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次の町 モリッツ
町の薬屋さん
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職業にはそれに従事する人達特有の匂いがある。それは料理人や服飾の人のように好ましいものから屠殺人や狩人などのように好ましくないものまで。その中で個人的に嗅ぎなれたこの薬草の匂いは私にとっては好ましく、それでいて懐かしい匂いだ。
「ごめんなさい、どうにも元気すぎるものだから」
私が薬草の匂いを懐かしんで大きく息を吐いたのを私が怒っていると勘違いしたのか男性が私に謝ってくる。
「あ、いや、元気なのは良い事だと思いますよ?ただ懐かしい匂いだったものだから」
「匂い?ああ、これか」
男性は私の言葉を受けて自分の緑色になった前掛けを見て納得したように肩を竦めた。立ち話もなんだから、と店の中に招かれるとそこには薬屋さんらしい大量の薬草がそれぞれ適切な保存方法で収納されている。
「今作ってるのは傷に良く効く薬草かな、ここら辺ではやっぱり需要が高いのかしら?」
「匂いでわかるのかい?流石だね」
中に入ったとたんに他の薬草の匂いもきつくなったがそれでもたった今薬研ですりつぶしている生の薬草の匂いには敵わない。傷薬は身に着けているだけで数メートル先から匂いがするので『あ、コイツケガしてるな』というのが分かる人には一発でわかる。効き目は緩やかだがポーションより安価なので冒険者や騎士などの直接危険に飛び込む人以外にはこちらの方がポピュラーだろうか。
「ポーションの精製もできるんだけどどうにもポーションを怖がる人もいてね」
「あー、それはまあ・・・そうですよね」
ポーションの中でも効き目の強いものは欠損部位を再生する事が出来たりする。抉れた傷口が元通りになるのは嬉しい事だが軽く泡だったりしながら再生するので初めて見た人にはトラウマものだし。
「それに傷口をすぐに塞いじゃうと悪いものも一緒に入っちゃうから知識が無い人にすぐ売るのはちょっと考えものさ」
「出血や創傷に驚いてすぐにポーションをかけるのは良くないですからね」
そう、ポーションは見た目が怖い以外にも欠点がある。すぐさま傷を塞いでしまうので傷口の汚れや異物を残したままになりがちなのである。これはとても大切な事だが私はもちろん先生が教えてくれるまで知らなかった。先生の目に見えない大きさの物を見る特殊な魔道具、それを覗いて私は小さな世界を知った。
「随分と博識ですが・・・どこでその知識を?」
「ああ、ウチは祖父から傭兵団付きの軍医でね。その知恵を俺は受け継いでいるのさ」
なんとか店を構えられるだけの資金が手に入ったから数年前に此処に来たんだよと、男性は言う。内心で苦労している人だなと私は思った。傭兵団に属する医師というのは高給取りではるものの荒っぽい傭兵相手に医療行為を行うのでとにかく物がない事が多く、その為に治療に苦労する事がおおい。また戦場での治療も当然ある為死の危険も多い。しかしながらそのような場所で磨いた技術とノウハウはケガの治療などに大きな助けとなるが・・・。
「ご両親は傭兵団を抜けるのを許可してくださったんですか?」
不躾かとは思ったがつい、聞いてしまった。先生はかつて怪我人の気配に誘われて?戦場に迷い込んだことがあるそうだ。国同士の間接的な戦争として傭兵が戦ったりするところもあるらしく先生はその小競り合いの小休止にふらっと迷い込んだのだ。その時に先生は従軍医師として傷の手当や傷から来る病気を治したりしていたが・・・。
「普通は無理だろうね、内部を知り過ぎたらさらにだ」
傭兵団のどれくらいがケガをしていて、どれくらいが元気なのか。医師を囲えばそれが全て明るみに出てしまう。
そうでなくても先生くらいの医師なら誰だって欲しがる。命がかかっているから。
「それに、君の口ぶりだとその先生はかなりの腕前のようだしね」
先生は距離を無視して転移できるらしいのでそそくさと逃げてしまったらしい。その際に治せる患者は全て完治させてきたと言うんだから変なところで几帳面である。
「その点俺はっていうと、祖父とその傭兵団の団長が旧友でね。俺の事も孫みたいに可愛がってくれてたんだ」
「へえ、それで抜けるのを許してくれたと?」
「ああ、血生臭いところを抜けて真っ当に暮らせってさ」
そう言うと男性は話を隣で聞いている我が子の頭を撫でる。親子らしく、目元がそっくりで笑うとそれがさらによく見える。
「話し込んでしまったね、それほど店は大きくないが質にはこだわってるつもりだ。好きなだけ見てってくれ」
招かれるままに店の中へ。すると店主に負けないくらいの濃い草の匂いにあっという間に包まれてしまった。薬屋というよりまるで花かなにかのような鮮やかな見た目のものもあるが皆歴としてた薬草だ。
「へー、すごい種類。それに言うだけあって・・・質もいいわね」
薬草はどれも鮮度が保たれており、此処から乾燥させるも刻んで湿布薬に仕立てるにも自由だ。液体に加工すると腐ったりするし、それは粉末も同様。その点、仕入れの段階でこの状態を保っていてくれれば自分のところで自分のレシピで加工できるので個人で使用するにはちょうどいいのだ。
「ごめんなさい、どうにも元気すぎるものだから」
私が薬草の匂いを懐かしんで大きく息を吐いたのを私が怒っていると勘違いしたのか男性が私に謝ってくる。
「あ、いや、元気なのは良い事だと思いますよ?ただ懐かしい匂いだったものだから」
「匂い?ああ、これか」
男性は私の言葉を受けて自分の緑色になった前掛けを見て納得したように肩を竦めた。立ち話もなんだから、と店の中に招かれるとそこには薬屋さんらしい大量の薬草がそれぞれ適切な保存方法で収納されている。
「今作ってるのは傷に良く効く薬草かな、ここら辺ではやっぱり需要が高いのかしら?」
「匂いでわかるのかい?流石だね」
中に入ったとたんに他の薬草の匂いもきつくなったがそれでもたった今薬研ですりつぶしている生の薬草の匂いには敵わない。傷薬は身に着けているだけで数メートル先から匂いがするので『あ、コイツケガしてるな』というのが分かる人には一発でわかる。効き目は緩やかだがポーションより安価なので冒険者や騎士などの直接危険に飛び込む人以外にはこちらの方がポピュラーだろうか。
「ポーションの精製もできるんだけどどうにもポーションを怖がる人もいてね」
「あー、それはまあ・・・そうですよね」
ポーションの中でも効き目の強いものは欠損部位を再生する事が出来たりする。抉れた傷口が元通りになるのは嬉しい事だが軽く泡だったりしながら再生するので初めて見た人にはトラウマものだし。
「それに傷口をすぐに塞いじゃうと悪いものも一緒に入っちゃうから知識が無い人にすぐ売るのはちょっと考えものさ」
「出血や創傷に驚いてすぐにポーションをかけるのは良くないですからね」
そう、ポーションは見た目が怖い以外にも欠点がある。すぐさま傷を塞いでしまうので傷口の汚れや異物を残したままになりがちなのである。これはとても大切な事だが私はもちろん先生が教えてくれるまで知らなかった。先生の目に見えない大きさの物を見る特殊な魔道具、それを覗いて私は小さな世界を知った。
「随分と博識ですが・・・どこでその知識を?」
「ああ、ウチは祖父から傭兵団付きの軍医でね。その知恵を俺は受け継いでいるのさ」
なんとか店を構えられるだけの資金が手に入ったから数年前に此処に来たんだよと、男性は言う。内心で苦労している人だなと私は思った。傭兵団に属する医師というのは高給取りではるものの荒っぽい傭兵相手に医療行為を行うのでとにかく物がない事が多く、その為に治療に苦労する事がおおい。また戦場での治療も当然ある為死の危険も多い。しかしながらそのような場所で磨いた技術とノウハウはケガの治療などに大きな助けとなるが・・・。
「ご両親は傭兵団を抜けるのを許可してくださったんですか?」
不躾かとは思ったがつい、聞いてしまった。先生はかつて怪我人の気配に誘われて?戦場に迷い込んだことがあるそうだ。国同士の間接的な戦争として傭兵が戦ったりするところもあるらしく先生はその小競り合いの小休止にふらっと迷い込んだのだ。その時に先生は従軍医師として傷の手当や傷から来る病気を治したりしていたが・・・。
「普通は無理だろうね、内部を知り過ぎたらさらにだ」
傭兵団のどれくらいがケガをしていて、どれくらいが元気なのか。医師を囲えばそれが全て明るみに出てしまう。
そうでなくても先生くらいの医師なら誰だって欲しがる。命がかかっているから。
「それに、君の口ぶりだとその先生はかなりの腕前のようだしね」
先生は距離を無視して転移できるらしいのでそそくさと逃げてしまったらしい。その際に治せる患者は全て完治させてきたと言うんだから変なところで几帳面である。
「その点俺はっていうと、祖父とその傭兵団の団長が旧友でね。俺の事も孫みたいに可愛がってくれてたんだ」
「へえ、それで抜けるのを許してくれたと?」
「ああ、血生臭いところを抜けて真っ当に暮らせってさ」
そう言うと男性は話を隣で聞いている我が子の頭を撫でる。親子らしく、目元がそっくりで笑うとそれがさらによく見える。
「話し込んでしまったね、それほど店は大きくないが質にはこだわってるつもりだ。好きなだけ見てってくれ」
招かれるままに店の中へ。すると店主に負けないくらいの濃い草の匂いにあっという間に包まれてしまった。薬屋というよりまるで花かなにかのような鮮やかな見た目のものもあるが皆歴としてた薬草だ。
「へー、すごい種類。それに言うだけあって・・・質もいいわね」
薬草はどれも鮮度が保たれており、此処から乾燥させるも刻んで湿布薬に仕立てるにも自由だ。液体に加工すると腐ったりするし、それは粉末も同様。その点、仕入れの段階でこの状態を保っていてくれれば自分のところで自分のレシピで加工できるので個人で使用するにはちょうどいいのだ。
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