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第18章―虚ろな心―

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「ああ、そうだ。そんな話を聞くと改めてアンタにびびっちまいそうだ。でも、そんなアンタの狂気の部分に俺は自分を重ねちまいそうだぜ。俺もアンタと同じで残酷な男だ。今さら人を何人ブッ殺しても感じやしねぇ。そんな所が俺とアンタは似ている。いや、アンタに初めて会った時から、同じ匂いがすると思ったんだ。なんだったらアンタが周りから嫌われ者になっても、俺だけは傍にいてやるぜ。同じ境遇同士、傷の舐めあいも悪くはないだろ? どうせ酔ってるならトコトン酔えよ、そんで朝になったら全部忘れてるだろ――?」

 クロビスはその言葉にフッと鼻で笑った。


「誰が同じ境遇同士だ。お前と一緒にするな…――」

 クロビスはそう言い返すと白ワインを一口飲んだ。

 視線をそらすとケイバーは彼の顔に触れた。


「もう黙れよ。本当は今、誰かに甘えたいんだろ?」


「私が…?」

「ああ、目がそう言ってるぜ?」

「目が…?」

「アンタの目は寂しい目をしている。言わなくても俺にはわかるんだ」


「じゃあ、何だと言うんだ…?」


「俺に甘えろよ――」


「お前に…?」

「ああ、そのほうがアンタも楽だろ。今は何もかもを忘れて、俺に身を委ねるんだ」

 ケイバーは怪しく彼の耳元で囁くと、彼の手からワインボトルを取って、それを床の下に落とした。耳元で囁く声にクロビスは虚ろな瞳で天井を見上げた。ワインを飲み過ぎたせいなのか。彼はその場の雰囲気に酔った。ケイバーは彼の白い首筋に歯を立てて、軽く噛んだ。その快感に体をゾクゾクさせた。

「ンッ……」

 首筋を軽く噛むと今度は舌で舐めた。怪しく舌で首筋を舐められるとクロビスは僅かに感じた表情を見せた。

「…ッ…ハァ……」

 彼の声を殺すような吐息は、どこか艶かしかった。クロビスは抵抗せずにただ彼のやりたいようにやらせた。ケイバーは彼の艶かしい姿に、つい思わず見とれた。

「アンタもそう言う顔するんだな。色気があり過ぎて怖いくらいだぜ」

「だ…黙れ…っ……」

「っ…――」

 そう言って目の前で言い返す彼の姿は色気すら漂わせた。沈黙に包まれた部屋の中で、ただ暖炉の焚き火が燃える音だけ聞こえた。クロビスは彼の膝の上で、一時の快楽に溺れた。左肩からYシャツを少しずらすと胸元が見えた。彼の素肌は雪のように白かった。そんな綺麗な素肌にそっと口づけた。

 首筋にキスをすると赤い痕が浮き出た。薔薇の刻印のような赤い痕を首筋に残すと今度は胸元にキスをした。啄む口づけに、彼は再び声を殺して乱れた。声が出そうになると右手の甲で口を押さえた。そんな彼の乱れる姿が、より一層美しい官能的な姿にさせた。ケイバーはネクタイを外すと上着と着ているYシャツを脱いだ。そして、彼をソファーの下に押し倒した。

 下に沈められた彼はピンで留められた蝶のように美しかった。ゾクッとするような妖艶な美しさを纏った彼を間近で見ると、ケイバーは息を呑んだ。どうみても魔性を秘めてるようにしか思えなかった。見れば見るほど、何かに惹き付けられるような気がした。その美しさにみとれるとケイバーは彼の唇を指先でなぞった――。

「ヤバいくらいアンタはとびっきりの美人だ。なあ、キスしてもいいか?」

「ふっ。そんなことを一々聞くな……」


 クロビスは酔った口調で彼に言い返すと、不意に首に両手を回して抱きついた。

「ンっ……」

 それを合図に2人は唇を重ねた。その場の雰囲気でキスをすると、彼の唇はほのかにワインの味がした。うっすらと瞼を開けるとクロビスは瞳を閉じたままだった。首に両手を回した手は、まだ離れなかった。不意に何かに気がつくとケイバーは キスをやめて彼に話かけた。

「おい、クロビス…? ま、まさかお前……?」

 然り気無く体を揺らすとケイバーはある事に気がついた。何と彼はキスをした直後にいつの間にか眠りについていた。その瞬間、ケイバーはガクンと肩を落とした。

「おいおい、何だよ。寝ちまったのか? マジか、コイツ? ったく…だから酔っぱらいは困るんだ」

 ケイバーは呆れたような顔をすると、仕方なく彼を両腕に抱えてベッドに運んだ。

「本当はこのまま寝込みを襲いたい所だが、今回は許してやるよ。まぁ、アンタの意外な素顔も見れたことだしな…――」

 ケイバーは寝ている彼の寝顔を覗き込むとクスッと笑った。傍から離れると不意に手を掴まれた。クロビスは寝ながら彼の手を掴んでいた。ケイバーはその掴まれた手を外そうとしたが、なかなか外せなかった。そこで呆れてため息をつくと彼も一緒にベッドの中に入った。クロビスは完全に深い眠りについていた。ケイバーは彼の寝顔を黙って見つめると自分も次第に深い眠りについたのだった。誰もが眠りにつく真夜中、ただ静かな雨音だけが外に響いた――。





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