上 下
95 / 117

第82話 屍の山、血の海

しおりを挟む

 ルーテは襲いくる魔物を全力で無視し、一人でベヒーモスとリヴァイアサンが待つボス部屋の前までやって来ていた。

「来たか。無知で愚鈍な下等生物よ。これは警告ではなく宣告だ。――その扉の先に一歩でも足を踏み入れれば、貴様は死よりも恐ろしい絶望と苦痛を味わい尽くした後《のち》、命の終わりを迎えることとなる」

 するとその時、扉の向こう側から重々しい声が響いてくる。

「もはや一切の慈悲も残っていません。これから結界を破り、劣等種族である貴方がたを我が子らに殲滅させます。今さら引き返したところで、この世界のどこにも逃げ場などありませんよ」

 どうやら、怒り狂ったベヒーモスとリヴァイアサンは人類を本気で滅ぼすつもりらしい。

 今引き返せば、この世界は二体の産み落とした魔物で溢れ、人々は死に絶えるだろう。

 ルーテは、眠っていた脅威を目覚めさせてしまったのである。

「やっぱり、ボス戦前はこれくらい演出して欲しいですよね……!」

 しかし、この星を未曾有の危機に追い込んだ当の本人は、ようやくボスらしいボスと戦えることに歓喜していた。

「ミネルヴァとオトヒメさんは反省してください!」

 それから、真面目にボスをやってくれなかった二人のことを思い出し、そう呟く。

「貴様が泣き叫びながら死を懇願する姿を見るのが今から楽しみだ……!」
「幾度となく警告を無視した報いを受けるのです」

 ルーテがまともに話を聞かず一人で盛り上がっているので、ベヒーモスとリヴァイアサンはさらに怒り狂った。

「そうです! その感じです! やっぱり、ボス戦前は程よい緊張感がなければいけませんよね! 僕も、ここでゲームオーバーになってしまわないよう最善を尽くさないと……!」

 一人で興奮しながら友情の鈴を取り出し、ダンジョン内に散らばっていた仲間を呼び寄せるルーテ。

「あ、あれぇ? 天使はどこ? そしてここはどこだい?!」
「アハハハハッ! 次アタシにブッ殺されたいのはどいつだァ?」
「漆黒の全員集合」
「●△※☆%~!!!!!!」

 集まったホワイト達は全員もれなく魔物の返り血を浴びているので、先ほどまで壮絶な戦いを繰り広げていたことがうかがえる。

「皆さん、いよいよボス戦です! 気を引き締めていきましょう!」

 ルーテは、発狂しているジェリーの体に纏わりついていた無数のワームを引き剥がして燃やしながら言った。

「ジェリーさん大丈夫ですか?」
ィァチレァくかえりたい! ィァチレァくィァチレァくィァチレァくィァチレァくィァチレァくィァチレァくィァチレァく!」
「何を言っているのか分かりませんが、元気そうで良かったです!」
「………………………………!」

 ジェリーは、一瞬だけルーテに対して本物の殺意を抱いた。

 だが一度敗北して以来、彼に対する恐怖が本能レベルで刻み込まれてしまった為、反逆することはできない。

「このぉ……ッ!」
「い、いはいれすいたいですっ!」

 彼女にできる事は、ルーテの右頬を赤くなるくらい思いきりつねってストレスを発散することくらいである。

「ふぅ……落ち着いた」
「僕はどうしてつねられたのでしょうか? 理不尽すぎます……」

 ルーテは、涙目で頬をさすりながら言った。

「反対側もやってあげる」
「結構です……今は耐久力を上げる時ではないので……」
「そんな」

 ――とにかく、こうして一行は再びボス部屋の前で再集結したのだった。

「さて皆さん。この扉の先に、ボスであるベヒーモスとリヴァイアサンが待ち構える広大な空間があります!」

 気を取り直し、そう説明するルーテ。

「ねえルーテ。やっぱり引きかえ「早速突撃しましょう!」

 彼はジェリーの言葉を遮り、勢いよく扉を開けた。

 ――その先に待っていたのは、堆く積み上げられた屍の山と、真っ赤な血の海である。

 山には二本の角を生やした巨獣が鎮座し、海には白銀の鱗に覆われた龍のような巨魚が佇んでいた。

「ぁ……あ……あ……」

 そして奇妙なことに、屍の中には未だうめき声を上げている者が存在する。
  
 ベヒーモスとリヴァイアサンに挑み、そして敗北した者達は、死んでも死にきることが出来ない。

 身体に不死の細胞を埋め込まれ、産み落とした魔物達に血肉を与え続ける役目を負わされるのだ。

 そうして何千年も身動き一つ取れないまま全身を貪り食われ、自我も意識も完全に消失した時、彼らは初めて救済されるのである。

 積み上げられた屍は、彼らにとっての食糧なのだ。

「来たか愚かな人間よ。ここに転がる無数の肉袋が、貴様らの未来の姿だ」
「貴方がたは何年生かされたいですか? 千年? それとも万年? 好きなだけ、我が子らに与える供物としての生を全うさせてあげましょう」
「あああああっ!」

 刹那、部屋の中に飛び込んで来たホワイトが、その場に膝をついて大粒の涙を流す。

「とっても……とっても綺麗だ……。綺麗な天使がこんなに集まってるだなんて……芸術だよ……!」
「なるほど、死を望む生きた屍か……漆黒の血が騒ぐ」
「……そうだね。珍しく君と気が合ったみたいだ」
「漆黒の握手」

 それから、ホワイトとスクイードはしばらくの間、眼前に広がる惨状を眺め、感傷に浸っていた。

「アタシも血が見てえなあああああああああッ!」
「もうやだ……助けてオトヒメさま……」

 続けて、トワイライトとジェリーも続けて中へ突撃してくる。

「何だこいつら……」
「既に気が触れている……」

 今まで見た事が無い挙動をする人間ばかりが入って来たので、困惑するベヒーモスとリヴァイアサン。

 ルーテは、そんな二体に向かって無詠唱で風魔法を撃ちこむ。

「ぐああああああっ!」
「ひ、卑怯者っ!」
「いざ、尋常に勝負です!」

 かくして、戦いの火蓋は切られたのだった。

「皆さん僕の近くに集まって下さい! 扉の近くに居れば、向こうの攻撃はほとんど届きません! ここは安置です!」

 そして、もうすぐ終わる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

異日本戦国転生記

越路遼介
ファンタジー
五十五歳の消防士、冨沢秀雄は火災指令が入り、出場の準備をしていたところ心不全でこの世を去ることに。しかし目覚めてみれば、戦国時代の武蔵の国に少年に若返って転生していた。でも、この戦国時代は何かおかしい。闘気と法力が存在する和風ファンタジーの世界だった。秀雄にはこの世界に心当たりがあった。生前プレイしていた『異日本戦国転生記』というゲームアプリの世界だと。しかもシナリオは史実に沿ったものではなく『戦国武将、夢の共演』で大祝鶴姫と伊達政宗が同じ時代にいる世界。作太郎と名を改めた秀雄は戦国三英傑、第十三代将軍足利義輝とも出会い、可愛い嫁たちと戦国乱世を生きていく! ※ この小説は『小説家になろう』にも掲載しています。

転生したら主人公を裏切ってパーティを離脱する味方ヅラ悪役貴族だった~破滅回避のために強くなりすぎた結果、シナリオが完全崩壊しました~

おさない
ファンタジー
 徹夜で新作のRPG『ラストファンタジア』をクリアした俺は、気づくと先程までプレイしていたゲームの世界に転生していた。  しかも転生先は、味方としてパーティに加わり、最後は主人公を裏切ってラスボスとなる悪役貴族のアラン・ディンロードの少年時代。  おまけに、とある事情により悪の道に進まなくても死亡確定である。  絶望的な状況に陥ってしまった俺は、破滅の運命に抗うために鍛錬を始めるのだが……ラスボスであるアランには俺の想像を遥かに超える才能が眠っていた! ※カクヨムにも掲載しています

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

魔境暮らしの転生予言者 ~開発に携わったゲーム世界に転生した俺、前世の知識で災いを先読みしていたら「奇跡の予言者」として英雄扱いをうける~

鈴木竜一
ファンタジー
「前世の知識で楽しく暮らそう! ……えっ? 俺が予言者? 千里眼?」  未来を見通す千里眼を持つエルカ・マクフェイルはその能力を生かして国の発展のため、長きにわたり尽力してきた。その成果は人々に認められ、エルカは「奇跡の予言者」として絶大な支持を得ることになる。だが、ある日突然、エルカは聖女カタリナから神託により追放すると告げられてしまう。それは王家をこえるほどの支持を得始めたエルカの存在を危険視する王国側の陰謀であった。  国から追いだされたエルカだったが、その心は浮かれていた。実は彼の持つ予言の力の正体は前世の記憶であった。この世界の元ネタになっているゲームの開発メンバーだった頃の記憶がよみがえったことで、これから起こる出来事=イベントが分かり、それによって生じる被害を最小限に抑える方法を伝えていたのである。  追放先である魔境には強大なモンスターも生息しているが、同時にとんでもないお宝アイテムが眠っている場所でもあった。それを知るエルカはアイテムを回収しつつ、知性のあるモンスターたちと友好関係を築いてのんびりとした生活を送ろうと思っていたのだが、なんと彼の追放を受け入れられない王国の有力者たちが続々と魔境へとやってきて――果たして、エルカは自身が望むようなのんびりスローライフを送れるのか!?

未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ
ファンタジー
四十一世紀の地球。殆どの地球人が遺伝子操作で超人的な能力を有する。 日本地区で科学者として生きるヒジリ(19)は転送装置の事故でアンドロイドのウメボシと共にとある未開惑星に飛ばされてしまった。 そこはファンタジー世界そのままの星で、魔法が存在していた。 魔法の存在を感知できず見ることも出来ないヒジリではあったが、パワードスーツやアンドロイドの力のお陰で圧倒的な力を惑星の住人に見せつける!

処理中です...