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第58話:ホストクラブに行ってみましたわ(その3)
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(ここがホストクラブ・・・)
店内に入った黒川はその内装に驚く。
煌びやかな照明や調度品が飾られており、
まるで別世界にいるようだった。
(なんか場違い感があるな・・・)
そう思っていると、一人の男性が近づいてきた。
「ようこそお越しくださいました!お姫様方!」
彼は恭しく一礼する。どうやらこの店の従業員のようだ。
「このチケットの持ち主さんから紹介されましたの」
そう言って友麻は彼にチケットの半券を見せる。
「これはこれは・・・よくぞお越しくださいました」
彼はチケットのにある元の持ち主の名前を確認すると
恭しく一礼する。そして黒川の方を見て言った。
「そちらの女性もお嬢様方とご一緒に?」
「はい。『2人以上』とありましたので、
この子もお誘いしましたわ」
そう言って友麻は黒川を紹介する。
「はい・・・こ、こんにちは」
黒川は精一杯の女性の声で挨拶を返した。
「・・・ふふ、可愛らしいご姫様たちですね。どうぞこちらへ」
男は微笑みながらそう言った。
「ほぅら、行きますわよ」
「行きましょうか」
姉妹もまた妖艶に笑う。
「はぁい・・・」(褒められてもうれしくない・・・)
黒川は力なく答えた。
3人は奥の席に通された。
そして席に着くと
「ようこそ!甘いひと時『sweetmoment』へ!」
そう言って一人のホストが席に現れた。
「・・・僕の名前は御園紫苑。シオンとお呼びください」
ホストはそう言うと3人に一礼する。
「まぁ、素敵なお名前ですわね」
友麻がニッコリと笑う。
「ふふ、ありがとうございます」
紫苑はそう言って微笑む。
長身に甘いマスク、その容姿は
『眉目秀麗』という言葉がよく似合う
形良く整ったものであった。
そしてその爽やかでどこか儚げな立ち振る舞いは
まさに『王子』を思わせた。
「ふふ、素敵な殿方にお会いできて嬉しいですわ」
友麻は妖艶な笑みを浮かべる。
「・・・あ、ありがとうございます!」
お互いに微笑み合う姉妹と紫苑であったが、
その空気はどこか緊張感が走るものがあった。
(なんだろうか・・・このピリピリした感じ)
傍にいる黒川だけがその空気を敏感に感じ取る。
「君もそんなに緊張しないで、リラックスしてね」
そんな事を知ってか知らずか紫苑は黒川に顔を近付けて、
囁くようにそう言った。
「・・・・・!」
黒川は背筋が寒くなる。もちろん悪い意味で。
「あれ?驚いてるの?かわいいね。」紫苑は更に微笑みかける。
(うぐぐぐぐ・・・・!)
黒川の身体に今度は鳥肌が立った。
「ふふ、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ」
紫苑はそう言いながら黒川の肩に手を置いた。
「ひっ・・・!」
黒川はその感触に思わず悲鳴を上げてしまう。
(しまった!)
慌てて口を塞ぐが遅かった。
「・・・?」
紫苑は一瞬不思議そうな顔をしたがすぐに笑顔に戻る。
「あはっ、ごめんね?驚かせちゃったかな?」
そう言って彼は再び微笑む。
(うう、勘弁してくれ・・・)
いくら女装しているとはいえ、黒川は男であった。
どんなイケメンに優しくアプローチされても、
彼には不快以外の何物でもない。
「ごめんなさいね、私たちこういう場所は初めてなので、
まだ慣れていないのですわ。」
結衣が助け舟を出す。
「おや、そうなのですか。それは大変失礼いたしました」
紫苑は素直に謝罪する。
「いえ・・・こちらこそすみません・・・」
黒川も頭を下げる。
「じゃあこれを機会に、よろしくね文月ちゃん」
そう言って紫苑はニッコリと笑った。
『文月』は本来黒川の従属名であるのだが
彼は目の前の『彼女』の名前と勘違いしているようだ。
「・・・はい、よろしくお願いします」
黒川は引きつり笑いで目を逸らしながら精一杯の女声で返す。
「ふふ、文月は恥ずかしがり屋ですのよ」
そう言って友麻も笑う。
「あはは、可愛いね」
紫苑もまた笑った。
(今すぐ死にたい・・・)
黒川は心からそう思った。
そして・・・
(話によると、この双子の家が上に
『超』が付くほどの金持ちらしいが・・・)
姉妹たちに向かって爽やかな笑顔を見せる紫苑であったが、
実は彼女たちをここに来るように仕向けたのは彼自身であった。
タネを明かせば、彼が担当している客の大学生の女性に
後輩である姉妹の話を聞いた後に、紹介チケを渡し
半券を姉妹に渡すように頼んだわけである。
(少々回りくどい手だが、チャンスかも・・・)
上手いこと姉妹に取り入って金回りの良い
太客にでもなってくれれば・・・
というちょっとした思惑からであった。
指名もされていないのに
率先して接客しているのはそのためだった。
しかし、そんな事を姉妹が知る由もない。
***
「それにしても君たちは本当にそっくりだね」
紫苑は姉妹の顔を見ながら感心したように言う。
「うふふ、よく言われます」と結衣。
「それに君たち二人はまるでお姫様みたいに可愛いし」
そう言って紫苑は爽やかに笑う。
(お世辞を言ってるだけだろ・・・)
と黒川は呆れ顔で傍観する。
「でも、文月ちゃんの方がちょっと大人びているね」
そう言って紫苑は黒川の方を見る。
(え・・・?)
いきなり話題を振られて彼は少し動揺する
「ふふ、日頃あまり一人で出歩かない私たちだけでは
こういったその・・・お酒を扱うお店に初めて入るのに
勇気がいるので、少し年上なこの子にも
一緒に来てもらいましたのよ」
黒川に代わり友麻が笑顔で答える。
(友麻様・・・よくそれだけ嘘ばっかり出ますね。)
自分たちはバーまで経営してるくせに・・・と
黒川は内心で呆れかえる。
「この子だけは20歳なのでお酒も飲めますしね」
結衣も後押しする。
「ふぅん、そうなんだね。でも君たちみたいなお姫様・・・
というか僕たちとは住む世界がちがうような
お嬢様たちが、どうしてホストクラブなんかに来たの?」
紫苑は興味津々といった様子で尋ねる。
「・・・ほとんど話したことのない大学の先輩から
何故かお友達紹介チケットを貰いましたの」
友麻は笑顔で続ける。
「そこで今、色々と巷を騒がせているホストクラブというものが
どういう所なのかを知りたくて足を運びましたわ。」
「一種の社会勉強とお思い下さいな」
「騒がせている・・・ねぇ」
紫苑が苦笑する。
「はい、一体どのような耳を疑う屁理屈と
甘ったるいにも程がある甘言で女性客を言いくるめて
いかに気持ち良くお金を払わせてるのかとか、
どれぐらいのギトギトとした
どぎつい欲望が渦巻いているのかなど、
とても興味が湧いておりますの」
友麻は無邪気に笑いながら本音を包み隠さずに言い放つ。
「へぇ・・・」
(友麻様!!言い方!!!)
言葉が少なくなった紫苑に黒川は内心冷や汗をかく。
(確かに、お二人の言っている事は間違ってはいないが・・・)
「ぷっ・・・はははは!」
しかし友麻の不躾な言葉を聞いた紫苑は意外にも大笑いし出した。
(お、怒らないのか・・・?)
「あはは、君たちは本当に面白いね」
紫苑はなおも愉快そうに笑う。
「ふふ、ありがとうございます」
「そんなに正直に話す子は、君が初めてだよ」
「あら、それは光栄ですわね」
友麻はニッコリと笑う。
「あはは、君は本当に面白いね。気に入ったよ」
紫苑はそう言って笑った。
(流石というか・・・堪えてないな・・)
「ふふ、そのリアクション、あなたもなかなかですわよ。」
結衣が妖しく微笑む。
「ふふ、ありがとう」
紫苑も微笑み返した。
(やっぱりこの人たち・・・怖い)
そしてやはり黒川だけがこの空気に恐怖を感じていた。
「僕の事よりもお友達を心配させちゃダメだよ?
さっきから物凄く不安そうに君たちを見てるよ」
紫苑はそう言って黒川の方を見る。
「えっ・・・?」
黒川はドキッとした。
(み、見抜かれてた・・・?)
「ふふ、どうかなさいましたの?」
結衣は意地悪そうに微笑んで尋ねる。
「いえ・・・その・・・」
(そ、そうは言われても・・・)
「大丈夫です。心配には及びませんわ」
「そうよ。大丈夫、別にやましい事を
しているわけではないのよ?」
そう言って姉妹は黒川の方を見る。
「ふふ、いいね君のそう言う顔、とってもかわいいよ。」
紫苑がそう言いながら黒川の顔に触ろうとするが・・・
バシッ!という乾いた音と共に
結衣が横から紫苑の手を叩き落とす。
「・・・!?」
「あら失礼。申し訳ございませんがこの子には
気安く触らないで頂けますか?」
結衣は笑顔を崩すことなく言い放った。
(あの・・・滅茶苦茶怖いんですけど?)
黒川は顔面蒼白になる。
「この子は私たちが無理を言って来てもらったのです。
あまり羽目を外すような真似はしてほしくありませんのよ。
それにこういうお店ではそう言うお障りは厳禁なのでしょう?」
友麻も結衣に続いた。
(うう・・・お二人とも笑顔なのにとてつもなく怖い)
笑顔の二人とは対照的に黒川は
素手で心臓を掴まれたような恐怖を覚える。
「ふふ、お姫様方は手厳しいんだね」
紫苑は苦笑いを浮かべた。
「ふふ、ごめんなさいね」
「でも貴方も悪いのですよ?この子をからかおうとするから」
そう言って二人も微笑み返す。
(こいつもこいつでとんでもなくタフだな・・・)
紫苑の態度を見て黒川は内心そう思った。
こういう世界にいる以上、ある程度以上肝が据わってないと
生き残るのは難しいのかもしれない。
「ふふふ、本当に君たち二人は面白いね」
紫苑は楽しそうに笑った。
「ふふ、ありがとうございますわ」
「気分直しに何か飲む?」
紫苑がさりげなく話題を変える。
「そうですわね、では私たちはアルコールでないものを」
「あ、私もそれでお願いします」
結衣と友麻はそう答える。
「ふふ、了解したよ」
紫苑はそう言ってメニューをとって注文した。
つづく
店内に入った黒川はその内装に驚く。
煌びやかな照明や調度品が飾られており、
まるで別世界にいるようだった。
(なんか場違い感があるな・・・)
そう思っていると、一人の男性が近づいてきた。
「ようこそお越しくださいました!お姫様方!」
彼は恭しく一礼する。どうやらこの店の従業員のようだ。
「このチケットの持ち主さんから紹介されましたの」
そう言って友麻は彼にチケットの半券を見せる。
「これはこれは・・・よくぞお越しくださいました」
彼はチケットのにある元の持ち主の名前を確認すると
恭しく一礼する。そして黒川の方を見て言った。
「そちらの女性もお嬢様方とご一緒に?」
「はい。『2人以上』とありましたので、
この子もお誘いしましたわ」
そう言って友麻は黒川を紹介する。
「はい・・・こ、こんにちは」
黒川は精一杯の女性の声で挨拶を返した。
「・・・ふふ、可愛らしいご姫様たちですね。どうぞこちらへ」
男は微笑みながらそう言った。
「ほぅら、行きますわよ」
「行きましょうか」
姉妹もまた妖艶に笑う。
「はぁい・・・」(褒められてもうれしくない・・・)
黒川は力なく答えた。
3人は奥の席に通された。
そして席に着くと
「ようこそ!甘いひと時『sweetmoment』へ!」
そう言って一人のホストが席に現れた。
「・・・僕の名前は御園紫苑。シオンとお呼びください」
ホストはそう言うと3人に一礼する。
「まぁ、素敵なお名前ですわね」
友麻がニッコリと笑う。
「ふふ、ありがとうございます」
紫苑はそう言って微笑む。
長身に甘いマスク、その容姿は
『眉目秀麗』という言葉がよく似合う
形良く整ったものであった。
そしてその爽やかでどこか儚げな立ち振る舞いは
まさに『王子』を思わせた。
「ふふ、素敵な殿方にお会いできて嬉しいですわ」
友麻は妖艶な笑みを浮かべる。
「・・・あ、ありがとうございます!」
お互いに微笑み合う姉妹と紫苑であったが、
その空気はどこか緊張感が走るものがあった。
(なんだろうか・・・このピリピリした感じ)
傍にいる黒川だけがその空気を敏感に感じ取る。
「君もそんなに緊張しないで、リラックスしてね」
そんな事を知ってか知らずか紫苑は黒川に顔を近付けて、
囁くようにそう言った。
「・・・・・!」
黒川は背筋が寒くなる。もちろん悪い意味で。
「あれ?驚いてるの?かわいいね。」紫苑は更に微笑みかける。
(うぐぐぐぐ・・・・!)
黒川の身体に今度は鳥肌が立った。
「ふふ、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ」
紫苑はそう言いながら黒川の肩に手を置いた。
「ひっ・・・!」
黒川はその感触に思わず悲鳴を上げてしまう。
(しまった!)
慌てて口を塞ぐが遅かった。
「・・・?」
紫苑は一瞬不思議そうな顔をしたがすぐに笑顔に戻る。
「あはっ、ごめんね?驚かせちゃったかな?」
そう言って彼は再び微笑む。
(うう、勘弁してくれ・・・)
いくら女装しているとはいえ、黒川は男であった。
どんなイケメンに優しくアプローチされても、
彼には不快以外の何物でもない。
「ごめんなさいね、私たちこういう場所は初めてなので、
まだ慣れていないのですわ。」
結衣が助け舟を出す。
「おや、そうなのですか。それは大変失礼いたしました」
紫苑は素直に謝罪する。
「いえ・・・こちらこそすみません・・・」
黒川も頭を下げる。
「じゃあこれを機会に、よろしくね文月ちゃん」
そう言って紫苑はニッコリと笑った。
『文月』は本来黒川の従属名であるのだが
彼は目の前の『彼女』の名前と勘違いしているようだ。
「・・・はい、よろしくお願いします」
黒川は引きつり笑いで目を逸らしながら精一杯の女声で返す。
「ふふ、文月は恥ずかしがり屋ですのよ」
そう言って友麻も笑う。
「あはは、可愛いね」
紫苑もまた笑った。
(今すぐ死にたい・・・)
黒川は心からそう思った。
そして・・・
(話によると、この双子の家が上に
『超』が付くほどの金持ちらしいが・・・)
姉妹たちに向かって爽やかな笑顔を見せる紫苑であったが、
実は彼女たちをここに来るように仕向けたのは彼自身であった。
タネを明かせば、彼が担当している客の大学生の女性に
後輩である姉妹の話を聞いた後に、紹介チケを渡し
半券を姉妹に渡すように頼んだわけである。
(少々回りくどい手だが、チャンスかも・・・)
上手いこと姉妹に取り入って金回りの良い
太客にでもなってくれれば・・・
というちょっとした思惑からであった。
指名もされていないのに
率先して接客しているのはそのためだった。
しかし、そんな事を姉妹が知る由もない。
***
「それにしても君たちは本当にそっくりだね」
紫苑は姉妹の顔を見ながら感心したように言う。
「うふふ、よく言われます」と結衣。
「それに君たち二人はまるでお姫様みたいに可愛いし」
そう言って紫苑は爽やかに笑う。
(お世辞を言ってるだけだろ・・・)
と黒川は呆れ顔で傍観する。
「でも、文月ちゃんの方がちょっと大人びているね」
そう言って紫苑は黒川の方を見る。
(え・・・?)
いきなり話題を振られて彼は少し動揺する
「ふふ、日頃あまり一人で出歩かない私たちだけでは
こういったその・・・お酒を扱うお店に初めて入るのに
勇気がいるので、少し年上なこの子にも
一緒に来てもらいましたのよ」
黒川に代わり友麻が笑顔で答える。
(友麻様・・・よくそれだけ嘘ばっかり出ますね。)
自分たちはバーまで経営してるくせに・・・と
黒川は内心で呆れかえる。
「この子だけは20歳なのでお酒も飲めますしね」
結衣も後押しする。
「ふぅん、そうなんだね。でも君たちみたいなお姫様・・・
というか僕たちとは住む世界がちがうような
お嬢様たちが、どうしてホストクラブなんかに来たの?」
紫苑は興味津々といった様子で尋ねる。
「・・・ほとんど話したことのない大学の先輩から
何故かお友達紹介チケットを貰いましたの」
友麻は笑顔で続ける。
「そこで今、色々と巷を騒がせているホストクラブというものが
どういう所なのかを知りたくて足を運びましたわ。」
「一種の社会勉強とお思い下さいな」
「騒がせている・・・ねぇ」
紫苑が苦笑する。
「はい、一体どのような耳を疑う屁理屈と
甘ったるいにも程がある甘言で女性客を言いくるめて
いかに気持ち良くお金を払わせてるのかとか、
どれぐらいのギトギトとした
どぎつい欲望が渦巻いているのかなど、
とても興味が湧いておりますの」
友麻は無邪気に笑いながら本音を包み隠さずに言い放つ。
「へぇ・・・」
(友麻様!!言い方!!!)
言葉が少なくなった紫苑に黒川は内心冷や汗をかく。
(確かに、お二人の言っている事は間違ってはいないが・・・)
「ぷっ・・・はははは!」
しかし友麻の不躾な言葉を聞いた紫苑は意外にも大笑いし出した。
(お、怒らないのか・・・?)
「あはは、君たちは本当に面白いね」
紫苑はなおも愉快そうに笑う。
「ふふ、ありがとうございます」
「そんなに正直に話す子は、君が初めてだよ」
「あら、それは光栄ですわね」
友麻はニッコリと笑う。
「あはは、君は本当に面白いね。気に入ったよ」
紫苑はそう言って笑った。
(流石というか・・・堪えてないな・・)
「ふふ、そのリアクション、あなたもなかなかですわよ。」
結衣が妖しく微笑む。
「ふふ、ありがとう」
紫苑も微笑み返した。
(やっぱりこの人たち・・・怖い)
そしてやはり黒川だけがこの空気に恐怖を感じていた。
「僕の事よりもお友達を心配させちゃダメだよ?
さっきから物凄く不安そうに君たちを見てるよ」
紫苑はそう言って黒川の方を見る。
「えっ・・・?」
黒川はドキッとした。
(み、見抜かれてた・・・?)
「ふふ、どうかなさいましたの?」
結衣は意地悪そうに微笑んで尋ねる。
「いえ・・・その・・・」
(そ、そうは言われても・・・)
「大丈夫です。心配には及びませんわ」
「そうよ。大丈夫、別にやましい事を
しているわけではないのよ?」
そう言って姉妹は黒川の方を見る。
「ふふ、いいね君のそう言う顔、とってもかわいいよ。」
紫苑がそう言いながら黒川の顔に触ろうとするが・・・
バシッ!という乾いた音と共に
結衣が横から紫苑の手を叩き落とす。
「・・・!?」
「あら失礼。申し訳ございませんがこの子には
気安く触らないで頂けますか?」
結衣は笑顔を崩すことなく言い放った。
(あの・・・滅茶苦茶怖いんですけど?)
黒川は顔面蒼白になる。
「この子は私たちが無理を言って来てもらったのです。
あまり羽目を外すような真似はしてほしくありませんのよ。
それにこういうお店ではそう言うお障りは厳禁なのでしょう?」
友麻も結衣に続いた。
(うう・・・お二人とも笑顔なのにとてつもなく怖い)
笑顔の二人とは対照的に黒川は
素手で心臓を掴まれたような恐怖を覚える。
「ふふ、お姫様方は手厳しいんだね」
紫苑は苦笑いを浮かべた。
「ふふ、ごめんなさいね」
「でも貴方も悪いのですよ?この子をからかおうとするから」
そう言って二人も微笑み返す。
(こいつもこいつでとんでもなくタフだな・・・)
紫苑の態度を見て黒川は内心そう思った。
こういう世界にいる以上、ある程度以上肝が据わってないと
生き残るのは難しいのかもしれない。
「ふふふ、本当に君たち二人は面白いね」
紫苑は楽しそうに笑った。
「ふふ、ありがとうございますわ」
「気分直しに何か飲む?」
紫苑がさりげなく話題を変える。
「そうですわね、では私たちはアルコールでないものを」
「あ、私もそれでお願いします」
結衣と友麻はそう答える。
「ふふ、了解したよ」
紫苑はそう言ってメニューをとって注文した。
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