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ドラゴンと独立宣言の章
センチメンタルはほろ苦く
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「なぜ彼がバレストラ公爵だとわかった?」
俺がそう尋ねるとアージェ王子は少年が身につけている腕輪を指差した。
「あれは大伯父上しか身につけることの出来ない特殊な魔道具です。有事に安否を知らせるためのものなのです」
アージェ王子によるとアレはかつて戦時中に家人の安否を知らせるために貴族達が作らせた腕輪で本人にしか装着できず、そして生命か精神の死を持って破壊され、対になった腕輪にそれを知らせるのだという。大抵は夫婦などに贈るのが通例らしい。
「なるほど・・・しかしそれを知っているという事は王子はそのデザインをどこかで見たのか?」
「ええ、見ました・・・忘れるはずもない。母の腕にあった腕輪と同じデザインですから・・・」
最初の一対は奥方に、そしてその次の一対の片方はアージェ王子の母御に贈ったようだ。そしてその母御もそれを後生大事に持ち歩いているとの事。
「そうか・・・仮に本人だとしてあの有様はなんだ?若返る魔法など聞いたこともないが」
「確かに魔法はありません、ですが呪いはあります」
「なんですって?!」
アウロラの言葉を受けて皆の視線が彼女に集まる。どうやら彼女にはバレストラ公爵がこうなってしまった理由に心当たりがあるようだ。
「確かにダークエルフはさまざまな魔法や呪術に精通すると聞き及びますが・・・これは一体全体どういうことなのですか?」
「ダークエルフの一族にも体術や権謀術数に長けた者も居れば一見何の役にも立たないような魔法や呪術を生み出した者達も数多おります」
そう言うとアウロラは少し困ったように言う。
「その術は恐らく『ティアージョーカーズ』というエルフとダークエルフ混合の呪術師集団の仕業かと」
「ティアージョーカーズ?」
「彼女達が生み出した呪術は有体にいえば相手に一時の感傷を呼び起こしたりする為のものなのです」
「なるほど・・・しかしあのように若返るのでは如何様にでも加減が効くはずだが?」
「殆どがエルフやダークエルフ目線で作られたそれを舐めてはいけません。それにアレは若返っているのではなく、公爵から『時間を奪って』いるのです。故に今の彼は文字通り子供に戻ってしまっている・・・勘違いする者も多いのですが若くなり続ける事も若さを調節する事もできません」
あくまで外見と中身を一時的に幼児後退させているだけだという。もちろん寿命もそのままなので下手をすると寿命が尽きるまで幼児後退したままであったりするという文字通りの『呪い』なのである。
「呪術ではありますが魔法的な内容を殆ど含まないので魔法封じの護符や魔道具で防ぎきる事は難しいのです」
「解呪は可能か?」
「無理矢理元に戻すなら専門家を呼ぶ必要がありますが、方法がないわけではありません」
「方法が?」
呪術には相手の精神に反応するモノが多い。相手の精神が強ければ強いほど呪術は掛かりにくくなり、呪術師はそれを力量を用いて強引に精神力を突破して相手を術中にかける。もしくは相手が弱った所や弱点を利用して隙を突くのだ。狐人族の呪術師が毒物や幻覚を利用して相手の判断力や注意力を奪うのはそのためだ。
「彼女達『ティアージョーカーズ』の目的です、それを達成すれば大抵解除されます」
「目的?」
「彼女達がかける呪いを解くには呪いを掛けられた人に強い感情、感傷的な状態にするのが一番なのです。特にラブロマンスを思い出すといのが彼女達の最も望む所ですね」
「お涙頂戴ってか、キツイジョークもあったもんだぜ」
玄関先であれこれと話し込んでいると何時の間にか低い場所からの視線を感じる。皆が視線を下げるとその下に小さな子供が紛れていた。
「お前達、余の邸宅でなにを話しているのだ?」
元気なチビッ子と化してしまったバレストラ公爵である。
「公爵閣下の邸宅はお広いと話しておりました」
「うむ、自慢の庭だぞ!像もたくさんあるからな!」
自分で作ったのを覚えているのかいないのか、自分の作品を笑顔で自慢するバレストラ公爵に俺達は苦笑するしかなかった。
「しかし主である余に挨拶もナシとはその方ら無礼であろう、名はなんというか?」
「これはとんだ失礼を・・・私はアージェと申します閣下」
「アージェか、そなたはアンジュにそっくりだな!きっと偉くなるぞ、そうしたら私の右腕にしてやろう!」
「それは有難き幸せです」
「アンジュとは?」
「余の弟だぞ、ちょっと生意気だが可愛い弟だ」
仁の御仁であるとの前評判の通りなのか、バレストラ公爵は子供になっても人あたりがよく人懐こい性格をしているようだった。しかしながら王子が自分の姪の子供と言う事には流石にこの状態では気付けないのか。しかし若い頃のアンジェリーノ侯爵はアージェ王子にそっくりなのか。
「しかし遅いなぁ、エレオノーラは・・・」
「ッ・・・王城にいらっしゃるのですからそう遅くはならないと思いますよ」
「そうだといいが・・・彼女の為に紅茶を用意してあげたいのだ」
バレストラ公爵はそう言うと寂しげに呟く。するとメイド長であるアリエッタは悲しげに表情をゆがめながらもすぐさま表情を正すと笑顔でそう宥める。
「エレオノーラとは・・・まさか」
「ええ、大伯父上の奥方で・・・もう亡くなっています」
アージェの呟きは彼の耳には届かず、ただ風が吹き抜けるだけであった。
俺がそう尋ねるとアージェ王子は少年が身につけている腕輪を指差した。
「あれは大伯父上しか身につけることの出来ない特殊な魔道具です。有事に安否を知らせるためのものなのです」
アージェ王子によるとアレはかつて戦時中に家人の安否を知らせるために貴族達が作らせた腕輪で本人にしか装着できず、そして生命か精神の死を持って破壊され、対になった腕輪にそれを知らせるのだという。大抵は夫婦などに贈るのが通例らしい。
「なるほど・・・しかしそれを知っているという事は王子はそのデザインをどこかで見たのか?」
「ええ、見ました・・・忘れるはずもない。母の腕にあった腕輪と同じデザインですから・・・」
最初の一対は奥方に、そしてその次の一対の片方はアージェ王子の母御に贈ったようだ。そしてその母御もそれを後生大事に持ち歩いているとの事。
「そうか・・・仮に本人だとしてあの有様はなんだ?若返る魔法など聞いたこともないが」
「確かに魔法はありません、ですが呪いはあります」
「なんですって?!」
アウロラの言葉を受けて皆の視線が彼女に集まる。どうやら彼女にはバレストラ公爵がこうなってしまった理由に心当たりがあるようだ。
「確かにダークエルフはさまざまな魔法や呪術に精通すると聞き及びますが・・・これは一体全体どういうことなのですか?」
「ダークエルフの一族にも体術や権謀術数に長けた者も居れば一見何の役にも立たないような魔法や呪術を生み出した者達も数多おります」
そう言うとアウロラは少し困ったように言う。
「その術は恐らく『ティアージョーカーズ』というエルフとダークエルフ混合の呪術師集団の仕業かと」
「ティアージョーカーズ?」
「彼女達が生み出した呪術は有体にいえば相手に一時の感傷を呼び起こしたりする為のものなのです」
「なるほど・・・しかしあのように若返るのでは如何様にでも加減が効くはずだが?」
「殆どがエルフやダークエルフ目線で作られたそれを舐めてはいけません。それにアレは若返っているのではなく、公爵から『時間を奪って』いるのです。故に今の彼は文字通り子供に戻ってしまっている・・・勘違いする者も多いのですが若くなり続ける事も若さを調節する事もできません」
あくまで外見と中身を一時的に幼児後退させているだけだという。もちろん寿命もそのままなので下手をすると寿命が尽きるまで幼児後退したままであったりするという文字通りの『呪い』なのである。
「呪術ではありますが魔法的な内容を殆ど含まないので魔法封じの護符や魔道具で防ぎきる事は難しいのです」
「解呪は可能か?」
「無理矢理元に戻すなら専門家を呼ぶ必要がありますが、方法がないわけではありません」
「方法が?」
呪術には相手の精神に反応するモノが多い。相手の精神が強ければ強いほど呪術は掛かりにくくなり、呪術師はそれを力量を用いて強引に精神力を突破して相手を術中にかける。もしくは相手が弱った所や弱点を利用して隙を突くのだ。狐人族の呪術師が毒物や幻覚を利用して相手の判断力や注意力を奪うのはそのためだ。
「彼女達『ティアージョーカーズ』の目的です、それを達成すれば大抵解除されます」
「目的?」
「彼女達がかける呪いを解くには呪いを掛けられた人に強い感情、感傷的な状態にするのが一番なのです。特にラブロマンスを思い出すといのが彼女達の最も望む所ですね」
「お涙頂戴ってか、キツイジョークもあったもんだぜ」
玄関先であれこれと話し込んでいると何時の間にか低い場所からの視線を感じる。皆が視線を下げるとその下に小さな子供が紛れていた。
「お前達、余の邸宅でなにを話しているのだ?」
元気なチビッ子と化してしまったバレストラ公爵である。
「公爵閣下の邸宅はお広いと話しておりました」
「うむ、自慢の庭だぞ!像もたくさんあるからな!」
自分で作ったのを覚えているのかいないのか、自分の作品を笑顔で自慢するバレストラ公爵に俺達は苦笑するしかなかった。
「しかし主である余に挨拶もナシとはその方ら無礼であろう、名はなんというか?」
「これはとんだ失礼を・・・私はアージェと申します閣下」
「アージェか、そなたはアンジュにそっくりだな!きっと偉くなるぞ、そうしたら私の右腕にしてやろう!」
「それは有難き幸せです」
「アンジュとは?」
「余の弟だぞ、ちょっと生意気だが可愛い弟だ」
仁の御仁であるとの前評判の通りなのか、バレストラ公爵は子供になっても人あたりがよく人懐こい性格をしているようだった。しかしながら王子が自分の姪の子供と言う事には流石にこの状態では気付けないのか。しかし若い頃のアンジェリーノ侯爵はアージェ王子にそっくりなのか。
「しかし遅いなぁ、エレオノーラは・・・」
「ッ・・・王城にいらっしゃるのですからそう遅くはならないと思いますよ」
「そうだといいが・・・彼女の為に紅茶を用意してあげたいのだ」
バレストラ公爵はそう言うと寂しげに呟く。するとメイド長であるアリエッタは悲しげに表情をゆがめながらもすぐさま表情を正すと笑顔でそう宥める。
「エレオノーラとは・・・まさか」
「ええ、大伯父上の奥方で・・・もう亡くなっています」
アージェの呟きは彼の耳には届かず、ただ風が吹き抜けるだけであった。
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