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次の町 モリッツ

困った?そりゃ大変だね

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傷口を押さえてもがき苦しんでいる男たちを放置してはちょっとだけ周囲の人たちに気の毒だね。

「ちょっと、そこのおじさん達。良かったら助けてあげよっか?」
「・・・?」

痛みに顔を歪め、脂汗を流している男性の一人に私は話しかける。男性は私を訝しむ様子で視線を泳がせている。

「このままじゃ多分一時間以内に全滅、そして私達を咎める術は貴方達にはないわ」

野次馬が倒れている男性達を見ているが誰も助けようとはしない。ただ迷惑そうな顔で彼らを見つめるだけだ。
助けようと、見殺しにしようと下手に関わると絡まれるだけなので当然だろう。こういう事には私達みたいな流れ者が適当に片付けるのが一番被害が少ないかもしれない。報復も私達相手では難しいだろうし。

「力づくが得意なんだろうけどその結果がこの有様。腕利きの殺し屋でもいるなら話が変わってくるけど・・・」

もしこの場で彼らが死んでしまえば誰がやったかすら特定が困難になるだろう。ギルドには彼らのようなならず者が多いかもしれないが無関係な人もいるかもしれないし、脅されているだけの人もいるかもしれない。

(親玉を潰して解散させるのが一番手っ取り早いだろうし、逃がして泳がせる方がいいかもしれないわ)

とりあえず応急手当だけして逃がすのが適当か、脅しに屈して大人しくしてくれれば良かったが早々に報復に出た彼らの性質を見る限りより苛烈な手段に出るのではと考えるのが当然だった。

「とりあえず止血はしてあげる、ここらへんで血だるまになって死なれてたらお店が困るからね」

関わりたくはないが、死体が目の前にあると困るのはお店の人たちも同じようで私の提案にホッとしている人たちもいるようだ。お肉屋さんには見せられたが此処で私の腕前を見せてあげようじゃないの。

「とりあえず縛って止血、消毒は酷い人にだけだから各自で買ってやって頂戴」

余裕がないのか返事がないがどうでもいい。とりあえず反抗だけはされないのでささっと済ませる。

「よし、と・・・後は有料だからお金を持ってきなさいね。あと、流れた血は戻らないから自分で精のつくものでも食べて養生なさいな」

彼らの服を破って包帯代りにして傷口を塞ぎ、お店の人から買い受けた度数の高い酒精で消毒。止血の仕方を教えて彼らに自力で帰ってもらうことにした。何人かは難しい様子だったが杖や戸板を買い与えてどうにかした。

「まったく、これでお昼をご馳走になった分がチャラ・・・いや、ちょっと赤字ね」

余計な物まで買う羽目になったので踏んだり蹴ったりだ。

「ごめん、次はもうちょっと手加減する」
「一応言っとくけど刃物刺したら手加減も何もないからね?」

特に獣を仕留める為かジェイナの投げナイフも手斧も刃渡りや刃の厚みが凄い。柄が当たっても死にかねないんじゃ?ジェイナの体格のお陰で小さく見えているが実際は下手するとショートソードくらいに見えるし。

「さて、それじゃあいつ等を尾行するわよー」
「なんで?」
「害獣を根絶するには巣穴から探さなきゃね」

きょとんとしたリッキーにジェイナが補足をいれてくれたので三人で連れ立って歩き始める。彼らは悪態をつきながら歩いていくので雑踏に紛れても目立つ存在だ。

「もう少し離れる?」
「それがいいかも、血の臭いで追いかけられるから見失っても構わないし」

少し距離をとって私達はごく自然に彼らを逃がす素振りでわき道に姿を消した。





「クソ・・・なんだあの化け物は!」
「騒ぐんじゃねえ、そこらに捨ててくぞ!」

リーシュ達を襲撃した男たちはそれぞれが酷いケガを負い、杖にすがって歩いていた。腕の怪我も重傷ではあったが歩くのに支障がないだけマシな部類で膝や足の骨といった箇所を攻撃された男は歩くたびに傷に響き汗を流しながら歩いている。

「兄貴の言う事じゃ相手は素手だと聞いてたのに・・・」
「あれが冒険者ってやつなのか?信じられねえよ」

店の恐喝に向かっていた兄貴分たちが追い返されたのを聞いて即座に報復すべく武器を手に向かった彼らだったが彼らを待ち受けていたのはおそらく並みの喧嘩自慢ではお話にもならない強烈な攻撃だった。

「あんなのが居たら十人二十人いたところでどうなるってんだよ・・・」
「見てるだけだったがもう一人の女もかなりの腕前だったって話だぞ」
「あの大男だけじゃなくてか・・・」

男たちは憂鬱な気分で自分達の自宅へととぼとぼと歩いていく。倍以上の数で挑めばなんとかなると楽観視していた数分前の自分が呪わしくてたまらなかった。止血はしてもらったがどうにも傷は痛むし、骨が折れた奴は治るかどうかもわかったものではない。

「とりあえずボスに報告して・・・しばらくほとぼりが冷めるのをまつか・・・」
「そうだな、俺たちもどうするべきか身の振り方を考えなきゃな」

強面を売りにしていた男たちは大男とはいえたった一人に完膚なきまでに叩きのめされ、その前の兄貴分の仇を討てずじまいでメンツは丸つぶれだった。おそらく雇用主も彼らに温情などかけないだろう。

「畜生・・・生きてかえれりゃいいがな」

報告役の男性は肩口から滲む血を睨みながら思わずそう呟くしかなかった。
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