少年愛玩ドール

成瀬瑛理

文字の大きさ
上 下
11 / 76
生誕

2

しおりを挟む

「だ、大丈夫かきみ……?」

 彼は心配そうに少年を抱き起こした。でもなかなか返事はなかった。少年は意識を失っている様子だった。彼は少年を抱き上げると確かに不思議な感覚を腕の中で感じた。少年は人間のようにぬくもりがあり、そして温かかった。呼吸する音を近くで感じ、髪は人間のようにサラサラだった。とても人形とは、思えないくらい少年は完璧なまでに人間と同じだった。ローゼフは、これが昨日まで顔がなかったあの人形だと思うと、彼は狐に摘ままれた感覚に陥った。

 ローゼフは言葉を失ったまま呆然と立ち尽くして少年をジッとみつめた。彼は心の中でつぶやいた。これはどんなまやかし物よりも勝るモノだと――。まるで神が与えた贈り物のようだった。それ以上どんな言葉を着飾ってもその言葉しか頭には浮かばなかった。彼は不思議なまでに、その少年に魅了されたのだった。少年は瞳を開けると彼を見つめた。

「マスター……」

「すまん、いきなり叩いて……私も混乱したんだ」

「ううん。やっぱりマスター驚いた? だってボク人形だから……人形が生きてたら驚くよね……?」

 少年にそう聞かれると戸惑いつつも正直に答えた。

「あぁ……」

「マスター、ボクのこと嫌いになった?」

「わからない。でも、嫌いにはならないと思う。何故だかわからないが…――」

 戸惑う様子の彼に、少年は不安げな表情で聞き返した。

「マスター本当に?」

「ああ……」

 そう言って答えると、少年は自分の両手を伸ばすと嬉しそうに無邪気に抱きついてきた。彼はまだ状況がのみこめなかったが、その無垢な感情を不思議と拒めなかった。少年を自分の膝の上に乗せると綺麗な横顔で話しかけた。

「私の名はローゼフ、きみは私だけの愛玩ドールだ。名はピノにしよう」

「ピノ?」

「ああ、そうだとも――」

 そう言って少年に名前を与えると、ローゼフは穏やかな表情で微笑んだ。少年は彼から名前をもらうと、とても嬉しそうに無邪気にハシャイだ。

「マスターありがとう! 素敵な名前だね!? ボクは今日からピノだ!」

 少年は彼の膝の上から降りると無邪気にハシャイで踊った。その様子は心から喜んでいる様だった。

「こら、やめなさいピノ! 朝からそんなにハシャイだら……」

 彼がそう言いかけると、ピノはいきなりカーペットの上に躓いて倒れた。

「ピノ!」

 ローゼフは名前を呼ぶと慌てて駆け寄って抱き起こした。

「あれ……? 足がうまく動かない。なんでかな?」

 ピノはそう話すと、キョトンとした表情で自分の脚を不思議そうに触った。

「当たり前だ。お前はまだ、生まれて間もないんだから――」

 彼はそう話すとピノに優しく微笑んだ。

「そうかぁ。ボク生まれてまだ上手く歩けないんだね?」

「ああ、だからまずは特訓だ! さあ、私の手を取りなさい!」

「うん! ボク、ローゼフ大好き!」

 ピノは明るい笑顔で無邪気に笑うと、素直に彼の手をとったのだった――。

         
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

告白ゲーム

茉莉花 香乃
BL
自転車にまたがり校門を抜け帰路に着く。最初の交差点で止まった時、教室の自分の机にぶら下がる空の弁当箱のイメージが頭に浮かぶ。「やばい。明日、弁当作ってもらえない」自転車を反転して、もう一度教室をめざす。教室の中には五人の男子がいた。入り辛い。扉の前で中を窺っていると、何やら悪巧みをしているのを聞いてしまった 他サイトにも公開しています

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

処理中です...