上 下
6 / 14
異世界は愉しい

呪術の実践

しおりを挟む
鬱蒼とした森の中で私は当てもなくさまよう。どれだけの生き物がいるのか、どんな生き物なのか。
それすらもわからないがどうとでもなるだろうという何の根拠もない自信で歩いていた。

「生き物なんて居ない・・・か」

正確にはいるんだろうが出会う事もなく・・・。こういう場合ってすぐさまピンチになるのが相場では?なんて考えていると念願が叶ったのか茂みから三匹の豚面の人間?が現れた。

「ピギッ?!」
「ピギャ、ギャウ」
「ギャウギャウ!」

それぞれが弓、槍、剣を携えておりサイズがちょっとおかしいが金属製の鎧を纏っている。先頭の豚が一瞬驚いた様子だったが私が一人で、なおかつ手ぶらなのを見て残る二人と同様に落ち着きを取り戻して武器を構えた。どうやら私を捕まえるか、それとも殺して狩りの獲物にしたいのかのどちらかのようだ。

「ギャウゥ!」

私がぼっとしているのを恐怖で動けないと勘違いしたのか剣を携えた一人が近づいてくる。携えた剣はところどころが欠けたり錆びていたりと扱いの悪さを物語っている。おそらくだが買ったものではない、というか正規の手段で手に入れたモノではないのだろう。

「さて、それじゃあ呪術の生き試しとまいりましょうか」

体格は大きく力は強そうだ。魔法とかがあるのかは分からないが通常の人間では抵抗すら難しいのではないだろうか。呪術が効いてくれればいいが。

「まずは、『鬼一口』・・・あーん、はむっ」

口を開け、剣を振り上げる豚人間を前に開いた口を閉じる。間抜けな動作であったが効果は覿面だった。

「ピギャ?!」
「ウギャ?!ギャウ!!」

目の前の豚人間が消滅し、何かを飲み込む感触が。どうやらこれが鬼一口の効果らしい。

「見た目はアレだけど・・・美味しいわぁ」

噛んでいないのに伝わる肉の味。極上とはいいがたいが十分に良質な肉の感触。そしてお腹に僅かとはいえ広がる満足感に思わず笑みが浮かぶ。

「うふふ、それじゃあ残りも美味しくいただきましょか」
「ピギッ?!」

目の前の獲物が虎とは思わなかったのだろうか。恐怖で動けない様子の豚人間二人、私は一足飛びに近づくと・・・

「あーん、はむっ」

今度は二匹同時に美味しくいただいた。どうやら一人だけというわけでは無さそうだ。これなら多数の相手でも大丈夫だな。今はそれよりも・・・。

ぐぅぅぅ・・・。

「中途半端に食べたせいで余計にお腹が・・・」

大男三人分にも関わらず三口にすぎない量にしか感じない。鬼の胃袋というのは本当に恐ろしい。しかしこのままだと食べたばかりだというのに餓死しそうなほどの焦燥感だ。ああ、なにか食べたい。
そう思いながら当てどもなく歩いていると何かが匂った。

「これは・・・さっきの豚人間の」

複数が集まっているのだろうか。先ほどよりも強い臭いに思わず喉が鳴る。そのまま私は臭いに釣られるようにふらふらと歩いていく。

「おお・・・食料が一杯」

そこにあったのは豚人間の集落だった。何匹居るのだろう。たくさん、それも食いでがありそうな大人ばかりだ。

「あはぁ・・・どれから・・・迷うぅ」

思わずよだれが零れそうになる。まるで飲食店で注文を決めあぐねているような気分。とてもいい気分だ。
どいつもこいつも太っていたり、筋肉質だったり、そして・・・ん?人らしきものがいるぞ。

「人間・・・?共存しているわけでは無さそうだね」

ボロボロになった服を纏って女性ばかりが縄につながれて歩かされている。あれか、捕虜かなにかか。

「くん・・・良い質の肉の匂い・・・」

筋肉質、それでいて柔軟性のある肉の匂いに再びよだれが零れそうになる。あの女性たちの中にいる色白の女性の一人が特上の肉質をしているのが匂いだけで分かった。

「あは、もう頭の中まで人間辞めちゃったかな」

この体は人間を早くも食料と認識してしまっている。困ったものだ。しかもそれでいて罪悪感とかは微塵もない。
どうやって彼らを食べるかで頭はいっぱいだ。できる事なら食べ残しはしたくない。

「呪術で・・・やっちゃうか?」

高台に登って集落を見下ろすとこれがただの集落ではないことに気が付いた。全員がちぐはぐの防具とは言え武装しているのだ。先ほどの連中もそうだったがどうやら彼らは軍隊か、それに類する集団のようで隊列を組んで行動している。

「とりあえずあの集団からやっちゃうか」

集落から結構な数の集団が隊列を組んで出発するようだ。よし、彼らから食べちゃおう。私は一旦集落から離れて彼らを尾行する事にした。

「なーにをーするのかなーっと」

最後尾にしれっと紛れ込んで、時折こちらに気づいた奴をつまみ食いしながら私はゆっくりと彼らを追いかけることにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

処理中です...