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アイゼンヘイムへ

殿下を鍛えよう

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翌朝、武装蜂起が完全に沈静化した王宮で私達は改めて歓待を受ける事となった。もちろんあのドレスで参加し、私は色々と皆から注目されながらの話なので居心地はそれほどよろしくなかったが。

「改めてようこそお越しくださいました、『ガルデンヘイムの戦乙女』スカサハ様。我が国は貴女を先代様と同様の扱いにさせていただきます」

本来ならば一段高い場所に座るはずの皇帝夫妻は異例の立ったままという状態で私を出迎え、騎士達も鎧姿で剣を掲げ最大限の敬意を持って私を出迎える。

「此度は急な登城にも関わらず迅速な対応を賜り恐悦の極み。我が国ガルデンヘイムとの友好は私が帰国する頃にはより深くなっている事は間違いないでしょう」
「なんと・・・、顔をお上げください、あなたはガルデンヘイムの代理人としてこの場にいらっしゃるのですから」

ドレスの効果で恭しく礼をする私に皇帝夫妻は慌てて私を立ち上がらせる。

「先代の威光は我が威光に非ず、ガルデンヘイムの威光もまた然り。両陛下の厚意は嬉しくありますが過分な持て成しは不要にございます」
「ですが我が身、そして家族の命を救われた立場としてはそうも行きません」

きっぱりと言い切ったがそれでも皇帝は引く気がないようだ。これ以上の謝辞は失礼だろうか。
かといって英雄のように奉られるのも本意じゃないし。

「それではそちらに関してはそちらの流儀を受け入れましょう。ですが、本来の目的である殿下の教育に関しては最大限の配慮をいただきたい」
「あの、それに関してはどのような・・・」
「陛下、これはガルデンヘイムではなく私個人の手練によるものです。ですが私がどのような術、武技を持つかはご存知でしょう」

正直この国の訓練はおそらくだが先代様が創設なさった時とさして進歩していないだろう。魔術に関してはもはや自力発展は望むべくもないほどに停滞してしまっている。

「対するこの国の魔法・武技の発展にはため息を漏らしたくなる有様、殿下の魔力の暴走に対する理解の欠如からもそれが容易に察する事ができます」
「それほどですか・・・」
「通常の兵装はともかく魔法に関しては魔導師レベルの魔法使いがどれくらいいるか・・・失礼ながら先代のエーリカ様の頃を尊ぶ余り発展性を欠いているかと」

ドレスの記憶から情報を引き出すとその当時の訓練の様子が克明に記憶されている。しかしながらそれも何十年も昔の技術、しかも素人が扱えるようにする初等教育だ。発展できないのも無理はない。火の魔法も高温化や温度の安定化などのおそらく金属の加工技術が目的だろうと推察できるものが独自に発展している。だけど魔法そのものの基礎技術が疎かになっているため、未だに職人の感覚というものに頼り切っている。

「ですので殿下に教育を施すに当たって事前に教練の本なども作成しようかと」
「なんと、それほどの事をしていただけると?」

おっとしまった、この世界じゃまだまだ本は高級品だったか。何処からかルーンちゃんが仕入れているからてっきり安いのかと。もしかしたら技術の指南書が高いのかもしれないけど。

「ええ、ですが厳重な保管をお願いしますよ。これはアイゼンヘイムへの信頼の証でもあるのですから」
「もちろんです」

さて、言質もとったしこれからアステリオスちゃんを徹底的に鍛えて短期でモノになってもらおうっと。謁見はそれから他愛のない会話というか社交辞令に終始し、最終的には皇帝夫妻の体調を慮るという名目でお開きになった。

「さて、アステリオスちゃんがまともな魔導師になれるようにちょっと基礎を叩き込んじゃおうかな」

あの子相手に訓練をしている内に後続のエルメロイ家の面々も到着するだろうし、全員が合流したらそれから本格的な教育カリキュラムを組み始めてもいい。まずはあの子の魔力を安定させる事から始めよう。

「ノックしてもしもーし、殿下、スカサハが参りましたよー」
「主様、少し砕けすぎじゃありませんか」

昨日からアステリオスちゃんの部屋は皇帝夫妻の復帰に伴って王宮内へと戻され、両親と共に眠りつつも午前中からは自室に戻るようにしてもらっている。幸いにして魔力の暴発は起こっていない。

「緊張させるのもよくないかとおもってさ」
「それはそうですが・・・さすがに」

ちぇー、あんまり格式ばったのは好きじゃないんだけどな。そう思っているとドアがちょこっとだけ開き、隙間からアステリオスちゃんが顔を出した。

「あの・・・おはようございましゅ・・・」

あ、噛んだ。可愛いね。頬がちょっぴり赤らむと恥かしそうにドアから出てくる。仕草がいちいち小動物チックで可愛らしい。これが昨日の夜に凶賊相手に大立ち回りをしていたかと思うと不思議なものだ。

「おはようございます、殿下。これからお昼まで魔法の練習と参りましょう」

私が手を差し出すとアステリオスちゃんはその手を取る。ぷにぷにの手が可愛い。

「ルーンちゃんも居るから、いろいろ練習しましょうね」
「うん・・・わかった」

笑顔が眩しい。これは張り切っちゃうね。
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