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いざ行かん、リットリオ

龍の咆哮 その4

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しばらくして騎士団が完全に砦を攻略する少し前にアウロラは帰ってきた。主人を守った鎧が熱を持っていたので水をぶっ掛けて冷却する。
 水蒸気が上がるほどの熱だが本人は全く熱くなかったというのだから魔道具や防具というのは馬鹿にできないものだ。

 「頭目は全滅してたし、見て欲しくないものがありそうなところは全部暴露して来たから組織達に追っ手が掛かるのは時間の問題よ」

ぶるぶると首を振って水気を飛ばす彼女に俺達はこの場所での仕事の完了を確信し痕跡を抹消して砦を後にした。




 「団長!砦は完全に制圧しました!」

 太陽が沈み掛ける頃には騎士団によって砦は完全に制圧され、その際に収集した遺留品からこの街に巣食う悪党共の息の根を止めるに等しい悪事の証拠が大量に押収された。これは家に帰れるのは当分先になりそうだとアイノは思うほど全域に跨る裏社会の面々の悪事が帳簿や計画書といった内容で残されている。

 「大殊勲でしたね!」

 手柄と戦闘の余韻から興奮冷めやらぬ若い騎士が声を弾ませる。

 「うむ、大掛かりな物は少ないかも知れんがネズミ共の始末が残っている。一週間は首都掃除が続くぞ」
 「望むところです!」
 「よし、遺留品は一つも残すなよ?全て詰め所に持ち帰り何処の組織の物か調べさせるんだ」

 指示を飛ばすと喜んで走り去っていく。仕事をくれと言わんばかりの若さと義憤に溢れる青年騎士達を見るとアイノも若返ったような気分になる。しかしながらこんな無茶が利くのは10年も前に過ぎてしまったので事後処理を部下に任せ、筆記官に遺留品の記録を依頼すると先んじて詰め所へと戻ることとした。

 「よう、仕事は一段落ついたかい?」
 「ああ、これから残党狩りといった所だよ。お披露目は幾分先延ばしになるだろうが勘弁してくれ」

 詰め所では団長の執務室で当然のように待っていたヴォルカンにもはや諦めたように首を振ってから答える。
ボスの集いに乗じて巨悪を妥当することには成功したもののそれらに乗じて、もしくは命令されて動いていた者たちはいくらでも居る。それらを打倒しないことには影響を完全に払拭したことにはならず速い段階で再興してしまいかねない。

 「役人さんは大変だな」
 「ああ、悪党を倒してハッピーエンドとなれば良かったんだがね」

 精神的な余裕が出来てきたからか肌の色が大分とよろしくなっているので個人的にも安心した。彼等ならマフィア連中の息の根を止めるのにもそう時間はかからないだろう。

 「大きな結果が出るには時間が掛かるだろう。それまでにこっちはこっちで話を纏めておこうかな」

とりあえず細かい連絡を取り合うことだけを約束してアイノとヴォルカンは別れた。少なくともアイノはこの事件が終わる頃にはこの国も自分たちが住む街も良いものになるだろうと考えていた。

 「とりあえずダークエルフ達との因縁にケリをつけないとな」

 事態がどのように転ぶにしても彼女達との因縁には早い目に決着をつける必要がある。散り散りになった裏組織の面々には騎士団も苦労しそうだし、フィゼラー大森林に残してきたダークエルフ達も気になる。
 禍根を残さない為にもダークエルフ達を殺すことは出来ないし、エルフ達との折衝も含めて頭を捻る必要がある。その為にも早々に決着をつける事が理想と思われる。

 「・・・で、お兄さんは私達の所へ来たと」

フィゼラー大森林に戻った俺は捕虜にしたダークエルフ達に交渉を行うべく彼女達を集めて話している。皆が理解できないといった表情をし、さすがのアルカも呆れ顔である。

 「いくら負けたからって仲間を売るような真似をすると思う?」

 彼女達に冷笑に近い物が浮かび、見上げる視線が酷く冷たい。
 彼女達に交渉してみた内容というのは率直に彼女達の拠点を教えてくれないかと言う事だったが・・・まあ、上手くいかなくて当然といったところだ。

 「まあ普通はそう思うよな・・・でもこれからの事考えるとそろそろ決着を着けたいんだ」

ダークエルフ達との決着とエルフ達との確執と・・・。

 「それにお前さん達の出資者は俺が潰しちまったしな」
 「そんなのは関係ないよ、仕事をやり遂げるのは当然の事だからお兄さんの首を彼等の墓前に捧げるだけ」

 俺は彼女達の至極当然な態度に頭を掻いた。正論故に説得も難しい・・・。
 権威を見せびらかすようで嫌だが・・・。

 「もういいや、アルカ。俺が馬鹿げた要求をする理由を今から教えてやる・・・しかしこれから何が起こっても冷静に話してくれよ?」
 「理由ってなに?もしかしてエルフ達の回し者だったりするの?」

エルフ達の関係者と言う事が俺の沈黙から察することが出来たのか捕虜全員から強い敵意を向けられる。

 「やれやれ・・・お前等はどうしてそう・・・」

 元はただのドラゴンの庇護を受ける信者だったと言うのに何故こうも敵対するのか・・・。ええい、もうめんどくせえ!

 俺は鬱憤を吹き飛ばすように咆哮を上げ、翼を広げてドラゴンの姿に変身する。
 俺の真の姿であり、俺の力の源でもある強さの証。

 『お前達の争いを見かねてやってきたのだ。それが白龍と黒龍の願い・・・それでも解らんかァ!』

ヤケッぱちでごまかし気味に叫んで見る。人間困ったら叫んでしまうのはどうしてだろうか・・・俺だけかもな。
それにしても反応が薄いな・・・どうしてだ?いや、慌てるなと言ったのは俺だが・・・。

 「・・・原初の王・・・」
 『なに?』

 一人がそう呟くと同時に皆が一斉に額を地面に擦り付けた。

 「「「「申し訳ありませんでしたぁ!」」」」
 『うん?・・・いや、解ればいいんだよ。うん』

 叱ったらガチ泣きされたくらいの気まずさだ・・・。どういうことだ?原初の王?どういうことよ!

 「まさか・・・まさか世界創造の祖であられる火の神龍様がおでましになっているとは思わず・・・!」

ダークエルフ達は額を擦りつけながらそう言う。すると原初の王というワードで俺の頭に再び古代の龍達の記憶が蘇って来る。
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