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第32話:旅行編その3~田舎の道路沿いによくあるあの店~
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「へぇここがその店なわけ?」
「うん!ここに間違いないよ。隠れた穴場ってやつ!」
目的の店にたどり着いて、
すみれはスマホで店名を確認しながら言う。
「・・・見た感じ普通の店っぽいけど?」
「だからいいんだよ。一見普通に見えるからこそ、
本当に美味しいお店が隠れているんだってば!」
そう言って店内に入っていく。
「いらっしゃいませー。2名様ですか?」
店員の声にうなずいて答える。
「こちらのお席になります」
案内されたテーブルにつくとメニューを見る。
そこにはこの地方の名物となる料理名が並んでいる。
「あれ、昨日観光地の方にあった店と変わり映えしないんだけど?」
「あっちの方が有名だけど、こっちも美味しいらしいよ」
「ふぅん。じゃあ私はこの郷土料理セットにするわ」
「僕はどうしようかなぁ・・・。やっぱりこれにしとくか」
ユキヤは名物にあたる蕎麦定食を頼んでみる。
注文を済ませるとすみれは周りを見渡す。
夏休みとはいえ平日ということもあってか客は少ないようだ。
暫くすると料理が運ばれてくる。
「見た目は普通っぽいな・・・」「文句言わずに食べる」
すみれの言葉を遮るようにユキヤが言い返す。
「わかったよ。いただきまーす」
一口食べてみてその味に驚く。
「え・・・何これ!?すごく美味しい!!」
思わず声が出てしまう。
「でしょ?観光地のお店のは
観光客向けに味が変えてあるんだって。
だからこの地方の本当の味を知るには
こういうお店がいいって聞いてね。」
言われてみれば、出汁が昨日の物に比べてほんのりと甘い。
そして麺は細めだ。
「へぇ~。地元の人しか知らないような店をわざわざ探したのか」
「そういうこと!」
ユキヤは苦笑いするしかない。
「それにしても結構ボリュームあったな。腹いっぱいになったよ」
「そりゃそうだよ。ここは量が多いことでも有名なんだから」
満足げにおなかをさすりながらすみれが答えた。
食事を終えて会計を済ませた二人は、店を出てぶらつき始めた。
「この後はどこに行くんだ?」
「もうちょっとブラついてみようよ。」そう言って二人は歩きだす。
が、ちょっと困った事態に遭遇してしまう。
「・・・次のバス、15:00だって・・・」
「おい待て!まだ1時前だぞ!」
時刻表を指差してユキヤが叫ぶ。
「ど、どうしよう・・・。歩いて帰るにも距離がありすぎるし・・・」
すみれも困惑した様子で言う。
「田舎ならではの交通事情だねぇ・・・」
思わぬことに 辺り見回すも、
観光名所でもなんでもない畑と道路があるだけだ。
「この炎天下に外で2時間以上待つのはキツイぞ・・・」
「どこかに入れるお店でもあればいいんだけど」
二人して途方に暮れていると、
ふと反対車線側にある雑居ビルに目が行った。
「あの1階、なんかお店っぽいよ」
「古いビルだな・・・営業してるかな?」
近づいてみると確かに何かのお店のようだ。
看板文字は小さすぎて読めなかった。
「とにかく行ってみようよ」
「しょうがねえな」
ユキヤも諦めたようで同意してくれた。
ドアを開けると中は薄暗い。エアコンの冷気が心地よい。
中に入るとカウンター越しに中年の男性が出てきた。
「いらっしゃいませっごゆっくり~」と挨拶される。
そんな店主の軽口とは裏腹に、店内の様子を見た二人はドン引きした。
その店の棚には、ぎっしりとAVが入っていたからだ・・・。
「こ、ここって・・・」
「田舎の道路沿いによくあるエッチなお店・・・」
大抵は深夜に営業しているが、昼間に堂々と開けているのは珍しい。
「ようこそ!アダルトショップ『第26号倉庫』へ」
「うわぁ・・・」
ユキヤは露骨に嫌そうな顔をする。
「あれ?あんたら初めてかい?若いカップルで来るなんて珍しいね」
「えっと、ちょっと事情がありまして・・・。」
すみれが答える。
「ほほう、じゃあどんなものが欲しいか教えてくれれば、
オススメの商品を紹介しますよ」
(なんでこの店主、こんなにノリノリなんだよ・・・)
「いや、俺らそう言うので来たんじゃなくて・・・」
「まあまあ、遠慮せずに。これなんかどうだい?
マニアには堪らない一作だよ」
「だから違うんですけど・・・」
「なんだ?彼女さんは乗り気じゃないのか?」
「えーっと・・・」
すみれは困ったように笑う。
「あ、奥はアダルトグッズのコーナーですからね。
お二人ならそっちの方が興味あるかも」
「やかましい!」
ユキヤはにやける店主を睨むが、店主はどこ吹く風といった感じだ。
「んー・・・。ちょっと見てみよっか」
「マジで!?」
「だって他にやることもないし。」
「・・・はぁ。わかったよ。」
「おっと、失礼しました。」
店主はニヤリと笑っていた。
「うわ、すごい種類だね・・・」
「ホントだな・・・」
棚一面に所狭しと並ぶアダルトグッズの数々。
ローター、バイブ、ローション、コスプレ衣装などは当たり前。
中には男性器を象ったものまで置いてあった。
「こういうの使う人いるんだ・・・」
「いるんだろうな・・・」
二人で呆然と眺める。
すみれは少し頬が紅潮している。
ショーウィンドウにあるアダルトグッズたちは、
まるで何かのオブジェのように飾られ、ライトに照らされ、怪しく輝いていた。
「こう飾られると、ネット通販とはまた違った趣があるね。」
「そうだな・・・」
「ねえ、ユキちゃん。どれ買おうかな?」
「え?買うの?!」
「うん。せっかくだし記念になるようなのがいいよね」
「まじか・・・」(記念・・・なのか?)
「でも私も初めて見るのが多いから迷っちゃうね。」
「ああ、確かに。」
店内にひしめくアダルトグッズの中には、いかにもな形状の物から
言われないとそれと分からないものまである。
「これは何に使う道具なのかな?」
「さあ?わからん」
「こっちは・・・。」
「うわ、すごっ。こんなのもあるんだ」
「おお、すげぇ・・・」
「口でする用とか指用のスキンとかあるんだ・・・」
「へえ・・・。知らなかった・・・」
「これってどういう仕組みなんだろう・・・」
すみれは興味津々だ。
そんなすみれを後ろで見守るユキヤに店主が声を掛けた。
「あ、兄ちゃん、さっき向こうの本棚眺めてたね。」
「・・エロ小説ばっかだったけどな。」 「そりゃそうだよ。うちはそういう店なんだもん。」
「いや、分かってるんだけど、なんか落ち着かないというかさ・・・」
「ははは。気持ちは分かるよ。」
「あんたらは良いのかよ。」
「そんな兄ちゃんにお勧めの一冊があるよ」「え、ほんとですか!?」
店主は一冊の本をユキヤに手渡した。
「これね、この前何とか賞っての取った作家の〇〇先生が、
無名時代に別名で書いたエロ小説なのさ・・・」
「ほう・・・」
「さすが、将来あんな賞を取る作家先生だけあって、
あっちの描写がそれはもうねっとりしてて・・・」
「ふむ・・・」
「しかも、それがデビュー作だから、文章は荒削りだけど、
その分勢いがあって面白いのなんの。」
「ほー・・・。」
「当時はまだ流行ってないジャンルだったから発行部数は少ないものの、
作りはちゃんとツボを押さえていてねぇ。」
ユキヤは少し興味を見せる。
「ただ、残念ながら絶版になってるんだよねぇ。
今じゃなかなか手に入らないレアものだよ。」
「そうなんですか!?」
ユキヤはパラパラとページを捲る。
「どうだい?買っていくかい?」
ユキヤはその言葉を聞き流し、真剣に読み始めた。
(なるほど、確かに上手いな。)
ユキヤはそう思いつつ、さらに読み進めていく。
「しかし、これが処女作とは信じられんな・・・」
ユキヤは思わず呟いた。
「どうだい買うかい?」店主が念を押す。
「いくらです?」
「2000円でいいよ。」
「よし、買います!」
ユキヤは財布を取り出し、代金を支払う。
「まいどあり~」
会計後、小さな声で
「・・・カバーつけといて」
と頼むユキヤであった。
すみれも買いたいものを決めて戻ってきた。
「何か買ったの?」
「べ、別に・・・お前は何買うの?」
カゴを見ると飴の袋や卵のようなものが見える。
「ええとこれ・・・その大人の玩具なんだよな?」
色もカラフルで、言われなければそうとは分からないだろう。
「そんなに高いものは買ってないよ」
すみれは照れ笑いを浮かべる。
「いや、俺が聞きたいのは値段じゃないんだ。」
「うん。」
「・・・何に使うのかなと思ってさ。」
すみれは少し考えてから答える。
「ナイショ」「そっか。まぁそうだよな。」
「ユキちゃんはどんな本を買ったの?」
「え!?いや、これは・・・。」
「教えてくれないと悪戯しちゃおうかな♪」
すみれはユキヤの耳元で囁く。
「お前には多分面白くないと思うぞ・・・」「ふーん。」
すみれはニヤリと笑う。「じゃあ会計済ませてくるね。」
「ああ、分かった。俺は入り口のとこにいるから。」
「はーい。」
「まいどあり!また来てね!」と入り口付近で店主に挨拶され、
二人は店を出る。
「・・・もう来ねぇよ」と小声で言うユキヤ。
そんな二人を見送りながら、店主は
「ありゃあ・・・今夜あたりイジメられるね・・・男の子の方が」
とボソリとつぶやく。
ユキヤ達がバス停に戻ると、ほどなくしてバスが来て、
二人は乗り込む。バスの中はガラ空きだった。
二人は最後部座席に座る。
「で結局何買ったんだよ?」
「ナイショ。あとのお楽しみ。」
「ちぇっ」
バスは発進する。
バスに乗ってからしばらくして、すみれが眠ってしまった。
寝顔は可愛いなと思いつつも、起こすべきか迷うユキヤ。
(ま、寝かしといてやるか)とユキヤは先ほど買った本を読みだす。
本のタイトルは『女郎蜘蛛の糸』とあった。
『私と彼女は出会ってしまった。そして惹かれあい、
私は彼女にからめとられる。
それはまるで蜘蛛の糸のようにねっとり私にまとわりつき、
決して離れない・・・』
ユキヤは小説を読むのが好きなのだが、
こういった官能的な物はあまり読まない。
内容は主人公の男性が、とある女性と出会い恋に落ちてしまう。
しかし彼女の正体は男を食い物にして生きてる女であり、
主人公を餌として狙っていた。
女性と別れた後も、彼女からは逃れられず、
どんどんと追い詰められていくという内容だ。
ユキヤは読み進めるうちにだんだんと、
この主人公に感情移入していく・・・
「ユキヤ、起きて」
肩を揺すられて目を覚ます。どうやら自分も寝てしまっていたようだ。
「あれ?俺も寝てたのか」「もうホテルの前だよ。」すみれが微笑みかける。
その笑顔を見てドキッとするユキヤ。「降りる準備しないと」
すみれが立ち上がり、ユキヤに手を差し伸べる。
ユキヤはその手を取って立ち上がる。
バスの降車ボタンを押すと、「プシュー」という音と共にドアが開く。
「さ、行こうか。」すみれがユキヤの手を引いて歩き出す。
「ああ、そうだな。」ユキヤはすみれの横を歩く。
***
二人はホテルの部屋に帰り、夕食までまったりと過ごした。
「もう明日帰るんだね」「過ぎてみりゃあっという間だったな」
二人はベッドの上で横になり、抱き合いながら話していた。
「楽しかった?旅行は」すみれがユキヤの頭を撫でる。
「ああ、お前と一緒に居れたからな」とユキヤが答える。
「ユキヤってば素直なんだから」すみれがクスッと笑う。
「でも本当に楽しかったよ。ありがとう」ユキヤがお礼を言う。
「うん。こちらこそ」すみれがユキヤの頬を優しく触る。
「また来ようね」
「おう、絶対な」
そう言って二人はキスをした。
つづく
「うん!ここに間違いないよ。隠れた穴場ってやつ!」
目的の店にたどり着いて、
すみれはスマホで店名を確認しながら言う。
「・・・見た感じ普通の店っぽいけど?」
「だからいいんだよ。一見普通に見えるからこそ、
本当に美味しいお店が隠れているんだってば!」
そう言って店内に入っていく。
「いらっしゃいませー。2名様ですか?」
店員の声にうなずいて答える。
「こちらのお席になります」
案内されたテーブルにつくとメニューを見る。
そこにはこの地方の名物となる料理名が並んでいる。
「あれ、昨日観光地の方にあった店と変わり映えしないんだけど?」
「あっちの方が有名だけど、こっちも美味しいらしいよ」
「ふぅん。じゃあ私はこの郷土料理セットにするわ」
「僕はどうしようかなぁ・・・。やっぱりこれにしとくか」
ユキヤは名物にあたる蕎麦定食を頼んでみる。
注文を済ませるとすみれは周りを見渡す。
夏休みとはいえ平日ということもあってか客は少ないようだ。
暫くすると料理が運ばれてくる。
「見た目は普通っぽいな・・・」「文句言わずに食べる」
すみれの言葉を遮るようにユキヤが言い返す。
「わかったよ。いただきまーす」
一口食べてみてその味に驚く。
「え・・・何これ!?すごく美味しい!!」
思わず声が出てしまう。
「でしょ?観光地のお店のは
観光客向けに味が変えてあるんだって。
だからこの地方の本当の味を知るには
こういうお店がいいって聞いてね。」
言われてみれば、出汁が昨日の物に比べてほんのりと甘い。
そして麺は細めだ。
「へぇ~。地元の人しか知らないような店をわざわざ探したのか」
「そういうこと!」
ユキヤは苦笑いするしかない。
「それにしても結構ボリュームあったな。腹いっぱいになったよ」
「そりゃそうだよ。ここは量が多いことでも有名なんだから」
満足げにおなかをさすりながらすみれが答えた。
食事を終えて会計を済ませた二人は、店を出てぶらつき始めた。
「この後はどこに行くんだ?」
「もうちょっとブラついてみようよ。」そう言って二人は歩きだす。
が、ちょっと困った事態に遭遇してしまう。
「・・・次のバス、15:00だって・・・」
「おい待て!まだ1時前だぞ!」
時刻表を指差してユキヤが叫ぶ。
「ど、どうしよう・・・。歩いて帰るにも距離がありすぎるし・・・」
すみれも困惑した様子で言う。
「田舎ならではの交通事情だねぇ・・・」
思わぬことに 辺り見回すも、
観光名所でもなんでもない畑と道路があるだけだ。
「この炎天下に外で2時間以上待つのはキツイぞ・・・」
「どこかに入れるお店でもあればいいんだけど」
二人して途方に暮れていると、
ふと反対車線側にある雑居ビルに目が行った。
「あの1階、なんかお店っぽいよ」
「古いビルだな・・・営業してるかな?」
近づいてみると確かに何かのお店のようだ。
看板文字は小さすぎて読めなかった。
「とにかく行ってみようよ」
「しょうがねえな」
ユキヤも諦めたようで同意してくれた。
ドアを開けると中は薄暗い。エアコンの冷気が心地よい。
中に入るとカウンター越しに中年の男性が出てきた。
「いらっしゃいませっごゆっくり~」と挨拶される。
そんな店主の軽口とは裏腹に、店内の様子を見た二人はドン引きした。
その店の棚には、ぎっしりとAVが入っていたからだ・・・。
「こ、ここって・・・」
「田舎の道路沿いによくあるエッチなお店・・・」
大抵は深夜に営業しているが、昼間に堂々と開けているのは珍しい。
「ようこそ!アダルトショップ『第26号倉庫』へ」
「うわぁ・・・」
ユキヤは露骨に嫌そうな顔をする。
「あれ?あんたら初めてかい?若いカップルで来るなんて珍しいね」
「えっと、ちょっと事情がありまして・・・。」
すみれが答える。
「ほほう、じゃあどんなものが欲しいか教えてくれれば、
オススメの商品を紹介しますよ」
(なんでこの店主、こんなにノリノリなんだよ・・・)
「いや、俺らそう言うので来たんじゃなくて・・・」
「まあまあ、遠慮せずに。これなんかどうだい?
マニアには堪らない一作だよ」
「だから違うんですけど・・・」
「なんだ?彼女さんは乗り気じゃないのか?」
「えーっと・・・」
すみれは困ったように笑う。
「あ、奥はアダルトグッズのコーナーですからね。
お二人ならそっちの方が興味あるかも」
「やかましい!」
ユキヤはにやける店主を睨むが、店主はどこ吹く風といった感じだ。
「んー・・・。ちょっと見てみよっか」
「マジで!?」
「だって他にやることもないし。」
「・・・はぁ。わかったよ。」
「おっと、失礼しました。」
店主はニヤリと笑っていた。
「うわ、すごい種類だね・・・」
「ホントだな・・・」
棚一面に所狭しと並ぶアダルトグッズの数々。
ローター、バイブ、ローション、コスプレ衣装などは当たり前。
中には男性器を象ったものまで置いてあった。
「こういうの使う人いるんだ・・・」
「いるんだろうな・・・」
二人で呆然と眺める。
すみれは少し頬が紅潮している。
ショーウィンドウにあるアダルトグッズたちは、
まるで何かのオブジェのように飾られ、ライトに照らされ、怪しく輝いていた。
「こう飾られると、ネット通販とはまた違った趣があるね。」
「そうだな・・・」
「ねえ、ユキちゃん。どれ買おうかな?」
「え?買うの?!」
「うん。せっかくだし記念になるようなのがいいよね」
「まじか・・・」(記念・・・なのか?)
「でも私も初めて見るのが多いから迷っちゃうね。」
「ああ、確かに。」
店内にひしめくアダルトグッズの中には、いかにもな形状の物から
言われないとそれと分からないものまである。
「これは何に使う道具なのかな?」
「さあ?わからん」
「こっちは・・・。」
「うわ、すごっ。こんなのもあるんだ」
「おお、すげぇ・・・」
「口でする用とか指用のスキンとかあるんだ・・・」
「へえ・・・。知らなかった・・・」
「これってどういう仕組みなんだろう・・・」
すみれは興味津々だ。
そんなすみれを後ろで見守るユキヤに店主が声を掛けた。
「あ、兄ちゃん、さっき向こうの本棚眺めてたね。」
「・・エロ小説ばっかだったけどな。」 「そりゃそうだよ。うちはそういう店なんだもん。」
「いや、分かってるんだけど、なんか落ち着かないというかさ・・・」
「ははは。気持ちは分かるよ。」
「あんたらは良いのかよ。」
「そんな兄ちゃんにお勧めの一冊があるよ」「え、ほんとですか!?」
店主は一冊の本をユキヤに手渡した。
「これね、この前何とか賞っての取った作家の〇〇先生が、
無名時代に別名で書いたエロ小説なのさ・・・」
「ほう・・・」
「さすが、将来あんな賞を取る作家先生だけあって、
あっちの描写がそれはもうねっとりしてて・・・」
「ふむ・・・」
「しかも、それがデビュー作だから、文章は荒削りだけど、
その分勢いがあって面白いのなんの。」
「ほー・・・。」
「当時はまだ流行ってないジャンルだったから発行部数は少ないものの、
作りはちゃんとツボを押さえていてねぇ。」
ユキヤは少し興味を見せる。
「ただ、残念ながら絶版になってるんだよねぇ。
今じゃなかなか手に入らないレアものだよ。」
「そうなんですか!?」
ユキヤはパラパラとページを捲る。
「どうだい?買っていくかい?」
ユキヤはその言葉を聞き流し、真剣に読み始めた。
(なるほど、確かに上手いな。)
ユキヤはそう思いつつ、さらに読み進めていく。
「しかし、これが処女作とは信じられんな・・・」
ユキヤは思わず呟いた。
「どうだい買うかい?」店主が念を押す。
「いくらです?」
「2000円でいいよ。」
「よし、買います!」
ユキヤは財布を取り出し、代金を支払う。
「まいどあり~」
会計後、小さな声で
「・・・カバーつけといて」
と頼むユキヤであった。
すみれも買いたいものを決めて戻ってきた。
「何か買ったの?」
「べ、別に・・・お前は何買うの?」
カゴを見ると飴の袋や卵のようなものが見える。
「ええとこれ・・・その大人の玩具なんだよな?」
色もカラフルで、言われなければそうとは分からないだろう。
「そんなに高いものは買ってないよ」
すみれは照れ笑いを浮かべる。
「いや、俺が聞きたいのは値段じゃないんだ。」
「うん。」
「・・・何に使うのかなと思ってさ。」
すみれは少し考えてから答える。
「ナイショ」「そっか。まぁそうだよな。」
「ユキちゃんはどんな本を買ったの?」
「え!?いや、これは・・・。」
「教えてくれないと悪戯しちゃおうかな♪」
すみれはユキヤの耳元で囁く。
「お前には多分面白くないと思うぞ・・・」「ふーん。」
すみれはニヤリと笑う。「じゃあ会計済ませてくるね。」
「ああ、分かった。俺は入り口のとこにいるから。」
「はーい。」
「まいどあり!また来てね!」と入り口付近で店主に挨拶され、
二人は店を出る。
「・・・もう来ねぇよ」と小声で言うユキヤ。
そんな二人を見送りながら、店主は
「ありゃあ・・・今夜あたりイジメられるね・・・男の子の方が」
とボソリとつぶやく。
ユキヤ達がバス停に戻ると、ほどなくしてバスが来て、
二人は乗り込む。バスの中はガラ空きだった。
二人は最後部座席に座る。
「で結局何買ったんだよ?」
「ナイショ。あとのお楽しみ。」
「ちぇっ」
バスは発進する。
バスに乗ってからしばらくして、すみれが眠ってしまった。
寝顔は可愛いなと思いつつも、起こすべきか迷うユキヤ。
(ま、寝かしといてやるか)とユキヤは先ほど買った本を読みだす。
本のタイトルは『女郎蜘蛛の糸』とあった。
『私と彼女は出会ってしまった。そして惹かれあい、
私は彼女にからめとられる。
それはまるで蜘蛛の糸のようにねっとり私にまとわりつき、
決して離れない・・・』
ユキヤは小説を読むのが好きなのだが、
こういった官能的な物はあまり読まない。
内容は主人公の男性が、とある女性と出会い恋に落ちてしまう。
しかし彼女の正体は男を食い物にして生きてる女であり、
主人公を餌として狙っていた。
女性と別れた後も、彼女からは逃れられず、
どんどんと追い詰められていくという内容だ。
ユキヤは読み進めるうちにだんだんと、
この主人公に感情移入していく・・・
「ユキヤ、起きて」
肩を揺すられて目を覚ます。どうやら自分も寝てしまっていたようだ。
「あれ?俺も寝てたのか」「もうホテルの前だよ。」すみれが微笑みかける。
その笑顔を見てドキッとするユキヤ。「降りる準備しないと」
すみれが立ち上がり、ユキヤに手を差し伸べる。
ユキヤはその手を取って立ち上がる。
バスの降車ボタンを押すと、「プシュー」という音と共にドアが開く。
「さ、行こうか。」すみれがユキヤの手を引いて歩き出す。
「ああ、そうだな。」ユキヤはすみれの横を歩く。
***
二人はホテルの部屋に帰り、夕食までまったりと過ごした。
「もう明日帰るんだね」「過ぎてみりゃあっという間だったな」
二人はベッドの上で横になり、抱き合いながら話していた。
「楽しかった?旅行は」すみれがユキヤの頭を撫でる。
「ああ、お前と一緒に居れたからな」とユキヤが答える。
「ユキヤってば素直なんだから」すみれがクスッと笑う。
「でも本当に楽しかったよ。ありがとう」ユキヤがお礼を言う。
「うん。こちらこそ」すみれがユキヤの頬を優しく触る。
「また来ようね」
「おう、絶対な」
そう言って二人はキスをした。
つづく
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