上 下
89 / 114
アイゼンヘイムへ

精神が不安定れす!

しおりを挟む
苦しい、狭い、抑圧されている。これはなんだろうか、そうだ、私はまどろんでいる。

「GRRR・・・何が・・・私に・・・?」

そのはずなのに私は凄くハッキリしている。何かがやりたくて仕方ない。けどそれが解らない。
なんだろう?私は何をしたい?

「とにかく、広い場所へ・・・」

這い出すように木の洞から抜け出して天を見上げると満天の星空が私を照らし出した。

「手が届きそうなほど綺麗で近い・・・私がしたかった事はこれを見る事?」

否、否、否、私はこれがしたいのではない。それに外に出たにも関わらず私を包む窮屈さは取り払えないままだ。どうして?なんで?苦しい、狭い、抑圧されている。

「満たされていた・・・なのにどうして?」

王宮でお坊ちゃんと遊んで、まどろんで、食べて、お仕事手伝って・・・なのにどうして?

「奪う奴がいる・・・取り上げる奴が・・・どうして?」

許せない、どうしてそんな事をする?許せない・・・だから私はお城を出てここまできた。
破壊?蹂躙?消滅?何かが違う・・・望んでいないのに望んでいた?ワケのわからない。

「モヤモヤする・・・GRR・・・どうして?どうして?・・・AGGG・・・私を苦しめるのは誰?何?」

取り除かないと、どうしても、でないとオカシクナリソウダ・・・破壊、蹂躙シナイト・・・違う、早く帰りたい・・・何処に?師匠・・・王宮・・・お家・・・何処?何処?何処?

「私は・・・?何?」

私は・・・スカサハ・・・師匠達によって生み出された龍人。この世界の理を護る使命を背負った存在・・・。ならば私を苦しめる存在は・・・世界を苦しめる存在?

「消さないと・・・苦しむ・・・皆苦しむ・・・」

世界が苦しむと私の大切な人達が皆苦しむ。世界に居る人達が・・・皆苦しむ。

「URRRGGAAAAAA!!!!」

破壊する!皆破壊する!苦しめるな!私を苦しめるならば・・・全部壊す!
翼をはためかせて天へと舞い上がる。師匠から授かった翼は天を自由に翔けさせる。身に帯びた膨大な魔力は全てを葬る魔法をもたらす。

「どこだ、皆を苦しめる存在は!壊し尽くしてやる!」

目が千里を見通す。人ならざる視力で全てを見渡し、全てを見透かす。

「我が憤怒を受けよ!」

全力の魔力を篭めた一撃を、世界を苦しめるあらゆる存在に。

五極光陣ファイブ・ディザスター――――――――」

座標は鉱山を越えた、大勢の悪が蠢く場所。我が怒りの内に消え去るがいい。

巨大な魔法陣が天に描かれる。そしてその瞬間、五種類の魔法が同時に放たれる。
明らかに通常の規模を超えた魔法陣の構築、当然ながらその魔法の威力も尋常ではなかった。

『なんという事だ・・・!』

地龍は神殿から覗く光景に驚愕した。魔法陣から放たれた魔法はアイゼンヘイム国境付近に集結しつつあった外国籍の軍隊を飲み込み、付近の地形ごと破壊しつくした。

『火龍よ・・・貴様は姫君を魍魎に変えてしまうやもしれんぞ』

集まっていた軍隊の大半は何が起こったのか理解する時間もなく消滅し、生き残りも半死半生の体を引き摺って悲鳴を上げている。皆が口々に『神の怒りを受けた』と両手を合わせて天に祈りを捧げて許しを請い震える有様であった。そしてそれを遥か遠方から眺める少女は、それをさして気に留めた様子もなく自身が初めて振るった全力の一撃、それがもたらす開放感に酔いしれていた。

「・・・ああ、すっきりした・・・」

苦しさも何も無い。ただちょっと疲れただけ。私が苦しくないと言う事は世界が安寧に向かっているという事。そう言う事なんだ。そう考えた所で私はふと頭に手をやった。

「・・・私は・・・一体何を?」

苦しかった、何が?私はただ荒事になるかもしれない場所に行って、向こうの人の手伝いをして・・・そうしてまた王宮に帰って・・・お坊ちゃん達と・・・。

「私は一体何をしたの?」
『主様!』
「ルーンちゃん・・・」
『主様、一体何をなさったのですか!』
「私の中に知らない誰かがいる・・・その子が私にやらせるの・・・」
『誰か・・とは?』
「こういう奴だよ」

自然とこぼれた笑みをルーンちゃんに見せる。私が望まない笑みをもたらす存在だ。

『ひっ・・・』
「可笑しくてたまらないの、悲しくて悲しくて、怖いのに・・・」
『な、何故こんな事に・・・』
「解らない・・・でも、怖い・・・。全てを無くして本能のままに暴れる事を『良い』と思う存在が私の中に居て、私をどうにかしてしまおうとするの」

苦しさ理由が何となくわかった。それは私の中に潜む何かが私を押し殺してしまおうとするからだ。ソイツが私をどうにかして、私を駆り立てる。力を振るうことに。それがもたらす物がたとえどれほど夥しい犠牲をもたらすとしても。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

転生少女は欲深い

白波ハクア
ファンタジー
 南條鏡は死んだ。母親には捨てられ、父親からは虐待を受け、誰の助けも受けられずに呆気なく死んだ。  ──欲しかった。幸せな家庭、元気な体、お金、食料、力、何もかもが欲しかった。  鏡は死ぬ直前にそれを望み、脳内に謎の声が響いた。 【異界渡りを開始します】  何の因果か二度目の人生を手に入れた鏡は、意外とすぐに順応してしまう。  次こそは己の幸せを掴むため、己のスキルを駆使して剣と魔法の異世界を放浪する。そんな少女の物語。

異世界でのんびり暮らしたい!?

日向墨虎
ファンタジー
前世は孫もいるおばちゃんが剣と魔法の異世界に転生した。しかも男の子。侯爵家の三男として成長していく。家族や周りの人たちが大好きでとても大切に思っている。家族も彼を溺愛している。なんにでも興味を持ち、改造したり創造したり、貴族社会の陰謀や事件に巻き込まれたりとやたらと忙しい。学校で仲間ができたり、冒険したりと本人はゆっくり暮らしたいのに・・・無理なのかなぁ?

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。 そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。 しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。 そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。

加護とスキルでチートな異世界生活

どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!? 目を覚ますと真っ白い世界にいた! そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する! そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる 初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです ノベルバ様にも公開しております。 ※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

処理中です...