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第20話:昔はいじめっ子だった?!(その2)

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(この前は柄にもない事したなぁ・・・)
智司さとしはバイト中に先日の事を思い出していた。
今日は土曜日なので客が多い。店内には親子連れがたくさんいる。
「・・・さん、生成さん!」他の店員に呼ばれ我に返る。「あっ、はい。すみません。」
「大丈夫ですか?ボーっとしてましたけど。」
「いえ、ちょっと考え事を・・・」智司は苦笑いを浮かべる。
「商品棚を間違えないように気をつけてくださいよ。」軽く注意されてしまう。
「はい。申し訳ありません。」智司は頭を下げる。
(・・・集中しないと。仕事中なんだから)
その後もしばらくレジに立ち続ける。客足が途絶える気配はない。
しかしすみれはあれ以来スーパーには来ていない。
(やっぱりドン引きされたのかなぁ・・・)
あの時は封印していた記憶を一気に吐き出してしまい、興奮状態だった。
しかしだからと言っていきなり怒鳴ってしまったのは、自分らしくないとは思っていた。
それにしても、あんなことをしてしまったので
もう二度と来てくれないかもしれないと思うと少し寂しく思う自分がいた事に驚く。
そして同時に彼女に会えない事が残念だと思う気持ちがある事も自覚してしまう。
そういえば、彼女と初めて会ったのもここだったなと思い出す。
(それともあの男にここに行くのを止められてるんだろうか・・・)
ふとそんなことを考えてしまう。
高校時代の記憶は、彼にとってかなりのトラウマになっており、
どうしても思い出したくない部分は
意図的に封印してしまっているせいか、所々が途切れていた。
(でもあいつの容貌とされたことは覚えている・・・)
正直すみれの事が気にかかるが、ユキヤの事はもっと許せなかった。
(もしすみれさんがあいつに騙されて・・・僕と同じような目に遭ったら・・・)
想像しただけで腸が煮えくり返りそうになる。
その時、店の入り口の自動ドアが開く音が聞こえた。
お客が来たようだ。だが、どうやら1人らしい。
「こんにちは生成さん」聞き覚えのある声だ。
そこにいたのはすみれだった。「あ・・・白石さん・・・」
智司は思わずドキッとする。「買い物ですか?」平静を装う。
「はい。ちょっと買いたい物があって」すみれは笑顔で答える。
「でも、それだけじゃなくて、今夜あなたと話し合いたいと思いまして」「えっ!?」
「ユキヤの事です。」すみれは真剣な表情で告げる。
「あいつの事は・・・その・・・」智司は言い淀む。
「だめですか?」すみれが改めて尋ねる。
「それは・・・」智司は口ごもり目をそらす。「・・・いやなら無理強いはしません。」
すみれはそういうと立ち去ろうとする。
「待ってください!」智司は慌てて呼び止める。
「正直何を言われてもあいつの事は許せないし、話し合っても無駄かもしれません。
それでも・・いいですか?」
彼は不安げに尋ねた。
「もちろん。それで十分ですよ。ありがとうございます。」すみれは微笑んだ。

その夜3人は近くのファミレスに入ることにした。
気まずそうな雰囲気でテーブルを囲む。注文を取りに来た店員が去っていくと、
ユキヤはおもむろに切り出した。
「早速だけど、お前が言ってる奴ってこの中のだれだ?」
不機嫌そうな声で言った後、高3の新学期の集合写真を出す。
「おそらくこれが多分、クラスの人間が全員写ってる唯一の写真だと思う。」
集合写真には、クラス全員が並んでいる。男女それぞれ15人ずつ。
「この中で俺は誰だと思う?」ユキヤは智司に問いかける。「え・・・」
1枚のフレームにクラス全員を収めているため、全員の顔がはっきりしないが、
ボサボサの茶色い髪の表念を指さす。「俺もそう思うよ。こいつが犯人に違いない。」
ユキヤは満足そうに言う。そして次の瞬間、「でも違うんだよなぁ。残念ながら。」
とニヤリと笑った。
「えっ?どういうことなんだ?だって・・・」智司は戸惑う。
「俺はこの時まだ髪を染めてない。ちなみにこのときの俺はこっちね」
ユキヤは写真の中の当時の自分を指さす。確かに黒髪で長さも短い。
「俺も友達に聞くまですっかり忘れてたから人のこと言えないけど、
お前クラスの連中の顔と名前しっかり覚えてる?」「いや・・・あんまり・・・」
智司は自信なさげに答える。確かに同窓会名簿からユキヤの名前を割り出したのは事実だ。
「まあ、そんなもんだろうと思ったぜ。」ユキヤは呆れたようにため息をつく。
「よりによってこんな雑に染めたきったない茶髪と俺を間違うんじゃない!
こっちは毎月美容室できちんと染めてるんだぞ!」
「・・・怒るところそこなんだ」すみれがツッコむ。
「え・・・じゃあこいつは・・・」智司は困惑する。
酒井豊さかいゆたか・・・お前が学校来なくなって、すぐに別で事件起こして退学になってるってさ。
だから卒アルにも同窓会名簿にも名前が載っていない。」
ユキヤは淡々と言う。
「じ、じゃあ僕の後ろの席にいたのは・・・」「まぁ十中八九こいつだろうな」
ユキヤはあっさりと言い放つ。
「あと、ついでに言っとくと、俺の名前と語感も近いからなおさら勘違いしたんじゃないか?」
「ああ、言われてみるとそうかもしれない・・・」智司は頭を抱えてうなだれる。
「でもお前の顔にはすごい見覚えあるんだよな・・・」と智司は考え込んだ後「あ・・・」と叫ぶ。
「・・・すいませんでした!個人的な事なんで今の発言は忘れてください!」
智司は突然申し訳無さそうな顔で謝る。
「ど、どうしたんだよ急に謝って・・・」今度はユキヤが戸惑う番だった。
「まだ何かあるなら言っていいですよ。ユキヤももう怒らないと思うし。」
とすみれが口をはさむ。「お前はまた勝手に・・・」
とユキヤは不満そうだ。
「いや・・・実はですね・・・。」
智司は恥ずかしそうにうつむきながら言った。

「僕、不登校とは言っても・・・単位のために保健室登校はしていたんです。
その時、保健室の窓から中庭が見えるんですよ・・・。」
その話を聞いて、ユキヤの顔色が変わる。
「わりぃ、俺用思い出したんでそろそろ帰・・・」
そう言って帰ろうとするユキヤの襟首をがっつりと掴んで「続けてください」
とすみれがにこやかに囁いた。すみれは笑顔だが目は笑っていない。
「それでですね。僕はいつも昼休みになると窓の外を見る習慣があったんです。
で、ある日、中庭を見ると、あなたがいたんですよ。」
「あー・・・」ユキヤは気まずそうに目をそらす。
「そこで毎回毎回女の子と親しげに話している・・・正直羨ましかったんでしょうね」
智司は照れくさそうに頭を掻いている。
「そしていつもいつも違う女の子と仲良くしてて・・・」
智司の話を聞いているすみれの腕に力がこもる。
「ちょ・・・すみれ・・・首、締まってる・・・!」
悶絶するユキヤにすみれは無言でさらに力を込めてくる。
「それで、羨ましいのと忌々しいので記憶に残ってたんでしょうね。」
智司は一人で納得する。「なるほどね・・・」とすみれが返す。
ここでようやくユキヤは解放された。「・・・し、死ぬかと思った・・・」
「それにしても・・・あんたって人は・・・ホントにどうしようもないわね!」
すみれはユキヤに向き直って怒鳴る。
「まぁまぁ、そんなに責めないであげましょうよ。」
すみれのあまりの剣幕に智司が宥めてしまう。
「ああ、生成さん、こいつ煮るなり焼くなりすきにしちゃっていいんで」
とすみれは智司に向かってにこやかに言い放った。
「だからそれはお前と会うずっと前の話で・・・」ユキヤは反論する。
「いえ・・・そこまでしなくても」智司もとめる方に入る。

結局、智司が二人のケンカを止める形でこの日はおひらきになった。

つづく
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