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アイゼンヘイムへ
お茶会は・・・?
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お茶会当日。少なくとも私は当日にそれを告げられた。朝起きて美味しい朝食を食べて鍛錬に励む騎士さん達を中庭で見かけて、そういえば青い連中がいないなーなんて考えているとこれである。
「皇太子殿下、お迎えに参りました」
なんて言ってるのが風の精霊さんの力で謁見の間から聞こえてきた。嫌がらせか?
「スカサハ様、茶会への迎えが来ました」
「ええー、今から?」
「ええ、そうです。どうやら催しを早めたようです」
ドレスを纏い、立ち上がるとお坊ちゃんも何時の間にか出かけ支度を済ませたらしく礼装だ。その後ろにはルーンちゃんと執事のお爺ちゃんがいる。
「お出かけには絶好の日和でございますよ」
お爺ちゃんはそう言うと笑顔で頭を下げた。
「そのようだね、それではいざ・・・出陣といこうか」
私がそう言うと皆がクスクスと笑う。礼装の中で私一人だけが戦場に出られる格好でこの発言なのだから当然なのだろうが。
そう思った矢先に兵士さんが部屋に転がり込んできた。
「申し上げます!隣国アイゼンヘイムにて政変が起きました!北方の国境にて大規模な戦闘が行われているとの情報です!」
「なんだって!?」
「・・・」
お父さんから話を聞いていなかったのかもしれない。お坊ちゃんはとても驚いた様子で兵士さんの話を聞いている。私は昨日の夜、お父さんからその事の顛末を聞いた。
曰く、後継者争いの予兆あり。
曰く、現皇帝の余命僅かーーーー。
曰く、要求にかこつけた救援要請。
きな臭い情報は幾らでも伝えられた。そして、戦争に近い状態になりかねないと。疎い私には想像が及ばないがそれでも、戦争になる事になる。そんな事が私の頭によぎる。そしてそれに近い事が既に起こっているのだろう。
「お茶会はどうする?」
「申し訳ありませんが・・・陛下が及びです」
兵士さんの残念そうな声。彼もまた私達の晴れ舞台を楽しみにしてくれていたんだろう。
お坊ちゃんを見ると彼も少なからず残念そうであり、そして為政者としての不安も感じているようだった。こういう時、彼らにこそ重大な責任と決断が付き纏うからだ。
「おお、来たか・・・すまんな」
開幕一番にお父さんはそういった。そんなお父さんを大臣、並びに将軍達が挟むように並んでいる。全員の姿がそれぞれに荒事に向けた格好だ。
「どういう・・・」
「いいんだよ、お茶会くらい何時でも出られる」
「そうか・・・」
お坊ちゃんの言葉を遮って前にでる。彼は不満そうだったが仕方ない。叶わない願いを今此処で望み立てても仕方ないのだ。
「折角の催し物の最中、隣国アイゼンヘイムで反乱の兆しあり・・・と来た」
「ふむ」
「皇帝さんは今死にそうで・・・、お世継ぎは?」
「記憶が確かなら・・・聡明そうだったがオルランドよりも幼い、齢は8つか。政務は無理だ」
「なら、その子を廃嫡するにしろ、操り人形にするにしろ・・・好都合だね」
人形を操るように指を動かしてそう言うと大臣達も頷く。子供のうちに言い含めておけば操るなど造作もないだろう。知らせなければいいのだから。どれだけ賢くとも知らなければ学べず、愚物と成り果てるのだ。そうでなくても天才だなんだと持て囃され、大人になれば只の人・・・なんてのもざらな話で。
「そこであの時の契約書が大事になってくるわけね」
「そうだな」
教育係として派遣します、という言葉が此処で重要になる。向こうの皇帝陛下に会えるチャンスがあるのだ。けど皇帝陛下って死に掛けてるんじゃなかったかな?そんな私の疑問に答えるようにお父さんは契約書を見る。
「そして、さらにだが・・・この契約書、『当代の』皇帝とは一つも書いておらん」
「なるほど」
「そして『何を』教えるのかも決まっとらん」
「ふふん、なるほどね・・・」
お父さんがとても悪い大人の顔をしている。なるほどね、介入する準備は万端という事だ。
「さて、アイゼンヘイムの皇帝はどのような『教育』をお望みかな」
「そうだね・・・手始めに、うっとおしい虫の駆除方法から・・・とか?」
頬当てをつけてあえて目元を隠してそう答える。その言葉の示す所は敵の排除だ。
「ふふふ・・・言うではないか。聞いたか?戦乙女殿はアイゼンヘイムの平定をお望みだ」
お父さんの言葉に大臣や将軍達は喝采を送ってくれる。
「ならば直ぐにでも出立だ!各自準備を整えよ!」
「「「「はっ!」」」」
二度目の言葉に皆が一斉に応え、足早に謁見の間を出て行く。そんな中でお父さんはそっと私に近付くとささやいた。
「すまんな・・・本当にすまんな」
「やっぱりわかるの?」
「小娘が・・・隠しとおせると思ったか」
私は震えていた。死に関わるという、そんな事実の存在に。目が、泳いでいた。
「倅を連れて行くか?」
「ううん、いい」
お坊ちゃんはきっと耐えられるんだろう。生きてきた世界が違う。そしてそんな時、私をそっと支えてくれるだろうけど・・・。
「格好悪い所、見せたくないから」
「そうか、無理をするでないぞ」
そう言うとお父さんは寂しそうに笑った。戦い、命のやり取り、この世界に降り立って私は初めてこの世界の本質・・・薄ら暗い所に触れるのだろうか。
「皇太子殿下、お迎えに参りました」
なんて言ってるのが風の精霊さんの力で謁見の間から聞こえてきた。嫌がらせか?
「スカサハ様、茶会への迎えが来ました」
「ええー、今から?」
「ええ、そうです。どうやら催しを早めたようです」
ドレスを纏い、立ち上がるとお坊ちゃんも何時の間にか出かけ支度を済ませたらしく礼装だ。その後ろにはルーンちゃんと執事のお爺ちゃんがいる。
「お出かけには絶好の日和でございますよ」
お爺ちゃんはそう言うと笑顔で頭を下げた。
「そのようだね、それではいざ・・・出陣といこうか」
私がそう言うと皆がクスクスと笑う。礼装の中で私一人だけが戦場に出られる格好でこの発言なのだから当然なのだろうが。
そう思った矢先に兵士さんが部屋に転がり込んできた。
「申し上げます!隣国アイゼンヘイムにて政変が起きました!北方の国境にて大規模な戦闘が行われているとの情報です!」
「なんだって!?」
「・・・」
お父さんから話を聞いていなかったのかもしれない。お坊ちゃんはとても驚いた様子で兵士さんの話を聞いている。私は昨日の夜、お父さんからその事の顛末を聞いた。
曰く、後継者争いの予兆あり。
曰く、現皇帝の余命僅かーーーー。
曰く、要求にかこつけた救援要請。
きな臭い情報は幾らでも伝えられた。そして、戦争に近い状態になりかねないと。疎い私には想像が及ばないがそれでも、戦争になる事になる。そんな事が私の頭によぎる。そしてそれに近い事が既に起こっているのだろう。
「お茶会はどうする?」
「申し訳ありませんが・・・陛下が及びです」
兵士さんの残念そうな声。彼もまた私達の晴れ舞台を楽しみにしてくれていたんだろう。
お坊ちゃんを見ると彼も少なからず残念そうであり、そして為政者としての不安も感じているようだった。こういう時、彼らにこそ重大な責任と決断が付き纏うからだ。
「おお、来たか・・・すまんな」
開幕一番にお父さんはそういった。そんなお父さんを大臣、並びに将軍達が挟むように並んでいる。全員の姿がそれぞれに荒事に向けた格好だ。
「どういう・・・」
「いいんだよ、お茶会くらい何時でも出られる」
「そうか・・・」
お坊ちゃんの言葉を遮って前にでる。彼は不満そうだったが仕方ない。叶わない願いを今此処で望み立てても仕方ないのだ。
「折角の催し物の最中、隣国アイゼンヘイムで反乱の兆しあり・・・と来た」
「ふむ」
「皇帝さんは今死にそうで・・・、お世継ぎは?」
「記憶が確かなら・・・聡明そうだったがオルランドよりも幼い、齢は8つか。政務は無理だ」
「なら、その子を廃嫡するにしろ、操り人形にするにしろ・・・好都合だね」
人形を操るように指を動かしてそう言うと大臣達も頷く。子供のうちに言い含めておけば操るなど造作もないだろう。知らせなければいいのだから。どれだけ賢くとも知らなければ学べず、愚物と成り果てるのだ。そうでなくても天才だなんだと持て囃され、大人になれば只の人・・・なんてのもざらな話で。
「そこであの時の契約書が大事になってくるわけね」
「そうだな」
教育係として派遣します、という言葉が此処で重要になる。向こうの皇帝陛下に会えるチャンスがあるのだ。けど皇帝陛下って死に掛けてるんじゃなかったかな?そんな私の疑問に答えるようにお父さんは契約書を見る。
「そして、さらにだが・・・この契約書、『当代の』皇帝とは一つも書いておらん」
「なるほど」
「そして『何を』教えるのかも決まっとらん」
「ふふん、なるほどね・・・」
お父さんがとても悪い大人の顔をしている。なるほどね、介入する準備は万端という事だ。
「さて、アイゼンヘイムの皇帝はどのような『教育』をお望みかな」
「そうだね・・・手始めに、うっとおしい虫の駆除方法から・・・とか?」
頬当てをつけてあえて目元を隠してそう答える。その言葉の示す所は敵の排除だ。
「ふふふ・・・言うではないか。聞いたか?戦乙女殿はアイゼンヘイムの平定をお望みだ」
お父さんの言葉に大臣や将軍達は喝采を送ってくれる。
「ならば直ぐにでも出立だ!各自準備を整えよ!」
「「「「はっ!」」」」
二度目の言葉に皆が一斉に応え、足早に謁見の間を出て行く。そんな中でお父さんはそっと私に近付くとささやいた。
「すまんな・・・本当にすまんな」
「やっぱりわかるの?」
「小娘が・・・隠しとおせると思ったか」
私は震えていた。死に関わるという、そんな事実の存在に。目が、泳いでいた。
「倅を連れて行くか?」
「ううん、いい」
お坊ちゃんはきっと耐えられるんだろう。生きてきた世界が違う。そしてそんな時、私をそっと支えてくれるだろうけど・・・。
「格好悪い所、見せたくないから」
「そうか、無理をするでないぞ」
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