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ドラゴンと動力機関の章

オットー達の事情 その4

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何分たったのか、サラはだいぶ落ち着いたのか時折嗚咽をもらしながらも徐々にその声は小さくなっていった。

「落ち着いたか?」
「うん・・・」

それでいい。子供は泣いていいんだから。今までそうできなかったのはただ単に運が悪かっただけの事だ。

「落ち着いたんなら顔洗って来い、そしたらお前の義叔父さんに会いに行こう」

サラは俺の言葉に頷くと洗面所へと走っていった。俺は廊下でそれを見送りつつ、彼女達の行く末を今一度考えるのだった・・・。






「いやー、待たせたな」
「お待たせー、義叔父さん」
「お、義叔父さん?!」

部屋に入るなりの身内宣言に唖然としているオットーを尻目にサラは服のポケットからロケットを取り出して見せる。

「正確には義叔父さんには面識無いけど叔母さんの顔は知ってるからね」

ロケットの中にはこの時代には超希少な品といっていい魔導銀の写真があった。写真と言うよりは絵の印刷といったところか、その中には仲睦まじく並んで微笑む二人の女性が描かれている。

「これは・・・アリーナと、キミのお母さんか」
「うん、この銀板の後ろに名前もあるんだよ」

ナイフで銀板のカバーを取り外し、写真の裏を見るとそこには『アリーナとルーニエ』と文字が刻まれており、ロケットの中には小さな紙切れが入っており『何かあれば娘を頼む』とだけ短く書かれていた。

「これは遺言か・・・ならば最早これは妻とキミのお母さんだけの問題ではないね」

そう言うとオットーはサラの肩に手を置いてまっすぐに彼女の瞳を見つめる。

「我が家は決して家族を見捨てない。妻が望み、そしてキミのお母さんがそう望むのであれば私はどんな苦労をしてでも君を幸せにしてみせよう、だから・・・私と一緒に来てくれないか?」
「うん、いいよ。ただ・・・此処も私の故郷みたいなものだから、時々帰ってきたいの。それでもいい?」
「もちろんだとも、彼らは家族の、キミの命の恩人だからね」

そう言うと二人はにっこりと笑って手を取り合った。それからはとんとん拍子で話が進み、迎えに来たオットーの妻が感極まって泣き出したりと色々とあったがそれでも最終的には彼女達もとても幸せそうだった。ただヒューイのもらい泣きが酷くキモかったのは内緒だ。
これは余談だがこの後サラが後継者として養子に入ったギュンター家は10年後彼女の成人に伴って大改革を行い、ギュンター家は没落寸前から彼女の代で最盛期を迎える事となるがそれはまた別のお話。

「しかしまー・・・前例作ればこうなるとは思ってたけどよ・・・」

孤児院に居た子供が実は貴族の落とし胤でした、そしてそれを引き取りに来たってなもんでそれからというものの何人かの貴族がやって来てはやれこの子はウチの子だのなんだのと言う輩が現れ始めることとなり、その対応に苦慮する事となる。
しかも直系こそ居ないものの遠戚くらいには関係のある子供も実際にはいたので対応はメンドくささを極め、最終的には子供達の中で年齢の高い子にはダークエルフの護衛をつけた後に意思を尊重して送り出し、小さい子は教育受けた後にある程度の年齢に達してからと言う事にして貴族達を納得させる事に成功した。

「あーもう、やっと帰ったぜ・・・疲れたー」
「彼らのこういうことに対するバイタリティって何なのかしら」

二週間後に契約をする為に訪れた貴族達と話し合いの場を正式に設け、二人して契約書や勝手においていった寄付と言う名の褒賞金などの処理に悪戦苦闘し、ゲイズバー商会から会計士を呼び寄せて契約書の業務に当たってもらうなどしてようやく騒動は決着がついた。
この時貴族に養子に行く事を決めた子供は20人近くおり、全員が15歳以上だった。流石に一桁の子供を送り出すのは可哀想なので彼らと同じ15歳以上になるまで我慢してもらう事になった。
彼らにはそれぞれ御家の台所に入れないという契約で金貨をある程度持たせ、ダークエルフの護衛を付ける事で彼女達のある程度の発言権を持たせて送り出すことにする。
ダークエルフ達は全員を経験豊富な内政にも明るいベテランを抜擢することで彼女達の将来的な執務を担う家庭教師の役割を持たせ、彼女達が傀儡にされるのを防ぐ事と道を間違えないようにするアフターケアも行うこととした。
貴族達はお目付け役をつけられる代わりに内政に明るい護衛兼家庭教師を得るため一部を除く人材不足にあえぐ貴族にありがたがられた。何よりダークエルフ達はリットリオやサマルの政治方式のみならず外国の政治体系にも知識があったため家庭教師としてはもちろん、長生きして知識を多量に溜め込むので下手な学者よりも詳しいのだ。中には彼女に教えを請いたいという貴族まで居た。

概ね好評の中に終わったこの一連の出来事は貴族達に受け入れられていくこととなる。しかしこのときの選択は後々ヴォルカンの思いもよらない結果となって彼の元に戻ってくるのである。
そう、彼は考えていなかったのだ。孤児院の子供達はヴォルカンの頼みは決して断らないくらい懐いており恩も感じている。そんな彼女達が次世代の貴族となっていく意味を・・・。
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