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集落をつくろうの章

とある鍛冶屋の末路

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平謝りを続け、とりあえずは支配人の理解を得たバラムはそれから早めに方々の店を回り、ゴンゾが店を辞めたことと不始末の後始末に奔走する事になった。
しかし他の職人達の表情は一様に厳しく、職人ギルドから孤立する事になった。

(どういうことだ・・・もしかすると俺はヤバい立場に立たされているのか)

内心そう思ったがだからと言って今度ばかりは彼も逃げ場がないのだ。そもそもサマルから技術泥棒を続けて居場所を無くし、流れ着いた最期の場所が此処である以上もはや観念してこの店に居続けるか大人しく薄給の雑用をこなすかしかなかった。
 少し前ならマフィアに技術を売り渡せば彼らのネットワークを利用できるかとも思っていたがそれももはや望めなくなり、むしろ足を洗うチャンスと裏の人間を騎士団に突き出し褒賞金で店の施設拡充に当ててしまっている為例え古巣に戻ったとして仲間を売った人間を誰が信用するかと言う話だ。
 今までの行いのツケという言葉が彼の頭に浮かんでは消える。

 「どうすれば・・・俺は間違っていたのか?」

つぶやけど答えが返ってくることはない。こうなってしまった以上どうしたらいいのかわからない。方々に頭を下げては見たものの自身のした事が齎したものは想像以上に厳しいものだった。
 薄利多売で今は賑わってはいるものの職人に見抜かれる仕事の粗さはやがて一般人にも浸透するだろう。そして自らの師匠を追い出して店を大きくしたという事実が明るみになれば店のイメージも終わってしまう。
 彼らがそれを敢えて口に出さないのは遅かれ早かれ二代目ホットショットが潰れる事を見越してのことだろう。そして職人ギルドで孤立した以上店が潰れたからといってホットショットの関係者が再び職人達の店に就職することは難しくなるだろう。

(くそっ・・・これじゃあ店が潰れてしまう)

薄利多売を支えるための大口の客を敵にしてしまった以上薄利多売で利益を上げるしかない。しかし刃物のノウハウが限られている以上それを続けるのは難しく、その間に悪い噂でも流されれば商売は頓挫する。
ブランドとそれに見合う品質があれば売り込みも掛けられるが此方の売りは今のところ若手の体力と僅かなデザイン性のみで基礎の技術の荒さから品質は決して高くは無い。仮に薄利多売で儲けられても若手が息切れすればお仕舞いだし、質の悪さで客が離れればそもそも店が立ち行かない。

(こうなったら仕方ない・・・恥も外聞もすてて師匠を探すしかない)

結局彼が頼れるのは自らが追い出した師匠だけだった。あまりにも軽率な自分を彼は許してくれるだろうか。いや、仮に許してくれなくてもせめて若手の潔白だけでも証明しなければ彼らが不憫である。
しかしながら衛兵に聞き込み、街の人に頭を下げて聞き回ったところ彼はリットリオを出てしまったということを聞いた。

(お、おわった・・・)

バラムは夕暮れ時の街中で一人、どうにかならないものかと奔走してみたがもはや手遅れであり安さに惹かれていた客も徐々に遠のきつつある。
 結局バラムは職人ギルドに向かい、全ての罪を告白して地に頭をつけて赦しを請うしか道はなかった。そして只同然のはした金で全ての店を手放すことと何も知らぬ若手をクビにしない事を条件にしてもらい、ようやく彼は地面から顔を上げることができるのだった。
それから一週間後も経つと彼はふらふらと幽鬼のように街をさまよい、やつれた姿で徘徊する姿は師匠を裏切り、数多の商店を廃業に追い込んだ罪深い男の哀れな末路を示していた。
 三十代の年齢とは思えぬほどに老け込んだ彼は白髪交じりの髪で深い知性を感じさせていたホンの数日前とは見違えるほどに落ちぶれていた。
その日暮しで仕事を貰っては食いつなぎ、今まで顎で使っていた人間に諂いながら金を稼ぐのは余りに惨めで彼が犯してきた罪の重さを体現するかのようであった。

 「あっ!すまねえ!」

ふらふらと歩く中、ガタイの良い男とぶつかり倒れこんだバラムは疲れ切った顔で会釈すると立ち上がろうとした。しかし、その男はバラムを捕まえると肩を掴んで声を掛けた。

 「お前バラムか!?」

 知り合いかと思い霞んだ眼を凝らして見て見るとそれはかつて自分が追い出した師匠であった。

 「し、師匠?」
 「随分とやつれたな・・・」

 自分を微塵も責めることなく自分を気遣う姿に彼はもはや耐え切れなくなり彼に縋りついて懺悔するしかなかった。

 「師匠・・・!俺が間違ってた!赦してください・・・!俺が・・・俺が馬鹿だった・・・!」
 「もう言うな、俺は運良く新しい働き口につけた・・・もうなにも気にしちゃいねえよ」

ゴンゾの年齢は60歳近くになっていたが長命なドワーフ故に少しばかり若く見えるがそれを差し引いても同年齢かと思えるほどバラムは窶れ老け込んでいた。
 最初こそ文句もいってやろうかとは思っていたが綺麗にしていた身なりもすっかりみすぼらしくなり、顔から覇気も知性の輝きも無くして足もとに縋りついて泣きじゃくる彼を前にゴンゾはもう何も言えなくなっていた。
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