上 下
215 / 316
第19章―温かいスープ―

10

しおりを挟む
「これか?」

「ああ、そうだ」

「なんだ。見た目は美味そうだな」

「じゃあ、お前が食べて見るか?」

「おっ、俺は良いよ。遠慮する」

 ケイバーは鍋の中を覗きながら何気にその事を話した。

「いいのか? エドウィンが作った料理だぞ?」

「ん~。そう言われてもねぇ~」

 ケイバーはクロビスの話を聞きながら視線をそらした。エドウィンは不満げな顔を浮かべると、無言で出刃包丁をまな板の上に突き刺した。

「怒らすな。奴は自分の料理を侮辱されるのが嫌いなんだ。怒らすと手におえないぞ?」

「う~、こわっ! エドウィンちゃんそんに怒らないでね!」

 ケイバーは可愛げに許しをこうと、彼は無言で鼻をフンと鳴らした。無愛想な彼があのエドウィンと知ると、チェスターはそこで身震いした。彼の名前は看守の間では、殺人コックと言うあだ名で知られていた。彼はもと、ここの罪人であり。過去に人を料理したと言う恐るべき経歴を持つ。彼は捕まる前、普通のコックをやっていたが。そんな彼の裏の顔はカニバリズムの精神異常者だった。彼は罪人として裁かれると、ここの牢獄に幽閉された。しかし、彼の独特な個性に惹かれたクロビスは何を思ったのか彼をここのコックの一人として雇った。彼は普段は厨房には立たないが、特別な時にだけ厨房に立つ。そして、それが今かのように思えた。チェスターはその事を知っていたので、彼を見るなり恐怖心と不信感が高まった。


 チェスターは思う。



――あの料理は一体、何だろう?――



 でもそんな事を彼らには簡単には聞けない。むしろ聞いたら余計に恐怖心が高まるだけだ。チェスターはそう思うと、聞きたくても聞けずにいた。怯えている彼の近くではあの殺人コックが、まな板の上で野菜を刻んでいた。そしてすぐ近くでは、彼らが鍋を覗いて怪しく笑っていた。なんとも言えない不気味な光景が目の前に広がっていた。チェスターは、そんな彼らを見ながら精神的にも追い詰められた。


 鍋のスープがグツグツ煮え立つと、それをエドウィンがかき混ぜた。暫くそこで時間を潰していると、ついに料理が完成した。トレーにスープが入ったお皿を置くとパン一つ添えた。見た目は質素な料理だがスープだけは拘りがあるように思えた。
クロビスはそれを手に持つと、彼に渡してきた。

「いいか、溢すなよ。これを私のフロアに運んでくれ。奥の牢屋に6歳くらいのガキがいる。これをそいつに食べさせるんだ」

『は、はい…――!』

 彼は料理が乗せられたトレーを恐る恐る受けとると、そこから直ぐに出て行った。ケイバーはクロビスと目で合図すると、何食わぬ顔で彼のあとをついて行った。チェスターは料理を運びながら色々なことを考えた。


 この料理は一体、何だろう?
 あの2人は何を笑っていたのだろ?

 あのエドウィンって男がオーチスさんを……。


 く、狂ってる…――!

 
 チェスターはオーチスの話を他の看守から聞かされていたので、彼が最後どうなったかを想像すると手もとが震えた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

御機嫌ようそしてさようなら  ~王太子妃の選んだ最悪の結末

Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。 生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。 全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。 ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。 時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。 ゆるふわ設定の短編です。 完結済みなので予約投稿しています。

処理中です...