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第56話 アニ、のぼせる
しおりを挟む「あ、うぅ…………」
「も、申し訳ありませんアニ様。ドレースからの提案で、お姉ちゃんとして裸の付き合い……もとい、アニ様のお背中をお流ししようとしたのですが……はしたないものを見せてしまいました……っ!」
オリヴィアは、のぼせた僕のことを膝枕しながら言った。
お風呂上がりのオリヴィアからは、すごく良い匂いがした。
……僕は……もう駄目かもしれない。
体が火照っておかしくなってしまいそうだ。
「オリヴィア……」
「な、何でしょうか?」
「僕……どうかしちゃったみたい……。オリヴィアを見てると……胸の辺りが締め付けられるような感じがするんだ……」
「へ?!」
「病気……なのかな……? それとも……お風呂でのぼせたせい……? それか……」
「あわわわわ、わわわわわっ?!」
オリヴィアは、何故か目をキョロキョロさせながら慌てる。
心配をかけてしまったのかもしれない。
「ドレースさんは……どう思う……?」
僕は、オリヴィアの隣で心配そうな顔をしながら僕のことを見ていたドレースさんに問いかける。
「ぶひいいいいいいいっ! わ、私の口からはとても言えませんわっ!」
「ななな、何を考えてるんですかドレースっ?! ち、違います! アニ様は少し疲れているだけです! 頑張り屋さんなので!」
必死になって何かを否定するオリヴィア。
「これはチャンスですのよオリヴィア! あなたがそんな風ではいけませんわ! 私は部屋を出て行きますから、どうぞ二人きりで――「い、行かないでください! 人の目があるから我慢できているんですっ! ……アニ様にもしものことがあったらドレースのせいにしますよっ!」
「ぶひ……そう言われると、急にあなたが危険な人に思えてきましたわ……」
若干オリヴィアから離れて座り直すドレースさん。
「ち、違います! 今のは間違えて本心を……じゃなくて、誤解なんですっ!」
「…………オリヴィア。やっぱりあなた、もうアニ様に手を……」
「ど、どうしてそうなるんですかっ!」
「むしろそうとしか考えられませんわ……。確かに私はアニ様のお背中をお流しするよう提案しましたが……まさかあなたまで服を脱いでアニ様の居るお風呂に突入するとは思いませんでしたもの……」
「だ、だって……お姉ちゃんは弟と一緒に寝たり……一緒にお風呂に入ったりするのが普通なのかなと思ったので……!」
「…………ぶ、ぶひ。まあ、姉弟には色々な形があっても良いと思いますわ……」
「言葉を濁さないでくださいっ!」
「ぶひぃ…………」
オリヴィアがすごく焦っているみたいだけど、頭がぼーっとしているせいか、話についていけない。
「だいたい、アニ様が無防備すぎるから私が勘違いしちゃうんですっ! お姉ちゃんに対してもっと恥じらいを持ってくださいよっ! 一緒のベッドで寝るのとかもちゃんと嫌がってくださいっ!」
「え……? ご、ごめんなさい……」
いきなり怒られてしまったので、僕は少しだけしょんぼりする。
僕にも恥じらいがなかったなんて……さっきエリーに注意したばかりなのに……。
「アニ様……可愛そうですわ……」
「愛の鞭です! 無防備なアニ様が不埒な輩にたぶらかされては困るので!」
「ぶひっ……!」
ドレースさんは、びっくりしたように目を見開いた。
「――耳の痛い話ですわね……リーン様……本当に……反省してください……。あなたが男性を襲う心配はありませんが……」
そして、小声で何かを呟く。
「と、ところでアニ様。こんな状況で言うのは心苦しいのですが……明日は『準備』があるのでなるべく早起きしていただけると助かります」
ドレースさんはふと僕の方を見て、そう告げてくる。
「うん。分かった」
僕は頷いた。
――なんでも、メイベル達は明日、フェルゼンシュタイン家の別荘に招かれ、そこでお詫びされることになったらしい。
詳しいことは知らないけど、フェルゼンシュタイン家の三姉妹が、メイベル達のことを襲おうとしたそうだ。
いくら相手が女の人で自由奔放な魔族だからって、妹達に手を出そうとしたことは許せない!
だから、僕はドレースさんに無理を言って、みんなの護衛としてフェルゼンシュタイン家の別荘へ着いて行くことにさせてもらったのだ。
いくら反省しているとはいえ、相手は強力な呪文を操る魔族。
もう二度とメイベル達に対して間違いを起こさないように、僕が見張っておくのだ。
「……無茶なことお願いしてごめんね……ドレースさん」
「いいえ、元はと言えば私どもの責任。ヴァレイユ家の当主様には何も報告しないというソフィア様の寛大なご判断と比べれば、このくらいのことは造作もありませんわ」
「……家出がばれたくなかっただけだと思うけど……」
「ソフィア様達の家出に関しても、出来る限りの支援をさせていただきますわ。それくらいさせていただかないと釣り合いません……!」
「あのソフィアがこんなに信頼されるなんて……!」
どうしてだろう、ソフィアの成長に感動すると同時に、ものすごく申し訳ない気持ちになってくる。
「……とにかく、明日が早いなら……もう寝ないとね…………ぐぅ」
オリヴィアの膝枕で心地良くなってしまった僕は、そのまま眠ってしまった。
――後からドレースさんに聞いた話によると、僕はオリヴィアにお姫様抱っこをされてベッドまで運ばれたらしい。
聞いていてすごく恥ずかしい気持ちになった。
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