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いざ行かん、リットリオ
決着
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しばらく風に遊ばれていると不意に体の上昇が止まった。どうやら彼女が伸ばせる鞭の限界に達したらしい。高度はちょうど吹き上げる力の限界点。地面に眼をやるとヒューイとビーストテイマーが鞭を引っ張り、クラウンが鞭に魔力を送っているらしい。
「おー、いい眺めだ。」
「張っ倒すわよ!さっさとやりなさい!」
手を翳して遠くを見る仕草をしてから観客席に手を振ると下からヒューイの怒号が飛んでくる。
「まったく・・・、オカマはせっかちだな。」
体勢を入れ替えながら三人を探すと一人がこっちの角度から確認できる。
「・・・っと、獲物ターゲット発見だ。」
そう思いながらふと、俺は重要なことを思い出した。
「しまった・・・飛び道具もってねえ。」
肝心の武器を忘れていた。なんかないか、なんかないか!
風に遊ばれながらあたふたと探していると竜巻の中から悲鳴が上がる。
「ちょっと!はやくなさいよ!」
渦の中心を見ると直径がそろそろ三メートルをきりそうだ。そろそろ本気でやばいぜ。
しかし武器なんて・・・どうする。
そんな時ズボンのポケットに硬い感触が。これは・・・貨幣か。
屋台で串焼きを買ったときに釣りで貰った銅貨がポケットに入っていた。 なんて幸運だ。
「さて、一枚で決めるしかないぜ。」
指弾の訓練はそれなりに積んでる。 林檎くらい粉砕してみせる。ぐっと指先に力を篭め・・・今だっ!キィン、と金属音が小さく響き、俺が放った銅貨は詠唱に夢中になっている一人のこめかみを直撃した。
「ぐはっ?!」
油断していたのだろう、こめかみに痛烈な一撃を貰った風使いは頭を抱えてのた打ち回っている。それと同時に竜巻が掻き消える。
「やったわ! いくわよあんた達!」
「命令すんな!」
炎使いのクラウンとヒューイが残った二人に攻撃を仕掛けビーストテイマーが鞭の魔力を解除して俺を手元にゆっくり引き寄せた。
「あんたなにやったの?」
「ちょいとした手品さ。」
「なっ、もういいわ!」
手ぶらで魔法を使わず一人をしとめたのが不思議だったらしい。俺がウィンクして誤魔化すと顔を赤くしてそっぽを向いた。
「ふぬぁっ!」
「ぎえっ?!」
ヒューイの蹴りが風使いのボス、バサラを仕留める。クラウンはてこずっていたようなのでヒューイを放っておいてそちらに加勢する。
「やっぱ火はキツイか?」
「ああ、畜生目・・・そろそろ引退かな。」
「そういうな、楽しく行こうぜ。」
火を連続で飛ばすも風に押し返され攻撃が通じない。 俺が近づこうにも風を一点に集中されると俺のウェイトでは簡単に飛ばされてしまうので近づけない。
「さてさて、こうなりゃもういっちょコイツの出番だぜ。」
時折飛んでくる風の刃をかわしつつポケットを探る。残りは一枚だけ。 けれど十分である。
「さて、仕掛けるか・・・眼眩まし頼むぜ。」
「さっきのをやるのか?」
短く肯定すると俺はクラウンの肩を叩いて左に走りだす。
「炎よ! フレイムアロウ!」
クラウンが火を矢のように飛ばす。その数はかなり多いが風の壁は越えられないらしい。
「まだまだ!フレイムスネイク!」
フレイムアロウに続いて地面を走る火の蛇を放つ。これも風の壁に阻まれるがそのお陰で俺の注意が一瞬おろそかになる。
「さて、御代は見てのお帰りだぜ。」
銅貨を親指で弾くとくるくると回りながら上に飛びゆっくりと落ちてくる。
集中力を高めていくとどんどんと時間の流れがゆっくりになり裏、表と回る銅貨の模様を眺めることができる。
「バァン!」
二回目は相手に向けて。正確に銅貨を弾いた。また綺麗な金属音が響きコインが矢のようなスピードで飛んでいくとそのまま風使いの額に命中する。
「んぐっ?!」
ビッシィッ!とすごい音が響き風使い最後の一人が地面に吸い込まれていく。 額にはくっきりと銅貨の模様が残っていた。消えるといいが・・・。
俺がガンマンの真似をして指に息を吹きかけたところで制限時間が経過したらしい。最後まで立っていたものを祝福するように鐘と観客の歓声が俺達をつつんだ。
『決ッッ着ゥゥゥゥゥゥ!それでは戦績に行きましょう!』
司会者はそう言って生き残った選手を功績順に並べていく。順番に名前が入れ替わって行き、皆がその順位に注目する。
『まず三位は意外や意外!女性でランクインしたのは珍しいぞぉ! ビーストテイマー!』
掲示板に大きな掲示板に映像が映し出されビーストテイマーの名前と顔が大きく写った。
彼女は少し照れながらも鞭を大きく振るって音を鳴らし観客にアピールする。
『次にやはり強靭な男の体と知的な女性の心を持つものは強い!二位はオカマラス・ヒューイ!』
「いやーん!私がんばっちゃったわよー!」
『お姉さまー!誇らしいですわー!』
『イヤーンこっちむいてくださいなー!』
ポーズを決めて叫ぶと歓声と同好の士が一斉に彼を讃える。よきにつけ悪いにつけ彼は一定の支持層があるようだ。そして最後の一位。 司会者はもったいぶって観客を上手く焦らし、最高潮になったところで発表した。
『さてさてさて!皆様!今日は何時になく盛り上がったでしょう!それもそのはず!今日のバトルは一味違った!期待の新星!初回出場にして一位人気のベリンゲイを一蹴し、風使いのトリオを倒したルーキーヴァルカンが現われたからだぁ!さぁ皆様一位に輝いた期待の新星に惜しみない拍手と歓声を!』
『『『ワァアアア!!!!』』』
『それでは皆様の中で上位三名にベットした方は換金をお忘れないように! では、また~!』
「お疲れ様でしたー!」
控え室に自力で戻ってこれた俺達四人はサバイバルボーナスとして袋に入った給金を貰う。
「やった・・・はじめてもらった。」
ビーストテイマーが感激した様子で袋を受け取っている。どうやら賭け人気から察するに万年敗退組みだったのだろう。
「あら、今回は割りと多いのねぇ。」
対するヒューイはまあこんなものか、というベテランの貫禄を見せ付けている。あの様子だと何回か二位に輝いたことがあるのだろう。装備もなかなかにお金をかけているはずだ。
「さてさて、今日の主役の報酬はいかほどか・・・。」
おどけてみるが結構楽しみ。すると当然なのか一番大きな袋が手渡される。
「ねえヴァルカン、一位って一体いくらもらえるのよ?」
「ちょっとまってくれ・・・。」
受け取った袋の中身を数えてみると・・・。金貨が10枚に銀貨が40枚入っている。
「あらすごいじゃない、やっぱり一位だと違うわね。」
袋の大きさは一位と二位でも大きな差がある。もちろん三位とは比べるべくもない。
「おー、いい眺めだ。」
「張っ倒すわよ!さっさとやりなさい!」
手を翳して遠くを見る仕草をしてから観客席に手を振ると下からヒューイの怒号が飛んでくる。
「まったく・・・、オカマはせっかちだな。」
体勢を入れ替えながら三人を探すと一人がこっちの角度から確認できる。
「・・・っと、獲物ターゲット発見だ。」
そう思いながらふと、俺は重要なことを思い出した。
「しまった・・・飛び道具もってねえ。」
肝心の武器を忘れていた。なんかないか、なんかないか!
風に遊ばれながらあたふたと探していると竜巻の中から悲鳴が上がる。
「ちょっと!はやくなさいよ!」
渦の中心を見ると直径がそろそろ三メートルをきりそうだ。そろそろ本気でやばいぜ。
しかし武器なんて・・・どうする。
そんな時ズボンのポケットに硬い感触が。これは・・・貨幣か。
屋台で串焼きを買ったときに釣りで貰った銅貨がポケットに入っていた。 なんて幸運だ。
「さて、一枚で決めるしかないぜ。」
指弾の訓練はそれなりに積んでる。 林檎くらい粉砕してみせる。ぐっと指先に力を篭め・・・今だっ!キィン、と金属音が小さく響き、俺が放った銅貨は詠唱に夢中になっている一人のこめかみを直撃した。
「ぐはっ?!」
油断していたのだろう、こめかみに痛烈な一撃を貰った風使いは頭を抱えてのた打ち回っている。それと同時に竜巻が掻き消える。
「やったわ! いくわよあんた達!」
「命令すんな!」
炎使いのクラウンとヒューイが残った二人に攻撃を仕掛けビーストテイマーが鞭の魔力を解除して俺を手元にゆっくり引き寄せた。
「あんたなにやったの?」
「ちょいとした手品さ。」
「なっ、もういいわ!」
手ぶらで魔法を使わず一人をしとめたのが不思議だったらしい。俺がウィンクして誤魔化すと顔を赤くしてそっぽを向いた。
「ふぬぁっ!」
「ぎえっ?!」
ヒューイの蹴りが風使いのボス、バサラを仕留める。クラウンはてこずっていたようなのでヒューイを放っておいてそちらに加勢する。
「やっぱ火はキツイか?」
「ああ、畜生目・・・そろそろ引退かな。」
「そういうな、楽しく行こうぜ。」
火を連続で飛ばすも風に押し返され攻撃が通じない。 俺が近づこうにも風を一点に集中されると俺のウェイトでは簡単に飛ばされてしまうので近づけない。
「さてさて、こうなりゃもういっちょコイツの出番だぜ。」
時折飛んでくる風の刃をかわしつつポケットを探る。残りは一枚だけ。 けれど十分である。
「さて、仕掛けるか・・・眼眩まし頼むぜ。」
「さっきのをやるのか?」
短く肯定すると俺はクラウンの肩を叩いて左に走りだす。
「炎よ! フレイムアロウ!」
クラウンが火を矢のように飛ばす。その数はかなり多いが風の壁は越えられないらしい。
「まだまだ!フレイムスネイク!」
フレイムアロウに続いて地面を走る火の蛇を放つ。これも風の壁に阻まれるがそのお陰で俺の注意が一瞬おろそかになる。
「さて、御代は見てのお帰りだぜ。」
銅貨を親指で弾くとくるくると回りながら上に飛びゆっくりと落ちてくる。
集中力を高めていくとどんどんと時間の流れがゆっくりになり裏、表と回る銅貨の模様を眺めることができる。
「バァン!」
二回目は相手に向けて。正確に銅貨を弾いた。また綺麗な金属音が響きコインが矢のようなスピードで飛んでいくとそのまま風使いの額に命中する。
「んぐっ?!」
ビッシィッ!とすごい音が響き風使い最後の一人が地面に吸い込まれていく。 額にはくっきりと銅貨の模様が残っていた。消えるといいが・・・。
俺がガンマンの真似をして指に息を吹きかけたところで制限時間が経過したらしい。最後まで立っていたものを祝福するように鐘と観客の歓声が俺達をつつんだ。
『決ッッ着ゥゥゥゥゥゥ!それでは戦績に行きましょう!』
司会者はそう言って生き残った選手を功績順に並べていく。順番に名前が入れ替わって行き、皆がその順位に注目する。
『まず三位は意外や意外!女性でランクインしたのは珍しいぞぉ! ビーストテイマー!』
掲示板に大きな掲示板に映像が映し出されビーストテイマーの名前と顔が大きく写った。
彼女は少し照れながらも鞭を大きく振るって音を鳴らし観客にアピールする。
『次にやはり強靭な男の体と知的な女性の心を持つものは強い!二位はオカマラス・ヒューイ!』
「いやーん!私がんばっちゃったわよー!」
『お姉さまー!誇らしいですわー!』
『イヤーンこっちむいてくださいなー!』
ポーズを決めて叫ぶと歓声と同好の士が一斉に彼を讃える。よきにつけ悪いにつけ彼は一定の支持層があるようだ。そして最後の一位。 司会者はもったいぶって観客を上手く焦らし、最高潮になったところで発表した。
『さてさてさて!皆様!今日は何時になく盛り上がったでしょう!それもそのはず!今日のバトルは一味違った!期待の新星!初回出場にして一位人気のベリンゲイを一蹴し、風使いのトリオを倒したルーキーヴァルカンが現われたからだぁ!さぁ皆様一位に輝いた期待の新星に惜しみない拍手と歓声を!』
『『『ワァアアア!!!!』』』
『それでは皆様の中で上位三名にベットした方は換金をお忘れないように! では、また~!』
「お疲れ様でしたー!」
控え室に自力で戻ってこれた俺達四人はサバイバルボーナスとして袋に入った給金を貰う。
「やった・・・はじめてもらった。」
ビーストテイマーが感激した様子で袋を受け取っている。どうやら賭け人気から察するに万年敗退組みだったのだろう。
「あら、今回は割りと多いのねぇ。」
対するヒューイはまあこんなものか、というベテランの貫禄を見せ付けている。あの様子だと何回か二位に輝いたことがあるのだろう。装備もなかなかにお金をかけているはずだ。
「さてさて、今日の主役の報酬はいかほどか・・・。」
おどけてみるが結構楽しみ。すると当然なのか一番大きな袋が手渡される。
「ねえヴァルカン、一位って一体いくらもらえるのよ?」
「ちょっとまってくれ・・・。」
受け取った袋の中身を数えてみると・・・。金貨が10枚に銀貨が40枚入っている。
「あらすごいじゃない、やっぱり一位だと違うわね。」
袋の大きさは一位と二位でも大きな差がある。もちろん三位とは比べるべくもない。
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