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洞窟を抜けて

数ヶ月ぶりのお外へ

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気合を入れて私は洞窟の中を進んでいく。最深部、少なくとも武具が安置されていた場所まではなにも居ない事がわかっている。けれどそれは彼らが居たからかもしれないので慎重に進んでいく。

「さて・・・此処からは私が来た事のない場所だね」

初の実戦である。ドキドキしながら洞窟の地形と地図を交互に確認しながら進んでいく。
まずは魔法の実戦訓練から始めよう。そう思いつつ無手のまま進んでいくと大きさが二メートル近い巨大な沢蟹のような蟹が地面に生えている苔を自慢の鋏でつまんでいるのが見える。

「草食で大人しければ・・・良かったんだけど」

デカイだけの蟹かと思えば時折天井付近を飛び交う蝙蝠や何かの動物らしきものの死骸を漁っているものもいる。どうやら雑食なだけで新鮮な獲物があれば喜んで襲うのだろう。

「試しに・・・おーい!」

洞窟の中に置いて私の声は良く響く。そしてその声を聞いた蟹たちは鋏をチョキチョキしながらこちらへと殺到する。うん、これ絶対食べようとしてるね。私は地図をアイテム袋に入れて無手のまま蟹さん達と相対する。

「まずは一発目!・・・何にしようかな」

全ての属性を叩き込まれた私には逆に即決するだけの情報がなかった。威力は申し分ないので効かなくて困る事はないだろう。それ故にかえってどれを使おうか迷う。

「うーん、うーん・・・いてっ」

気がついたら先頭を走っていた蟹に頭を挟まれていた。思ったより痛かった。

「痛いなもう!」

ちょっと怒りながら蟹さんの鋏を払うと思ったよりも脆く、当ったところから粉々になってしまった。蟹さんは私の攻撃にたたらを踏むとそのまま後ろに下がっていく。蟹の甲羅とか鋏って結構硬かったとおもったんだけど・・・。もしかして蟹さんはここら辺じゃ弱いのかな?

「あ、あれ?」

疑問を解消するため私は挟みを失って泡を噴いている蟹さんへと一足飛びに近づくと腰を入れてパンチを見舞う。

『GYAAAA!』

響く断末魔。砕け散る甲羅。飛び散るかに味噌。体の構成物と一緒くたになって吹き飛んだ蟹さんを前に私は思った。

あれ?弱くない?と。

それから向かってくる蟹さんを片端からやっつけた私は蟹さんの甲羅の中でまともなモノを選び焼きカニをたくさん食べる事ができた。カニ味噌もとても濃厚で身も締まっており筋肉質な所はエビのような食感の所もあり大満足である。

食事を終えた私はそのままどんどんと階を登っていく。洞窟の最深部は一体どれくらいあるのかというと意外にも浅く十層もない。最深部が九層で武具のあった場所が八、今は蟹さんのゾーンを経て六層へと進出している。そしてお次は・・・。

「蜘蛛さんですか」

それも巣を張らないタイプである。蜘蛛には知りうる限り二種類のタイプがあり、蜘蛛の巣を張って罠に掛けるタイプと直接出歩いて狩りをするタイプである。アシダカグモなどが巣を張らない蜘蛛の中ではメジャーなのではないだろうか。

「うう・・・でも糸は出すんだよね」

巣を張らない蜘蛛はその代わりにセンサーとして糸を伸ばしたりするようだ。試しに掴んで引っ張って見るとトラックぐらいの蜘蛛さんが洞窟の壁に空いた穴からこんにちわしてきた。

「だけども・・・ていっ!」

噛み付いてきた顔面にカウンター気味にパンチすると綺麗に頭が吹っ飛ぶ。どうやら彼らは蟹さんより遥かに脆いらしい。上から落ちて圧し掛かって来る蜘蛛さんも居たが師匠の踏みつけに比べたら岩と羽くらいの差がある。びっくりする以上の被害はなかった。結局大した被害もなく、蟹さんの残りを食べながら進んでいくと・・・。

「あ、宝箱だ」

行く先々で宝物を結構発見できた。これからの生活に路銀が必要になるとおもうので私はこういったモノを細々と集める事にする。中身を確認すると大抵大きな宝石だった。

「いいもの食べて、いいところで寝たいし頑張るしかないよね」

そして結局魔法は練習できなかった。傷つかないし、素手で十分オーバーキルだし、この筋力をみてからだと魔法もきっととんでもない事になってるはず。生き埋めになりたくないので我慢我慢・・・。

そう思いつつ階層を一回ずつ上がっていく。

楽勝ペースの中、事件は四階層へと上ったときに起こった。


「おー、ここら辺は動物さんかー」

四階層に来ると洞窟が突然草原へと変わり、広さも段違いに大きくなっていた。
朝陽のように天井で輝く水晶に照らされて私は久しぶりに明るい所に出られた開放感を味わう。
走っているモンスターも動物っぽい物が多く、鹿や猪っぽい物が走っているのがみえる。それとともに香る草と土の匂いっていいよね。
そんなほんわかムードの中、私の耳に悲鳴が届いた。

『GRUAAA!』
『ぐあああああっ!!』

獣の咆哮と耳を劈くような男性の悲鳴だった。少しして私の鼻に鉄臭い匂いが届く。不味い!

「誰かいるの?!」

私は声の方向へと一目散に駆けていった。

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