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第16章―天と地を行き来する者―

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 ラグエルは天界で見てきたことを彼に報告した。

「ああ、そうそう。キミが言っていた女の子だけど、どうやら本当にいたみたいだよ?」

「えっ、本当に……?」

「ああ、本当だよ。立ち話もなんだからお茶でもしようか?」

「ここで?」

「ああ、そうだよ。こんな広い庭なんだ。物が増えても場所はとらないだろ?」

 ラグエルはそう言うと、指先を鳴らして白いテーブルと椅子を魔法で目の前に出した。二回目に指を鳴らすと紅茶とケーキが現れた。そして、最後に指を鳴らすと丸いテーブルの上に綺麗な薔薇の花瓶が飾られた。ラグエルは椅子に座るとハラリエルに声をかけた。

「さあ、ここに座って」

「わぁ~、ラグエルの魔法は素敵だね!」

「そう? じゃあ、もう1つキミに魔法をかけてあげるよ」

 彼はクスッと笑うと、指を鳴らしてハラリエルの着ている白い服を違う服装にかえた。頭には赤いリボンがついた黒い帽子がいつの間にか飾られていた。そして、黒い燕尾服のジャケットには、白いフリフリの袖が通っていた。胸元には、ブローチがつけられていて、下は黒い半ズボン。そして今まで裸足だった足には黒いブーツが履かされていた。見た目はゴシック風のような、可愛らしい服装にかわっていた。ハラリエルは自分の着ている服がいつの間にかかわった事に気がつくと驚いた声をあげた。

「あれ? ボクの着てる服がかわってる……??」

 不思議そうな顔で自分の着ている服に驚くと、彼の目の前で一周して回って見せた。ラグエルはハラリエルの着ている服を魔法でかえると、そこで顔の表情が一瞬緩んだ。

「――良いねえ、似合うよハラリエル。キミにはそう言う格好が似合う。その膝なんか最高じゃないか。なんだか眩しいよ」

「え?」

「ふふふっ。どう、ボクの魔法は気に入ってくれたかい?」

「うん! ラグエルの魔法はなんでもできて凄いね、まるで絵本に出てくる魔法使いみたい!」

「そうかい? じゃあ、音楽でもどう?」

 彼はそう言って指を鳴らすと、テーブルの周りに弦楽器のバイオリンが突如現れた。バイオリンは宙を浮くとひとりでに楽器を演奏し始めた。静かな宮殿に、優雅な音色が響いた。その音色に近くにいた小動物達は自然に集まってきた。

「さあ、不思議の国のアリス。ボクと2人でお茶でも始めようか?」

「うん…――!」

 ハラリエルは素直に返事をすると、目の前の椅子に座った。優雅なバイオリンの演奏が響く中、2人は広い庭でお茶会を楽しんだ。宙を浮いたティーカップに紅茶がそそがれる。そんな不思議な光景にハラリエルは心から楽しんでいる様子だった。ラグエルはケーキを一口食べると彼に話しかけた。

「――キミが言っていた例の女の子だけどさ、彼女はローディンって国のお姫様だった。この時点でまず、彼女は実在していた。それはつまり、キミが見た夢は本物だったってこと。でも、その見た夢が予知夢マサユメに繋がるかはまだわからない。正直、何かの予言に繋がるかもわからないところだね。一応、彼女についてボクなりにリサーチしてきたよ?」

 彼はそう話すと、片方の手から秘密の手帳を出してテーブルの上に置いた。

「はい、読んでごらん」

 ラグエルはテーブルに置かれた手帳をハラリエルに向けて差し出した。指先で手帳を前に差し出すと彼は怪しく笑った。緊張した表情で、ハラリエルは彼から手帳を受け取った。どことなく、彼は浮かない表情をしていた。それは夢の中で見た少女が本当にいたと言う事実だった。曖昧な夢の中で出てきた少女がまさか現実ほんとうにいたと言う驚きに動揺を隠せなかった。それはつまり。夢の中で見たあのビジョンは、少女の身に何かが起こる予兆の前ぶれだった。これはその始まりと彼は心の中で今から起こる出来事を重く受け止めた。

「……出来ればただの夢でありたかった――。彼女が本当に実在するなら、あの曖昧な夢で見たビジョンは、きっと何かのメッセージかも知れない。どのみち、ボクは彼女が出てきたあの夢をもう一度見る必要がある。きっとそこに、未来の予言に繋がるヒントがあるかも知れないから…――。でも断片的に見ても、何か邪悪なものを感じるんだ。ボクの直感だけど、彼女には何かある気がする」

 ハラリエルは思い詰めたような顔で彼にそう告げた。

「邪悪なもの? それってキミの気のせいじゃないの? ボクには何も感じなかったな。ただの人間の子供って程度で、特別な力があるわけでもなかったしね。それに性格は、邪悪とは正反対の清らかな方だったけど? まあ、特別な力ってわけでもないけど。彼女には何故かボクの姿が見えてたかなぁ――」

 ラグエルはそこであの時の事を思い出すと、紅茶を飲みながら話した。

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