上 下
273 / 282
ドラゴンと独立宣言の章

バカにつける薬はないのだ

しおりを挟む
とりあえず本国の貴族連中なんてどうでもいい。交流も何もない上に陛下達の頭痛の種でしかない。

「領民に罪はないが、ま・・・皺寄せに耐えてくれとしか言いようがない」

ごね得を狙っていたバカはご愁傷さまだし、おこぼれを狙っていた連中も軒並み肩透かしだろう。まさか俺たちだけで自給自足できるとは思っていなかっただろうしな。

「この食べ物美味しいですね」

数日後、中継基地建設の最中、再び視察の名目で訪れたアレクシアにクルム麦で作ったうどんを振る舞う。人数分用意したので護衛の面々もにっこり。麺類はどこでも人気だな。

「ああ、これ旨いだろ」

ずるずると箸を使って啜ると皆が俺の動きを真似して食べ始めるのがなんとも言えない可笑しさがある。扶桑の人ではうどんは既にポピュラーな食べ物になったので獣人でうどんの食べ方に悩むものは少ない。

「それで、うどんを食いに来たのか?」
「むぐっ・・・ごくん、そんなわけありません」

そう言うと彼女は一通の文書を手渡した。

「これがアルトリア王女から届きました」

こんな大っぴらな場所で取り出すなよと、言うべきだったのは内容に目を通す前だった。

「調停役が要るのか・・・また」

文書にはザンナル帝国皇女のアルトリア。その公文書だった。

「あんまり俺を便利屋扱いしてくれるな、無関係な事にまで首を突っ込みたくない」

アルトリアには悪いが権利のほとんどはサマルに委譲してる。俺に持ってこられても困るし、ザンナルの隣国までには伝もコネもない。

「わかってます、けど・・・良く見てください」

内容には隣国との関係悪化と、それに・・・。

「娘を迎えに行く?どう言うことだ?」
「扶桑国にいる獣人の女性がどうにも王族の子供らしいです、そうなると無関係とはいきませんよね?」

そう言われるとたしかにそうだ。しかし獣人の王族?どこの部族か知らないがどうしてまたそんな・・・いっちゃなんだが辺境へやってきたんだ?

「獣人達にそんなやんごとない血筋の子女はいなかったはずだが・・・」
「ほとんどがザンナル出身でしたっけ」

逃亡奴隷の面々とフィゼラー出身の獣人で構成されている扶桑国の獣人達。それ以外となると戸籍を調べ直さないといけない。

「まったく、そうなるとややこしい問題だ・・・すまないが復興事業からは一時抜けさせてもらうぞ」
「ええ、仕方ないです」

アレクシアはそう言うとお出汁を全部飲み干して器を机においた。なかなか強かになってきたんじゃないか?お代わりしようとして部下にとがめられていなきゃそろそろ一人前かともおもったが。

「あーあ、今度はどこの国が揉め事を持ち込んできたんだ?くそぅ・・・のんびりしてぇなぁ」

愚痴をこぼしながら俺は一路扶桑へと帰国する。

「おかえりなさい、旦那様」

屋敷に戻り、まずは一休みとベッドに腰かけると先に帰国していたアウロラが俺を出迎えてくれた。

「ただいま、アウロラ。可愛がってやりたいが面倒事でな・・・戸籍の一覧表を見せてくれ」
「どうかなさったんですか?」
「ザンナルの隣国にある国の事を聞いたことがあるか?」

そう言うとアウロラは少し考えた後、思い出したように手を叩いた。

「そう言えば・・・獣人族の部族で構成された国があると聞いたことがありますよ」
「今回の揉め事の発端はどうやらその国だ」
「うー・・・そうなると、えっとぉ・・・だれだったかなぁ・・・」
「知らないのか?」
「すみません、最近同胞が増えすぎてて・・・」

ダークエルフに同族意識が強いと言っても今ほど多人数で暮らした経験がなかったのか彼女も仲間の顔を覚えきれずにいるようだった。
仲間がたくさんできたと喜ぶべきなのかなんなのか・・・。

「獣人の事情に詳しいやつを教えてくれ、だれだ?」
「そうなるとハーフのダークエルフかエルフを探すべきでしょう」

そういわれてハッとなった。そういえば彼女達ダークエルフ達は様々な種族と婚姻を結んでいるんだったか。子供もたくさんいるんだな。

「しかし父親の元にいるんじゃないのか?母親も・・・」
「子供だけを設けて外に出るものも多いですが扶桑国ができてから国を出奔したり、所属する部族を抜けたハーフも多いです。元より居る場所のない者や継承者争いを嫌がって抜けて来たものばかりですがね」

継承者争いか・・・そうなると今回の獣人の国の話と合致するかもしれんな。

「そうなると獣人のハーフを探すべきか・・・アウロラ、悪いが目ぼしいダークエルフ全てに声を掛けてくれ」
「承知しました」

彼女に頼んでダークエルフのハーフを探してもらい、目当ての人物がいればそいつをつれて隣国の揉め事に当たらないといけない。
さて、事情がどこまでその人物から聞けるかだ。
しおりを挟む
感想 84

あなたにおすすめの小説

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...