対良い男なのにぃ!くっそぉ~!!」
テーブルを叩きながら喚き散らす金谷を見て、
ユキヤは心底呆れていた。
金谷は顔立ちは整っており、やや普通よりで、
そこそこ見れる外見ではあるのだが
中身がこれではモテないだろう。
(こんなことしてたら・・・そりゃあ振られるよなぁ・・・)
ユキヤがそんな金谷を呆れつつ見ていると、矛先がこっちに向かう。
「おい、茶木!!てめぇはどうなんだ!?」
「え?俺?」
突然の質問で一瞬戸惑ってしまった。
「そうだ、お前んとこはどうしてそんな長続きしてるんだよ?!」
金谷は酔いで顔を真っ赤にして怒鳴ってくる。
(確かにうちは2年近くつづいてるけど・・・)
とは思っても、自分たちだって紆余曲折を経て、
今の形に落ち着いたわけだ。
複雑すぎて簡単には教えられないし具体的にも言いたくない。
「あ、ああ・・・うちの場合は別に普通だし・・・」
本当は、かなり特殊なケースだとは思うが、色々とややこしいので
ユキヤ苦笑いしながらお茶を濁す。
(そもそも信じてくれるかどうか・・・)
しかし金谷は納得いかない様子でまた叫ぶ。
「なんだよ、教えてくれよ~」
「だから普通に付き合ってるだけだって!」
「嘘つけよ、何かあるだろ?」
「何もないってば!!」
そんな風に揉めていると、金谷は何かを思い出したように言いだした。
「もしかしてお前・・・あの噂本当だったのか?!」
「な、何のことだよ?!」
噂と言われても、思い当たる節があり過ぎて逆に分からない。
すると、金谷がとんでもないことを口走った。
「お前、実は隠れドSで、彼女を精神的に支配してるって・・・」
「ぶふっ!!!げほっごほっ・・・」
ユキヤは思わず咳き込んでしまった。
(そ・・・そういえば1年ぐらい前に、そんな噂が流れたっけ・・・)
ユキヤは机に突っ伏しながら思い出す。
それは一時期、ほんの一瞬だけ流れた噂だった・・・。
その噂せいで二人は学校でしばらく変な目で見られてしまったのだ。
もっとも、二人とも学校での態度を変えなかったので
すぐ消えたわけだが。
(実際は逆なんだよなぁ・・・)
ユキヤは心の中で呟いた。
すみれは普段はとても優しいのだが、夜の生活ではあんなだ。
ユキヤ本人も不本意ながらそれを受け入れつつある・・・
というのが現状だ。
しかしそんなことをはっきり口に出すわけにもいかないので、
「そんなわけないだろ!!」と否定する。
「じゃあ、どんな理由があるっていうんだ?」と聞かれたので、
「いや、特に理由は無いんだけどさ・・・」と答えるしかなかった。
「やっぱりなぁ・・・」
「いや、マジで違うからな!」
「まあいいだろ、そういう事にしといてやろう」
「いやいやいやいや、本当に違うからな!」
「まあまあ、いいから飲めよ」
「いや、俺はもう十分飲んだから」
そう言ってユキヤはグラスを空にする。
「お、良い飲みっぷりじゃん!で、彼女に縄下着とかしてるの?」
「はぁ!?」
「ほら、よく漫画であるじゃん。
服の下を縄だけしかつけてないシーン」
「・・・お前なぁ、それマンガの前に
『エロ』がつく漫画の世界だけの話だぞ!」
(何を急にイキイキし出してるんだよこいつは?!)
ユキヤは呆れ果ててため息を吐いた。
「えー、そうなの?なんかガッカリ・・・」
「なんでそこで残念がるんだよ」
「いやまぁ、こういう話は男同士じゃないとできないなぁと思ってね」
なんか珍妙な流れになってきて、ユキヤはどまどった。
「・・・だから俺の話はどうでもいいだろ?!」
「ええ、つまんねぇな」
金谷は不満顔だ。
「大体今日はお前の慰め会だろ!なんで俺に尋問してんだよ!?」
ユキヤは反撃とばかりに金谷に聞く。「うぐ・・・」
金谷は言葉に詰まる。
「大体そんなんだから彼女に愛想尽かされたんじゃないのか?」
ユキヤがさらに追撃を入れる。
「くぅ・・・」
金谷は完全に黙ってしまった。
「気ぃ済んだなら、俺帰るわ」そう言うとユキヤは立ち上がった。
「茶木・・・やっぱお前ドSだろ?」
「ちげぇよ!!」
吐き捨てるように言うと、ユキヤは自分の飲み代を置いて店を出た。
後日、幹事からお詫びと金谷が元気になった事への礼を言われたが、
ユキヤにとってはどうでもよかった・・・。
しかしそんなことが思わぬ流れ弾となって、
ある人物に命中してしまう。
****
数週間後、
その日すみれは友人宅でやる女子会に参加していた。
すみれの友人、ひなのがすみれに缶チューハイを渡しながら、
「はい、すみれはアルコール1杯だけね。」と言った。
「え~!?どうして?」
「茶木くんから事前に釘を刺されてるわよ。あんた弱すぎなの!」
「むむむ・・・わかったわ」
すみれは渋々了承した。
(うう、先回りされてたか・・・)
酒に弱いのは事実なので反論のしようがない。
すみれはちびりと酒を舐めた。
「へぇ~彼女の酒量にまで口出すって、
すみれの彼氏結構束縛する方?」
別の女性が聞いてきた。
「ちがうの!この子、ほんっとーにお酒弱くて心配されてるだけ」
すみれに変わってひなのが答えた。
「ふぅん、意外と可愛いところがあるのねぇ」
「そんなことないもん!」
すみれはムッとした表情で言い返した。
「はは、仲いいんだねぇ」
すみれ達のやりとりを見ていた女性の一人が笑っていた。
(実際束縛というか・・・拘束してるのは私なんだけど・・・)
すみれは内心で思った。
実際、特に夜の生活では、自分が彼の身体の自由を
ほぼ全て物理的に奪ってしまっている。
「あ、あはは・・・」すみれは乾いた笑いでごまかした。
「・・・じゃあ、あの噂も本当じゃなかったのね」
友人の一人が安堵したようにつぶやいた。「噂?」
すみれは何のことかわからず聞き返す。
「ええと・・・これ本人を目の前にして言っていいのかな。」
友人は少し戸惑ったような表情を見せる。
「ちょっと、言いかけてるんだから最後まで言おうよ!」
「あ、ごめん。実はね・・・すみれの彼氏・・・えっと茶木くんか。
が、実は束縛系のドSで、すみれを精神的に支配してるって・・・」
「ぶほっ!!ゲホゴホッ!!!」
すみれは飲んでいるチューハイを思わず吹き出した。
「ちょ、ちょっと何それ?!」
咳込むすみれに代わってひなのが素っ頓狂な声をあげる。
「ゴ、ゴメンね、変なこと言って。だからすみれが
そんな酷い男と付き合ってるのかって・・・ってすごく心配してたの。」
友人がすまなそうに謝る。
「げほ、げほっ・・・そ、そんなの嘘に決まってるじゃない!」
すみれはむせながらも、なんとか言葉を絞り出す。
実際は真逆の関係だ・・・とはややこしくなるので口にしないが、
とにかく強く否定した。
「あぁ、やっぱりそうなんだぁ」
「うん、なんか安心しちゃったぁ」
他の友人たちがそう言った。
「あ、でも本当じゃないんなら・・・あの内容はちょっと問題かも・・・」
とまたもや友人が難しい顔をする。「え?どんな内容?」
すみれが聞いた。
「ええと、なんかね。茶木君がすみれの事を
縛り上げて調教しているとか・・・」
「ぶっ!!!!」今度はチューハイを吹き出さなかったが、
代わりに盛大に咽せた。
(なんでまたそんな真逆の噂が・・・!?)
「な・・・なんでそんな噂・・・?!」と言いかけたところに、
友人はさらに追い打ちをかけるような事を続けた。
「・・・あと、たまに縄下着で大学に通わせてるとか・・・」
「はうぅ・・・!!」
すみれはもう言葉が出なくなった。
「なんつー下品な内容・・・」
ひなのはあきれ果てた。
「すみれ大丈夫?」
友人が心配そうに聞く。「ま、まぁ・・・なんとか」
ちょっとクラクラしながらもすみれは答える。
「まーこんな突拍子もない噂だからすぐ消えると思うけど・・・」
とひなのがフォローした。
「それにしても茶木くんてそういう趣味がある人なのかしら?」
ひなのの友人が怪しんで聞く。
「あーないない!それは絶対にない!」
そこはすみれがきっぱりと否定した。
「随分ハッキリ言うのね」友人が不思議そうにする。
「う、うん、まー見てりゃ分かるというか・・・
ちょっと我が儘で甘えん坊なぐらいしかないし」
すみれは苦笑いして胡麻化す。
まさか自分が調教しまくって性癖歪めましたとは言えない。
「ふぅん、ま、いいや。でも気をつけてね。
この噂、男子の間で結構広まっているらしいから」
「え!?」
すみれは驚いた。
「あ、でもあくまで噂だよ。私達はそんなことないって信じてるし」
「そ、そうなんだ・・・」すみれは考え込む。
「まぁ私たちも出来る限り否定するから安心しなさい」
友人はすみれを慰めるように言った。
「ありがと・・・」
すみれは礼を言う。
とはいえど・・・
(というか一体誰が広めたのよ、そんな噂!)
すみれは心の中でそう憤慨した。
つづく
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