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第19章―温かいスープ―
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しおりを挟む「チェスター、久しぶりだな。この前は世話になった。お前の報告のおかげで囚人を逃がした犯人がわかったからな。ついでにことも丸くおさまった。ホント、新人の割りには良い手柄だった」
クロビスはそのことを話すと上から彼を見下ろした。チェスターは床に倒れたまま、恐怖で顔をひきつらせた。目の前に彼がいると思うとビビらずにはいられなかった。そんな彼の瞳は凍りついたような冷たい瞳だった。銀色の瞳でジッと見つめられると額から冷や汗が流れた。
「て、手柄だなんて……。自分は見たままを報告しただけですから…――」
彼は怖じ気づいたように視線をそらして言い返した。ケイバーはクロビスの話しにククッと笑うと横から口を挟んだ。
「手柄か、そりゃいい。良かったなチェスターちゃん。ご主人様に褒められて。ある意味アンタのお手柄だ。そのおかげで、あのジジィの悪行も暴けたんだしな」
ケイバーは嫌味たらしく言うと彼の頭を軽く小突いた。
「褒美は何が良い? 金貨200枚が良いか? それとも別の物にするか?」
「良かったなチェスターちゃん。ご主人様からご褒美が貰えるってよ。この際だから言っとけよ、こんなチャンスは滅多にないぜ?」
彼がニヤニヤしながら言うと、チェスターは頭を両手に抱えた。ケイバーの精神攻撃は彼の精神に大きな負担をかけた。自分が助かりたいが為にあの時、話してしまったことが、後々になってから"心"に重くのし掛かった。出来れば早く忘れたい記憶をホジ返されると彼は力なく半笑いするしかなかった。
「ほ、褒美なんていりません…! 僕は褒美なんていらないんです!」
震えた声でその事を話すとキッパリと断った。クロビスは顔の表情を急に変えると、床に落ちたトマトを彼の前でおもいっきり踏みつけた。その瞬間、辺りにトマトの汁が飛び散った。チェスターは激昂する彼を目の前に顔をひきつらせた。
「貴様、この私が褒美をやると言っているのに断る気か!? 何様だ貴様っ!!」
クロビスは気にくわないと感じると、彼の胸ぐらを掴んだ。チェスターは怖じ気づくとケイバーが宥めた。
「まーまー良いじゃないの。いらないって言ってるんだからさ、多目に見てあげようじゃない」
彼はそう言いつつも、ニヤニヤしながら笑った。クロビスはそこで大人しくなると冷静さを取り戻した。
「――ふん、まあ良い。それよりお前に頼みがある。ある食事を牢屋に運んでもらえないか?」
クロビスは意味深に話すと、彼はそこで不信感を抱いた。
「あ、あの…ある食事って何ですか…? 何で僕なんですか……?」
チェスターは彼にそのことを尋ねると顔色を伺った。
「うるさい。お前は余計なことを聞かなくて良い。私の命令に逆らう気か?」
「い、いえ…べつに……」
「おい、こっちだ。ついて来い」
クロビスはチェスターに声をかけると、火がついた鍋の所に連れてきた。そこには大柄な男が食用の鶏を出刃包丁で捌いて鍋に入れていた。男は一瞬、チェスターの方をギロッと睨み付けた。クロビスは鍋の近く歩み寄るとそこで中を覗いた。中には白っぽいスープがグツグツと煮え立っていた。見た目はシチューのようにも見えた。彼は鍋の中を確認すると、ケイバーも並んで一緒に覗いた。2人はニヤニヤしながら悪戯に笑っていた。チェスターは彼らの怪しい笑みに不信感をさらに強めた。
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