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少年が彼の屋敷に来てから間もなく1ヶ月が過ぎた頃だった。少年が来る前は屋敷は静かだったが、ピノが来たことによって屋敷には明るさが戻った。パーカスは使用人達に少年の話をしたが、ピノが「人形」であることは秘密にして伏せた。パーカスはピノについて使用人達にこう説明した。母を亡くして身寄りがないところを彼が街で引き取ったと――。はじめは使用人達はそれに疑問を抱いたが、それが主からの話だと聞くと彼らはその話に黙って従ったのだった。
ローゼフはピノに好きな物を買って与えた。まるで自分の息子のように、彼は少年のことをとても大事に可愛がった。そして、少年は豪華な装飾品に囲まれた屋敷の中で元気一杯に育った。余りにも元気にはしゃぐので、屋敷の中に飾ってある高価な壺をピノが割らないかと、たまにパーカスは目を光らせたりした。しかしピノは彼の心配なんかよそに、天真爛漫な笑顔を見せながら屋敷の中を駆け回って遊んだ。
――その日もピノは屋敷の中で遊んでいた。大きな屋敷の中は子供からみれば探求心をくずぐられるようなものだった。ピノは廊下の物陰に隠れるとパーカスがとおりすぎたのを見計らい、屋敷の奥へと探検しに行ったのだった。その一方、ローゼフは商人が屋敷に訪れることを部屋の中で待ちわびていた。そして、壁に飾られていた時計が11時を過ぎた頃に商人が馬車に乗って屋敷に訪れた。彼が屋敷に来たことを部屋の窓から確認すると、ローゼフは急いで執事のパーカスを呼んだ。そして、商人を部屋に招くように指示を出したのだった。パーカスは商人を屋敷に招き入れた。彼は自分の帽子を脱いでパーカスに軽く挨拶をすると、ローゼフの部屋へ一緒に向かった。その一方で、ピノは奥の部屋に入って行った。そして、部屋の中を興味津々にぐるりと探検すると、壁に大きな女性の肖像画が飾られていたのを目にした。肖像画の女性は薔薇のように美しく、そして、アフロディアの像のような美しい顔立ちだった。 気品と優雅さと賢さに満ちた彼女の肖像画は少年の心に深く印象づけた。ピノは生まれて初めて女性をみたので、その美しさに驚くと大きな衝撃を受けた。
「わあっ! 綺麗な人! まるでローゼフみたいに綺麗!」
ピノは美しい女性の肖像画の前でみとれると、暫く黙って絵を見つめたのだった。その頃ローゼフは商人と久しぶりの会話を楽しんだ。そして、商人が新しく仕入れた骨董品の話をすると彼は話を切り出した。
「――ああ、そうだ。アーバンお前から以前、あるものを買ったのだが覚えているか?」
「はて、それはいつの物ですか?」
「やはりお前も年だし覚えていないか……。あれだ、愛玩ドールだ。忘れたとは言わせないぞ?」
ローゼフがその言葉を口にすると、商人は急に額から汗をかいて言い訳をした。
「ローゼフ伯爵、あの人形はやはり只の噂です……! 人形が人間に化けるなどと迷信……!」
「本当にそうか?」
動揺する彼を前にローゼフは冷静だった。アーバンは落ち着かない様子で否定した。
「はい、そうでございますとも……! あ、買って頂いた額はローゼフ様に返金しま……」
「貴様はさっきから何を言っている?」
「え、いや……その……私は……」
ローゼフは動揺するアーバンを前に首を傾げると、何を慌てているんだと逆に質問した。
「まあ、いい――。それより聞いてくれ、お前の言った通りだった。あの人形は……」
彼が真剣な表情で商人に話を切り出すと、そこでいきなりピノがはしゃぎながら部屋に戻ってきた。
「ローゼフローゼフ! ボクね、すごく素敵な絵を見つけちゃった!」
ピノは嬉しそうに話すと、彼の膝にもたれて甘えて見せた。商人はピノが現れると、自分の目を丸くさせて驚いていた。
「こら、ピノ! 話の途中で割り込むんじゃない!」
「だってだって~! ねえ、ローゼフ一緒に遊ぼう! ボクね、大きな絵をみつけたんだよ!? 一緒にみよう! すごく大きな絵なんだ!」
ピノはそう言って彼の袖口をぐいぐい引っ張ると人懐っこく甘えたのだった。まるで5歳くらいの男の子の素振りだった。商人は驚くと彼に尋ねた。
「こ、これは驚きました……! まさかローゼフ伯爵にこんな小さなお子様がいたとは……!」
「アーバン、貴様はなにを勘違いしているのだ? 私に子供などいない」
「そ、そうなのですか……!? では、この子はもしや……!」
商人はそこで何かを感づくとピノの顔をジッと見つめてきた。
「そうだこの子は愛玩ドールだ。お前の言った通りあの人形は本物だった。さあ、ピノ。アーバンにご挨拶をしなさい――」
商人はローゼフの言葉に衝撃を受けると、腰が砕けたように地面に倒れて尻餅をついた。ピノは彼に言われると、アーバンに挨拶しようと右手で握手を求めた。
ローゼフはピノに好きな物を買って与えた。まるで自分の息子のように、彼は少年のことをとても大事に可愛がった。そして、少年は豪華な装飾品に囲まれた屋敷の中で元気一杯に育った。余りにも元気にはしゃぐので、屋敷の中に飾ってある高価な壺をピノが割らないかと、たまにパーカスは目を光らせたりした。しかしピノは彼の心配なんかよそに、天真爛漫な笑顔を見せながら屋敷の中を駆け回って遊んだ。
――その日もピノは屋敷の中で遊んでいた。大きな屋敷の中は子供からみれば探求心をくずぐられるようなものだった。ピノは廊下の物陰に隠れるとパーカスがとおりすぎたのを見計らい、屋敷の奥へと探検しに行ったのだった。その一方、ローゼフは商人が屋敷に訪れることを部屋の中で待ちわびていた。そして、壁に飾られていた時計が11時を過ぎた頃に商人が馬車に乗って屋敷に訪れた。彼が屋敷に来たことを部屋の窓から確認すると、ローゼフは急いで執事のパーカスを呼んだ。そして、商人を部屋に招くように指示を出したのだった。パーカスは商人を屋敷に招き入れた。彼は自分の帽子を脱いでパーカスに軽く挨拶をすると、ローゼフの部屋へ一緒に向かった。その一方で、ピノは奥の部屋に入って行った。そして、部屋の中を興味津々にぐるりと探検すると、壁に大きな女性の肖像画が飾られていたのを目にした。肖像画の女性は薔薇のように美しく、そして、アフロディアの像のような美しい顔立ちだった。 気品と優雅さと賢さに満ちた彼女の肖像画は少年の心に深く印象づけた。ピノは生まれて初めて女性をみたので、その美しさに驚くと大きな衝撃を受けた。
「わあっ! 綺麗な人! まるでローゼフみたいに綺麗!」
ピノは美しい女性の肖像画の前でみとれると、暫く黙って絵を見つめたのだった。その頃ローゼフは商人と久しぶりの会話を楽しんだ。そして、商人が新しく仕入れた骨董品の話をすると彼は話を切り出した。
「――ああ、そうだ。アーバンお前から以前、あるものを買ったのだが覚えているか?」
「はて、それはいつの物ですか?」
「やはりお前も年だし覚えていないか……。あれだ、愛玩ドールだ。忘れたとは言わせないぞ?」
ローゼフがその言葉を口にすると、商人は急に額から汗をかいて言い訳をした。
「ローゼフ伯爵、あの人形はやはり只の噂です……! 人形が人間に化けるなどと迷信……!」
「本当にそうか?」
動揺する彼を前にローゼフは冷静だった。アーバンは落ち着かない様子で否定した。
「はい、そうでございますとも……! あ、買って頂いた額はローゼフ様に返金しま……」
「貴様はさっきから何を言っている?」
「え、いや……その……私は……」
ローゼフは動揺するアーバンを前に首を傾げると、何を慌てているんだと逆に質問した。
「まあ、いい――。それより聞いてくれ、お前の言った通りだった。あの人形は……」
彼が真剣な表情で商人に話を切り出すと、そこでいきなりピノがはしゃぎながら部屋に戻ってきた。
「ローゼフローゼフ! ボクね、すごく素敵な絵を見つけちゃった!」
ピノは嬉しそうに話すと、彼の膝にもたれて甘えて見せた。商人はピノが現れると、自分の目を丸くさせて驚いていた。
「こら、ピノ! 話の途中で割り込むんじゃない!」
「だってだって~! ねえ、ローゼフ一緒に遊ぼう! ボクね、大きな絵をみつけたんだよ!? 一緒にみよう! すごく大きな絵なんだ!」
ピノはそう言って彼の袖口をぐいぐい引っ張ると人懐っこく甘えたのだった。まるで5歳くらいの男の子の素振りだった。商人は驚くと彼に尋ねた。
「こ、これは驚きました……! まさかローゼフ伯爵にこんな小さなお子様がいたとは……!」
「アーバン、貴様はなにを勘違いしているのだ? 私に子供などいない」
「そ、そうなのですか……!? では、この子はもしや……!」
商人はそこで何かを感づくとピノの顔をジッと見つめてきた。
「そうだこの子は愛玩ドールだ。お前の言った通りあの人形は本物だった。さあ、ピノ。アーバンにご挨拶をしなさい――」
商人はローゼフの言葉に衝撃を受けると、腰が砕けたように地面に倒れて尻餅をついた。ピノは彼に言われると、アーバンに挨拶しようと右手で握手を求めた。
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