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集落をつくろうの章

ゴブリンたちのお話

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俺は彼等が入れそうなくらいの家を見繕うと家の表札に『カロッゾ』と名前を刻んだ。コボルト謹製の家屋は大人数で暮らすことを前提に作られているので十人前後でも大丈夫だろう。

 「よし、これが今日からお前達の家だ」

 人間の姿になって家を一軒割り当ててやるとカロッゾ達は驚いた様に眼を見開いている。

 「わ、我々に住処を提供してくださるのですか?!」
 「ああ、お前達はこれから俺が創った国の住人として発展に寄与してもらうつもりだからな」
 「ありがとうございます!」

これは前金だと思ってくれと伝え、そして家具も無い事をセットで伝えておく。
 感謝されるのは嬉しいがそれだけに彼等の苦労が窺える。
 獣に怯えて暮らし、人間と戦いながら発展してきた彼等にとってそれを気にしないで生活できると言うのはそれだけで素晴らしいことなんだろう。

 「早速で悪いが俺は現在は食料の確保を優先目標にしているが・・・農業の経験はあるか?」
 「そうですな・・・人間の農業はわかりませんがクルネ麦を育てた事がありますじゃよ」

クルネ麦、それは人間の世界で言うところの雑穀に近い物で見た目は麦に似ているもののパンには適さずお米のように炊いて食べると独特の粘りがあり日本人の味覚からすればそこそこ美味い。さらに蒸してこねると甘みが出て餅のようになる。
おまけに病気に強く、水もそれほど必要としない代わりにこの作物はなんと魔力が必要になる。従って栽培には魔素のある場所か魔法使いによる魔力の供給が必要になるため庭先に作るならともかく農業としてするには適さないとして半ば廃れてしまった作物なのだ。

 「苗はあるか?」
 「種ならございますじゃ」
 「なるほど・・・ならばカロッゾにはこのクルネ麦の栽培を目指してもらおうか、幸い魔力の供給くらいならコボルトやダークエルフ達もできるだろうからな」
 「仰せの通りに」

 自分に役割が出来て嬉しいのだろう、顔に出来た皺をふかくしてカロッゾは了承した。農業を始めるに当たって穀類の栽培方法を知っていると言うのは非常に嬉しい。技術者を雇うと考えると家一軒は投資としてはさして高くないだろう。
 食料を自給できればそれだけで負担は少なくなるし狩りよりも安定した収入を見込めるからだ。

 「お前達もカロッゾを助けてやるのだぞ?」

 後ろの子供達にもそう言ってやると子供達も力強く頷く。時間は掛かるだろうがまずは穀類の生産から始め、種類を増やしながら林業で貨幣を稼ごう。それまでは狩りや持ち出しで食料を買うしかないだろう。

 「それじゃあ明日からでも始めてくれ、それじゃ・・・」
 「王様!ベッドが出来たよ!」

 農業に適した土地を広げようかと思ったところでコボルトの職人が俺の服のすそを引っ張る。忙しいからと後回しにしようと思ったがベッドとのことなので俺はすかさず彼等の報告に耳を貸すことにする。

 「どのようなベッドが出来た?」
 「王様みたいな人でも余裕で寝れるようなのだよ!」

 俺でも寝ることができると言うことはサイズも考慮に入れてくれていると言うことか。コボルトは体格が小さいので自然とサイズが小さくなる傾向があるが家を作った時の様にサイズを人間サイズに調整してくれているようだ。

 「王様に最初に使って貰おうと思ってみんなで作りました!」

 嬉しいこといってくれるじゃないの、正直素泊まりにも限界を感じてたところなんだよ。内心ウキウキしながら俺は搬入も済ませてくれたとのことなのでそういうことなら一旦休憩を挟もうかなどと考えて見る。
 使い心地後で教えてくださいね!と元気良く叫んで作業に戻っていった彼等に感謝しつつ寝室へと小走りで向かう。

 「どれどれ・・・こ、これは!?」

 頑丈そうな骨組みが直方体に組まれ、角と角に紐が結ばれ繋がれた布が緩やかな弧を描いて張られていた。キャンプとか戦艦の乗員とかが良く使っているアレだ。

 「つ、釣床・・・!」

ベッドと言っていたので固定概念に縛られていたが彼等は少ない材料でこの釣床をくみ上げたのだろう。考えても見れば木材こそあるものの布も綿も藁すらほとんどない状況でこれだけのことをしてくれたのだ、文句は言うまい。
 身長にもたっぷりと余裕があり、継ぎ接ぎが幾つもあったが寝るには問題ないくらいの出来栄えである。

 「ありがたいと考えるべきなんだろう・・・」

 体を預けてみるとこれが存外寝心地がいい。まるで彼等の真心のようだ。硬い床に比べたら雲泥の差といえよう。

 「これは・・・布の確保も必よ〈ビリッ!ドサッ!〉・・・必要だな」

さすがに何時破れるかわからない継ぎ接ぎではさすがに眠れやしない。頑丈な布も用意することにしよう。破れた釣床を補修し俺はこれから必要になってくるであろう物資の確保する手段を考えつつ、藁でもなんでもいいからベッドで眠りたいと思うのだった。
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