上 下
52 / 282
いざ行かん、リットリオ

龍の咆哮 その3

しおりを挟む
やがてその内集まったマフィアの一人がいやらしい笑みを浮かべて話し出した。

 「そういやエルフ達もそうだがダークエルフ達も随分と上玉が多いらしいじゃねえか?なんなら体でも売った方がてっとりばやいんじゃねーか?」
 「あんな女なら飼ってもいいってか?貴族の慰み者になれれば住む場所もあるだろうしな」

ゲラゲラと笑う二人の後ろからすうっと冷たい刃が首筋に当てられる。

 「体を売るほど落ちぶれていない・・・その無礼な物言い、次は殺すぞ」

 物音一つ立てず現れたアウロラに一同は思わず声を失った。護衛達も一歩も動くことも出来ずただ隙を窺うに留まっていたり、質の低い者は現れたアウロラに驚く始末であった。

 「あ、暗殺者ギルドの・・・!一体何があった?」

 先ほどの明るさとは打って変わり緊張した様子で一人が尋ねる。

 「経費を払う契約になっていたと思うのだけれど・・・少し困ったことになって貴方達に相談にきたの」
 「ま、まてよ・・・追跡にかかった経費は後払いのはずだろう?」
 「そう、でも今回のあの男の追跡中に面白い物を手に入れたの。でも経費も随分と掛かってしまってね、今回はそれの換金で経費をまかなって貰おうと思って」

 此処に装飾品の換金が出来る人はいる?と尋ねるとマフィアの中から一人の男が手を上げる。

 「私が鑑定できる・・・宝飾店も傘下にしているからな」

そういうとアウロラはその男に部屋の中央に来るように指示する。

 「それではこの場でおおよその査定をして貰いたい」
 「しかし此処では現金の支払いはできないぞ?」
 「皆が見ているこの場でやることが肝要なの、誤魔化して経費が払えなかったら貴方の首を貰うことになるからね」

 軽い脅しをかけて男を座らせるとその前に包みを置く。訝しがる男に包みを解くように促すと男はしぶしぶ布を取り払う。

 「おお・・・!」

 布の下から現れたのは美しい緋色の宝玉。そして鑑定を行う男から感嘆の声が上がった。

 「龍の宝玉・・・!」

その一言に部屋全体からどよめきが起こる。龍の宝玉は王室に献上しても恥ずかしくない至高の一品であり、色が透き通っているほど価値が高い。
そしてこの宝玉は曇り一つ無い透き通った一品であり、形もまるでカッティングしたかのような綺麗な球体である。

 一体どれほどの価値がつくのだ・・・。

 皆の頭の中にこの宝玉の価値がいかほどのものになるのか皆目検討がつかなかったがアウロラは皆が釘付けになっているのを満足そうに見渡すと鑑定をしている男に告げる。

 「これがはした金で換金されることが無いのは皆知っているみたいだから経費はこれを売却した金額から補填して貰うことにするわ」
 「・・・ああ、恐らくだが十分な金額を用意できるだろう」

そう言いつつも熱心に覗き込む男にアウロラは止めの一言を告げることにする。

 「龍の宝玉は同じ色の魔法を近づけると輝くらしいわ」

そういうことはとどのつまり試せということである。男達もへーそうなのかと言いつつも早速試して見ようか?という声も上がり始める。

 「売るときに違いましたじゃ困る、試して」

 傷がつくのでは?と訝しむ声もあったがこれがあれば暗殺ギルドに支払ってもおつりがでるだろうという言葉に自身の意見を飲み込み、事の成り行きを見守ることにしたようだった。

 「よし・・・じゃあ試すぞ」

 護衛の一人が右手に火の魔法を出して言う。皆がそれを固唾を呑んで見つめる中アウロラは密かに鎧に魔力を流し、念話で俺に合図を送ってくれた。

 『もうじき火を点けるよ』
 「了解、騎士団の突入準備も完了してる。結界を張れ、誰も逃がすなよ」
 『了解』

アウロラは指示を確認すると宝玉に目を取られる一同から離れ、壁に触れると入り口と床にある抜け道を結界で塞ぐ。結界はドラゴンの加護を受けて強化されておりあらゆる魔法に強い耐性を持つものに強化されている。
 鎧も持ち主をあらゆる衝撃と熱から守るべく魔力の循環を受けて微かに光り、これから起こる出来事を待っているようだった。

 「おお!光ったぞ!」

 皆から歓声があがる。それが処刑のカウントダウンと知らない面々は宝玉の売却額に宝玉に負けないくらい目を輝かせる。

 「おい、いくらなんでも輝き過ぎじゃないか?」

 一人がそう言った瞬間が早いか眩い光が部屋を包み、そして光りは業火の濁流となって部屋に居る全ての人間を飲み込み、建物の中で一番薄い天井を跡形も無く吹き飛ばした。



 「団長!マウリッツ砦跡で爆発がありました!予告通りです」
 「よし!全騎士団に通達!奴らは愚かにも我らに挑戦せんとしている!このような暴虐からあらゆる手段を行使して奴らを駆逐せねばならぬ!騎士団に正義ありと信ずる者は遅れるな!」

 我に続け!と叫ぶ騎士団長アイノは愛馬を駆りマウリッツ砦へと突撃する。

 「抵抗するものは処断せよ!奴らは人身売買に関わる重罪人である!」

 言うが早いかナイフを構えた見張りを一刀の元に切り伏せ、団長が一番に切り込んでいく。その電光石火の一撃に直属の部下達は団長の復帰に歓喜し、新兵は団長の二つ名である『盗賊狩り』の異名を誇張では無い事を実感し震える。

 「壮観だな・・・あれが本来の騎士団と言うわけか」

まるで鎖から放たれた猟犬のように獲物に飛び掛り、ある者は剣に掛かり、ある者は鎧を纏う太い腕に捕まり鎖につながれる。
あの砦には知られたくない情報を記した書類や売却と受呪がまだ済んでいない奴隷達が地下室に閉じ込められていることが解っている。そして頭目もあの爆発の中で生きているものは居まい。居たとしてアウロラがそれを見逃すはずも無い。

 『頭目たちは炭になったよ』
 「ご苦労様、後は騎士団を招きいれたら脱出していいぞ」

ガチガチに防御させたとはいえアウロラには危険な目にあわせてしまった。やけどとかしてないと良いが・・・。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、pixivにも投稿中。 ※小説家になろうでは最新『勇者祭編』の中盤まで連載中。

面倒くさがり屋の異世界転生

自由人
ファンタジー
~ 作者からのお願い ~  この物語はフィクションの創作物であり、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。現実と混同されることのないようにお願い致します。 ~ 簡単なあらすじ ~  どこにでも居る冴えない男である主人公【加藤 健】は、社畜としての日々を送っていたが、ある日、交通事故に巻き込まれ短い生涯に幕を閉じることになる。  目が覚めると辺り一面真っ白な世界。女神と名乗る女性から説明を受けるが、好みだった為についつい口説いてしまう。  そんなどこにでも居るような男が第2の人生として異世界へ転生し、封印された記憶の中にある生前の理不尽さに反応するトラウマを抱えつつも、思いのまま生きていくために日々を重ねていく物語。  基本的に主人公は好き勝手に生きていきます。どう行動するかはその時の気分次第。身内に甘くそれ以外には非情になることもある、そんな人柄です。  無自覚にハーレムを形成していきます。主人公が成人するまではショタとなりますので、抵抗のある方は読むのをお控えください。  色々と場面展開がおかしかったり、誤字脱字等ございますが何卒御容赦ください。 ★基本的に現実逃避のため自己満足で執筆しています。ブックマークして頂いたり、評価して頂いたりすると何かとやる気に繋がりますので、楽しんで頂けたなら是非ともよろしくお願い致します。レビューや感想も受け付けております。誤字や脱字報告も併せてお願い致します。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

令嬢である妹と一緒に寝ても賢者でいられる方法を試してたらチート能力が備わった件

つきの麻友
ファンタジー
◆ファンタジー大賞参加中です◆ ◆毎日更新、頑張って執筆します◆ ◆解説◆ ◆異世界転移転生した者は本気を出すと、一般人に比べて十倍のパワーとスピード能力を発揮できたのです。 それに気づかない主人公は毎晩、隣で寝る妹に沸き上がる欲望を押さえつけて賢者になるために、妹達が寝静まってからゴソゴソと筋トレをしました。そのおかげでチート能力が身に付いていたのですが、なんと魔王討伐時は、およそ百倍にもなっていたのでした◆ ◇本編あらすじ◇ ◇ある日、異世界の国王が住む城に転移した冴えない主人公の月野ウタルは、追手から逃げている時に猫耳の姫達にかくまってもらうことに。 その後、和解して仮の兄妹として生活することになったのだが、悩みは毎夜、二人の妹達と一緒に寝ることだった。 妹達の間に挟まれながら寝て、一緒にお風呂入って、チート能力で楽しく魔王討伐に旅立つストレスフリー物語 ◆よろしければ応援投票お願いいたします◆

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

転生発明家は異世界で魔道具師となり自由気ままに暮らす~異世界生活改革浪漫譚~

夜夢
ファンタジー
 数々の発明品を世に生み出し、現代日本で大往生を迎えた主人公は神の計らいで地球とは違う異世界での第二の人生を送る事になった。  しかし、その世界は現代日本では有り得ない位文明が発達しておらず、また凶悪な魔物や犯罪者が蔓延る危険な世界であった。  そんな場所に転生した主人公はあまりの不便さに嘆き悲しみ、自らの蓄えてきた知識をどうにかこの世界でも生かせないかと孤軍奮闘する。  これは現代日本から転生した発明家の異世界改革物語である。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...