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第33話 観光客、新たな観光地へと向かう

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「またこの町に来てねーっ! マシロ様ーっ!」
「うぅっ! こんなに早く旅立っちまうなんてよォ……! 英雄は救わなきゃならねぇ町が多くて忙しいんだなっ!」

「旅の安全をお祈りします……どうかご無事で、マシロ様……!」
「次にご来店いただいた際は、我が店の裏メニューを提供いたします。もちろんお代はいりません!」
「他の町のギルドマスターにもよろしく頼むぞい」
「タカシブラザーズの護送は我々にお任せください! もう悪さはさせません!」

「うおおおおおおっ! マシロォーーーーーーーーッ!」
「ああ、なんて凛々しくて素敵なお方なのかしら……!」
「アンタは間違いなくこの町の英雄だよっ! 胸張って歩きな!」
「マシロおにーちゃんまたきてねー!」

 ……俺達は大勢の人間に取り囲まれ、やたらと盛大に見送られて命からがら水の都『クレイン』を後にしたのだった。

 *

「さっ、寒すぎるわ! ますたー!」

 その後、平原を街道に沿って歩いていると、リースがぶるぶると震え始める。

 ――俺たちが現在向かっているのは、クレインの更に北方にある雪山の町『ルーノス』だ。

 辺りを見回してもまだ雪が積もっている様子はないが、気温はだいぶ下がってきているらしい。

「あぁんっ、こ、このままではぁ……氷の精霊になってしまいますぅ……! 私は……これでぇ……っ!」

 真っ先にダウンしたのはディーネだった。わざわざ召喚してやったのに引っ込んでしまったので、当分は役に立たなそうである。

 どうせなら、寒さも甘んじて受け入れて欲しいものだな。やはり、あくまでも精霊の「化身」なので変態としての練度も低いのだろうか。

「自由に引っこめるなんて……ず、ずるいわ……!」

 リースは震えながらディーネに対して文句を言った。

「あたしもますたーの中に引っこむ!」
「やめろ」

 一応、こうなることを見越して寒さを凌ぐ装備は身に付けさせているのだが……それでもまだ足りないらしい。

「……トーチ」

 俺はひとまず、自分たちの周囲を明るく照らすトーチの魔法を唱えることにする。
 魔法によって生み出された光源は微《かす》かに熱を発しているので、多少は寒さもマシになるはずだ。

「これでどうだ?」
「ちょっとだけ……暖かくなったわ……! ありがとますたー!」

 リースはそう言うと、俺の近くにぴったりとくっ付いて歩き始めた。

「……ところで、ベルは平気なのか?」

 軽快な足取りで先頭を歩くベルを見てふと気になった俺は、背後からそう問いかける。

「ぜんぜん平気です! これくらい、寒いうちに入りません!」

 すると、ベルはこちらに振り返って元気よく答えた。

「どうかしてるわね……」
「ひ、酷いよリースっ!」

 今日も平和だな……と思ったが、ここ最近はクラスメイトを換金したり水の変態を押し付けられたりしていて、別に平和な日々を過ごせてなどいなかった。

 やれやれ、なんということだ。

 ――と、そんなこんなで先へ進んでいると次第に周囲が雪景色へと変わり始めた。町が近づいている証拠である。

「ご主人様! 雪です!」

 おまけに雪まで降り始めたらしい。前を歩いていたベルが振り返り、嬉しそうに上空を指さす。

 よほど雪が好きなようだな。やはり犬。

「あっちの雪に飛び込んでも良いですかっ?!」

 他よりも少し盛り上がっている雪を指さしながら、キラキラした目でそう問いかけてくるベル。

「……ダメだ。下に何があるか分からないからな」
「スライムでも隠れていたら、一瞬で飲み込まれて溶けちゃうわよ。岩だったら血だらけだし、木の杭だったら串刺しね! 恐ろしくて雪になんて飛び込めないわ!」
「あぅ……」

 俺とリースから反対され、しょんぼりとするベルだったが、それでも諦めずにこう言ってきた。

「じゃあ、下が安全だって分かったら飛び込んでも良いですよねっ! サーチの魔法を使います! 何もなかったらみんなで飛び込みましょうっ!」
「……どちらにしろ、遊ぶのは町に到着してからだ。野外だと魔物に襲われる可能性がある」
「うぅ……雪なのにぃ……」
「悪いな。トリートの魔法を使ってやるから、飴玉でも舐めていろ」
「分かりました……」

 そんなこんなで、雪景色を前に暴走するベルをどうにか宥めつつ、俺たちは町に向かってひたすら歩くのだった。
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