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悪意のお茶会

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 令嬢には令嬢同士のお付き合いがある。



 きょうのシャーロットお嬢さまは、ブライス公爵家のカミラ嬢のお茶会にお呼ばれしている。



「ふう」

 ブライス邸に向かう馬車の中、お嬢さまは小さくため息をついた。心持ちうつむいている。

 そんなお嬢さまはきょうもかわいらしい。

 紺色のデイドレスと帽子は、ピンクの髪と白い肌をひきたたせる。



 うん、かわいい。

 わたしは満足する。

 リカちゃんサイズにして持ち歩きたいかわいらしさだ。

 手乗りお嬢さま。

 うふっ。

 おしゃれカフェに行って、おしゃれスウィーツとならべて写真を撮ったら、さぞかしかわいかろう。

 キラキラブルーのクリームソーダとか、真っ赤なイチゴソースのかき氷とか、シャインマスカットのタルトとか。



 はっ! 

 リカちゃんサイズのお嬢さまにマスカットを持たせたらどうだろう。

 両手で抱えるかんじで。スイカみたいに!

 やだ! めっちゃかわいい!

 イチゴとか。

 バナナに乗せてみたり。

 レインボーわたあめの上に乗せてみたり。ふかふかと。



 スマホ! スマホがあれば!

 撮りまくるよー。加工もいっぱいしちゃって。

 シャーロットフォルダはすぐにいっぱいになるだろうな。



「カミラさまって、ちょっとこわいのよね」

 妄想にふけっていたら、お嬢さまがぽつりと言った。

 わかります。わたしもあの人ちょっとこわいです。

 どんなときでも、うすい笑みを浮かべていて、お面かなって思うくらい、表情がかわらない。

 なにを考えているのかわからないのだ。表情の裏の感情が、一切わからない。

 こわい。



 ぜったい、裏がある。

 お茶会が終わったら、だれがなにを言ったとかノートに書いていそう。お茶会デスノート。



 お嬢さまが、いやいやながらもこうして向かっているのにはわけがある。



 カミラは王太子殿下の婚約者候補の一人だった。けっきょく選ばれたのはルイーズさまだったのだが、どうもそれを根に持っているようなのだ。

 シャーロットお嬢さまに対するローズ・ウィンチェスター。

 そんな関係。



 しかも、ルイーズさまとカミラの家は同格。招待を毎回断るわけにもいかない。それでも二回に一回は断っているのだけれど、いかんせん回数が多い。しつこく誘ってくる。

 どうあっても呼びつけたいらしい。行けばカミラの取り巻きたちが手ぐすね引いて待っている。

 ルイーズさまは敵陣にひとりで乗りこまなくてはならないのだ。



 カミラ自身はなにも言わない。言うのは取り巻きたち。自分の手は汚さないタイプ。

 思い出すボスママと取り巻きたち。ざわっとする。



「王太子殿下はカミラさまにやさしくほほえんでくださったのよ」

「特別におことばをかけてくださったの」

 それに、なんと答えればいいのだ。

 ルイーズさまには日常茶飯事だ。なんなら、チュッてする。ほっぺだけど。きゃ。



 だからルイーズさまを孤立無援にしないように、シャーロットお嬢さまも出席なさる。

「わたしはだいじょうぶだから」

 ルイーズさまはそう言うけれど、そこで「そうですか」と引き下がるほどお嬢さまは薄情じゃない。



 カミラの取り巻きは三人。カミラを入れて四対二。

 しかも、シャーロットお嬢さまもルイーズさまも、女の戦いにガンガン切り込むタイプじゃない。

 どっちかっていうと防御するのみ。

 それをいいことに、やつらはつけ上がる。まったく!



 きょうは天気がいいのでお庭でのお茶会。ちょうどバラが見ごろ。さすが公爵邸、すばらしいバラ園である。

 あまり見たことのない、黄色いフリフリのバラとかある。なんだろうあれ。すごくかわいい。帰りにおみやげにくれたりしないだろうか。

 ……バラに罪はない。

 

 侍女たちは、すぐ隣に用意してもらったテーブルにつく。お茶もお菓子もお嬢さまと同じものが出された。

 ラッキー。おいしそう。

 性格は悪いが気前はいい。



「きょうのお茶はいかがかしら。南方の国のお茶ですって」

 カミラが言う。

「まあ、とってもさわやかでおいしいですわ」

 取り巻きその一。

 たしかに、ミント風味でさわやかだ。はちみつが入っているのか、ほんのり甘い。

「デイビス商会のお茶ですの?」

 取り巻きその二。

「そうですの」

「あの商会が扱っているものは確かですものね」

 取り巻きその三。



 デイビス商会はいくつかある王都の商会の中でも一番高級なお店である。王室御用達。彼らを使うのは一種のステイタスなのだ。



「ルイーズさま」

 カミラが言った。

 ああ、こいつヘビみたいだ。アナコンダのように、ひんやりとした感触でじわりじわりと締め付けてくる。

 いっしゅん、ざわっと寒気が走った。



「いかがです、このお茶」

「ええ。とってもおいしいですわね」

 ルイーズさまはにこやかに答える。

「こんど、王家の皆さまにも献上しようと思いますの」

 だからなんだ、アナコンダ。

 王室にはとっくに納入していると思うけど。

「きっと皆さま、お喜びになりますわね」

 能面で返すルイーズさま。



「ルーク殿下もことのほか、お喜びになるのじゃないかしら」

 カミラの目があやしく光った!



 ん? なんで、ルーク殿下?

 シャーロットお嬢さまもルイーズさまも、きょとんとする。



「あらあ、いやだわ、カミラさま。シャーロットさまの前でおっしゃってはいけませんわ」

 取り巻きの三人が笑った。きゅうっと目を細めて、口角がいびつに吊り上がる。



 ああ、いやだ。集団でひとりをつるし上げるときの特有の顔だ。



「ルーク殿下とルイーズさまが特別に仲がよろしいなんて、告げ口みたいですわ」



 はあ?

 こいつら、なにを言ってんの?

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