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集落をつくろうの章

閑話・とある青年騎士の話

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場所は変わってリットリオ。訓練場で気が抜けたように佇む一人の青年がいた。
それは数週間前にヴォルカンと模擬戦をしていたベルダーだった。

 「・・・」

どことなく無気力に、それでいて時折苛立ちを見せながら訓練場で剣を握り締めていたがやがて籠に剣を放り込むと大股に訓練場を後にする。彼が此処まで意気消沈する姿はたとえまだまだ多感な若者だとしても珍しいことであり、事実それに至るに十分すぎる事が彼の身内に起こっていたのである。

 「人身売買って・・・なんでそんなこと・・・」

 彼の実家ノボトニー家は実際の所余り裕福とは言い難かった。リットリオはサマル王国と平和協定を結んで長く平和が続いていたが主に対騎士、対戦場用に武芸を磨いてきた彼等の一族にとってそれは己が技量を発揮する場所を失ったに等しかった。
 更には一族が信奉する大剣と重装鎧が家計を圧迫していたのもあった。開祖から連綿と受け継がれてきた武具の管理と維持が徐々に嵩み、研ぐにしても手間がかかるし傷をなくす為の修理代などが必要になればさらに悲惨になった。
 鞘に収まらぬ大剣故に竹光などで誤魔化すことも出来ず馬鹿正直に儀礼用の大剣も発注し、その度に領地の経営こそ及第点の手腕だったものの家計は苦しくなる一方だったようだ。
それからは絵に描いたような転落が待っていた。税を取り立てる訳にも行かず、かといって商売をするだけの手腕が一族にあるわけでなし、それで居て商人を雇い入れるだけのコネもなく金策の為にプライドを捨てる事もできなかった。ついには借金とその利子を払う為にマフィア共の片棒を担ぐ者が親族から出始めるとそれからの転落はまさにあっという間だった。
しかし本来ならば借金とて返す方法が無いわけではなかったのだ。なぜならリットリオの王都には闘技場があり、訓練場がある。己が流派を闘技場の戦士や訓練場に詰める兵士達に門扉を開けばよかったのだ。
 月謝を貰って鍛え、闘技場ビジネスを展開してド派手な大剣の闘技を披露すれば間違いなくウケたと確信できていた。なにせ流麗な技がなくとも大剣は振るうだけで目立つし、豪快なノボトニー家の技は恐らくエンターテインメントや集団戦でかなりの力を発揮できたに違いないからである。
しかしなにより彼をいらだたせたのはそう言った苦しい家計にもかかわらず自分の意見も聞かずに爪弾きにしていたノボトニー家の面々だった。

 「結局俺は後始末係かよ・・・」

 本来ならば次男として軒並み逮捕か嫌疑を掛けられている親族達の代わりにノボトニー家を相続する義務があったが残りの親族が彼の言う事を聞かないことや、多重債務という現実はもはや領主としての教育も半端で非才かつ商業のイロハも知らない彼に今更領地の運営を行うことなど無理だったのだ。
 実際、彼は長剣や槍と言った武具を扱うのに才があり、親族に無断であちこちに師事していたため傭兵やヒラでなら騎士も夢ではない実力がある。

(このまま帰ったって借金に塗れて領地で飼い殺しにされるだけだ・・・運が悪かったら俺もあいつらみたいに・・・)

ベルダーの目には引き回されて刑場に連行されるマフィア達の姿が映った。民衆達はそんな彼等に冷たく、そして憤怒、憎悪を篭めた視線を投げかけている。

(クソッ、親族ってだけであんな目に遭うのは御免だ・・・!)

幸いにして彼自身は領地にすら居らず訓練場で汗を流していることなどが騎士団の目に留まっていたり、師事していた武芸者達から良識のある青年として見られていたためアリバイも相まって無実と今はなっている。しかし貴族や騎士には連座で裁かれる罪もある為安心は出来ない。
しかも資金繰りに喘ぐリットリオでは貴族の口減らしが影ながら始まっており、王都に住んでいるからこそ解る地方貴族達に向かう皺寄せが貴族であり騎士という立場上痛いほど解った。
このまま此処に残って連座の罪が無い事を祈るか、故郷に帰って自分を軽んじる親族に囲まれて借金を返す為だけの生活を送るか。選択肢などあってないようなものだった。

 「もう此処には居られないな・・・いや、もとよりこの国に俺の居場所なんて無かったのかも知れないな」

 実家からは爪弾きにされ、此処での暮らしも思い返してみれば何処かで家族を見返したい気持ちで一杯だった。家族や故郷を捨てる今そんなことはどうでもよくなった。
 急いで旅支度を始め、誰に告げるでもなく住み慣れた部屋を出る。

 「もう此処には戻らない・・・さようなら」

 剣と頑丈なつくりの槍を手に旅支度を背負ってサマル王国の国境を目指すことにする。サマル王国は木工品の輸出で潤う国であり、貿易は陸、海のどちらもある。国境沿いの領地にはアダムスターという一族が居るらしいのでもしかすると訓練場で出会ったかの御仁の事がなにか解るかもしれない。
 彼は今マフィアとの戦いを重ねて何処かを放浪しているとの噂だったので故郷にもしかしたら戻っているかもしれない。
そう思いつつ国境へ向かって歩を進めていると奇妙な一団と出くわした。
 旅人のようなマントと剣や武器を携えた一団。それだけならどこかの傭兵か、冒険者のパーティかと思うが異様な点がいくつか見えたので思わず凝視してしまった。

 「あの長耳って・・・エルフ?」

 言い切る前に彼女達の漆黒の髪色と褐色の肌から察した彼は言葉を飲み込んだ。

 「暗殺ギルド・・・!」

ダークエルフが高い戦闘能力と魔術の力を利用して設立したギルドでこの集団から狙われて生き延びた者は居ないとさえ言われる恐るべき暗殺集団。
そんな彼女達が人気の無いところとはいえ白昼から武器を携えて歩いていると言う事は・・・間違いなく仕事の最中であると言うことだった。
そこでベルダーの記憶の中にキーワードが浮かんでは消え、やがてある噂が彼の頭の中にハッキリと浮かんだ。

(マフィアが暗殺ギルドと契約したらしい・・・)

マフィアの襲撃の案件で知り合いの騎士から聞いた話によると赤毛の大男がマフィアの拠点を潰して回っているとの事だった。まさかとは思うがしかしたった一度の手合わせと言えどあのようなことが出来る御仁ならばと内心勝手に納得し、勝手に尊敬していたがその噂が出回ってからと言うものの気が気でなかったのだ。

(おそらく奴らはヴォルカン殿を狙っているに違いない・・・)

マフィアの数はどんどんと減っている物の全滅した訳ではないし追い詰められた奴らが彼に標的をつけても可笑しくないのだ。そうなると彼女達をこのまま帰す訳にはいかない。

(俺が何処までやれるか・・・ええいままよ、俺のやりたいことをやるんだ、此処で死ぬなら其処までの人生だ)

汗ばんだ手をズボンで拭い、槍を握る手に力を篭めるとベルダーはこっそりと彼女達の後をつけることにする。
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