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第8章―輝き―アグライア
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「――不思議な事に此処に居ると、随分と長く時が止まったように感じる事が多い。きっとこんな所に長くいつまでも居る所為だろう。時々、彼らの顔が思い出せなくなる。恐らく、来客が少ない所為だろう。こんな所に私をわざわざ尋ねて来るのはお前くらいだ。なあ、友よ……」
アーネットのその言葉に彼は黙って目を伏せた。
「私の空いた椅子には今誰が座っているのだ? ルドルフか、それともケベックか?」
「今はケヒュラー最高主導者が貴方の代わりに、長く座を治めておられます。参謀にはケベックが彼の右腕となっています。ゼノア最高法議長にはシュナイゼルがなられました。ルドルフは、彼は国を指導する者として相応しい器では無かった。貴方のご希望に添えなくて残念です」
「そうか……」
「我々一同は、貴方の帰りを長く待っています。病に伏せられてからずっと…――」
「野心は時に人の心を見失わせるものだ。あやつは強欲過ぎた。お前が謝る事ではない」
彼がそう答えるとツィゴイネルワイゼンは黙って頷いた。
「今では私は時の彼方にひっそりと消え去る存在でしか無い。我々ゼノアを導く最高指導者としての務めは終わったに等しい。もうあの軍服に袖を通す事は二度とないだろう……」
「何を仰るのですか、アーネット様……! 貴方のお導きをなくして我々ゼノアに『未来』はありません! プロメテウスの炎となって我々を暗闇から光へとお導き下さい…――!」
そう言って彼の元に駆け寄ると傍に跪いて、切なる思いで手を握った。
「願わくば私もそうしてやりたい。だが、それは叶わない。この身体を蝕む病は私を生かしてはくれぬ。私には時間がない。それはお前も分かっているだろう?」
「で、ですが……!」
「これは人類が造り出した『呪い』に過ぎない。その代償が今も続いている。負の連鎖を断ち切る事は未来永劫無いであろう。これが大きな代価を払った代償だ。ツィゴイネルワイゼン…――」
彼は遠い目をしながら不意に呟いた。その言葉の意味を深く理解するとそれ以上は何も言えなくなった。アーネットは再び咳き込むと口から血を吐いた。その苦しむ姿が悲愴感を漂わせた。
「なんて皮肉で滑稽な事だ。よもやタナトスの呪いがこれ程までとは……。遥かなる年月を積み重ねて幾度と時が過ぎようとも、この呪いは浄化される事はない。どうすれば神は我々をお許しになられるのだろうか、私は今もその答えを探している…――」
「アーネット様……」
アーネットのその言葉に彼は黙って目を伏せた。
「私の空いた椅子には今誰が座っているのだ? ルドルフか、それともケベックか?」
「今はケヒュラー最高主導者が貴方の代わりに、長く座を治めておられます。参謀にはケベックが彼の右腕となっています。ゼノア最高法議長にはシュナイゼルがなられました。ルドルフは、彼は国を指導する者として相応しい器では無かった。貴方のご希望に添えなくて残念です」
「そうか……」
「我々一同は、貴方の帰りを長く待っています。病に伏せられてからずっと…――」
「野心は時に人の心を見失わせるものだ。あやつは強欲過ぎた。お前が謝る事ではない」
彼がそう答えるとツィゴイネルワイゼンは黙って頷いた。
「今では私は時の彼方にひっそりと消え去る存在でしか無い。我々ゼノアを導く最高指導者としての務めは終わったに等しい。もうあの軍服に袖を通す事は二度とないだろう……」
「何を仰るのですか、アーネット様……! 貴方のお導きをなくして我々ゼノアに『未来』はありません! プロメテウスの炎となって我々を暗闇から光へとお導き下さい…――!」
そう言って彼の元に駆け寄ると傍に跪いて、切なる思いで手を握った。
「願わくば私もそうしてやりたい。だが、それは叶わない。この身体を蝕む病は私を生かしてはくれぬ。私には時間がない。それはお前も分かっているだろう?」
「で、ですが……!」
「これは人類が造り出した『呪い』に過ぎない。その代償が今も続いている。負の連鎖を断ち切る事は未来永劫無いであろう。これが大きな代価を払った代償だ。ツィゴイネルワイゼン…――」
彼は遠い目をしながら不意に呟いた。その言葉の意味を深く理解するとそれ以上は何も言えなくなった。アーネットは再び咳き込むと口から血を吐いた。その苦しむ姿が悲愴感を漂わせた。
「なんて皮肉で滑稽な事だ。よもやタナトスの呪いがこれ程までとは……。遥かなる年月を積み重ねて幾度と時が過ぎようとも、この呪いは浄化される事はない。どうすれば神は我々をお許しになられるのだろうか、私は今もその答えを探している…――」
「アーネット様……」
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