上 下
236 / 282
ドラゴンと独立宣言の章

センチメンタルはほろ苦く

しおりを挟む
「なぜ彼がバレストラ公爵だとわかった?」

俺がそう尋ねるとアージェ王子は少年が身につけている腕輪を指差した。

「あれは大伯父上しか身につけることの出来ない特殊な魔道具です。有事に安否を知らせるためのものなのです」

アージェ王子によるとアレはかつて戦時中に家人の安否を知らせるために貴族達が作らせた腕輪で本人にしか装着できず、そして生命か精神の死を持って破壊され、対になった腕輪にそれを知らせるのだという。大抵は夫婦などに贈るのが通例らしい。

「なるほど・・・しかしそれを知っているという事は王子はそのデザインをどこかで見たのか?」
「ええ、見ました・・・忘れるはずもない。母の腕にあった腕輪と同じデザインですから・・・」

最初の一対は奥方に、そしてその次の一対の片方はアージェ王子の母御に贈ったようだ。そしてその母御もそれを後生大事に持ち歩いているとの事。

「そうか・・・仮に本人だとしてあの有様はなんだ?若返る魔法など聞いたこともないが」
「確かに魔法はありません、ですが呪いはあります」
「なんですって?!」

アウロラの言葉を受けて皆の視線が彼女に集まる。どうやら彼女にはバレストラ公爵がこうなってしまった理由に心当たりがあるようだ。

「確かにダークエルフはさまざまな魔法や呪術に精通すると聞き及びますが・・・これは一体全体どういうことなのですか?」
「ダークエルフの一族にも体術や権謀術数に長けた者も居れば一見何の役にも立たないような魔法や呪術を生み出した者達も数多おります」

そう言うとアウロラは少し困ったように言う。

「その術は恐らく『ティアージョーカーズ』というエルフとダークエルフ混合の呪術師集団の仕業かと」
「ティアージョーカーズ?」
「彼女達が生み出した呪術は有体にいえば相手に一時の感傷を呼び起こしたりする為のものなのです」
「なるほど・・・しかしあのように若返るのでは如何様にでも加減が効くはずだが?」
「殆どがエルフやダークエルフ目線で作られたそれを舐めてはいけません。それにアレは若返っているのではなく、公爵から『時間を奪って』いるのです。故に今の彼は文字通り子供に戻ってしまっている・・・勘違いする者も多いのですが若くなり続ける事も若さを調節する事もできません」

あくまで外見と中身を一時的に幼児後退させているだけだという。もちろん寿命もそのままなので下手をすると寿命が尽きるまで幼児後退したままであったりするという文字通りの『呪い』なのである。

「呪術ではありますが魔法的な内容を殆ど含まないので魔法封じの護符や魔道具で防ぎきる事は難しいのです」
「解呪は可能か?」
「無理矢理元に戻すなら専門家を呼ぶ必要がありますが、方法がないわけではありません」
「方法が?」

呪術には相手の精神に反応するモノが多い。相手の精神が強ければ強いほど呪術は掛かりにくくなり、呪術師はそれを力量を用いて強引に精神力を突破して相手を術中にかける。もしくは相手が弱った所や弱点を利用して隙を突くのだ。狐人族の呪術師が毒物や幻覚を利用して相手の判断力や注意力を奪うのはそのためだ。

「彼女達『ティアージョーカーズ』の目的です、それを達成すれば大抵解除されます」
「目的?」
「彼女達がかける呪いを解くには呪いを掛けられた人に強い感情、感傷的な状態にするのが一番なのです。特にラブロマンスを思い出すといのが彼女達の最も望む所ですね」
「お涙頂戴ってか、キツイジョークもあったもんだぜ」

玄関先であれこれと話し込んでいると何時の間にか低い場所からの視線を感じる。皆が視線を下げるとその下に小さな子供が紛れていた。

「お前達、余の邸宅でなにを話しているのだ?」

元気なチビッ子と化してしまったバレストラ公爵である。

「公爵閣下の邸宅はお広いと話しておりました」
「うむ、自慢の庭だぞ!像もたくさんあるからな!」

自分で作ったのを覚えているのかいないのか、自分の作品を笑顔で自慢するバレストラ公爵に俺達は苦笑するしかなかった。

「しかし主である余に挨拶もナシとはその方ら無礼であろう、名はなんというか?」
「これはとんだ失礼を・・・私はアージェと申します閣下」
「アージェか、そなたはアンジュにそっくりだな!きっと偉くなるぞ、そうしたら私の右腕にしてやろう!」
「それは有難き幸せです」
「アンジュとは?」
「余の弟だぞ、ちょっと生意気だが可愛い弟だ」

仁の御仁であるとの前評判の通りなのか、バレストラ公爵は子供になっても人あたりがよく人懐こい性格をしているようだった。しかしながら王子が自分の姪の子供と言う事には流石にこの状態では気付けないのか。しかし若い頃のアンジェリーノ侯爵はアージェ王子にそっくりなのか。

「しかし遅いなぁ、エレオノーラは・・・」
「ッ・・・王城にいらっしゃるのですからそう遅くはならないと思いますよ」
「そうだといいが・・・彼女の為に紅茶を用意してあげたいのだ」

バレストラ公爵はそう言うと寂しげに呟く。するとメイド長であるアリエッタは悲しげに表情をゆがめながらもすぐさま表情を正すと笑顔でそう宥める。

「エレオノーラとは・・・まさか」
「ええ、大伯父上の奥方で・・・もう亡くなっています」

アージェの呟きは彼の耳には届かず、ただ風が吹き抜けるだけであった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

(旧)異世界で家出して貴族にお世話になります

石コロコロ
ファンタジー
ある日、目が覚めると異世界! しかも赤ん坊!\(^o^)/ ウキウキしてた主人公の親はなんと! 虐待してくる酷いやつだったから 家出をした主人公! そして貴族になることになった主人公は、、( ̄▽ ̄)ニヤリッ さてどうなるのかな

面倒くさがり屋の異世界転生

自由人
ファンタジー
~ 作者からのお願い ~  この物語はフィクションの創作物であり、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。現実と混同されることのないようにお願い致します。 ~ 簡単なあらすじ ~  どこにでも居る冴えない男である主人公【加藤 健】は、社畜としての日々を送っていたが、ある日、交通事故に巻き込まれ短い生涯に幕を閉じることになる。  目が覚めると辺り一面真っ白な世界。女神と名乗る女性から説明を受けるが、好みだった為についつい口説いてしまう。  そんなどこにでも居るような男が第2の人生として異世界へ転生し、封印された記憶の中にある生前の理不尽さに反応するトラウマを抱えつつも、思いのまま生きていくために日々を重ねていく物語。  基本的に主人公は好き勝手に生きていきます。どう行動するかはその時の気分次第。身内に甘くそれ以外には非情になることもある、そんな人柄です。  無自覚にハーレムを形成していきます。主人公が成人するまではショタとなりますので、抵抗のある方は読むのをお控えください。  色々と場面展開がおかしかったり、誤字脱字等ございますが何卒御容赦ください。 ★基本的に現実逃避のため自己満足で執筆しています。ブックマークして頂いたり、評価して頂いたりすると何かとやる気に繋がりますので、楽しんで頂けたなら是非ともよろしくお願い致します。レビューや感想も受け付けております。誤字や脱字報告も併せてお願い致します。

実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、pixivにも投稿中。 ※小説家になろうでは最新『勇者祭編』の中盤まで連載中。

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。 書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。 【第六部完結】 召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。 一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。 だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった! 突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか! 魔物に襲われた主人公の運命やいかに! ※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。 ※カクヨムにて先行公開中

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

令嬢である妹と一緒に寝ても賢者でいられる方法を試してたらチート能力が備わった件

つきの麻友
ファンタジー
◆ファンタジー大賞参加中です◆ ◆毎日更新、頑張って執筆します◆ ◆解説◆ ◆異世界転移転生した者は本気を出すと、一般人に比べて十倍のパワーとスピード能力を発揮できたのです。 それに気づかない主人公は毎晩、隣で寝る妹に沸き上がる欲望を押さえつけて賢者になるために、妹達が寝静まってからゴソゴソと筋トレをしました。そのおかげでチート能力が身に付いていたのですが、なんと魔王討伐時は、およそ百倍にもなっていたのでした◆ ◇本編あらすじ◇ ◇ある日、異世界の国王が住む城に転移した冴えない主人公の月野ウタルは、追手から逃げている時に猫耳の姫達にかくまってもらうことに。 その後、和解して仮の兄妹として生活することになったのだが、悩みは毎夜、二人の妹達と一緒に寝ることだった。 妹達の間に挟まれながら寝て、一緒にお風呂入って、チート能力で楽しく魔王討伐に旅立つストレスフリー物語 ◆よろしければ応援投票お願いいたします◆

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...