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番外編:思い出の中で(※いじめ・暴力・胸糞展開描写注意)

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「もう、関口はまたそんなところにいる!」
校庭の隅のベンチで寝転がる男子に対して、
クラスメイトの女子が話しかける。
「…相変わらず世話焼きだなキミは」
関口と呼ばれた男子の方がうんざりした感じに帰す。
「だって、ほら授業始まるよ! 早く行こう?」
と少女は関口の手を引く。長い黒髪が魅力的に見える。
「いいよ、はなしてよ城田さん。」
「だめだよ!授業にはちゃんと出よう?ねっ?」
この女子の名前は城田まどかというらしい。
関口は仕方なく起き上がり教室へと足を向ける。
しかし彼は自分の机に座ると再び横になる。
「もう、無気力すぎだよ君は!」呆れたように言うまどかだが、
関口も一応聞いてみる。いつものことだからだ。
「なんでボクにかまうのさ?」
「んーっとね……」
少し考えてから答える。
「放っておけないんだよね君みたいな子。なんか危なっかしくて。」
「そうかなぁ……。」
よくわからないといった様子の関口。
それを見て彼女はため息をつく。
「まったく……。しょうがないわね」

ここはある小学校の5年3組の教室だ。
一見絵に描いたように仲の良いクラスメイト達だったが・・・

「玲児ー、一緒に帰ろう!」
放課後、まどかがクラスメイトの玲児に声をかける。
二人が幼馴染だというのはクラスの全員が知るところだった。
「おう!じゃあ行くか」
玲児の方も特に断る理由もないらしく快諾する。
二人は仲良く下校した。
途中、ゲームセンターや本屋などに立ち寄りながら帰る二人。
楽しい時間はすぐに過ぎていくもので、あっという間に別れ道である。
「今日は楽しかったぜ!ありがとな」
手を振り去っていく玲児に対し、 手を振り返しながら見送るまどか。
誰が見ても仲の良い二人であった。

またあくる日。
「関口、何してるの?」
突っ立って上を見ている関口にまどかが声を掛ける。
「・・・雲を見ている」と相変わらずそっけない。
「ふーん、じゃああたしもみようかな」とまどかも隣に立って空を見る。
「・・・失敗か。」「何がよ?」
「こういえば気味悪がって近寄らなくなると思ったんだが。」
「失礼ね!あたしをなんだと思ってるのよ!?」
怒るまどかをよそに「ごめん」と一言だけ言う。
「しかし関口体細いねー、背もあたしと変わらないし、ちゃんと食べてる?」
と聞いてくるまどかに「うるさいな」とだけ返す。
実際のところ両親が共働きなせいなのと本人が食に興味がないせいで、
関口の食生活はかなり問題があった。
良くてジャンクフード、悪ければカロリーメイトを
水で流し込んで済ませてしまうこともあった。
それでも本人はあまり気にしていないのだが……

そんな会話をしているところに、玲児が現れる。
どうやら二人の様子を見に来たようだ。
するとすかさずまどかが駆け寄る。
玲児はクラスで人気がありモテていた。
そのためまどかも内心穏やかではないのだ。

二人で帰る途中、玲児がまどかに言う。
「あんまり関口にかかわらない方がいいよ」
「え?どうして?」意外な言葉に驚くまどか。
「なんか得体のしれない奴だし、それに無口だし。」
「でも良い奴だと思うけどなぁ……」
「いや、関わらないほうがいい。何かあった時に面倒だからさ」
「まぁ、確かにそうかもしれないけれど・・・」
まどかがそう言いかけたところで、玲児が神妙な面持ちで言う。
「それに下手に目立ったりすると『標的』にもされかねないからね」
「・・・・・。」そう言われると黙るしかないまどかだった。
そして翌日、事件は起こった。

絵に描いたように明るい仲良しなクラス。
しかしそんなものは幻だった。
実際はクラスの誰かを生贄にすることでまとまっていたクラスだ。
いじめっ子達はターゲットを決め、それに対するイジメを行っていた。
それは男子でも女子でも同じことだった。
その時標的にされていたのは宮田朝美という女子だった。
彼女が何をされていても、無視を決め込むというのがクラス暗黙のルールになっていた。

それを今日まどかがかばってしまったのだ。『標的』が変わった瞬間だった。

以降彼女の周囲の空気は一変した。
当然のように彼女に陰湿な嫌がらせが始まり、
暴力まで振るうようになった。
最初は庇ってくれた玲児も今では見て見ぬふりをするようになっていた。
誰も助けてはくれない。

「ケガとか大丈夫?」そんな時、そっけなく彼女に声をかける人間がいた。
あの関口である。
「あたしにそんなこと言ったら、あなたが次の標的にされるわよ・・・」
まどかは力なく言った。関口は「別に・・・」とだけ言った。相変わらずそっけない。
「・・・なんで?」と聞くと「そういうものだろ」という答えが返ってきた。
「やっぱり変わってるわね、キミって」そう言って笑う。
その笑顔を見て関口はなぜか胸が苦しくなるような感覚を覚えた。

まどかのもとに玲児から電話がかかってきたのはその数日後の事だった。
「今までクラスの連中が怖くて黙ってたけど、本当はキミに謝りたいんだ・・・」

「うん、わかっているよ。」
「それで、今日会えないかな?」
「わかった、どこで待ち合わせする?」
「そうだな、学校近くの公園なんてどうかな?」
「オッケー!じゃあ放課後そこで待っていて!」
玲児との約束の場所に行くとすでに玲児は待っていた。

しかしそれ以外にそこにいたには、
クラスのボス、大畠瑞樹とその取り巻きだった・・・
まどかの顔か血の気が引いた。
「あら、随分と遅い到着じゃない?」
「な・・・なんであなたたちまで・・・?!」
「さぁね、そちらのイケメンな玲児君に聞いてみたら?」
まどかはそこに立っている玲児を見る。
「どういうこと・・・?」
「ごめん、僕嘘をついてたんだ」
「え・・・?」
「僕は君の事が好きだよ。でも『標的』にされるのはもっと怖い・・・」
すまなそうに言う玲児。
「だから・・・ゴメンね。」
まどかの心に深い絶望が訪れた。

その日の夜。
親がいないのをいいことに、一人夜の散歩を決める関口がいた。
特に目的はないが、この静かな時間が好きだった。

彼が学校の近くを通り過ぎようとしたとき、誰かが倒れているの気が付いた。
恐る恐る近づいてみると、どうやら女の子のようだ。
しかも周りには黒いものが散らばっている。
(これは一体……)と思いつつ、声をかけてみることにする。
すると少女はビクッとして起き上がる。
暗がりでよく見えないが、かなり怯えた様子だ。
関口はなるべく優しい声で話しかけてみることにした。
しかし、少女は何も言わない。ただひたすらに震えていた。
そこで関口は散らばった黒いものの正体に気が付いた。
(これは・・・髪の毛?!しかもこんなに沢山・・・)
関口の背中に悪寒が走る・・・
そして小さな声で少女が言った。「見ないで・・・」
その声は・・・まどかのものだった。

まどかの黒髪は見るも無残に刈り取られていた・・・。
『切り取られた』ではなく、『刈り取られた』としか表現できないほど
まどかの頭は酷いことになっていた・・・。
一番髪が短い箇所は頭皮まで見えてしまっていた。

あまりの惨劇に関口も思わず声を荒げる。「城田さん!・・・これは」
まどかは小さく首を振る。
そして泣きそうな顔でこう言った。
―――もう、消えてしまいたい・・・
その言葉を聞いた瞬間、関口の中で何かが切れた。
関口はまどか手を強く握ると、彼女の家まで連れ帰った。
その後のことはよく覚えていない。

それ以来まどかが学校に来ることはなかった。
関口は学校や警察から散々その時のことを聞かれたが、
「通りすがりに発見して後は知らない」としか言わなかった。

さらに数週間が過ぎて、担任からまどかが転校した旨が伝えらえた。
しかしクラスは何も変わらなかった。

クラスのボスである大畠瑞樹が、頭からつま先までの毛をすべて剃られ、
さらに裸にされ縛られた状態で学校の前に放置された姿で発見されたのは
それから程なくしてだった。もちろん学校中で大騒ぎになったが、
犯人は分からなかった。また彼女もこの事件の後学校に来なくなった。

一時期騒然とはなったが、徐々にクラスも落ち着きを取り戻す中、
一人だけ何かにおびえ続ける人物がいた・・・。
玲児である。

彼は事件以来、毎日のように悪夢にうなされていた。
「僕があの時イジメに加担しなければよかったのか?!」そんな夢を繰り返し見た。
しかしある日、ある人物から夜の学校に呼び出された。
そう、あの日まどかを呼び出したのと同じ場所だ。
正直逃げ出したい気持ちで一杯だったが、大畠瑞樹の件を考えると、
いかなければもっと悲惨な目にあることは想像に難くない。

玲児がそこを訪れると、ある人物が後ろを向いて立っていた。
その人物を見て玲児は驚愕した・・・。「まどか・・・・?!」
豊かにたなびく長い黒髪の少女・・・
普通に考えれば遠くへ転校した彼女がこんなところにいる筈ないとわかるのだが、
口を突いて出た言葉は意外なものだった・・・。
「許してくれ・・・僕が・・・悪かった」
それはあまりにも遅すぎた謝罪の言葉だった。

「ふうん、この姿を見て、謝る程度には悪いと思ってたんだ?」
そう言って振り返ったその人物は・・・当然まどかではなかった。
「おまえは・・・?!」
切れ長でどこまでも冷たい目をしたその人物に玲児は見覚えがあったが、
誰であるかがなかなかイコールで結びつかなかった。

ただ、目の前にいるその人物がとても美しいのだけは分かった・・・
「後姿とはいえ、あの子と間違えるなんて、やっぱり背格好が似通ってたんだなぁ」
と感心したように言うと、次の瞬間少女は冷たい笑みを浮かべ、

「最後の最後まで抵抗した大畠とは違うねやっぱり。
まあもっとも彼女も髪と眉毛剃った姿を鏡で見せたら、
何もかもあっさりゲロってくれたけど。
女の子のスキンヘッド姿はなかなか衝撃的だったよ」
その言葉で玲児は凍り付いた。
大畠瑞樹の事件の犯人は間違いなくこいつだ・・・。

玲児はそう確信すると恐怖で動けなくなった。
「で、キミは幼馴染を売ってまで得た安全な生活、美味しかった?」
彼女はまるで虫けらでも見るかのような視線を玲児に向ける。
そして・・・
―――バシッ!!!! 乾いた音が辺りに響く・・・。
彼女の平手打ちによって、玲児の頬は赤く腫れ上がった。
あまりの出来事に玲児は呆然としている。
「最初はボクに関係のないことだから無視を決め込むつもりだったけど、
でもこのことを無視できるほど僕の心は冷淡ではなかったようだ。」
少女は続ける。
「何しろこんなボクに積極的に話しかける変わった子だったしね。
こんな事ならもう少し話してればよかったよ。」
(こんな・・・『ボク』?話しかけていた?・・・)
恐怖に震えながらも、玲児の頭の中では徐々に
この人物の正体についてのパズルが組みあがっていく。
「お前まさか・・・せ・・・」
――バンッ! その瞬間玲児は首をつかまれ身体を校舎の壁に叩き付けられた。
「おっと、それ以上は野暮ってもんだよ。」
「うご・・・うげ!げふっ・・・」
ものすごい力で押さえつけられて玲児は咳込む。
(こいつ・・・狂ってる!)
その正体を悟った瞬間、あまりの異常さに玲児は更なる恐怖に襲われた。
玲児の足元に水たまりができ始める。そうやら恐怖で失禁してしまったようだ。
「安心しなよ。ボクはこれ以上キミに何かするつもりはないから。
キミは幼馴染を自分のために売った負け犬として暮らしていけばいいさ!」

それから暫くして・・・
玲児の頭は丸坊主になっていた…曰く自分で剃ったとの事。
それ以降はずっと何かにおびえて暮らしている。
関口は相変わらずだったが、6年になって遠くにある名門私立を受験するということで、
卒業と同時にこの町から姿を消した・・・。

****
そして月日は流れ・・・
「やぁ先輩!今日も可愛いね!」
グレンがたまたま出くわした圭太をからかう。
「かわいいは余計だ!」と返す圭太が、あるものが落ちてることに気付く。
それは学生証だった。「おい、学生証落としたぞ」と圭太が拾い上げると、
そこには

「2-B 関口 紅」

と記されていた。
「セキグチ・・・?」と見慣れない名前を不思議な目で見る圭太から
グレンは学生証をとりあげ、「本名だよ・・・『関口 紅(セキグチコウ)』」
「あ、ああ、でも『円城紅蓮』は?」と返す圭太に
「・・・そんなの芸名に決まってるでしょう」と呆れるグレン。

彼女とはあれ以来会っていない。
どこでどうしているかも知らない。
(この世界のどこかで助けなかったボクを恨んでいるかもな・・・)
ふとそんな考えがグレンの頭をよぎった。

同じころ。
ある地方都市にある中学校。
校門の前に少女が一人立って空を見上げている。
ショートカットの髪が風によくなびいていた。
「おまたせー!一緒に帰ろう!」と友人が背後から走ってくる。
「こんなところで何してるの?」という問いに少女は答える。
「私、雲を見ていたの」

おわり。
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