108 / 114
アイゼンヘイムへ
殿下を鍛えよう
しおりを挟む
翌朝、武装蜂起が完全に沈静化した王宮で私達は改めて歓待を受ける事となった。もちろんあのドレスで参加し、私は色々と皆から注目されながらの話なので居心地はそれほどよろしくなかったが。
「改めてようこそお越しくださいました、『ガルデンヘイムの戦乙女』スカサハ様。我が国は貴女を先代様と同様の扱いにさせていただきます」
本来ならば一段高い場所に座るはずの皇帝夫妻は異例の立ったままという状態で私を出迎え、騎士達も鎧姿で剣を掲げ最大限の敬意を持って私を出迎える。
「此度は急な登城にも関わらず迅速な対応を賜り恐悦の極み。我が国ガルデンヘイムとの友好は私が帰国する頃にはより深くなっている事は間違いないでしょう」
「なんと・・・、顔をお上げください、あなたはガルデンヘイムの代理人としてこの場にいらっしゃるのですから」
ドレスの効果で恭しく礼をする私に皇帝夫妻は慌てて私を立ち上がらせる。
「先代の威光は我が威光に非ず、ガルデンヘイムの威光もまた然り。両陛下の厚意は嬉しくありますが過分な持て成しは不要にございます」
「ですが我が身、そして家族の命を救われた立場としてはそうも行きません」
きっぱりと言い切ったがそれでも皇帝は引く気がないようだ。これ以上の謝辞は失礼だろうか。
かといって英雄のように奉られるのも本意じゃないし。
「それではそちらに関してはそちらの流儀を受け入れましょう。ですが、本来の目的である殿下の教育に関しては最大限の配慮をいただきたい」
「あの、それに関してはどのような・・・」
「陛下、これはガルデンヘイムではなく私個人の手練によるものです。ですが私がどのような術、武技を持つかはご存知でしょう」
正直この国の訓練はおそらくだが先代様が創設なさった時とさして進歩していないだろう。魔術に関してはもはや自力発展は望むべくもないほどに停滞してしまっている。
「対するこの国の魔法・武技の発展にはため息を漏らしたくなる有様、殿下の魔力の暴走に対する理解の欠如からもそれが容易に察する事ができます」
「それほどですか・・・」
「通常の兵装はともかく魔法に関しては魔導師レベルの魔法使いがどれくらいいるか・・・失礼ながら先代のエーリカ様の頃を尊ぶ余り発展性を欠いているかと」
ドレスの記憶から情報を引き出すとその当時の訓練の様子が克明に記憶されている。しかしながらそれも何十年も昔の技術、しかも素人が扱えるようにする初等教育だ。発展できないのも無理はない。火の魔法も高温化や温度の安定化などのおそらく金属の加工技術が目的だろうと推察できるものが独自に発展している。だけど魔法そのものの基礎技術が疎かになっているため、未だに職人の感覚というものに頼り切っている。
「ですので殿下に教育を施すに当たって事前に教練の本なども作成しようかと」
「なんと、それほどの事をしていただけると?」
おっとしまった、この世界じゃまだまだ本は高級品だったか。何処からかルーンちゃんが仕入れているからてっきり安いのかと。もしかしたら技術の指南書が高いのかもしれないけど。
「ええ、ですが厳重な保管をお願いしますよ。これはアイゼンヘイムへの信頼の証でもあるのですから」
「もちろんです」
さて、言質もとったしこれからアステリオスちゃんを徹底的に鍛えて短期でモノになってもらおうっと。謁見はそれから他愛のない会話というか社交辞令に終始し、最終的には皇帝夫妻の体調を慮るという名目でお開きになった。
「さて、アステリオスちゃんがまともな魔導師になれるようにちょっと基礎を叩き込んじゃおうかな」
あの子相手に訓練をしている内に後続のエルメロイ家の面々も到着するだろうし、全員が合流したらそれから本格的な教育カリキュラムを組み始めてもいい。まずはあの子の魔力を安定させる事から始めよう。
「ノックしてもしもーし、殿下、スカサハが参りましたよー」
「主様、少し砕けすぎじゃありませんか」
昨日からアステリオスちゃんの部屋は皇帝夫妻の復帰に伴って王宮内へと戻され、両親と共に眠りつつも午前中からは自室に戻るようにしてもらっている。幸いにして魔力の暴発は起こっていない。
「緊張させるのもよくないかとおもってさ」
「それはそうですが・・・さすがに」
ちぇー、あんまり格式ばったのは好きじゃないんだけどな。そう思っているとドアがちょこっとだけ開き、隙間からアステリオスちゃんが顔を出した。
「あの・・・おはようございましゅ・・・」
あ、噛んだ。可愛いね。頬がちょっぴり赤らむと恥かしそうにドアから出てくる。仕草がいちいち小動物チックで可愛らしい。これが昨日の夜に凶賊相手に大立ち回りをしていたかと思うと不思議なものだ。
「おはようございます、殿下。これからお昼まで魔法の練習と参りましょう」
私が手を差し出すとアステリオスちゃんはその手を取る。ぷにぷにの手が可愛い。
「ルーンちゃんも居るから、いろいろ練習しましょうね」
「うん・・・わかった」
笑顔が眩しい。これは張り切っちゃうね。
「改めてようこそお越しくださいました、『ガルデンヘイムの戦乙女』スカサハ様。我が国は貴女を先代様と同様の扱いにさせていただきます」
本来ならば一段高い場所に座るはずの皇帝夫妻は異例の立ったままという状態で私を出迎え、騎士達も鎧姿で剣を掲げ最大限の敬意を持って私を出迎える。
「此度は急な登城にも関わらず迅速な対応を賜り恐悦の極み。我が国ガルデンヘイムとの友好は私が帰国する頃にはより深くなっている事は間違いないでしょう」
「なんと・・・、顔をお上げください、あなたはガルデンヘイムの代理人としてこの場にいらっしゃるのですから」
ドレスの効果で恭しく礼をする私に皇帝夫妻は慌てて私を立ち上がらせる。
「先代の威光は我が威光に非ず、ガルデンヘイムの威光もまた然り。両陛下の厚意は嬉しくありますが過分な持て成しは不要にございます」
「ですが我が身、そして家族の命を救われた立場としてはそうも行きません」
きっぱりと言い切ったがそれでも皇帝は引く気がないようだ。これ以上の謝辞は失礼だろうか。
かといって英雄のように奉られるのも本意じゃないし。
「それではそちらに関してはそちらの流儀を受け入れましょう。ですが、本来の目的である殿下の教育に関しては最大限の配慮をいただきたい」
「あの、それに関してはどのような・・・」
「陛下、これはガルデンヘイムではなく私個人の手練によるものです。ですが私がどのような術、武技を持つかはご存知でしょう」
正直この国の訓練はおそらくだが先代様が創設なさった時とさして進歩していないだろう。魔術に関してはもはや自力発展は望むべくもないほどに停滞してしまっている。
「対するこの国の魔法・武技の発展にはため息を漏らしたくなる有様、殿下の魔力の暴走に対する理解の欠如からもそれが容易に察する事ができます」
「それほどですか・・・」
「通常の兵装はともかく魔法に関しては魔導師レベルの魔法使いがどれくらいいるか・・・失礼ながら先代のエーリカ様の頃を尊ぶ余り発展性を欠いているかと」
ドレスの記憶から情報を引き出すとその当時の訓練の様子が克明に記憶されている。しかしながらそれも何十年も昔の技術、しかも素人が扱えるようにする初等教育だ。発展できないのも無理はない。火の魔法も高温化や温度の安定化などのおそらく金属の加工技術が目的だろうと推察できるものが独自に発展している。だけど魔法そのものの基礎技術が疎かになっているため、未だに職人の感覚というものに頼り切っている。
「ですので殿下に教育を施すに当たって事前に教練の本なども作成しようかと」
「なんと、それほどの事をしていただけると?」
おっとしまった、この世界じゃまだまだ本は高級品だったか。何処からかルーンちゃんが仕入れているからてっきり安いのかと。もしかしたら技術の指南書が高いのかもしれないけど。
「ええ、ですが厳重な保管をお願いしますよ。これはアイゼンヘイムへの信頼の証でもあるのですから」
「もちろんです」
さて、言質もとったしこれからアステリオスちゃんを徹底的に鍛えて短期でモノになってもらおうっと。謁見はそれから他愛のない会話というか社交辞令に終始し、最終的には皇帝夫妻の体調を慮るという名目でお開きになった。
「さて、アステリオスちゃんがまともな魔導師になれるようにちょっと基礎を叩き込んじゃおうかな」
あの子相手に訓練をしている内に後続のエルメロイ家の面々も到着するだろうし、全員が合流したらそれから本格的な教育カリキュラムを組み始めてもいい。まずはあの子の魔力を安定させる事から始めよう。
「ノックしてもしもーし、殿下、スカサハが参りましたよー」
「主様、少し砕けすぎじゃありませんか」
昨日からアステリオスちゃんの部屋は皇帝夫妻の復帰に伴って王宮内へと戻され、両親と共に眠りつつも午前中からは自室に戻るようにしてもらっている。幸いにして魔力の暴発は起こっていない。
「緊張させるのもよくないかとおもってさ」
「それはそうですが・・・さすがに」
ちぇー、あんまり格式ばったのは好きじゃないんだけどな。そう思っているとドアがちょこっとだけ開き、隙間からアステリオスちゃんが顔を出した。
「あの・・・おはようございましゅ・・・」
あ、噛んだ。可愛いね。頬がちょっぴり赤らむと恥かしそうにドアから出てくる。仕草がいちいち小動物チックで可愛らしい。これが昨日の夜に凶賊相手に大立ち回りをしていたかと思うと不思議なものだ。
「おはようございます、殿下。これからお昼まで魔法の練習と参りましょう」
私が手を差し出すとアステリオスちゃんはその手を取る。ぷにぷにの手が可愛い。
「ルーンちゃんも居るから、いろいろ練習しましょうね」
「うん・・・わかった」
笑顔が眩しい。これは張り切っちゃうね。
0
お気に入りに追加
1,767
あなたにおすすめの小説
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
転生少女は欲深い
白波ハクア
ファンタジー
南條鏡は死んだ。母親には捨てられ、父親からは虐待を受け、誰の助けも受けられずに呆気なく死んだ。
──欲しかった。幸せな家庭、元気な体、お金、食料、力、何もかもが欲しかった。
鏡は死ぬ直前にそれを望み、脳内に謎の声が響いた。
【異界渡りを開始します】
何の因果か二度目の人生を手に入れた鏡は、意外とすぐに順応してしまう。
次こそは己の幸せを掴むため、己のスキルを駆使して剣と魔法の異世界を放浪する。そんな少女の物語。
異世界でのんびり暮らしたい!?
日向墨虎
ファンタジー
前世は孫もいるおばちゃんが剣と魔法の異世界に転生した。しかも男の子。侯爵家の三男として成長していく。家族や周りの人たちが大好きでとても大切に思っている。家族も彼を溺愛している。なんにでも興味を持ち、改造したり創造したり、貴族社会の陰謀や事件に巻き込まれたりとやたらと忙しい。学校で仲間ができたり、冒険したりと本人はゆっくり暮らしたいのに・・・無理なのかなぁ?
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。
そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。
しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。
そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。
加護とスキルでチートな異世界生活
どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!?
目を覚ますと真っ白い世界にいた!
そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する!
そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる
初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです
ノベルバ様にも公開しております。
※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる