少年愛玩ドール

成瀬瑛理

文字の大きさ
上 下
25 / 76
髪飾り

1

しおりを挟む
 
 その日、ピノは屋敷の中を探検していた。そして、再びあの部屋に訪れた。部屋の中央に飾られていた大きな肖像画は、色褪せることもなくそこに飾られていた。ピノは肖像画の女性に見とれると、そこでジッと絵を見つめていたのだった。どこかローゼフと同じ雰囲気を持つ彼女は、まるで彼の生き写しのようだった。ピノは不意に肖像画の女性に話しかけてみた。

「ねえ、きみは誰? ボクはピノだよ。一緒にお話ししよう!」

 ピノは無邪気に絵に話しかけると飽きることもなく、再びその肖像画を眺めたのだった。その頃ローゼフと執事のパーカスは居間で話をしていた。そこにピノが足音をバタバタさせて部屋に戻ってきた。

「ねぇねぇ、ローゼフみてみて!」

「こーら、ピノ今は大事なお話し中なんだ。話ならあとにしなさい。それに廊下をむやみに走るな、怪我をしたら危ないだろ?」

 彼はそう言って注意すると、ふとピノに目を向けた。すると小さな手には綺麗な薔薇の形をした髪飾りが握られていた。ローゼフはハッとなると、ピノに向かって急に怒鳴った。

「ッ……!? ピノ、それは母上の大事な髪飾りだ! これをどこからもってきた!? 今すぐ答えなさい!」

 普段はおとなしくて優しいローゼフだが、母の髪飾りをみた瞬間、彼は物凄い剣幕でピノに向かって怒鳴りつけた。その様子にパーカスも驚き、思わず黙った。

「ご、ごめんなさいローゼフ……! これ向こうの部屋で見つけたんだ。お、怒らないでローゼフ……ボ、ボク……ひっく……!」

 ピノはそう答えると今にも泣きそうな表情だった。だが、彼の怒りはおさまらなかった。ローゼフは更に冷たく言い放った。

「フン……! 人形の癖に私から母上の大事な髪飾りを盗むとは許される行為ではないぞ!?」

「違うよローゼフ、ボクはこれを……!」

「黙れ盗っ人! お前の顔など見たくもない! 今度また盗んだりしたら、お前が入っていた鞄の中に戻してやるからな!」

 ローゼフはカッとなると持っていた髪飾りを無理やりとりあげて乱暴に突き飛ばした。ピノは彼に突き飛ばされると悲しくて泣き出した。

「うわぁああああん! ローゼフのバカーっ!!」

 ピノは床の上に座り込んで泣きじゃくった。 そこで黙って見ていたパーカスは、怒り狂うローゼフをたしなめると、彼は怒って部屋から出て行った。ローゼフが怒って部屋を飛び出すとパーカスは泣いているピノをあやした。そして、不意に彼のことを話しだした。

「ピノよくお聞きなさい。ローゼフ様がお怒りになられるのは、仕方ないことなのだ」

「え……?」

「ローゼフ様は幼い頃に最愛のご両親をいっぺんに亡くされて、とても孤独な人生を歩んできたのです。それが故に亡きご両親への想いは深く、どうしてもあのような冷たい態度を時おり誰に構わずとってしまうことがあるのです」

「パーカス……」

「とくに亡き母の思いは深く、彼はとてもマリアンヌ様のことを今も恋しがっておられるのです」

 ピノはパーカスからローゼフの生立ちの話を黙って聞くと、ピタリと泣き止んで悲しい表情を見せた。

「そうだったんだね、ローゼフはずっと一人で寂しかったんだね……。ボクはマスターのことを何も知らなかった…――。こんなに近くにいたのに何も……」

「そうだよ、ピノ。ローゼフ様はずっと孤独で亡きご両親のことを想って過ごしていたのです。でも、そんな彼の心にも光がまた戻ったのです――」

「光が……?」

「そう、きみが彼に光をもたらしたんだ」

「ボクが?」

 パーカスのその言葉にピノはうつ向いた顔を上にあげて聞き返した。

「ボクがローゼフに光を……?」

「ああ、ローゼフ様はお前に出会ってから少しずつ明るくなられた。ずっと笑わなかった彼の顔に笑顔が戻ったことに、私はきみに心から感謝しているのだよ。きっと彼のご両親も、天国で喜んでるに違いありません」

「あのね、パーカス。ボクあの髪飾り盗ったんじゃないよ本当だよ? あの部屋で偶然拾ったんだ……。でも、ローゼフ信じてくれなかった。ボクもしかして嫌われちゃったのかな……?」

 ピノはそう言って話すと、不安そうな顔で彼の方をジッと見つめた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

【完結・短編】game

七瀬おむ
BL
仕事に忙殺される社会人がゲーム実況で救われる話。 美形×平凡/ヤンデレ感あり/社会人 <あらすじ> 社会人の高井 直樹(たかい なおき)は、仕事に忙殺され、疲れ切った日々を過ごしていた。そんなとき、ハイスペックイケメンの友人である篠原 大和(しのはら やまと)に2人組のゲーム実況者として一緒にやらないかと誘われる。直樹は仕事のかたわら、ゲーム実況を大和と共にやっていくことに楽しさを見出していくが……。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

処理中です...