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第18章―虚ろな心―
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しおりを挟む「思ったんだけどそのテーブルに置かれていた料理は、誰が食べたんだ?」
一人の看守は脅えながらも興味本意で尋ねた。すると誰かが名前を上げた。
「そんなの決まっているだろ? ここの所長。いや、ここの領主の息子だ。俺も詳しくはわからないが、どうやらここはその昔に、ここの領主が住んでいた城らしい。さらにこの建物は迷宮の様な構造になっていて要塞としても使われていたそうだ。今は罪人を収容する巨大な施設として使われているが、建物はそのまま使われているって話だ。それにこの建物には誰も知らない隠し扉や、秘密の部屋とか地下室や、財宝とかもあるって話だぞ?」
一人の看守のその話しにそこにいた3人は相づちして頷いた。
「ああ、それなら俺も聞いた事がある。ここの所長は、建前はタルタロスの所長だが、実はここの土地の領主であり。この大陸を治める領主でもあると聞いた。さらに聞いた話じゃ、その一族は有名な貴族の末裔だったそうだ。だが、何でもその一族は呪われているって話だぞ。げんにあれを見ろ。所長の息子は、一族の呪いのせいで精神的に"心"が病んで、頭がおかしくなっちまったんだ」
彼はそう話すと神妙な顔でうつ向いた。
「ところでオーチスが囚人を逃がしたって証言した奴がいるみたいだけど、そいつって誰なんだ?」
「ああ、それなら確かチェスターって奴だ。ホラ、奴と同じエリアにいた新米のあの看守だ。あいつがあの連中に告げ口したって話だぞ」
「あの新米の看守がか?」
「ああ、あいつはオーチスが囚人に脱獄を持ちかけている話を盗み聞きしたって話だ。本当はあいつも尋問されるはずだったらしいが、自分の身の安全を条件に連中にその事を話したらしい」
一人の看守がそのことを話すと、彼らは動揺した。
「マジか、信じられないな。仮にも自分の上司を売るなんて――。で、あいつは今何してるんだ?」
「ああ、それなら奴はあのあと他の看守達にボコられたって話だぞ。そんで今は自分の部屋に引きこもってるそうだ」
彼らは巡回中だった事を忘れて、話しに花を咲かせていた。するとそこにリオファーレが通りかかった。
「お前達、そこで何をしている?」
「これはリオファーレ様…――!? いえ、とくに何でもありません…!」
彼らはリオファーレに声をかけられるとそこで一列に整列した。頭に手をあてながらピンと背筋を伸ばして敬礼する表情は、どこか緊張している様子だった。
「そんな所で立ち話か? お前達、見回りの方はどうした? まだ休憩する時間ではないぞ!」
「ハッ! 直ちに巡回に戻ります!!」
「いいかお前達。今度、仕事中に立ち話をしていたら上に報告するからな」
リオファーレのその言葉に4人の看守は顔が焦った。
「今回は見なかったことにしてやる。さあ、今すぐ自分の持ち場に戻るんだ」
「はっ、はい…――!」
「そうだ。東の棟の6階にいる囚人の中に、一人だけ体調の悪い者をみつけた。直ちにその者を医務室に連れて行くんだ。病気が蔓延する前に診てもらったほうがいい」
リオファーレはそう伝えると凛とした表情で立ち振舞った。彼の放つオーラは周りを直ぐに圧倒した。4人は彼にお辞儀をすると足早にそこから立ち去った。彼らがその場から居なくなるとリオファーレは呆れたため息をつきながらその場を離れた。
猟奇的な事件はタルタロスの牢獄にいる者達に大きな衝撃と震撼と不安感を与えた。彼らは何故、オーチスがあんな残酷な死に方をしなくてはならなかったのか、疑問に駆られながらもそれ以上の話しに踏み込もうとする者はいなかった。それは恐れからくる心理的な働きなのか。誰もがクロビスの存在に恐れをなしていた。やがてオーチスの話をするのをやめた。名前を出すのも、タブーな空気が流れた。彼の話をするのをやめることで、その現実から目をそむけようとした。そんな最中、ギュータスはクロビスの部屋に訪れた――。
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