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―短編集―1

ある日の午後

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「えっ? ひょっとして美岬なの……?」

 聞き慣れた声に気がつくと、僕は声をかけた。すると奥のベッドの方から誰かの声が聞こえた。寝ていた身体をベッドから起こして締め切られていたカーテンを手で開くと美岬が顔を覗かせた。

「……すごい声、つーかお前。人のプライベート踏み込み過ぎだぞ?」

そう言って美岬は僕を見て少し笑った。

「ここに居たんだ。僕、探しちゃったよ」

美岬はベッドから離れるとそのまま歩いて、結人達の所に来た。グラギウスは椅子に座ったまま、下からを彼を見上げた。

「東、気分はどうだ?」

 彼が体調を尋ねると美岬は自分の乱れた前髪を手で整え、グラギウス艦長の前で返事をした。

「はい。問題ありません」

「そうか……。まっ、余り無理はするな」

 グラギウスは持っているティーカップで珈琲を一口飲むと、それとなく話した。 

「ねぇ、美岬。どこか悪いの……?」

 結人が心配そうな顔で急に尋ねると、美岬は気まずそうな顔で話を反らした。

「別に。お前には関係ないだろ――」

「何その言い方? 人が心配しているのに、その言い方はないんじゃないか!?」

 素っ気ない答えに剥きになると、その場でジリジリと彼に詰め寄った。 

「結人、ウザい」

 美岬のその言葉に結人はほっぺたを膨らますと、両手でポカポカと横から叩いた。

「イテッ、やめろよ。叩くのマジ禁止……!」

 そう言ってダルうざそうに言うと、絡んでくる結人を軽くあしらった。雪矢は美岬を見て症状を確認した。

「美岬君もう起き上がっても大丈夫なの? 吐き気や目眩や立ち眩みやダルさとか熱は無い?」

雪矢の質問に美岬は自分の背中をさっきからポカポカと叩いて来る結人をそのまま放置して、その場で質問に答えた。

「いえ、心配いりません。見ての通り平気です――!」

凛とした口調で話すと毅然とした態度をとった。

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