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第18章―虚ろな心―
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しおりを挟む怪我を負った隊員達の様子を見に行ったハルバートは、リーナを連れて竜騎兵の兵舎に戻った。ハルバートは自分の部屋に戻ると椅子に座って彼女と話した。
「ウフフッ。貴方が彼らのお見舞いに行くなんて、ちょっと意外だったわ」
「お見舞い? おいおい、俺がそんなことをする奴に見えるか?」
「じゃあ、どうして見に行ったの?」
リーナは彼の隣に座ると救急箱から包帯を取り出した。
「あのジジィに見に行けって言われたからだ。行かねえと、しつこく言ってくるからな。仕方なく見に行ったんだよ」
ハルバートは、ぶっきらぼうな口調で彼女に話した。
「そうなの。でも、貴方の顔をみたら彼らも元気を取り戻したみたいね?」
「そうか?」
「ええ、私にはそう見えたわ」
リーナはそう答えると、彼の左腕の包帯を外した。そして、新しい包帯にとりかえた。
「ねぇ、ハルバート。あの子、あの花を気に入ってくれたかしら?」
「ん? あの青い花か?」
「ええ、あれはブルーラグーンの花よ。花言葉は癒し。私がここで育てた花よ」
「ここで?」
「そうよ。前にあの子から花の種を貰ったの。あの子の町にはブルーラグーンの花が咲いているのね。あの花は寒い土地に咲く花と知られているからこの土地に咲いてもおかしくないわ」
リーナは彼の隣でその事を話すと、包帯を巻き終えてニコリと笑った。
「――こんな土地で花なんて咲くのか?」
ハルバートはその話に、しかめっ面をした。リーナは彼の質問に答えた。
「ええ、咲くわ。花も人と同じですもの。どんなに環境が悪くても生きようする意思さえあれば、どんな場所でも生きられるわ。そう言った所も、花も人と同じなのよ」
リーナはその事を話すと、椅子から立ち上がって彼の手を引いた。
「来て! 貴方に見せたいものがあるの――」
「俺に?」
「ええ、こっちに来てハルバート」
彼女は彼を部屋の外のテラスに導いた。広いテラスには、小さな木箱が置かれていた。彼女はその木箱のフタを開けると、彼に見せた。木箱の中には、ブルーラグーンの小さな花が咲いていた。ハルバートは指先で一輪の花に触れた。
「これは驚いたな。こんな小さい箱の中に花を育ててたのか…――?」
「ええ、ちょうど良い入れ物があったからコッソリ育ててみたの。でも、こんな小さな箱ではなかなか大きく育たないわね」
彼女は木箱の中に入っている小さな花を愛でながら彼に話した。ハルバートは彼女の精神的な逞しさに隣で黙って見とれた。
「アンタは凄いな。女なのに逞しくて――。こんな最悪な環境に居るのに、どうしてアンタはそんな風に笑っていられるんだ? ここから逃げたしたいとか思わないのか?」
ハルバートは隣で笑うリーナに不意に質問した。
「私が…? そうかしら? 私って逞しいかしら? 自分ではそんなことわからないわ。でも、私は従順に従ってるだけ。そうね…。たぶんきっと従うことに慣れてしまったのよ。それに私が育った環境はいつもこんなだった。今さら自由が欲しいとかそんなのを考えるのも疲れてしまうわ。だったらこのままでもいい。それで肉体が朽ち果てるならそれでも構わない。私は生に対しての執着心がないから、いつ死んでもいいのよ。きっと自分が嫌いなのね…――」
「リーナ……」
彼女は彼の隣でフと呟くと悲しく笑った。その笑顔はどこか儚げだった。目の前にいる彼女が何故か消えてしまいそうな気がするとハルバートは黙って彼女を腕の中にギュっと抱き締めた。
「どうしたの……?」
リーナは彼に無言で抱き締められると不意に顔を覗いた。
「ウフフッ。何だか貴方、子供みたい。でも、そんな所も可愛いわ」
「……よせよ!」
「ハルバート?」
「そうやって無理に笑うな…――!」
リーナは彼にその事を言われると口を閉ざした。ハルバートはそのまま彼女の体をギュッと抱き締めた。
「どうしたのハルバート……? 貴方怒って…?」
「違う。怒ってるとか、そんなんじゃねー。こうしてないとアンタが俺の前から消えそうな気がしたんだ」
「あたしが…――?」
「ああ、そうだ。アンタは其処にいるんだろ?」
「ハルバート……」
「ええ、あたしはここに居るわ。貴方のそばに…――。あたしがあたしで居なくならないように、もっと抱き締めて。あたしは貴方にこうして抱き締められてる時が一番幸せなの」
「リーナ…――」
彼女は情熱的な瞳で彼をジッと見つめた。その眼差しに心は揺れた。細い腕を首に回すとリーナは彼にキスをした。その口づけは甘く、どこか儚げな、愛の口づけだった。瞼を閉じるとハルバートは彼女からのキスを無言で受け入れた。
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