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第70話:別荘にいらっしゃい(その8)(完結)

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翌朝。
最終日ということで、
朝食を終えた3人は別荘の掃除を始めていた。
「お昼過ぎにはお迎えの車が来るそうですわ」
「はい」
結衣の言葉に黒川は床に雑巾がけをしながら返事をする。
ちなみに掃除中なので服は着せられていた。

本当は後の掃除は別荘の管理人に任せてもいいのだが、
結衣の『自分たちの使ったものは自分たちでキレイにする』
という鶴の一声で、皆で掃除をすることになった。

「そこは昨夜お前が出したもので汚れた場所なので
特に念入りに拭いておくのですよ。」
「うぐ・・・」
結衣の言葉に黒川は顔を赤くする。
「ふふ、昨夜のお前はとても可愛らしかったですわ」
そう言って結衣は彼の頭を優しく撫でた。

(あぁ・・・)黒川は幸福感に満たされていた。
「うふふ、お姉様ったら意地悪ですわね」
友麻がクスクスと笑いながら言う。
「あら、そうかしら?」結衣はクスリと笑う。

そんな二人のやり取りを見て黒川も
思わず笑みをこぼすのだった。
「ほら、文月も笑っていますわよ」
結衣はそう言うと再び彼の頭を撫でた。

「御覧なさい、花もちゃんと戻しておきましたのよ」
窓周りを拭いている友麻の言葉に彼が窓を見ると
昨晩自分に生けられた花束が
きちんと花瓶に戻されていた・・・。
(うう・・・)
何事もなかったように戻されている花を見て
昨夜の痴態を思い出してしまいますます黒川は赤くなった。

「ふふ、二人ともそれぐらいにして掃除に集中なさい」
テーブルの上を片付けながら結衣は黒川を窘めるように言う。
「はい・・・」
黒川は素直に返事をした。
(やっぱりお二人には敵わないな・・・)
そんな事を考えつつ、彼は再び床の雑巾がけを始めるのだった。

***

「分かりましたわ。安全運転でおねがいしますわね。」
結衣はそう言って電話を切った。
電話の主は運転手。交通渋滞に巻き込まれ
到着が遅れるとの連絡だった。
「ナビの予想では1時間近く遅れるとの事ですわ。」
結衣はため息まじりに二人にそう報告する。

「まぁ・・・こちらの片付けも掃除も
とっくに終わってしまいましたのに」
友麻の言う通り、すでに掃除は終わり
自分たちの荷物もまとめ終わり、
あとは車の到着を待つばかりであった。

(じゃあもう少し長くお二人と一緒にいられる・・・?)
黒川は心の片隅でそんなことを期待してしまう。
「でもそれまでどうしましょうか?
この子をまた裸にひん剥いて弄びながら時間を潰します?」
「ひっ!?」
友麻の言葉に黒川は恐怖に顔を歪ませる。

「ふふ、それも良いですけれど」結衣は妖艶な微笑みを浮かべる。
「でも折角今日は晴れてくれましたし、庭に出てみませんか?」
そう言って結衣は窓の外を見る。
「あら、いいですわね」友麻も同意する。
(庭?)黒川が安堵しつつも疑問符を浮かべる中、
二人は別荘の庭に出て行った。


よく晴れた空の下、3人は庭に出て辺りを見回す。
広い庭先にはあの大きな湖がある。

「昨日は雨でしたし、やはり最後に見ておきたかったのです」
そう語る結衣の視線の先にある湖は
透明度の高い水が太陽の光を反射してキラキラと輝いている。
「綺麗ですわね」友麻がうっとりとした表情で言う。
黒川もその光景に思わず見とれてしまった。

「こうして見るとやっぱり綺麗ですよね・・・」
黒川がしみじみという。
「ふふ、一昨日の夜のお前は四つん這いで散歩していましたから
それどころではありませんでしたからね。」
「ぐ・・・」
黒川は恥ずかしさに顔を赤くした。

「お前がキャンキャン泣きながらおもらしする姿、
とっても愛らしかったですのよ」友麻がからかうように笑う。
「うぐ・・・」
黒川はさらに恥ずかしくなり、思わず後ずさる。

「ふふ、また可愛がってあげますわよ」
結衣は微笑みながら言った。
「え・・・?」
黒川は驚きに目を見開く。
「約束しましたでしょう?また来年も来ようと」
結衣はそう言って彼の頬を撫でる。

(来年・・・来年も来られるんだ・・・)
黒川は嬉しくなり思わず笑みがこぼれた。
「ふふ、良かったですわね」
友麻が微笑みながら彼の頭を撫でる。
「はい!」
黒川は少し照れながらで答えた。
そんな3人の様子を太陽だけが優しく照らしていた。

***

程なくして迎えの車が到着した。
「思ったより早かったですわね」
荷物を積み終わり、座席に着きながら
結衣はふぅ、と溜め息をつく。
「でも何だかんだで楽しかったですのよ」
そう言って友麻は微笑む。

帰りの車の中、黒川は行きと同じく後部座席に
姉妹に挟まれるように座る。
(今回は脱がされなかった・・・)
行きで裸にされたことを思い出し、黒川は内心ほっとする。

「あら、また脱がされたいですか?」
「お望みとあらば」
「い、いえ・・・」
黒川が慌てて否定するのを見て結衣たちはくすくすと笑った。

(結局、最後までお二人に振り回されっぱなしだったな・・・)
車窓から景色を見ながら、黒川は今回の旅行を振り返っていた。
(でも、それでも俺は・・・)
彼は心の中でそう呟いた。
(俺はお二人の事を心から愛している・・・)

そんな事を考えながら姉妹の方に視線を移すと
2人とも小さな寝息を立てていた。
「おや、珍しいですね。お二人が
そんな風に車内で眠ってしまうなんて」
運転席にいる女性運転手が
バックミラーを確認しながら言った。

「きっとお疲れになったんだと思います。」
「ふふ、よっぽど楽しかったんですね。」
女性運転手は優しく微笑む。

「今は静かに寝かせてあげましょう」
「そうですね」
そう言って2人も微笑んだ。
(来年もまた一緒に・・・)
2人の寝顔を見ながら黒川は心の中で呟いた。

と、その時結衣が寝言をつぶやいた。
「ところてん・・・」
「・・・・!!?」
黒川は驚愕した。
(一体どんな夢を見てるんだ!?)

黒川は思わず心の中でつっこんだ。
そして昨晩の痴態を思い出してしまい、真っ赤になる。

そんな彼の隣では 結衣の寝言など全く気に留めず
友麻はすやすやと眠っていた。
(この寝顔だけならお二人とも天使なのに・・・)
黒川は溜め息とともに心の中でそう呟いた。
そして、そんな二人の寝顔を見つめる黒川だった。

おわり
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