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アイゼンヘイムへ
教会でのあれこれ
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教会へと向かう最中はこれはもう大変なものだった。大人しかった主様に再びハイの波がやってきて暗殺者らしき連中や襲撃者を尽く粉砕していくからだ。
「天の威光に震えるがいいぞ!」
そのたびにこんな調子で強力な魔法をぶっ放していくのでどちらが襲われているやら。武器を取ってもこの強さは相変わらずで圧倒的な武力で相手を制圧していく。
「剣とはこう振るのだ馬鹿者め」
振り下ろされた剣を奪い取り、瞬く間に数人を切り倒し、獰猛な笑みを浮かべる。鮮血を浴びて笑う姿を見ては正気かどうかなど改めて問う者もいないだろう。
「アハハハ・・・はぁ・・・」
あ、今度はローになってきたようだ。激しい戦闘の後ほどこうなり易いので此方としても慣れたものだ。
「お疲れ様です、さあ顔を此方へ向けて」
「うん・・・」
「お召し物にもたくさん血がついてしまいましたね、ほらジッとして」
「うー・・・嫌いなのに・・・」
ローの方がどちらかといえば普段の彼女らしいだけに不憫でならない。シシリア殿も衣服を整えるのに参加してくれるので助かっている。短く纏めた金髪に優しげな碧眼の瞳、そして時折見せる柔かい微笑みはまるで母親を思わせる慈愛を持っている。
「ああ、心配していましたよ!シスター・シシリア!良くぞご無事で」
目的地の教会へたどり着く頃には日は三度は昇っていただろう。肉体的な疲労は主様のお陰で全く無かったが襲撃者もこっそりとその恩情に預かっていたものがいたらしくどれほど急いでも襲撃の手を振り切る事が難しかった。その度にハイになった彼女が突っかかっていくのでその事に拍車もかけていたが。
「予定よりも随分と遅くなっていたから気が気では無かったですよ」
「申し訳ありません、大司教様。どうやら私に地龍様のお導きがあったようでどうにか無事にたどり着く事ができました」
教会は私が想像していた小さな町や村の教会などではなく、巨大な、まさしく神殿と言っても差し支えない荘厳な建物だった。
宗教だとは思っていたが彼らが信ずるのは精霊教会だ。アイゼンへイムだけでなくさまざまな国で信仰されるこの宗教は五龍様を頂点に、あらゆる幸運は彼らから下賜される宝物であり、もたらされる不幸は下される天罰の類であると考える宗派だ。善を勧め、悪を断ずる信仰が強いが故に過激な存在もいると聞くがそれは宗教ならばどれも似たようなものだろうか。
精霊教会の信徒ならば諸国を放浪して布教するのも珍しくは無いが彼女は一体何者なのだ?襲われて困っては居たが身なりは綺麗だし、路銀に困っていた様子が無かった。悲しい性だが職業上荒んだ生活や育ちの人間は良くわかるが彼女にはそれが感じられない。しかも出迎えてくれたのはどうやら教会でもかなり高位であるはずの大司教だ。大司教ともなればこの国では馬鹿にならない権力を有するはずで、五龍様を崇める宗教であるだけに信徒はこの国に留まらず多数の信徒を各国に抱える巨大な宗教組織なのだ。
「シスター・シシリア、そちらのお方は?」
「道中で何度も命をお救いいただきましてね、お困りのようで御礼も兼ねて此方にお連れしたのです、秘術が必要なようで」
「なんと、そうでしたか。それでは中でお話を窺いましょう」
大司教が自らで迎えるだけでも異様だが、たかがシスター一人の要請に秘術というにはあっけなく許可をだすものだ。どうなっているというのか。私はこっそりと手元にナイフを忍ばせて二人の後を招き入れられるままについていく。
「それで、秘術というものはいかなるものか・・・差し支えない程度で構いませんのでお伺いしても?」
「そうですな、平たく言えば宝具の類です。使う者によっては神具ともなりうるものですので普段は厳重に保管されております」
「助けを受ける立場でこういうのもなんですが・・・貴重なものなのでは?」
警戒心が膨らんでいくのを悟られないように、疑問を素直にぶつける。こういう時に隠しても表情を誤魔化すのは難しい。
「ああ、その事ですか。確かに盗難などにあっては大変ですが・・・その心配はありません」
そう言うと大司教は自身の懐から大きな鍵を取り出した。
「このようなものを持ち出せるものがいるとは思えないですからね」
大きな鍵を差込、力いっぱいといった様子で回した大司教。するとガチガチと金属音が複数回なったかと思うとやがて歯車が回るようにギリギリと金属が擦れる音が響き壁かと思っていた扉が開いた。
「それでは、シスター・シシリアの恩人でもある貴女がたを丁重に扱わせていただきましょう」
大司教はローブに身を包んだ体を揺らしながら開いた扉を潜った。先に入ったという事はこの先に危険がある可能性は少ないのだろう。主様は今ローになっている状態なので戦闘能力は高くない。この状態からキレたらどうなるか解らないので怖くはあるが。
「『地龍の揺り籠』は万能の治癒器です、きっといかなる病も癒してくださるでしょう」
私の腕に抱きついてキョロキョロとあたりを見渡す主様。頼みますから突然ハイにならないで。
「天の威光に震えるがいいぞ!」
そのたびにこんな調子で強力な魔法をぶっ放していくのでどちらが襲われているやら。武器を取ってもこの強さは相変わらずで圧倒的な武力で相手を制圧していく。
「剣とはこう振るのだ馬鹿者め」
振り下ろされた剣を奪い取り、瞬く間に数人を切り倒し、獰猛な笑みを浮かべる。鮮血を浴びて笑う姿を見ては正気かどうかなど改めて問う者もいないだろう。
「アハハハ・・・はぁ・・・」
あ、今度はローになってきたようだ。激しい戦闘の後ほどこうなり易いので此方としても慣れたものだ。
「お疲れ様です、さあ顔を此方へ向けて」
「うん・・・」
「お召し物にもたくさん血がついてしまいましたね、ほらジッとして」
「うー・・・嫌いなのに・・・」
ローの方がどちらかといえば普段の彼女らしいだけに不憫でならない。シシリア殿も衣服を整えるのに参加してくれるので助かっている。短く纏めた金髪に優しげな碧眼の瞳、そして時折見せる柔かい微笑みはまるで母親を思わせる慈愛を持っている。
「ああ、心配していましたよ!シスター・シシリア!良くぞご無事で」
目的地の教会へたどり着く頃には日は三度は昇っていただろう。肉体的な疲労は主様のお陰で全く無かったが襲撃者もこっそりとその恩情に預かっていたものがいたらしくどれほど急いでも襲撃の手を振り切る事が難しかった。その度にハイになった彼女が突っかかっていくのでその事に拍車もかけていたが。
「予定よりも随分と遅くなっていたから気が気では無かったですよ」
「申し訳ありません、大司教様。どうやら私に地龍様のお導きがあったようでどうにか無事にたどり着く事ができました」
教会は私が想像していた小さな町や村の教会などではなく、巨大な、まさしく神殿と言っても差し支えない荘厳な建物だった。
宗教だとは思っていたが彼らが信ずるのは精霊教会だ。アイゼンへイムだけでなくさまざまな国で信仰されるこの宗教は五龍様を頂点に、あらゆる幸運は彼らから下賜される宝物であり、もたらされる不幸は下される天罰の類であると考える宗派だ。善を勧め、悪を断ずる信仰が強いが故に過激な存在もいると聞くがそれは宗教ならばどれも似たようなものだろうか。
精霊教会の信徒ならば諸国を放浪して布教するのも珍しくは無いが彼女は一体何者なのだ?襲われて困っては居たが身なりは綺麗だし、路銀に困っていた様子が無かった。悲しい性だが職業上荒んだ生活や育ちの人間は良くわかるが彼女にはそれが感じられない。しかも出迎えてくれたのはどうやら教会でもかなり高位であるはずの大司教だ。大司教ともなればこの国では馬鹿にならない権力を有するはずで、五龍様を崇める宗教であるだけに信徒はこの国に留まらず多数の信徒を各国に抱える巨大な宗教組織なのだ。
「シスター・シシリア、そちらのお方は?」
「道中で何度も命をお救いいただきましてね、お困りのようで御礼も兼ねて此方にお連れしたのです、秘術が必要なようで」
「なんと、そうでしたか。それでは中でお話を窺いましょう」
大司教が自らで迎えるだけでも異様だが、たかがシスター一人の要請に秘術というにはあっけなく許可をだすものだ。どうなっているというのか。私はこっそりと手元にナイフを忍ばせて二人の後を招き入れられるままについていく。
「それで、秘術というものはいかなるものか・・・差し支えない程度で構いませんのでお伺いしても?」
「そうですな、平たく言えば宝具の類です。使う者によっては神具ともなりうるものですので普段は厳重に保管されております」
「助けを受ける立場でこういうのもなんですが・・・貴重なものなのでは?」
警戒心が膨らんでいくのを悟られないように、疑問を素直にぶつける。こういう時に隠しても表情を誤魔化すのは難しい。
「ああ、その事ですか。確かに盗難などにあっては大変ですが・・・その心配はありません」
そう言うと大司教は自身の懐から大きな鍵を取り出した。
「このようなものを持ち出せるものがいるとは思えないですからね」
大きな鍵を差込、力いっぱいといった様子で回した大司教。するとガチガチと金属音が複数回なったかと思うとやがて歯車が回るようにギリギリと金属が擦れる音が響き壁かと思っていた扉が開いた。
「それでは、シスター・シシリアの恩人でもある貴女がたを丁重に扱わせていただきましょう」
大司教はローブに身を包んだ体を揺らしながら開いた扉を潜った。先に入ったという事はこの先に危険がある可能性は少ないのだろう。主様は今ローになっている状態なので戦闘能力は高くない。この状態からキレたらどうなるか解らないので怖くはあるが。
「『地龍の揺り籠』は万能の治癒器です、きっといかなる病も癒してくださるでしょう」
私の腕に抱きついてキョロキョロとあたりを見渡す主様。頼みますから突然ハイにならないで。
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